楽しい明日の、少し前。
色々考えながら、夜は更けていく。
悩むのもまた、楽しいもの。
裏側から見た、そんな時間を。


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今さっき読んで、一先ずは。


アオのハコ#60 SideB

 馴れない事は、とても疲れる。そんな当たり前の事を噛み締めながら、私は仮住まいのベッドに横たわっている。

 去年も文化祭では喫茶店をやったけど、リーダーではなかったし。と言うかリーダーってなんだ、雑用係じゃないのか。

 私はあんまり向かないんだ、人に指示する立場なんて。しかし思えば夏が終わって以来、そんな事ばかりだな。部活では副キャプテンなんて肩書きが付いたし。私は下でのびのび生きていたいんだけど、な。

 まあ文化祭は明日だ、それが終わればリーダーなんてのもお役御免。あとはもうそういうのは引き受けない、そうしよう。

「にしても、どうしようかな……」

 帰りしなに渡された軽音楽部ライブのフライヤー、それを折り畳みながら私はため息を一つ。

 色々と無理を聞いてもらったクラスメイトから「絶対来てね」と渡されたのだけれど、どうにも困ってしまう。

 別にそのライブが気に入らない訳じゃない、結構な実力派だし。この間からずっと作業中に演奏が流れてくるけど、なかなかに私好みだ。

 ただ問題は、その時間。14:00開始、というのがちょっとだけ微妙なのだ。

 だって、だって。――大喜くんのクラスの演劇は、15:40開始だから。

 

 あの夏が敗北に終わって、それでも私がこうして崩れずに立っていられる理由。その中で大喜くんの比率は、決して少なくない。いや、多いかもしれない。

 大喜くんが私に憧れてくれている、目標としてくれている。それがどれほど、私を奮い立たせるか。

 だから何があっても引き下がらない、幻滅されたくない。格好良い先輩でいたい、いなければならない。

 それはきっと、世間で言う――、

「いや、いやいや。いやいやいやいや」

 ()()()()()()()()()。これはきっと、「それ」じゃない。

 だって大喜くんには、蝶野さんがいるのだから。私がそういう感情を向けるべきではない、……筈だ。

 二人が付き合っている、というのは私の勘違いだったらしい。でも蝶野さんが告白したのは事実だし、大喜くんが「キス」という言葉に狼狽えたのもまた事実。

 告白したのになかなか付き合うところまでは行けなくて、蝶野さんが強引にキスを迫った……とかそんなんだろうか。あの時私に鞘当てしてきたのも、「邪魔しないで」というアレだろう。上手くいかなくてイライラしてたんだな。

 つまりここで私が大喜くんに近付けば、蝶野さんを哀しませる事になる。いや下手をすると血を見る事になりかねない。

 それはさすがに、なあ。

 私が大喜くんに、()()()()()()を持ってしまったとして。それを盾にして人を押し退けるようなのは、間違っていると思う。でも人間いつかは「特別な一人」を選ばなければならないんだ、気を遣っていても意味はない気もする。

 全く、私は頭が悪いんだな。バスケ以外にも色々としておくべきだった。

 

 もし。もし明日大喜くんを誘ったら、どうなるだろうか。

 ライブが一時間くらいとして、劇には間に合うだろう。……観るだけなら。大喜くんはリーダーだし、劇のヒロインは蝶野さんだ。色々とやる事も話す事もあるだろう、時間はいくらあっても足りない。

 それに、……それに。たかだか私なんかと()()()()()()()()()()()、天秤に架けるまでも無い。私を傷つけないように言葉を選んで、やんわりと断るかな。それが当然だし、そうなってくれた方がいいかもしれない。

 そもそも今は同じ家にいるわけでもないし、もう時間も遅い。これから誘うのは、どう考えても難しい。

「あ。……そう、だ」

 文化祭当日はいくらスポーツ私立校たる我が栄明と言えど、体育館を部活で使うことは出来ない。当然朝練も出来ない、普通なら。でも大喜くんなら「体育館がダメなら、近場をランニングして朝練の代わりにしよう」くらいは考えるかもしれない。私もそのつもりだし。

 明日の朝、もしそうやって会えたなら。その時にでも、誘ってみよう。

 大喜くんがどう返事しようとも、「それから」の事は少しだけ変わる。良くも悪くも。

 何にせよ、明日だ。

 明日はきっと、何か大きな事が起こる。

「楽しみだなー……っと」


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