Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか? 作:GT(EW版)
晴れて手持ち全てのポケモンを最終形態まで進化させたシルバーは、それを一つの区切りとしてうずまきじまでの修行を切り上げることとなった。
ポケモンたちの進化の他にはヌオーの観察を通して休息とリラックスの大切さを学んだシルバーであったが、なんだかんだでタカネというジョウト最高峰の実力者から手解きを受けることができたのは彼のトレーナー人生において大きな収穫と言えた。
指導の方針としては修行時間の大半をヌオー観察に割かせていたタカネだが、彼女自身も強くなりたいという彼の気持ちに対しては至って真摯に向き合っていたのである。
故に、シルバーが修行を切り上げてチャンピオンロードへ行くと告げた際には感傷に浸りたくなる気持ちがあった。
元より出ていくには丁度良い頃合いだと彼女も思っていたが、それはそれとしてここで修行を終えることを名残惜しいと感じる思いもあったのだ。
「どんどん良くなるキミを、もう少し近くで見ていたかったなぁ……って思うのは、なんだか先生っぽいかな?」
「と言うよりジジ臭い」
「真顔で酷いこと言うねキミ」
「お前に言われたくはない」
「ええー……」
さながら気分は天才バスケットマンの成長を見守る年老いた指導者のようなタカネであったが、実は彼女は前世を含めてもそこまで老け込むような歳ではなかったりする。
しみじみと感慨に浸る彼女に対して、シルバーが何か言いたげな微妙な表情を浮かべていたが……この時の彼には他に優先すべき言葉があった。
「……ジョウト最強の座も伝説のポケモンも、今はお前に預けておく。だがすぐに追い越してやるからな! 世界で一番強いのはこの俺だということを、いつか必ず思い知らせてやる」
「うん、待ってる」
吐き出した強い言葉には、自分自身に対してプレッシャーを掛ける意味合いも含まれているのだろう。
威勢良く言い切った彼の啖呵に対して、タカネは一切笑うことなく──しかし、穏やかな表情を返した。
その一場面を切り抜けば、まるで少年少女の爽やかな青春風景にも見えるだろうが、この時のタカネの心にあったのは「ああやっぱりこの子、金銀のライバルだわ……」という少しズレた感激と安堵の気持ちだった。
落ち着いて物事と向き合う冷静さを身に付けるのは、彼がポケモントレーナーとして成長する上では確かに大事なことだ。
しかしこう言ったツンツンした性格もまた、彼の大きな魅力なのだと──彼のファンとしてタカネは、イレギュラー的存在である自身の行動でその切れ味を損なわなかったことを嬉しく思ったのである。
そんな彼女はHGSSの数少ない不満点の一つとして「ライバル可愛くなりすぎ問題」を挙げるほどに、些か面倒くさいタイプの金銀ファンだった。
尤も当のシルバーとしては、彼女にそんなことを思われようとまったくもって知った話ではなかったが。
ただ彼の目に映るのは、常にこちらの事情を見透かしたような、いけ好かない銀の巫女の姿だけだった。
「ちっ、余裕そうな顔しやがって……」
「かわいいでしょ?」
「行くぞオーダイル」
「ダイッ!」
「無視された……」
「ぬーん」
──と、そんな一幕を最後に再び旅立つシルバーの姿を、タカネはヌオーと共に手を振りながら見送ったわけである。
チャンピオンロードへ向かい、そこではおそらく金銀主人公と相まみえることになる彼がこの後、どのような戦いを繰り広げることになるのか……タカネがそれを知るのは、もう少し先の話である。
しかし自分の行動が最強のトレーナーを目指す彼の助けになったのだとすれば、それはとても幸せなことだと彼女は思った。
「貴方の歩む道のりは、決して平坦なものではないでしょう。それでもどうか、選び取った道に海神の祝福があらんことを……「銀の巫女」タカネは祈っています」
「……ふん…………………………余計なお世話だ」
遠ざかっていく彼とオーダイルの背中に向かって、タカネは巫女らしい所作で祈りの言葉を言い渡していく。
まだあどけないながらも儚げで透明感のある美しい容姿と、その身に纏う神秘的な衣装。そして何より五人の姉たちから学んだまいこはん的な清らかな作法を見せている間だけは、タカネの外面は非の打ち所がない完璧な聖女だった。
……それはシルバーさえも思わず普段の調子を崩し、捨て台詞を残すまで予想以上に長い間を空けてしまったほどに。
しかしその実情として、この時のタカネの内心は(ごめんシルバー! ぎんいろのはねならあげても良かったんだけど、うみなりのスズは私も持っていないんだ……!)と、やはりどこか致命的にズレた罪悪感が支配していた。
彼女らの一族は代々に渡り、実力と人格共に優れたトレーナーに対して「うみなりのスズ」もしくは「とうめいなスズ」を託すという使命を背負っている。
しかし姉妹の中で最も若く、舞妓としての経験が浅いタカネだけはまだ公的に他者を評価する資格を持ち合わせていなかったのである。
二種の鈴とは別に「ポケモン金銀」でルギアとの対面に必要な「ぎんいろのはね」ならば、旅をしていた頃に偶然拾ったものを持っているのだが……まいこはんの技術を受け継いでいない非正統後継者であるタカネには、ソウルシルバーのまいこはんたちのような流れでシルバーの前に海の神を迎えることはできなかった。
……尤も、タカネは自分が認めようが認めまいが、その辺りのことは正直どうでもいいことだと思っている。
「……ここから出ることを決めるのは、ルギア自身だもんね。ぎんいろのはねもうみなりのスズも無くても、キミ自身で優れたる操り人を認めたのなら、その時は関係無いでしょ?」
つまりは、そういうことだ。
何より重要なのはルギア自身の気持ちだと考えている点では、彼女の価値観も立派なポケモントレーナーと言えなくもなかった。
自分たちのような矮小な人間が人様に対してどのような評価を下したところで、最終決定を下すのはかの海神様である。
他の誰かに封印されているわけではなく、あくまでも自分自身の意思で深海の奥底に眠っている以上、ルギア自身が爆誕したいと思った時にはいつ如何なる時だろうと爆誕できるのである。
前世のゲームで言えばファイアレッドとリーフグリーン、エメラルドのへそのいわのように、特に劇的なステップを踏まなくとも普通に登場して良いのである。ルギアだもの。それは彼の自由だ。
しかしその点で言えば、類い稀な素質を持ったシルバーが来ても一切反応を見せなかった以上、今はまだ爆誕する時ではないということなのだろう。
その時が来るとすればそれは彼がさらに腕を上げた時か、もしくは対となる虹色のポケモンを捕まえたであろう彼のライバルがここを訪れた時か……どちらにせよタカネは、その時が来ることを楽しみにしていた。
来たるべきその時、「銀の巫女」として行う自らの立ち振る舞いについてああでもないこうでもないと妄想しながら、タカネは木製の手すりの上に両腕を掛けながら、にこやかな顔で祭壇から身を乗り出す。
そうしてしばらくの間、彼女は鼻歌を歌いながら流れ落ちる滝の様子を上機嫌に眺めていた。
──その時である。
突然、滝が爆発した。
唸りを上げて流れ落ちていた水流の勢いが、突如として何の前触れも無く急激に強まったのである。
豪流が、雷のような荒々しさで唸りを上げていく。
そうして爆発的に高まった水量と比例していくように、滝壺から跳ね上がる水飛沫の勢いもまた、何十倍何百倍へと増大していった。
その結果──
「あっちょっ……わひゃああああっっ!?」
バケツからひっくり返したような大量の水飛沫が、祭壇の上にいれば大丈夫だろうと高をくくり、その光景を呑気に眺めていたタカネの身を容赦無く呑み込んでいった。
その光景をシルバーが見ることができれば、間抜けな悲鳴を上げる彼女の姿を見て少しはスカッとした──かもしれない。真実はうずしおの中である。
伝説のポケモン──それは、トレーナーの誰もが一度は憧れたロマンである。
文字通り伝説上の生き物である彼らは皆、通常のポケモンとは一線を画した圧倒的な存在感を放っている。
……時にはルビーサファイアのアブソルやトロピウスのような、まるで伝説のような風格を漂わせる一般ポケモンもいるが……それはさておき。
ともかく「伝説のポケモン」とは、ポケモン界におけるカリスマ的な存在なのである。
その伝説は第一作目から続きシリーズでは恒例の存在となっているが……RHGDSSにおける伝説のポケモンと言えば、やはり何と言ってもルギアとホウオウだろう。
現代の最新技術によってより神々しく、美しく演出された彼らの登場シーンはシリーズ屈指の出来栄えであり、まだプレイしていないファンの皆さんには是非ともネタバレ無しで体験してほしいものだ。
……さて、本作の顔が前述の二体であることに異論は無いだろうが、もちろん本作に登場する「伝説のポケモン」は彼らだけではない。
エンジュシティの「やけたとう」にて甦りし三聖獣の存在もまた、金銀時代から数多の伝説を築き上げてきた特別なポケモンたちであった。
今は懐かしき長寿アニメ「ポケットモンスター」においては劇場版の第三弾「結晶塔の帝王 ENTEI」の主役ポケモンとして華々しいデビューを飾った──ENTEIことエンテイ。
ポケモン金銀のマイナーチェンジ版、第二世代三番目のタイトルである「クリスタルバージョン」ではパッケージポケモンの座に君臨し、「結晶塔の帝王」の次に公開された映画「セレビィ 時を超えた遭遇」でも印象的な活躍を見せた──オーロラポケモンことスイクン。
他二体と比べると目立ったメディア展開は少ないものの、ゲームでは第二世代で登場して以降、長年に渡って強力な電気ポケモンの代表格としてプレイヤーたちから評価され続けてきた──いかずちポケモンことライコウ。
いずれも作中での神秘的な扱いと優秀な戦闘能力、そして雄々しさ、美しさ、荒々しさを兼ね備えた「伝説感」溢れる佇まいには、初登場から多くの月日を経た今もなお子供たちから大きなお友達まで根強い人気を博していた。
しかし彼ら三聖獣の往年の活躍を語る上で外せない最大の特徴と言えば、何と言ってもゲーム中における入手難度の高さだろう。
「やけたとう」の遭遇イベント以後、各地の草むらにランダムで出現しては一ターン目には逃げ出してしまう──いわゆる「徘徊伝説」の走りである三体は、ポケモン金銀が発売した当初はマスターボール以外の方法で捕まえること自体がクラスメイトの友達に自慢できるステータスだったほどだ。
尤もスイクンに関しては看板タイトルである「クリスタル」やリメイク版のHGSSでは固定シンボルとして正面から対峙してくれたものだが……他の二体に関しては、後のシリーズにおいても捕獲が難しいポケモンであった。
そしてハートゴールド、ソウルシルバーの発売から●●年が過ぎた今──さらなるリメイクとして新生した本作ライジングハートゴールド、ディープソウルシルバーにおいても、伝説の三聖獣の存在は色褪せない伝説感をそのままに、圧巻のパワーアップを遂げて蘇った。
性能面では三体とも平等にそれぞれの設定に沿った強力な新技と新特性を引っ提げて、シングルダブル共に先鋭化した現代のポケモンバトルに対応して有り余る強さを見せつけている。
三体とも名実共に、伝説の三聖獣の名に相応しい威厳を取り戻したと言えるだろう。
そしてパワーアップしたのは、性能だけではない。
ゲーム中での入手難度もまた、かつてよりさらにパワーアップしていた。
エンジュシティの「やけたとう」で出会い、以降各地に徘徊し運良く出会しても即座に逃げてしまう仕様は旧金銀及びHGSSと同様。
それに加えて本作RHGDSSでは、その行動範囲が格段に広がっていた。
かつての三聖獣はジョウト地方全土の草むらを駆け回っていたが、本作では「全てのフィールド」がその対象となっているのだ。最新の技術で3D化し、以前よりも遥かに広大になった全てのフィールドである。
そんな環境の中で彼らの行動範囲はジョウトのみならずカントー地方にも及び、さらには本作で●●年ぶりに登場した「ナナシマ」や「スオウじま」にも及ぶ。伝説の三聖獣の健脚は、海さえも越えるのだ。
それだけでも前作までとは比較にならない行動範囲だが、本作ではそこに加えて草むらだけではなくダンジョンさえも行動範囲に含まれていた。
「シロガネやま」や「イワヤマトンネル」、「くらやみのほらあな」と言った視界の悪い洞窟の中にも出現する可能性がある為、彼らを追い掛けることは作中設定に対して忠実すぎるほどに困難な仕様となっていた。
それ故にプレイヤーの全く意図しない場面で伝説のポケモンと遭遇する──というまるでアニメのようなサプライズ展開も起こり得るわけではあるが……一刻も早く伝説のポケモンを捕まえたい層にとっては非常に厄介なアレンジであることも否定できない。
仮に運良く出会えたとしても捕獲率は低く設定されている為、思考停止でクイックボールを投げたところで彼らを捕獲することはまず不可能だった。
──もちろん、そこには救済措置もしっかりと施されている。
前述の通り、本作における三聖獣たちは三体とも伝説の名に相応しい入手難度を誇るが……あくまでもそれは、プレイヤーが「メインシナリオイベント」だけを攻略していた場合の話である。
ポケモンシリーズでは既に「レジェンズシリーズ」でお馴染みとなっている特色を受け継いだ本作の特徴「サブシナリオイベント」の数々を回収することで、本作では自分自身の手で三体との遭遇手段をある程度コントロールすることが可能だった。
例えば「なぞのせいねんのミナキ」のサブシナリオをこなしていくことでかつての「クリスタルバージョン」のように「スズのとう」で固定シンボル化したスイクンと対決するイベントが発生したり……そこからの派生次第では「結晶塔の帝王 ENTEI」を彷彿させる感動的なサブシナリオが発生し、固定シンボル化したエンテイと対決するイベントがキミを待っていたりと──伝説のポケモンたちとの出会い方は各々のプレイスタイルによって多岐に渡る。
そしてもちろん、三体目の聖獣であるライコウにも専用の固定シンボル化イベントが存在している。
それこそが「うずまきじま」で発生するサブシナリオイベント──「いかずちのでんせつ」である。
彼女の立っている「ぎんのほこら」の祭壇の上まで高々く舞い上がってきた大量の水飛沫を頭から被り、白銀色の巫女装束を見るも無惨な状態に濡らしてしまったタカネであったが……今はそんなことはどうでもいい。
その時のタカネは自慢の巫女装束の状態や水に濡れた全身の肌寒さが全く気にならないほど、目の前に広がる衝撃的な出来事に対して目を奪われていたのだ。
「きれい……」
黒髪から大粒の水滴を滴り落としながら、いつになく物憂げな表情を浮かべたタカネが、ようやく吐き出した一言がそれである。
しかし彼女がそのように語彙力を失うのも、今度ばかりは致し方ない事態だった。
何故ならば、今。
おびただしい水飛沫と共に、滝の中から。
全身に神々しい淡いオーラを纏いながら、青白く帯電した黄色のポケモンが飛び出してきたからである。
体格は大きく、黄色の体毛の各部に黒い縞模様が刻まれた四足歩行の姿はまさしく虎のよう。
──そのポケモンの名は、「ライコウ」。
水の君スイクン、炎の帝エンテイと並び称される、雷の公。
そこにいたのはジョウト地方の誇るやけたとうの三聖獣の一体であり──音に聞こえた伝説のポケモンそのものだったのだ。
クリスタルの三犬登場BGMはいつ聞いてもびっくりします。