割と平和な遊戯王   作:乾燥海藻類

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第39話 crazy for you

雪乃は保健室のベッドに横たわり、安らかな寝息を立てていた。外傷はない。

 

「むしろあなたの方が憔悴しているように見えます」

「……そうかな?」

 

確かに気だるさは感じている。だがそれだけだ。

 

「自覚がないのは心配ですが、闇の決闘ですか……」

 

おおよその経緯を聞いた養護教諭のイシズは考え込むように手の平を唇に当てた。千年アイテムは墓守の領域の奥深くに封印されており、荒らされたという話も聞いていない。

雪乃の持ち物も調べてみたが、それに類するようなものは発見されなかった。

 

(まあアレの存在を知らなければ、真っ先に千年アイテムを疑うのも仕方ないか)

 

レンはイシズの反応を見て小さく嘆息した。

 

「たまたま魔に魅入られたのだろう。魔が差す……とは少し違うか」

「確かに、少々ショックなことがあったようですから」

 

雪乃がファーストから陥落したことは知れ渡っている。学園も雪乃の偉業を売りにしたかったが、そのための忖度などありえない。

ここはその牙城を崩した万丈目を評価するべきだろう。

 

「まあ、それ以外にもありそうですけど?」

 

イシズがクスリと笑う。

レンは困ったように肩をすくめた。雪乃の好意には気づいていたが、それは憧憬や敬意(リスペクト)に近いもので、まさか愛情だとは思っていなかった。

 

「想いには応えてあげないのかしら? もう教師と生徒という関係も終わりますよ」

「一回り以上も違うのにか?」

「愛に年の差は関係ありませんよ」

 

イシズは雪乃を応援しているようだ。あるいは面白がっているだけかもしれないが。

 

「考えておこう。彼女を頼む。もし記憶が混濁しているようなら、適当に誤魔化しておいてくれ。あんな記憶はない方がいい」

 

そう言って、レンは自室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い起こせば、本当にあっという間の3年間だったと感じます。これまでに経験したことのない濃密な3年間でした。この学び舎で得たものは――」

 

万丈目は感無量の思いで卒業生代表挨拶を述べていた。来賓席では彼の兄たちがうっすらと涙を浮かべている。

そのまま卒業式は恙なく終了した。

 

卒業生の多くがプロの世界へと進むが、プロリーグはひとつではなく、世界中に存在する。万丈目は日本のプロリーグを選び、雪乃はアメリカのプロリーグを選んだ。

雪乃はレンに詰め寄っていた来賓客が引けるタイミングを見て、意を決して話しかけた。

 

「私と、デュエルしてください。先生」

 

レンは雪乃の神妙な面持ちから、並々ならぬ決意を感じ取った。レンは小さくコクリと頷くと、ふたりはデュエルアリーナに向かって歩き出す。

いつもは誰かしらがいるデュエルアリーナも、今日ばかりは閑散としていた。そもそも施錠されていたので、レンがいなければ入ることもできなかったのだが。

観客が誰もいない中で、ふたりのデュエリストがリングに立つ。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私の先攻ですね。ドロー。カードを4枚伏せてターンエンド」

 

先攻を得た雪乃はモンスターを出さず、カードを伏せるだけで静かにターンを終えた。

 

藤原雪乃 LP4000 手札2 モンスター0 伏せ4

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□■■■■

□□□□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《雷獣龍-サンダー・ドラゴン》を除外。そして除外された雷獣龍の効果発動。デッキから《サンダー・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚」

 

(先生のデッキはサンダー・ドラゴン……。ワッケーロやコンキスタドールはあまり当てにできないわね)

 

雪乃は頭の中からサンダー・ドラゴンの情報を引き出す。サンダー・ドラゴンの多くは除外された時に効果を発動し、融合体である超雷龍、雷神龍は破壊耐性を持っている。

 

「手札の《雷源龍-サンダー・ドラゴン》を捨てて効果発動。フィールドの《サンダー・ドラゴン》の攻撃力を500上げる。そしてサンダー・ドラゴンをリリースし、《超雷龍-サンダー・ドラゴン》をEXデッキから特殊召喚」

 

EXデッキから強力な稲妻を帯びた雷龍が姿を現す。サーチを封じる強力な効果を持っているが、雪乃のデッキにはあまり刺さらない効果だった。

 

「手札の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を墓地に送り、《混沌領域(カオス・テリトリー)》を発動。デッキから《輝白竜 ワイバースター》を手札に加える。そして墓地の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を除外して《輝白竜 ワイバースター》を特殊召喚。除外された雷電龍の効果でデッキから《雷劫龍-サンダー・ドラゴン》を手札に加える」

 

「ここで永続罠《サモンリミッター》を発動します」

 

雪乃が最初の札を切った。サモンリミッターはお互いに1ターンに2回までしかモンスターの召喚行為が行えない制圧効果を持っている。これは発動前の召喚行為もカウントされるため、レンはこれ以上の展開ができなくなった。

 

「ならばバトルフェイズに入ります。超雷龍-サンダー・ドラゴンでダイレクトアタック」

 

「攻撃宣言時に《紅き血染めのエルドリクシル》を発動。デッキから《黄金卿エルドリッチ》を守備表示で特殊召喚します」

 

エルドリッチの守備力は2800。これを突破できるモンスターはレンの場にはいない。

 

「バトルフェイズを終了。私はこれでターンを終了します」

 

「エンドフェイズに《黄金郷のワッケーロ》を発動。罠モンスターとして特殊召喚し、効果で先生の墓地の《混沌領域》を除外します」

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター2 伏せ0

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

輝:輝白竜 ワイバースター 攻撃力1700

 

□□□□□

超輝□□□

 

□□エワ□

サ■□□□

 

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

ワ:黄金郷のワッケーロ 攻撃力1800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP4000 手札2 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。そのままバトルフェイズに入ります。ワッケーロでワイバースターを攻撃!」

 

高杉レン LP4000 → 3900

 

「墓地に送られたワイバースターの効果発動。デッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加える」

 

「メイン2へ移り、墓地の《紅き血染めのエルドリクシル》を除外して効果発動。デッキから《黄金郷のガーディアン》をセットします。私はこれでターンエンド」

 

藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2

 

ワ:黄金郷のワッケーロ 攻撃力1800

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■■サ

□ワエ□□

 

□□□□超

□□□□□

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

 

高杉レン LP3900 手札6 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《雷龍融合(サンダー・ドラゴン・フュージョン)》を発動。墓地の雷源龍と、除外されている雷電龍、雷獣龍をデッキに戻し、《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を融合召喚する」

 

サンダー・ドラゴンデッキのエース、神の名を冠する雷龍が暗雲を切り裂いて飛来する。

 

「墓地のワイバースターを除外し、手札から《暗黒竜 コラプサーペント》を特殊召喚」

 

これで特殊召喚は2回。サモンリミッターがある以上、これ以上の展開はできない。

 

「手札の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を捨てて効果発動。デッキから同名カード1枚を手札に加える」

 

「チェーンして《黄金郷のガーディアン》の効果発動。このカードを罠モンスターとして特殊召喚し、雷神龍の攻撃力を0にします」

 

雷神龍の効果は手札で雷族モンスターの効果が手札で発動した時に発動できる。だが直接チェーンする必要があり、優先権を得た相手がなにがしかのカードをチェーンすれば、雷神龍の効果は発動できない。

当然雪乃もそれは承知していた。

 

「バトルフェイズに入ります。超雷龍でワッケーロに攻撃」

 

藤原雪乃 LP4000 → 3200

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

「エンドフェイズに墓地の《黄金郷のワッケーロ》を除外して効果発動。デッキから《紅き血染めのエルドリクシル》をセットします」

 

高杉レン LP3900 手札4 モンスター3 伏せ1

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

暗:暗黒竜 コラプサーペント 攻撃力1800

神:雷神龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力 0

■:伏せカード

 

■□□□□

超暗神□□

 

□ガエ□□

サ■■□□

 

ガ:黄金郷のガーディアン 守備力2500

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP3200 手札3 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。黄金卿エルドリッチを攻撃表示に変更。バトルフェイズに移行します。エルドリッチで雷神龍に攻撃! 征服王撃掌(アデランタード・ウェイガー)!」

 

「リバースカード《魔法の筒》を発動。その攻撃を無効にし、攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「なっ!?」

 

だがその一撃はレンに届くことなく、魔法の筒によって跳ね返された。

 

藤原雪乃 LP3200 → 700

 

「まだです! 《紅き血染めのエルドリクシル》を発動。デッキから《黄金卿エルドリッチ》を特殊召喚。再度雷神龍に攻撃!」

 

影より躍り出た2体目の征服王から黄金の衝撃波が放たれる。

 

高杉レン LP3900 → 1400

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

藤原雪乃 LP 700 手札3 モンスター3 伏せ2

 

エ:黄金卿エルドリッチ 攻撃力2500

エ:黄金卿エルドリッチ 攻撃力2500

ガ:黄金郷のガーディアン 守備力2500

■:伏せカード

■:伏せカード

サ:サモンリミッター

 

■□□■サ

□エエガ□

 

□□□暗超

□□□□□

 

暗:暗黒竜 コラプサーペント 攻撃力1800

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

 

高杉レン LP1400 手札4 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。墓地の《雷龍融合》を除外して効果発動。デッキから《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を手札に加える。続けて《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を除外する。そして除外された雷電龍の効果で、デッキから《雷龍融合》を手札に加える。手札を1枚捨て、《ツインツイスター》を発動。キミの伏せカード2枚を破壊します」

 

「チェーンして《墓穴の指名者》を発動。墓地の《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を除外します」

 

「《雷龍融合》を発動。墓地のサンダー・ドラゴンと、除外されている雷神龍、雷電龍をデッキに戻し、《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を融合召喚」

 

除外ゾーンに眠る雷神龍は素材となって天に昇り、新たな雷神龍となって転生召喚された。墓穴の指名者の効果でその効果は無効にされているが、この攻撃力ならば問題ない。

 

「バトルフェイズに入ります。雷神龍で――」

 

そこで、レンはふと雪乃の表情に疑問を持った。雪乃の表情は、諦めた者の顔でも、敗北を受け入れた顔でもなかった。

それは、獲物が罠にかかる瞬間を待ちわびているような表情だった。

 

(……あの時(・・・)の俺も、こんな顔をしていたのかな? そりゃあ気づかれるわけだ)

 

レンは苦笑し、手札を切った。

 

「手札から速攻魔法《抹殺の指名者》を発動。デッキから《オネスト》を除外する」

 

「なっ!?」

 

サンダー・ドラゴンには光と闇がいる。1枚ずつデッキに入れていたことが、ここで役に立った。

 

「雷神龍-サンダー・ドラゴンで黄金卿エルドリッチを攻撃!」

 

三つの(あぎと)から放たれた轟雷砲が黄金の鎧を貫いた。

 

 

 

藤原雪乃 LP 700 → 0

 

 

 

デュエルディスクから無情な音が鳴り響く。勝者の名を告げる審判もなく、歓声も拍手もない。ただデュエルの終わりを告げる(ライフが0になった)音が鳴り響いただけ。

レンはリングの中央に向かって歩き出した。

雪乃もまた、晴れやかな気持ちで胸を張って歩き出す。

 

「私を見ていてください。校長先生」

 

その声は優しいながらも決意に満ち溢れていた。

闘う者(デュエリスト)としての矜持を示し、彼女は右手を差し出す。

レンは迷いなくその手を取った。指先から彼女の体温が伝わってくる。

 

「では先生、また」

「ええ、また会いましょう」

 

別れの挨拶ではなく、再会の言葉。それが雪乃の精一杯だった。我ながら、面倒な性格だと思った。

そして彼もその言葉を口にしてくれたことに喜びを感じる。ただの社交辞令かもしれないが、それは考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、場所はラスベガスのデュエルスタジアムへと移る。

 

『さぁ、皆さまお待たせいたしました。リーグの垣根を越えたワールドチャンピオンシップ・ルーキーズ杯。待ちに待った決勝戦(ファイナル)がまもなく開始されます。しかも日本人同士の対戦です!』

 

「さて……どちらが勝つかな?」

「さぁ、私としては複雑な気持ちね」

 

三沢の問いに、明日香は曖昧に答えた。片方はかつて負けた相手。もう片方は同窓生。心中は意外と複雑だった。

 

「しかしアイツがプロとはね。ふらりと旅にでも出そうだったがな」

「風のようなヤツだったからね」

 

三沢の零した言葉に明日香は同意を示した。

 

「あれだけ強いんだから、プロにならない方が嘘ッスよ」

「……ふっ、それも一理ある。だがアイツの服、アレはどうにかならないモンかなぁ」

「そうね。卒業しているのにアレじゃあ……ね」

「まっ、アニキらしくていいんじゃない」

 

呆れ顔のふたりに対して、翔はニシシッと笑った。やはりあの服、あの色が一番似合っていると思っているのだろう。

 

 

 

「なぁに、万丈目くん。入場通路から観戦? それとも、激励に来てくれたのかしら?」

「フン。せいぜい恥だけはかくなよ」

 

万丈目がぞんざいに告げる。

 

「ああ、そういえば、あなたは準々決勝であのコに負けたんだったわね」

「ぐっ、相変わらず嫌味な(ヤツ)だな!」

「ふふっ、まあそこで見ていなさい。私がチャンピオンになるところをね」

 

優雅に笑い、彼女はステージへと向かう。対戦者はすでに待ち構えていた。

 

「へへっ、ようやくおまえと闘えるな。明日香の(かたき)は討たせてもらうぜ」

「随分と昔の話ね。というか、そんな理由で闘うのかしら?」

「いや、それは建前。いつだって俺は、楽しいデュエルがしたいだけさ!」

「ふふっ、そういうの、嫌いじゃないわ。なら楽しいデュエルをしましょう」

 

ふたりがデュエルディスクを構える。

 

 

 

――決闘(デュエル)

 

 

 

 




というわけで完結です。
評価、感想、ありがとうございます。
誤字報告、処理ミス報告、大変助かります。
延長戦にまでおつき合いいただきありがとうございました。
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