思うところは、色々あって。
それでも舞台は待ってくれないから、見守ろう。
気がかりは裏に仕舞おう、今はそれでいい。
――いっそもう、付き合ってしまっても良さそうなのにな。そんなに簡単じゃないか。
長年親友やっている私だからこそ気付いた、ちーの表情。嬉しそうでそして、少しだけ寂しげな横顔。大喜くんが王子様役で劇に出ると知って、でもそれを素直には喜びきれない。そんな微妙な顔だ。
まあそうか、だってこれから2-Bがする劇は『白雪姫』。王子様がお姫様にキスをして、それで皆が幸せになって終わる話だ。まさか文化祭の演劇でホントに唇を合わせたりはしないだろうけど、でも複雑だろう。
ちーにとって大喜くんは、ただの後輩なんかじゃないから。本人はまだ目を背けているけれど、既に状況は決している。もうどうしようもないくらいに、ちーは大喜くんを好きになりつつある。
絶対に認めないんだろうけどね、私もそうだったから。
健吾を好きになった、そう自覚した時。私は全力でそれを否定しようとした、まあ出来なかったけど。今までの関係を壊すのが怖い、接近しすぎるのが怖い。……健吾の気持ちを知るのが、何より怖かった。もし、もし健吾が私にそういう感情を抱かなかったなら。全て私の一人相撲だとしたら、私は何もかも失ってしまう。
それに例え両想いになれたとして、私は果たして自分を保てるのだろうか。必死で取り繕いながらもがいている私は、私でいられなくなるかもしれない。
丁度仕事が忙しくなり始めた時期だったし、健吾も健吾でどんどんバド部で頭角を表していった。
歪な感情に絡め取られた私はどんどん憔悴し、追い詰められ――破綻していく。それを救ってくれたのは、やっぱり健吾だった。バカな事言って、恥もさらして、それでも私を励まそうとしてくれた。
「こんなことされたら、健吾の事考えちゃうじゃん」
まるでダムが決壊するように色んな想いが溢れて、気がつけば健吾の胸に顔を預けて私は泣いていた。その涙がなんの涙なのかも分からないまま、子供のように。
ちーから最初に話を聞いたときには、正直本人には悪いけど絶句した。
親の都合を受け入れず、他所の家に住まわせてもらう事になったのはまだ良い。その家に一個下の男子がいる、なんて信じられなかった。と言うかそこまで天然だったかと呆れてしまった。
意識しているとは言っていたものの、どういう意味合いでかは結局ぼかされてしまったのだけれど。夏休みに二人でいる所へ出会したり、健吾の応援をしに行った流れで大喜くんと話したりした限り、どうにも二人の関係は――難しい状況に思えた。
二人とも考えすぎて、そして臆病すぎる。人の事は言えないけど、さ。どちらかが一歩でも踏み出せばそれで済むけど、その一歩が遠すぎる。
そう思っていたのだけれど、どうも最近変化があったようだ。私みたいに追い詰められてパンクしたのか、それとも大喜くんがオトコを見せたのか。それは分からないけど、二人の距離は確実に縮まっている。
きっとちーは、大喜くんに救われたんだろう。大喜くんもまた、ちーに救われているのかもしれない。
とは言え、ちーだからなあ……。多種多様かつ夢のようなボケっぷりを誇る、とんでもない子だもの。
どうなるんだか、ね。
大喜くんが王子様役として舞台に上がると知ったのは今しがた、ちーは単に「大喜くんが頑張ってるから」という理由でここまでやって来た。その原動力になっている感情は、やっぱり
どうにかしてあげたいけど、私じゃどうにもフォローが効きそうにない。と言うかこっちもこっちで大変なんだ、こないだの練習試合からどうも健吾がへこんでるから。傍から見たら普段通りなんだけど、ふとした拍子に陰が差していたりする。健吾と私が交わした「どっちかが自分の事を疎かにしたら別れる」という約束が、きっと今の健吾を苦しめているんだろう。でもそれを撤回したら、もう終わりだ。何もかもメチャクチャになって、二人とも奈落の底に沈むだけ。
ああ、まったく。どうしてこう波瀾万丈なんだろうな。
――と。
照明が落ち始めたのに気付いたのとほぼ同時に、開演のブザーが鳴り響く。隣には真剣そうな顔をしている、ちーの姿。
そろそろ幕が上がるんだ、今は目の前に集中しよう。
難しいことはカーテンコールが終わってから考えれば良い、そうしよう。
さてと、楽しもうじゃないか。