銀河英雄伝説~流血と硝煙と運命の日々~   作:雪の師走

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お待たせしました。

同盟、帝国内乱前の僅かな凪の時の話です。

赤子の宇宙の移動がどうとか確か旧版では言ってた気がしますが気にしないでくれると助かります。


新たな家族

宇宙暦797年 ハイネセン 宇宙港 カーテローゼ・フォン・クロイツェル

 

 

 

大元帥の、いやクーロさんの指示を受けて宇宙港に来ていた。一般人とは別のフロアになるけど。騒ぎになりそうな人は別の通路、フロアへ案内されるそうだ。

空港の職員と共に来られるのを待つ。………来られた。

一人の女性が後ろに荷物を押す空港職員を従えて近寄って来た。

「カーテローゼさんで間違いないかしら?」

「はっ。クーロ大元帥の従卒を任じられました、カーテローゼ・フォン・クロイツェル兵長待遇であります!」

ビシッと敬礼をし、自己紹介をすると私を見て苦笑している。

「私は軍属ではないし、あの人も軍人として貴女を私の迎えに越させたのではないはずよ。だからその自己紹介は不適切ね。敬礼も止めてちょうだい。」

優しく諭すような口調で止めるように私に言われたので、戸惑いながら手を下ろした。

「それで愛しの妻と我が子を迎えに来ず、あの人は何をしているのかしら?」

フフフと笑いながら、胸元に抱えている物を揺すっている。

クーロ大元帥の奥方、ジェシカ女史は赤子を抱いているのだ。帝国遠征前に妊娠し、遠征中に産まれた。時期的に地獄の帝国領遠征の最地獄、撤退戦の最中に出産したらしい。産まれて半年経ち、ようやくハイネセンに来たというわけだ。

「閣下は現在、ご自宅で料理を作っておられております。」

「その軍属のような話し方も止めてちょうだい。私達は家族なんだから。」

「えっと、その…………。」

困って言葉を紡げない。なんて言えばいいんだろう………。

「さぁ帰りましょうか。我が家に。」

彼女は私を全面的に受け入れているのが分かった。

「はい。」

2人並んで歩く。そう、これから私達は家族になるのだ。

荷物を後ろの荷物台に置き、自動運転車に並んで座る。

「抱いてみる?」

胸元で抱えたのを少し隣に座る私に向けてきた。

「えっと、あの、その、…………。」

こんな赤子を抱いたこともなく、どうすればいいのかまごついてしまう。手を彷徨わせながら困っていると、そんな私を笑いながら教えてくれる。

「抱えるように抱けばいいだけよ。首がまだ据わってないから頭を腕に乗っけて固定するの。」

そう言いながら私の腕に乗せてくれた。

まだまだ小さいのに決して軽くはない。これが若い命かと思った。

くわぁと欠伸をした。可愛いな。口をムニャムニャと動かして眠そうにしている。

「やっと笑ってくれた。」

「えっ…。」

「どこか壁があったのよ。あなたの対応に。いや、壁というと厚いかな?皮一枚かしら?薄い薄い皮一枚ね、私達と一線を引いているように思えた。」

「す、すみませんっ!」

「謝らなくていいわ。そんな簡単に貴女のような年頃の女の子が心を開いてくれるとは思ってないわ。急に家族になりましょうなんて私でも戸惑うもの。だから少しずつ慣れていきましょう?」

優しく諭すように言う彼女が輝いて見えた。温かいな。私もこんな大人になりたいと思った。

 

 

 

 

 

宇宙暦797年 ハイネセン 自宅 ユーリ・クーロ

 

 

キッチンで料理をしていると外に気配を感じた。火を止めて玄関に向かう。

両親、ジェシカの両親がキッチンを出てきた私に気付き、声をかけてきた。

「どうやら着いたようだ。」

4人が顔を見合わせてポカンとしている。この感覚は説明しようにも出来ない。靴を履き、玄関のドアを開けると1台の自動運転車が止まっていた。

そしてカリンが荷物を下ろそうとしていた。

「私が持っていく。カリンはジェシカの手荷物を頼むよ。」

一ヶ月程、一緒に暮らして愛称で呼ぶようになった彼女の名前を呼ぶ。

「え、あ、はい。」

近寄りながら声をかけると、驚きながらも返事をした。そしてジェシカの手荷物を持ってジェシカの後を追って行った。

大きなスーツケースを2つ引いて家に入ると、両親が赤ん坊を可愛がる声が聞こえた。そんな声を聞きながら荷物を寝室に運ぶ。運び終え、リビングに入るとジェシカが赤ん坊を差し出してきた。抱いてあげてということだろう。

抱え抱くとキャッキャッと赤ん坊が声を上げた。

「これが私の子か…………。ジェシカ、長い間1人で面倒を見て大変だっただろう?本当にすまない。申し訳ない。」

腰を折り、深く頭を下げる。遠征に帰ってからも碌に彼女に連絡も取らず、仕事に没頭せざるを得なかった。

「貴方の立場で、あの状況なら仕方ないわ。許してあげる。でもこれは貸しにしておくわね?」

「仕方ないな。お義父さんお義母さんにはご迷惑をおかけしました。」

席に着いているジェシカの両親にも謝罪する。

「いや娘の出産、孫の誕生なら何をおいても駆けつけるさ。それよりもこの時期にこうして食事会を開催しようとした理由は何だね?」

「っ、…………!」

私が少し驚いた顔をしたのを見て、苦笑なされた。

「軍人としての才覚は前線でも後方でも君に遠く及ばないだろう。だが重ねた年齢による洞察も中々馬鹿にはできないだろう?」

そう言われては私も苦笑するしかない。

「ハイネセンに………いや、同盟に危機が訪れます。それも近年稀に見る規模だろうと思います。」

私の言葉に皆が凍り付いた。顔を見合わせるも誰一人声を上げなかった。

お義父さんがおずおずと尋ねてきた。

「それはついさっきまでの大捕物や昨年の大敗北の暴動の規模ではないと?」

重々しく頷くと、今度は顔色が悪くなった。

「今回逮捕された者の関係者、冷や飯を食わされる軍人、政治家、企業の関係者が決起するでしょう。駆除しましたが、しきれたかと言われれば自信がない。私に恨みを持つものも多くいるでしょう。」

「同盟市民からは良い声しか聞かないけど………。」

お義母さんが不安気な声を出している。仕方がない。民意とかとは違う部分のものだ。

「父さん、母さんもエル・ファシルに避難してほしい。」

要請はしたものの、答えは分かっている。

「断る。私は医者で私を待っている患者がいるんだ。それを置いて、我が身可愛さで逃げるなど出来る筈があるまい!」

最後の方は語気が荒げている。阿呆な事を聞くなと言うことだろう。

「お義父さまっ!」

「ジェシカさん。心配は嬉しいが、人には譲れないものがある。それが私には私を待つ患者というだけのこと。」

「っ………!!」

父の決意をまざまざと見せつけられ、流石のジェシカも言葉を失う。

「私の翻意を促すか命を奪うかは分からんが、いざという時は二人の生命を盾にするだろう。その時は一切の考慮なく処理するがいいな?」

「ユーリ…………。」

母さんが顔に恐怖の色を見せている。それもそうか。息子が親を見捨てると言ったのだ。

「テロリストやクーデターに屈するわけにはいかない。私は軍の頂点。同盟史上初の大元帥で統合作戦本部長、宇宙艦隊司令長官だ。部下の規範とならなければならない立場にある。」

「私に遠慮も配慮もするな。」

「分かっている。」

男2人で決めてしまった。母さんも覚悟が定まった。深い溜息を吐かれたが。

「なら食事にしよう。カリン、すまないが配膳を手伝ってくれ。」

そう頼むと、“はい”と返事をしてキッチンへついてきてくれる。次々と料理を持っていき、食事会をスタートさせた。

 

 

 

 

ジェシカ・E・クーロ

 

 

正午前に始まった食事会も2時を過ぎ、そろそろお開きかと思った時に、チャイムが鳴った。

主人が玄関に向かうと直ぐに1人の女性も1人の男の子を連れて玄関に入ってきた。

「わたくし、CR商会の社長を務めておりますミリアム・ローザスと申します。此方は息子のリース・ローザス。突然のご訪問、申し訳ありません。」

そう言って深々と頭を下げた。フェザーンで3指に入る大商会の女社長。帝国の辺境のインフラ、商売を独占し、同盟でも大きく経済に食い込んでくる大店だ。

「御主人にお話があり、罷り越しました。」

皆がユーリの方を向く。

「すまないが子供の世話を頼む。自室に案内する。」

そう言ってリビングを早々に退散した。防諜の効いた部屋に行ったのだろう。

 

両方の両親が子供2人の相手をしてくれている。その様子を見ているとカリンが紅茶を持ってきてくれた。

「ありがとうカリン。」

「いえ、そんな。」

「あなたも座ってゆっくりなさい。」

私が促すと、素直に頷き椅子に腰掛けた。

「フェザーンの大商会が同盟の大元帥に何の用なんでしょう?」

カリンが不思議そうにしている。

「フェザーンきっての女社長がわざわざ来る程の用よ?それこそ天地がひっくり返るかもしれないわね。」

クスクスと笑いながら言うと、カリンも頷く。そしてリビングに目を向ける。彼女の子供が私の赤ちゃんの頬を突付いて楽しげな声を上げている。

「まだ子供なのに賢い子供ですね。」

この子もまだ若く、純粋で、擦れてないのがよく分かる。

「そりゃあ種も畑も同盟、フェザーンで随一と言ってもいい男女ですもの。当然よ。」

私の言葉に、“どういった意味ですか?”って色が濃く出ている。女の勘だけどあの子、ユーリの子供ね。カリンが不思議そうな顔をしている。微笑みながら言うとカッときたのが分かったが私の表情を見て直ぐに落ち着きを取り戻した。

「いいんですか?」

「私と結婚する前の子供だし、あの人自身弁えているようね。妻としては面白くない感情はあるけど………まぁ仕方ないわね。」

様々な感情を噛み締めている。

「カリン、貴女の気持ちは分かるし、嬉しい。でも忙しくて大変なはずの彼女がわざわざ来る程の用。それが何なのかの方が気になるわ。」

上の方を見た。そこには彼の私室がある。機密性が高く、この家で唯一私が入れず、購入した時に様々な改築を行った部屋だ。

 

 

 

 

 

 

ユーリ・クーロ

 

「フェザーンで例の件の調査をしていた28人の内、13人が殺されたわ。情報伝達役も6人を殺されている。」

「多いな………。」

「ええ。事故や痴情の縺れを装っているけどね。大元は自治領首府ルビンスキーだと私は考えている。こっちに来る前に忠告もされたしね。」

ミリィが肩を竦めながら言う。

「会ったのか?」

「ええ。宇宙港で待っていたわ。あなたによろしくと言っていたわ。」

そうか。あの男がそんな事を………。やはりCR商会が私の出資金で作られたのを知っていたか。つい肩を震わせて笑ってしまう。それにしてもあのハゲ頭め、これで私が手を引くと思っているのか?伝手はミリィだけじゃない。他にもある。

「これ以上の調査は………被害が大き過ぎて………。」

「いや、ありがとう。ここまででいいよ。確定情報がないから私の推論になるが結構おどろおどろしい話になってきそうだ。」

フェザーン、地球、そして宗教。バラバラだったピースが様々なピースを組み合わせることによって繋がっていく。まさかな、………今までフェザーンが主、地球教が従の関係と思っていたが、ルビンスキーの警告で一気に霧が晴れた。いつも傲岸不遜なお前が宇宙港でミリィに警告とは、上手の手から水が漏れたな。総大主教かルビンスキーかは知らんが余計な事をして、余分に俺に情報を渡すとは。

「フフフッ。」

「どうしたの?」

含み笑いを漏らした私に怪訝な顔でミリィが尋ねる。

「いや、………人生は奇想天外の連続と言われるが、………ここまで奇々怪々なのも珍しいなと。」

フフフッ、アハハハハハハと大笑いしてしまった。そんな私をポカンとした表情で見ているミリィが面白可笑しくて更に笑える。一頻り笑い、落ち着くとスーーっと脳も心も冷静になった。

問いたげな感じをしている。もう一度頭で考えを整理してみたがどうもこの考えが正解にしかならない。

そうか………それにしてもフェザーンがそんな事になっているとはな。今の今まで考えもしなかったな。

ミリィに目を向けると姿勢を正した。恐らく私の目に力が入っているのに気付いたのだろう。

私の推論を話し出すと、彼女の顔が青くなったり赤くなったり、身体が震えたり強張ったりと様々な反応を見せた。

長くなったがとりあえず話し終わり、大きく息を吐いた。

「まさか………フェザーンと地球教が………、そんな事………。」

そうだろうな。フェザーンの成り立ちからこれまでが前提から覆る驚天動地の内容だ。それにそれを言うならCR商会も似たようなものだ。私がフェザーン駐在武官の時に捕らえた産業スパイとそれに連なる者たちの違法カジノや隠し財産やらを元手に商売を始め、今やフェザーンで3指の規模の企業になった。10年そこらでだ。

「これから私達はどう動けばいい?」

「遠くからの監視だけでいい。これ以上は地球の地球教本部や自治領首府の奥深くを調べないと分からないだろうから。」

「分かった。ならこれからは商人らしく稼がせてもらうわ。」

「それがいい。それで帝国はどうなっている?」

フェザーンの話はここまで、次の帝国の話と流れを変える。

「貴方も知っていると思うけど、リヒテンラーデ侯・ローエングラム伯の帝国政府とブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム侯の貴族連合に別れて、抜き差しならない状況になっているわ。」

私が頷くと彼女も頷き、話の続きをしてくれる。

「政府側から仕掛けられないから貴族側から仕掛けられるのを待っている状態ね。一応今の所は彼らも味方というか敵じゃないから。」

肩を竦めながら言う彼女と敵なのに敵じゃないという状況が今の同盟と瓜二つで笑える。

「いつ始まるのかしら?」

今度はこちらが肩を竦めながら笑う。

「さぁな?だがどちらも反体制派からの花火が上がってから祭りが始まる。それは間違いないな。」

「そう………御武運を。」

「ありがとう。」

話も終わり、リビングに戻ろうと言って部屋を出ようとすると後ろから抱きつかれた。“どうした?”という前にポツリと。

「どうか、死なないでください………。」

誰が敵か味方か、どこに敵味方がいるか分からない。その状況を心配してくれている。

祖父母、両親も亡くなり、親戚もおらず、身内は息子とその父親である私しかいない。振り向いて正面から抱き締め、唇にそっと優しく口付けをした。

「いずれはあの子にも弟妹を作ってやりたいな。」

彼女の目を見て、しっかりと言うと目を大きく見開いた後、大粒の涙を溜め、瞬きと共にハラハラと落ちた。

「ええ。ええ……そうね。そうなったら嬉しいわ。」

「さぁ下へ行こう。子供たちが待っている。」

2階から降り、リビングに入るとジェシカの姿を感じたリースが“お母さんっ!”と嬉しそうな声を上げ、傍に寄ってきた。

彼女の脚にしがみついている。

しゃがみ、リース君と目線を揃える。

「私はユーリ・クーロという。よろしくリース君。」

「………よ、よろしくお願いします。」

少し戸惑っていたが、ペコリと頭を下げて挨拶をしてくれた。

「用も済んだので帰ります。ご家族との時間の最中、お邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした。」

ミリィが深々と頭を下げてお詫びをする。するとジェシカがミリィの肩に手を掛け、頭を上げさせた。

「またハイネセンにいらしたら息子さん共々、此方へ来てください。その時は食事でもしましょう。これを期に懇意になれたらと思います。」

少し驚いた顔をしてミリィが感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます。その際には我が商会が経営しているお店をご案内させていただきます。」

「あら嬉しい。CR商会の出されてるお店は人気店ばかりだからその時が楽しみ。」

年が近い女性2人が親しげに短い会話をし終え、息子に促して帰ろうとするので、私とジェシカが玄関まで見送りに行く。待っていた護衛の人が車のドアを開ける。

「良かったの?抱っこしなくて?」

隣にいるジェシカに目だけ向けると、意味ありげに微笑んでいた。私は全部分かってると言わんばかりだ。

「構わない。生きていれば、いずれする機会もある。」

「そう?貴方がそれでいいなら構わないけど。」

どうやらほとんど全部、彼女にはお見通しだったようだ。彼女の女としての勘か洞察力というのは怖いな。この年になって知るとは思わなかったよ。

最後にミリィ達が去った方を見てから、ジェシカの後を追った。




妻と愛人の息子初登場。この後、この子供がどう育っていくかも後々書けたらと思っています。

何ならその後の構想だけは決まってます。

ならそこまで早く書かんかいっ!って読者の皆様に言われそうですが……

次の更新はアオのハコを予定してます。

夏の大会まで書ききってからSEED、銀英伝の早く出来たほうを予定してます。

銀英伝の内容は同盟、帝国の内乱に入っていく予定です。
交互か順にかはまだ決めてないですが………5月中に更新出来たらいいな。頑張ります。
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