ふとした拍子に、気にかかる。
まあ、そっとしておこう。
裏ではあれこれ思うけど、ね。
「さっき聞こえたんだけどさ、予定って?」
ちょっと意地悪かな、と思いながらも私は千夏に問い掛ける。
返ってきたのは、予想通りの反応。一瞬ビクッと固まって、それから僅かな沈黙。そして、ひきつった笑顔で小さな声がやって来た。
「あ、あー……軽音部のライブ。14時からの……ほら、サモエドの子に是非来てって言われててさ」
明らかに動揺したその様子からは、これ以上聞いてくれるなというオーラが見え隠れしている。というか、見えている。千夏は顔に感情が出にくいけど、別にクールではないから。まあ、追求するのはやめておこう。女同士の仁義ってやつだ、触れて欲しくない事は誰にでもある。誰と待ち合わせてるのとかそういうのは、ここでは聞かない。
まあ、見当は付いているけど。なんなら確信しているけど。
例の猪股大喜くん、なんだろうな。
「私こういうの似合わないって言ったよね」と着替えを拒む千夏を説き伏せてメイドコスをさせたお陰か、我等が2-Bの喫茶店は大繁盛。と言うか千夏が大繁盛だな、男子客が多い多い。私が隣で用心棒みたいに控えてないと、ナンパがひっきりなしで仕事にならないくらい。……私だって女子なんだけどな、何でメンズ着て壁役やらないといけないんだよ。男前だのイケメンだの言ってないで男子の誰かがやれよ、こういうのはさ。いっそオールバックにでもしてやろうか、イケメンぶりを更に高濃度化だ。
それはまあ、良いとして。
顔に貼り付いた営業スマイルで、元気に接客していた千夏。それが少しだけたじろいだのは、針生たちが来たときだ。いやお前遊んでないで手伝えや、と殴りそうになったけど。他校生だっていう彼女さん、そして部活の後輩である猪股大喜くん、あと……えー……誰だろう知らない男子を連れてご来店。まあ客引きしてくれたんならそれでいいか、少しは貢献しろ。
――しかし、だ。こうも近くで見たのは初めてだけど、大喜くんは結構可愛い子に見える。針生が目をかけてるだけあって、結果も出せているみたいだし。実際こないだの練習試合を千夏と一緒に見たけど、インターハイにも出たらしい結構な強豪相手に金星を上げていた。
そしてこの子は、
そんなだから何事もなく、平和に暮らせるんだろうな。それが続くかは分からないけど、さ。
いくら鈍ちんでド天然でポンコツな千夏でも、いずれは大喜くんが向けている感情の正体に……そして自分自身が抱いている感情の正体に気が付くだろう。そうなればきっと、良くも悪くも二人は変わる。
だって何処まで行っても、男と女だから。
着替えてから行くという発想に至らなかったのか、それとも思ったより時間が迫っているからか。千夏はメイドコスの上からとりあえずジャージの上だけ羽織って、逃げるように行ってしまった。……目立つよなあ、あれは。
確か軽音部のライブってサモエドが14時で半からsteely Voiceだったな、15時がまり☆みゆ。
終わったら直ぐに戻って……は来ないだろう、多分。誰かと一緒なんだとしたら、曲だけ聞いて即引き上げるとかは無いわけだし。私としては看板娘に席を外して欲しくないんだけど、その辺は千夏の都合を優先してあげないとね。
バスケバカの千夏さんにも、春が来るのかもしれない。いやまあ今はバリバリに秋、風も冷たくなってきたけどさ。
しかしなんだろうな、妙な予感がするのは。このまま素直にはいかない気がしてならない、どうにも波乱がありそうだ。
まあもし何かあったら、私が一肌脱いでやろう。
千夏の為だ、どうにかするさ。
渚ちゃんが男前でした、あと大喜くん可愛い。