日向如く 作:尾田栄~郎
お久しぶりです。今回は長め。
そこは闇が支配していた。
木の葉地下に広がる大空間。ダンゾウが数十年かけて築いたブラックボックス"根"、その最奥。創立以来初となる総員集会が開かれようとしていた。
俺を照らすスポットライトの先は、奥行きのない全くの闇。おそらくはそこにある空間に、おそらくはそこに住まう者達に、俺は眼を向け、眼を凝らす。白く、そして白々しかった俺の眼を。
――忍の歴史は戦争の歴史である。
かつて一族単位の傭兵集団だった忍は、表世界の小競り合いで摩耗し栄枯盛衰を繰り替えす緩衝材の役割を担っていた。歴史に名だたる戦場の数々。表世界の動乱の裏側で、しかし真に勝敗を分けたのは裏世界、忍の戦場。
時代は二人の修羅を生んだ。
初代火影、千手柱間。そしてその友、うちはマダラ。
互いに天下無双の傑物でありながら、一族の安寧と子世代のすこやかなる成長を希求する忍達。彼らの描いた夢と、火の国の利害は一致した。
"木の葉隠れの里"誕生の由来である。
"我こそは世界の表裏を統べる者"……そう声高に凱旋せし火の国に、水、土、雷、風の四国は続く。隠れ里システムによる軍備拡充は"忍五大国"と呼ばれる列強を作り出し、時代の落伍者と化した小国を舞台に戦争を大規模化、国際化させ、忍世界もまたより強固に発展した。
いつしか修羅は英傑となり、二人の英傑が生み出した我らが里は、以後三度の忍界大戦で白星を連ね、今日に至るまで繁栄の限りを尽くしている――。
以上がアカデミーで習う史実の概略である。まるでおとぎ話の英雄譚の様な、輝かしくも鉄臭く、どこか現実離れした世界。
そんな
忍という血塗られた歴史の正当なる後継者。既に伝説となった筈の返り血を浴びる日々に今なお身を置く者達。それこそが"根"。俺がこれから背負う"闇"。
心の中でそう反復し、決意を新たにする。
青二才が、その認識の甘さも知らずに。
「面を上げよ」
俺の名乗りを待たず、ダンゾウは闇に向けて言った。
その言葉で"根"はダンゾウを見る。一同、全くの同時。無意識領域まで訓練された忠犬はどんな機械より精密だ。
そう。ダンゾウは知っていた。そして、俺は知らなかった。
計略。征伐。血と怨嗟。裏の世界の裏の顔。
三度の戦争が偉大なる先人達の英雄譚へと
真の忍の"闇"とは、内政である。
故に。ダンゾウは命じる。
「衆生、ネジを主君とせよ。異議は許さん。唱える事はもちろん、心中に抱く事さえ許さん。そして今後はネジを儂と同格として扱い、ネジに従え」
その時俺が見た物の衝撃と恐怖は筆舌に尽くしがたい。
眼前に広がっていた数多のチャクラの
眼前から"個"が消え去ったのである。
それは例えるなら、渋谷のスクランブルスクエアを行き交う人々が、皆
これは……何だ?
本来人が生得的に持っているチャクラの動きを制限されるのは幻術にかかっている時のみ……しかし幻術ならば術者のチャクラが対象の内部に見えるはず。今回それはない。
まるで
いくら"根"の教育が、人の無意識にすら作用する理不尽な物であったとしても、これは……待てよ、
俺はダンゾウを見る。ダンゾウの左目……シスイのチャクラ!!
ダンゾウ、こいつ――"
"
術者の練度によっては一族単位で集団催眠をかける事が可能であり、実際に生前のうちはシスイは当時うちは一族の内部で企てられていた木の葉に対するクーデターを"別天神"を用いて阻止すべく行動していた。
なお彼は道半ばにして自身の悪徳上司によって謀殺されてしまう。
そう、
「俺なのかッ!?今度は俺かッ!?
ネジ渾身の五七五である。
「ダンゾウェ――ッ!!」
「ぜんぜん情緒が切り替わっておらぬではないか」
四半刻後。"別天神"の副作用でばったりと倒れたダンゾウに意識が戻り、"根"が平素の陰湿な静けさを取り戻した頃合いで、俺は招かれた専用の執務室でソファに項垂れていたダンゾウに怒りをぶつけた。
文脈?知らないね、なんで俺がこのバカ派のタカ派に親切にも懇切丁寧な応対を心掛けなきゃならんのだ。ぶつけられた言葉の意味くらい行間読んで自分で解釈しろ、このクソ上司!
「まずは落ち着くのだネジよ。……先程の物はうちはの瞳術の一つ。"別天神"という物だ」
「知っとるわボケカスが!」
「なんで知っとるんだ」
なんっでこんなに!俺ってば転生者なのに!!一ミリも原作通りに進まねェのかなァァァァァ!?
なんなんだこの誰も喜ばないオリチャー!?敵だけが強くてニューゲーム!?酷い世界だなここは!?
今すぐ"白庵"に帰りたい!白餡よろしくふかふかの布団にくるまって忍界大戦終結まで寝ていたいッ!!
「……というかダンゾウ、よく今のをさらっと流せたな。国家機密じゃないのか、シスイの件は」
「あれは抹消し機密にすら残っとらん。……いやもう良い。お前のそういう所に一々反応していては儂の体がもたん」
「俺がやばい奴みたいな言い方は止めろ下さい」
「儂を怒鳴り散らせる奴は忍界にもそうは居ないが……まあ、それも良い。今やお前と儂は立場上同格。その半端な言葉遣いも今後は不問とする」
「分かったよ。この馬鹿ァ!!」
「だから情緒どうなっとるんだお前は?……ふん、儂も長く生きた方だが、お前ほど面白い忍は見た事がない。その年にしてその情報収集能力。武力、知力、人心掌握術。どこを切り取っても忍界に比肩する者なく、それらを持て余す事もないというのだからな。……よもやお前、それだけの力を持ちながら一介の下忍に甘んじていたのは理不尽な処断を免れる為ではあるまいな?」
「驚くほど要らねぇ信用を得てんな!?」
あと才能を持て余す事がないのは絶対に環境要因だ!主にお前と弟子達のせいだ!!
「信用なぞ、お前の経歴が既に証明しているだろう?
「目の前のお前の思考回路だよ!!」
助けて
てか
「つーかお前、俺はまだ13のガキだぞ?そんな子供相手に『処断をしなかった事が信用の証』なんてよく言えたな!?」
「いやお前、いまさら子供ぶるのは反則だろう」
「お前が
「いや、言うよ。反則どころか不可能だ。木の葉広しと言えど、お前の事を子供と表現してすんなり納得できる者はおるまい。……お前とて、それは解るだろう?」
「……」
「……な?」
「……うるせェェェェッ!!少数精鋭の過激派がいまさら数の暴力を語るとか片腹痛いんだよ!この大馬鹿ペケ印!!」
「え、な、大馬鹿ペケ印!?」
「大馬鹿ペケ印だろうが!!でもなけりゃあ大ペケ馬鹿印だ、この馬鹿!!バーカ!バーカ!エリマキトカゲ丸に負けた癖にー!!何が不可能だ!こちとら大昔から子供どころか妖怪扱いされて生きてんだ!
「お前その切羽詰まった時に勢いで解決するの止めんか、この阿保!!」
「阿保じゃありませんー、ド阿呆ですゥー!!どこぞの馬鹿印がアホ丸出しで太鼓判押したド阿呆印の日向ネジですゥゥゥ!」
「ガキが!!お前!討ち取って目玉だけにして、儂の右腕に組み込んでやろうかッ!!」
御年69歳と13歳。時代を超え、同じレベルで口喧嘩をし、息も絶え絶えに睨み合う二人の
……おそらく俺は今、三代目すら知らないダンゾウの一面を見ているのだろう。そして知って後悔した。最悪の気分。
三代目ェ……やっぱこの役は重いって。似たもの同士掛け合わせたってS極とS極で反発するに決まってんじゃん。だいたいダンゾウは磁石じゃない。言うならブラックホールだ。危機を引き寄せるに飽き足らず内部でぐちゃぐちゃにしてしまう忍界の魔物なのだ。そんなのにネジ一本放り込んだ所でどうにもならんでしょうが。
そんな俺の愚痴もつゆ知らず。先程まで半世紀以上年の離れた子供と口喧嘩に興じていた男は一転、大蛇丸よりヘビーに破顔した。
「……フッ。儂が馬鹿呼ばわりされたのは、二代目様の稽古以来だったか」
「……」
重いんだよ。ノスタル爺が。
ダンゾウにとっての俺は、三代目の弟子。つまり忘れ形見であり、在りし日の自分を重ねる存在……そして師匠の面影を備えた存在。それがダンゾウにとって、どれほどの意味を持つのか……想像できない俺じゃない。
あのダンゾウが、子供の為に戦略級兵器を使ってしまう程に。
自身が半生をかけて築いた"根"での立場を、事実上すんなりと譲ってしまう程に。
それこそ、13才の子供にだって分かる事だ。
だからって"別天神"は止めてほしかったけどね!?
「……お前がどう感じたかはさておき、あれは最も確実で安全な方法だ。とはいえ初の実践で、あれだけの数に、かなり長々と文句をつけたおかげで、今この様な痴態を晒しているわけだが」
快方に向かっているとはいえ、未だダンゾウは額に滝汗を浮かべている。こうして言い合いをしてクナイの一投もしてこないのは、やはり疲れが残っているのだろう。
「まあ心配するな。
「……そうか」
最も確実で安全な方法……その言葉に間違いはない。俺が機械知性だったなら、今の状況をよく吟味した上で迷わず取った選択だ。おそらくは冷徹卑劣と名高い二代目火影もそうしたに違いない。
しかしここには欠点。特大の爆弾が残されている。
立てば爆薬、座ればボカン、歩く姿は焼け野原。
その男、名をダンゾウェェェェ!!(発作)
お前が!お前自身が!一番計画通りに進まない原因なんだよ!
冷徹になろうとしてなりきれず、卑劣にふるまおうとして誤算を招き、人徳も人情も捨てた癖に私情だけはキッチリ挟んでくる"主人公力のない闇落ちナルト"!!そんな火影の対義語みてぇな存在が根性と発想の奇抜さだけで二代目の代わりを務めようとするから上手くいかないっつーのに何故気付かない!?
だからお前は火影になれないんだ!!この火種野郎!!
「実際の業務を引き継がせる前に、お前には色々と話しておきたい事がある。……まずは、これを見よ」
俺の溜飲が下がってきた頃合いを見計らって、ダンゾウはそう言って、百科事典ほどの厚みのファイルを差し出してきた。俺は白眼で差し出されたファイルに幻術等のトラップがない事を確認し、それを受け取った。
手に残る埃の感触と黄色く劣化した紙の具合から察するに、かなりの年代物だ。
「詳しい事を言う前に、まずはそれの感想を言え。見たまま、感じたままで良い」
重ねてらしくもない事を言うダンゾウに少々眉をひそめたが、特段この分厚い資料を読み終えるまで待ってくれる訳でもなさそうだ。ページを捲る手はそのままに、ダンゾウへ言葉を返す。
「木の葉の人物名鑑か……戸籍謄本の複写に見える。載っているのは一般人ばかり。最初はノックリストも疑ったが、全員おかしな所は見当たらない。平凡な木の葉の住人だ」
「……やはり、そう見えるか」
「?」
「それは里の機密文書の一つ。里政を行う上で、その程度を問わず監視が必要とされる危険人物を纏めたブラックリストだ。そこに記されている者は、皆
「……やっちまったなぁダンゾウ!?」
「阿呆抜かせ!誰が縁者を残すものか、真面目な話をしておるのだぞ、儂は!!」
「……っ」
いや、今の"暁"はお前が雨隠れで
言えないけどさ!?流石に何で知ってるか説明できないから絶対に言えないんだけどさ!?
「ともかく……なんだその不服そうな顔は?」
「……べつに」
「……ともかく、儂はそのブラックリストの人間に直接関与した事はない。……彼らの親類に手を下したのは、
「!」
戦没者。
木の葉によって殺された……おとぎ話の、その犠牲者。
「忍の歴史は深い。お前が思っているよりずっと。忍が全て日向の様にあると思ったか?当時は軍拡の時代。火、水、土、雷、風の五か国が互いに覇を競い、連日連夜国境を押し広げた。多くの小国が蹂躙され、そこに生きた人々の多くは難民となった。無論、忍もだ。殉職した者、行き倒れた者、生き残った者、排斥された者、差別された者、負け犬と号された者、秘術を継げず廃業した者……彼らは自国の為に戦った。しかしその恩恵は零に等しい。古い時代だ、彼らには十分な恩赦も与えられなかった。そして、
「……そうか、
違和感は確かにあった。
転生して初めて気付いた、この里の原作に出てすらいなかった忍の家系。その多さ。しかしそれ以上に目を惹いたのは非戦闘員の多さだ。
里を見渡せば忍としての屋号さえ持たない住民はザラにいる。"焼き肉Q"のような外食チェーンの店員やお面屋のじいちゃんをはじめとした商店街の面々。医療従事者は別としても、里の半数以上は忍家業とは無縁の一般人だ。
国家の軍事中枢である隠れ里がこれほど多くの非戦闘員を抱えている、という違和感。……その答えが"平和"ではなく"戦争"、さらには"戦後処理"にあるというのは、あまりに残酷で、疑いようもなく危険だ。
「彼らの出自を、今の彼らがどう感じているかは
瞬間。初めて感じるダンゾウの殺気に、俺は咄嗟に
「忍の身の上はさらなり、忍としての訓練を受けていない彼らにとっては、なおさら過去のしがらみは強く作用する。平凡な木の葉の住人だからこそ、我々にとっては無視できない危険因子なのだ。――敵は外からは来ず、常に内に潜む。里の内であり、人の心の内に」
「……」
ダンゾウの言う事は、おそらく正しい。
大国……こと軍事によって強大化した国の末路は大概ろくな物ではない。
それに火の国は、忍界において強大な力を持つ風、水、雷の三つの列強に囲まれた多民族国家。軍事のみならず、政治においても隙を見せる訳にはいかないのだ。
民草のいつ生まれるとも知れない復讐心に対し、先手を打って行動する――それ自体は何も不自然な所のない、どころか、極めて現実的な理由に基づいた合理的な判断であり手法。
しかし、俺にはそれを承服できない理由があった。
……。
今から俺が言う事は、とんでもない感情論だ。
慣れない事をする。
政治的には間違っているのかもしれない。
何の脈絡もなく、何の整合性も取れないかもしれない。
"生きたい"という俺の願いとは何も関係のない、必要のない行為なのかもしれない。
それでも。
今ここでこれを言わずして"生きる"なんて事が――はたして俺にできるだろうか?
「ダンゾウ――」
俺は言う。俺の心には白い影が差していた。
「
呆気にとられるダンゾウ。しかし一度口火を切られた影は――火は、留まる事を知らない。
「
ダンゾウが「何が言いたい」と言い切る前に――俺は持っていたファイルを、
その人物は、どんな時も欠かさず店を出す働き者で。
年齢にそぐわぬ可愛らしい笑顔の似合ういぶし銀で。
店で出す商品は、箸のデザインにすらこだわる職人で。
いついかなる時も俺達にラーメンを食わしてくれた、紛れもない恩人の。
「
返って来たのは、沈黙。
ダンゾウは俯きがちに、大きく嘆息した。
「……うちはに対する政策の全てが、間違っていたとは思わん。うちはマダラという"過去"……うちは一族が木の葉創世に関わっていながら木の葉最初の抜け忍となったというのは、紛れもない事実。そこに記された者達とうちはは同じ……しかも、彼らは
と、ここでダンゾウは言葉を区切った。わなわなとふるえる初老の体は、久方ぶりの感情の発露をなんとかして抑え込もうとしている。それは忍としてというより、彼自身の矜持であったかもしれない。
「……解らなくなってしまったのだ……っ!!もう儂には、正しさなど……あの日!!あの時!!あんな美味を知ってしまったばかりに!!」
そこには、年相応に涙腺の緩んだ、志村ダンゾウという男がいた。
「マダラという過去を……ヒルゼンは黙認し、うちはに対しても博愛による徳治を説いた。儂はそんなヒルゼンを火影としての責務を怠った大悪と誹り、己が忍道に、里の為ならば五逆謗法も厭わんと誓った。……忍として、その選択を間違いとは言えん。だが
老獪さにかけては右に出る者のない極左、志村ダンゾウ。血煙滾る忍道の末、敵を殺し、同胞を殺し、果ては無二の友さえ失って抱いた男から紡がれる、たった数分にも満たない言葉達。
それは懺悔というにはあまりに幼く。
されど彼の魂の叫びに他ならず。
"自身の半生の是非を問う"という……誰しもが目を背けたがる行為に、環境要因とはいえ、確かに手をかけたダンゾウに。
俺は人として、初めて敬意を持った。
その後。
「後は頼んだぞ、ネジよ」
個別の重要事項の確認や事務連絡を済ませ、すっかり紫色となった空の下で、ダンゾウは俺にそう言った。
あれから数日。
五代目就任以来初となる、里の定例会が開かれようとしていた。
里政を行う上で定例会は重要だ。そこには火影やご意見番といった重役から、上忍や中忍の代表、各族長等が出席する。里全体の団結を深めると共に、重役会議による決定事項に不備がないかを現場の目を通してもう一度精査し、その後一般に効率よく公布する為のしくみでもあるのだ。
今日、中心となる議題は"根"の組織改革と里政の今後について。
新米の火影にしてはデリケートな話題だが、意外にも族長達は前のめりだった。
"根"の改革――それ自体は、三代目の治世から度々取りだたされた問題だ。本来"根"は暗部の別動隊として組織され、公的には既に解体処分されている。しかしその水面下、もとい地下での動向は見てきた通り。結局ダンゾウの私兵はダンゾウの私兵であり、三代目といえどダンゾウの同意がなければどうする事も出来ず、"根"という禍根は永らく木の葉に根付いてしまった。
ところが、その問題がつい最近、それもたったの一昼夜で片付いたらしい。日向ネジの"根"監査用特別上忍就任という、実質的な懐柔政策によって。
なかなかぞっとしない話ではあるが、族長達にしてみれば憑き物が一気に二つも落ちたのだ。こうなれば、毎回長丁場になる定例会の議場までの道のりも、ちょっとした遠足気分である。
彼らが議場の扉を開ける、その時までは。
「お待ちしていました。今回"根"の総合責任者である志村の
「……」
「……さ、お掛けになって」
「「「話が違う!!」」」
叫ばれたのは、やっぱり俺だった。
「火影殿はどこだ!?」「それよりヒアシだ!奴は来ていないのか!?」「我が一族を忘れず招集をかけて頂いた事、感謝する」「
それぞれ何一族かはご想像にお任せする。
これだけの数が居て着席してくれたのは油目の族長だけか。もう終わりだよこの里。
まだ興奮冷めやらぬ様子の烏合の衆を尻目に、油目が挨拶をすます。
「立派になったな、ネジ君……アカデミー時代はよく息子が君の事を話していた。此度は我が一族も
「いえいえ。お世話になっています。油目……ムシノ君の、お父様?」
「…………」
なんか悲しませちゃった。まあ良いか。
今日の俺は司会進行。五代目の意向もあいまって表現のバリアフリー化がなされている。NGワードなし、コンプラフリーでストレスフリーという訳だ。嫌な事はするするするっとスルーするに限る。
俺のバックには強権がついてるんだ。かかってこいや。
「あ。申し訳ありません遅れてしまいました、定例会の会場は此方であっていますか?」
ガヤ、もとい烏合の衆の向こうに現れたのはヒナタ様。それを見て即座に着席する烏合の衆。……え?
「どうもネジさん、そして族長方。今回は父上に日向一門の代表代行の任を仰せつかりました、日向ヒナタと申します。若輩者で恐縮ながら、今日はお歴々の末席に並ばせて頂きます」
丁寧に挨拶をするヒナタ様に、口々に「いやいやこちらこそ」的な返答をする烏合の衆。
……なんか俺の時と違いすぎない?
「お久しぶりです、ヒナタ様。一応、定例会の名簿にはヒアシ様の名が載っていたのですが……体調不良ですか?」
「いえいえ。どうせネジがいるのだろうと震えておりました」
「なるほど風邪ですか」
「はい?」
「はい?」
「ええと……それが良ければ、その様に」
一瞬、烏合の衆が鬼の形相になったのを俺は見逃さなかった。
ついには娘を身代わりに使うとは……そんなに俺が怖いか、ヒアシよ。
「ハハハ……にしても、父や本家の他の方々ではなくヒナタ様が代理とは。よほど信頼されておられるのですね。ヒアシ様に」
「それはもう。一門の上層部にはあと一年で退陣して頂いて、その後は私が当主になるつもりですから」
本当の鬼はヒナタ様だった。
助けてェェヒアシ様ァァァ!あんたの娘怖い!超怖い!各族長の前で凄い事言ってる!世代交代の大災害がすぐそこまで迫って来てる!俺こんなヒナタ様知らない!俺ヒナタ様ここまで魔改造してない!俺が育てたのはあくまで武人気質のヒナタ様であって、こんな"武神・ヒナタ御前"じゃない!誰なんだお前は!?
と、いう事でこれはスルーしよう。嫌な事、するするするっとスルーする。日向ネジ今日の標語。
俺には強権がついてるんだぜ?頭のネジも半分くらいカットカット。今日は権力を腐らせる日だ。
「ん!?もう皆集まっているのか、すまん。二日酔いがキツくてな……」
あらゆる意味で空気を読まない五代目の登場で事態は事なきを得たのだった。
かくして定例会は踊り始める。無論、俺の手の上で。
「それでは定例会を始めます。が、その前に……もう一人ここにいるべき人がいるので、そちらの方をお呼びします。静粛に」
「ネジ、まだ誰もざわついとらん」
「先手必勝という奴ですよ、五代目」
「なるほど。違うな」
「定例会は各族長に出席義務が課されます。今回欠席の届出を出したのは志村家だけなので、明確にお一方、もとい一族が足りない状況にあります。ですので――」
「話がのらりくらりとしすぎだネジ。会議は続くんだから、早く済ませい」
「……了解です」
烏合の衆を丸め込むには、ある程度こっちのペースに乗せないといけないんだが……。特にこいつらの場合ガヤったら即ゲームオーバー。今日までの仕込みやら決定事項やらが一切合切パーになりかねない。
「では私語を行った者は私が顎か首を飛ばしますが、もちろん冗談なので皆様安心してお迎えください。現在世界にただ二人となった一族にしてその現当主。うちはサスケ君です」
烏合の衆の視線は突如現れたサスケへ。私語は無い。ここでサスケが出て来た事への絶句か、はたまた俺が本当に顎か首を飛ばすと思われているのか。
しかし畳みかけるなら今。
月とスポット。もとい月に照らされれば、どんなポンも
「本定例会の議題は主に"根"の組織改革と今後の里政についてですが、その両方に彼は関係しているのです。サスケ君、どうぞ席へ。――なぜ"根"の組織改革と彼が関係するのか。それは簡単に言ってしまうと、我々"根"は現在の組織を一時解体し、暗部に統合後、新たに暗部の一部門として"うちは刑務部隊"を実質的に再編する事を決定したからです」
言うが早いか、議場は静寂のまま震えた。
"うちは刑務部隊"――かつてうちは一族によって組織されていた、木の葉の治安維持組織。その他の一族が奈良一族の森林保護に代表される自身の文化・風習に沿った専属業務を任されていたのに比べ"治安維持"という業務は些か特権的でありすぎた為に、一時はうちは一族そのものにヘイトを向けさせ、それをダンゾウに利用されて一族皆殺しになったというある種"根"よりダークな機関。
しかしながら里では未だにうちは一族の評価は高い。これの意味する所は即ち、所詮ダンゾウがいくらうちは一族のヘイトスピーチをしようが、そのプロパガンダに烏合の衆が流されようが、うちは一族の優秀さに対する信用はただの少しも落ちなかったという事。そしてより深く考えるなら、烏合の衆がうちはに向けたヘイトの出所は結局ヘイトスピーチでもプロパガンダでもなく、うちはという才能に対する嫉妬心だったという事である。
つまり木の葉の住人にとって"うちは刑務部隊"の持つニュアンスは単なる刑務官より"実在する戦隊ヒーロー"に近い。
故に。
議場に集う烏合の衆は、俺から視線を外せない。
「我々の決定はこうです――暗部は"根"を統合した後、大まかに二つの部署に別れる。一つは現行の暗部を雛型にした、対外任務、つまり木の葉の膝元を離れた国外で任務を行う戦術暗殺特殊部隊
「話が見えませんな」
割って入ったのは、名門・奈良一族の当主にして上忍代表を兼ねる知将、奈良シカク。
「"根"の組織改革が論点なら、歯が浮く様なPRより先に詳しい組織図を出すのが筋というもの。まあもちろん、
「……ああいや、少々言葉足らずでしたシカク様。私としてもこういう堅苦しい場に来るのは初めてなもので少しアガってまして。申し訳ない」
嘘である。俺にとって議場はむしろ主戦場だ。そして独壇場でもあった……今までは。
この男、奈良シカクは気付いている。そうでなくても、勘づいてはいる。
里から国へ、"根"の威信を維新した先にある新時代。
あるいはもっとその先、国を操る里を
しかし、相手は恐らくこの作品内随一のブレーン。抜かっては
国内で暗部の、ひいては"うちは警務部隊"の仕事をするという事は、内容的に自然と公安としての側面が入ってくる。国と共同して治安維持に努める事もあるだろうし、合"理"的に使えば、無血でも里の軍拡や軍縮に一定のガイドラインを引く事が可能であり、それは里にとって十分すぎるメリットだ。
え、それは合"法"的なのか、だって?ハハハ、そんな疑問は白眼の盲点に置いてきた。
もちろんリスクもある。さっきも言った通り、この手の手法は非合法もしくは非倫理的(主君に対する無礼)とされる場合があり、最悪、大名連中に対する反逆行為と見なされれば、処断は軍法会議
ただこれは本当に最悪のパターンで、確率で言えば1%にも満たない。九死に一生を十度経験した俺に言わせれば、この決定は八割通る。
それだけ
故に、抜かりなく。
シカクの主張として、考えられるのは以下四パターン。
一、ダンゾウが出世欲をなくした聖人となり、火影の為滅私奉公するのであれば国をダンゾウが手引きしようが問題ない。
二、ダンゾウは処断し、火影直轄である俺が国を手引きするなら問題ない。
三、ダンゾウも俺も信用しないが、火影かその直近(あるいはシカク自身)が国を動かすなら問題ない。
四、いかなる条件でも、里が国を動かせる状況は望ましくない。
一は論外。どう足掻いても納得してくれる筈がない。四は端からこの決定が通らない事を示唆しているので除外。願わくば二以上、最低でも三には誘導しなければ。
「どうでしょう、まだ正確な配備が決まる前ですので断定はしかねますが……私は今の所、武官として"
俺の言にサスケとヒナタ様を交互に見て唸る烏合の衆。しかしシカクは俺から眼を離さない。
それは視線か、あるいは死線か。
まるで値踏みする様に。
あるいは"根"を踏み倒す為に。
ところでヒナタ様、あんまりドヤ顔しないでくれないかな、君のソレは半分くらい自前だから。
「なるほど……では、ダンゾウ殿は」
シカクの目つきが更に鋭くなる。なるほど、
「志村は現状、やはり"陰炎"の士官として迎えるのが良いだろうと考えています。私が武官として現場につくとなれば、やはり後方で指揮を執る人物は歴の長い志村が妥当かと。皆様、志村の経歴には様々な意見がお有りと思いますが、彼の持つ兵法と経験は残す価値がある……そして我々には、それを吐かせるに足る武力がある」
「ほう。それは、どんな?例えば
当然だ。
ダンゾウの想いなど、里の誰にも理解される訳がない。
ダンゾウは罪を重ね過ぎた。それは否定しようのない事実であり過去。そして理解とは、行動の末に得られる評価の一つでしかない。
故に。ダンゾウは俺に"根"を託したのだ。
でも。三代目は俺にダンゾウを託した。
三代目……『俺とダンゾウは似てる』だなんて、本当に酷い暴言だよ。
気になっちまったじゃねーか。
俺に修行をつけながら――アンタはそのダンゾウ似の弟子を見て、どう思ってたんだよ?
教えてくれよ、師匠。
ある種最愛の……それでいて、わかり合えなかった親友にそっくりな奴が、一々会得難易度の高い術ばかり教わりにきて、懐いて……。
それは、辛かったんじゃねーのか?
本当に導きたかったのは、俺じゃなくダンゾウの方だった、なんて本音は無かったのか?
本当に救いたかったのは、里でも俺でもなくダンゾウだった、なんて後悔は無かったのか?
だってアンタ、三次試験にダンゾウが来て、すげぇ嬉しそうだったじゃねーかよ。
……。
わかってる。
きっとこれは、俺の主観的な希望にすぎない。それでも。
俺が、アンタに肺を貰った様に。
俺が、アンタに技を貰った様に。
俺が、アンタに術を貰った様に。
三代目、返すぜ。
あの世でくらい、ダンゾウと二人、美味いラーメンを食ってくれ。
ダンゾウは、しっかり
「人は変わる――そんな夢物語を、今更説くつもりはありません。ダンゾウを処断すればその位置に、私か、五代目か、その他の人が就くだけだ。でもそれは単なる
「「「きさま、三代目を愚弄する気か!」」」
口々に立ち上がる烏合の衆に、今度はシカク自身が制止をかける。
「大きく出ましたな、ネジ殿……では、貴方はかの三代目火影、猿飛ヒルゼン殿よりも優れていると……?」
「"適している"と、言っているのです。三代目は、憎き大蛇丸にやらました……そしてその場には、私も志村もいた。この場の他の誰でもない、私がです。私より熟練した優秀な者など木の葉には大勢いるでしょう。しかしこの歳で火影の隣に立ったのは現状を以て私だけ。これは一考に値します」
「一考に?はたしてどんな」
「知らぬ人もいるかと思いますが――私は三代目の弟子です」
議場が凍る。頭に血が上っていた族長達はもはや茫然自失のご様子だ。一応後で確認すると言うシカクに五代目が本当の事だと念押しした。
「私は三代目に学び、師と志村と共闘し、五代目の推薦を受け、この場に立っています。その上で言います。私は三代目より志村を上手く
「ちょ、ちょっと待って下さい。ネジ殿!貴方は……ダンゾウすら、
「何か不満でも?」
「……!」
待ってな三代目。ダンゾウは
「人は変わらない――これは真実ならざる事実です。忍界において、人とは功績の積み重ねにすぎない。しかし、いや故に人は育つ。罪過は公益で塗り替えされ、その結果、いつしか人々は純粋な過去を忘れ"英雄"を作り出す――これはある人に教わった忍の歴史の本質。そして、
「"英雄"……?ネジ殿、貴方はまさか、ダンゾウがそう呼ばれる時が来ると言いたいのか?」
「
「無茶苦茶な……」
「ネジ、私はあのジジイはあまり好かんぞ。方便なのは分かるが、流石に"英雄"というのは癪に障る」
「二日酔いは静粛に」
「殴るぞ」
「五代目様できれば今はお静かにして頂けると当方大変助かります」
「それで良し」
普通に話纏まりそうだったのに余計な事言われた。ある種ダンゾウより危険だな
いや、俺がその五代目を軽くあしらったからかも知れないが。
……ヒナタ様が一瞬「ギッ」と音が鳴るんじゃないかと思うくらい食いしばったのは関係ないよな?
いや、ないない。
無関係であってくれ。頼むから。
白影の威光に一層影が薄まる展開ではあったが、しかし決は出たらしい。
シカクは慎重に
「ネジ殿がそこまで言うのなら……良いでしょう。私は賛成です」
よし。まずは一つ、お仕事終わり。
されど、抜かりなく。会議はまだ始まったばかりなのだから。
「ただいま」
結局俺が白庵に帰れたのは22時を回った頃だった。
「おかえりなさい義兄さん――今日はお疲れ様でした」
エプロン姿で出迎えてくれた百に、玄関先まで漂う美味い飯の香り。
嫁か?
いやいや違う。
疲れ切った体には、まず飯と造血丸。俺はリビング(といっても日本家屋における食事の場をそう呼称して良いのかは知らんが)に向か――。
「よう。待っておったぞ、ネジ」
ダ ン ゾ ウ が い た。
「僕が義兄さんだけに責任を押し付けて、一人そしらぬ顔でまったり忍者ライフを送るとお思いでしたか?……まったく、義兄さんも察しが悪い。四六時中
茫然自失の俺に、普段とまったく変わらぬテンションで飯をよそう百。
俺にはわかる……これは大変ご立腹だ。
てか……
「
「いいえ、斬首になりますよ」
「斬首……!?」
「さて、
三人の、いただきます、の声が重なる。
「ああ、そうそう……ダンゾウ様から重要なご連絡があるみたいですよ。義兄さん?聞けばダンゾウ様は兄さんの先輩兼同僚。義兄さんを"根"に招待して下さったとか。いやぁ大変お世話になった方らしいじゃないですか。折角ですので、御夕飯の席ではありますが、どうぞ仕事の話でも」
凄い。飯の味が何もわからない。何も食べてないのにお腹いっぱいだ。顔色を見るに、ダンゾウも
「それがだな、ネジ……"根"の技術部の、
「あらまあ、それは大変ですね。……ダンゾウ様?おかわり要りますか?ちょっと今おかずを切らしていて、来客用の造血丸しかないのですけれども」
「う、うむ……かたじけない」
俺はダンゾウの言葉を反芻し、ただひたすらこの時間が早く終わる事を願いながら、精一杯の返答をした。
「誰だよ」
原作にいなかったじゃん……アニオリ?
日向ネジ、性質変化はどれ?(参考までに)
-
火遁
-
風遁
-
雷遁
-
土遁
-
水遁