どうも、志羽辰也です。 作:そっくりさん
前回の投稿からもう1年以上経ってるってマジ…?
同時刻。四葉本家のとある場所にて。
「――驚愕、とはまさしくコレのことを言うのね」
四葉家の三代目当主である、四葉真夜は眉をしかめてそう口にする。
彼女が目を通しているのは、ある人物のパーソナルデータであった。
「
「恐れながら、真夜様。もしや、彼は……」
彼女の側近である葉山が、そう質問をする。
「ええ、
「なんと……」
志羽辰也――司波達也と同じ容姿を持ち、名前の読みまで同じと来る。
真夜でさえ、彼を司波達也と見間違うほどの完成度を持っている……いかにも“自分はクローンである”と露骨にアピールしているとしか思えない。
それも問題だが、一番の問題は――巨大な情報ネットワークを持つ四葉家が、今の今まで志羽辰也という存在を
仮に司波達也を元にしたクローンを作ろうものならば、四葉家が黙ってなどいない。むしろ、徹底的な報復措置を取るだろう。しかし、こうして目にしてみて――初めて四葉家が後手に回っていると気づかざるを得ない。
気がついたら後手に回っているなどと――最早、相手はただ者ではないというのは分かりきっている話である。
その上、もしクローン技術によってこの“志羽辰也”という存在が作られた――それはすなわち“司波達也”という戦略級魔法師の力を知っているという事でもある。
もはやこれは四葉家のメンツに関わる、などという話ではない。
下手すれば十師族どころか、日本――いや、世界に関わる重大な問題に発展する可能性が濃い。
「……厄介ね」
真夜は、眉を顰めながらため息を吐く。
……相手は十師族のどこかなのか。しかし、少なくとも今持ち得る情報を咀嚼する限り、十師族の中にクローン関連の動きはなかった。
それならば百家か。それとも十師族とは関係ないどこかの者なのか。
……司波達也という戦略級魔法師の存在を知り得る者は極わずか。それならば――身内の誰かが肩入れをしているという可能性も視野に入れるべきか。
身内の裏切り。その可能性を孕んでいる事実に真夜は言いようもない感情を抱える。
それに、何故
なぜ今になって、志羽辰也は姿を現したのか……四葉への意図的な宣戦布告という意味か?
現時点で考える限りでは分からない事ばかりであることは事実。ならば―――
「まずは、彼――志羽辰也が司波達也のクローンであるか否か。その真偽を明確にする必要があります」
もしこの事実が世に出たならば、間違いなく四葉家の名は落ちるだろう。戦略級魔法師のクローンなどと……四葉家の危機管理能力が足りないと批判される――だけで済むならどんなにいいか。
その程度で収まるわけが無い。
秘密裏のもと、細心の注意を払いながら志羽辰也の調査に乗り出すという選択しかなかった。
――――彼女らは知りもしないだろう。
志羽辰也は、“司波達也と激似なだけの、ただの他人”であり。ただの一般魔法師である志羽辰也に"裏"などあるはずもないと。
だが、一向に情報が出てこない状況にますます“志羽辰也”という存在を危険視する四葉家であった。
◇
「申し遅れました、私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます」
俺たちを見て、戸惑ったようだったがそれも一瞬のことで柔らかな微笑みを浮かべた彼女は、自己紹介をする。
七草というと、あの十師族の!
まさか十師族の人に会えるなんて。やっぱりここは凄い学校なんだなぁ。
「……自分は司波達也といいます」
そんな呑気なことを考えていた辰也と反面、司波は顔を顰めそうになった心境にあった。
「司波達也くん……そう、あなたが、あの
何か意味を含んだ言動をした七草さんは、そう微笑む。
その微笑みは、一般の感覚で言うとまさに"女神の微笑み"と言っても過言ではないぐらいだ。
この微笑みに、やられない男なんているのかと疑うほどに。
「……」
――いや、いるな。目の前に。
司波に目を向けると、表情こそ平常のそれだが、それがかえって何とも思わない的な雰囲気を強調しているように見えた。
「……それにしても、貴方たちは――」
双子、なのかしら? とでも言いたげに俺と司波を交互に目を向ける七草さん。
「いや。不思議なことに俺と司波は双子ではないんですよ。それどころか、親戚でもなく赤の他人なんです」
「まあ、そうだったの……本当に、不思議なこともあるのね」
「ええ、本当に不思議なものですよ。一瞬ドッペルゲンガーかと思うぐらいですし」
司波から妙な視線を感じる中、ははは、と俺は軽く笑う。
「……本当に、不思議だわ」
ぼそっと、七草さんがそうつぶやいたのを俺は聞き逃したのだった。
◇
Side 達也
その後、“そろそろ始まる時間だ”と教わってもらい、辰也と俺は講堂の中へと入る。
時間も時間だからか、講堂の中にある席は半分以上埋まっていた。
とりあえず、空いている席に座ることにする。
「おおーっ、これが入学式かぁ」
「……」
講堂の中を目にして、興奮気味になっている辰也と反面達也は。
――――なぜ、この男はさも当然のように俺の隣に座る?
俺と辰也の容姿は瓜二つ。そんな二人が連なって席に座りでもしたら、嫌でも注目を集めてしまう。
……目立たせるのが目的なのか? いや、それにしては辰也の様子を見るとそんな意図はないようにも見える。
何が目的なんだ。やはり誰かがこの男を仕向けたのか?
実際のところ何も考えていない辰也に、頭を悩ませる達也であった。
――惑わされるな。辰也を視界に入らないようにしなければ。
精神の鎮静化を狙った意味でも俺は目を閉じる。
それから辰也が立てる小さな音を耳にしながらも数分ほど経った頃。
「あ、あの……隣、空いてますか?」
そう声をかけられて、そちらの方に顔を向ける。
声をかけた少女は、俺の隣に座りたいようで、そう言っているようだった。
「どうぞ」
愛想よく、そう返事する。
ありがとうございます、とそう頭を下げて、腰を掛ける少女――に続いて三人の少女も腰を掛ける。
どうやら四人一緒に座れる場所を探していたらしい。
友人――なのだろうか、と推測することはできるが、あいにく隣の志羽が気に掛かってしまいとても推測どころではないな、と心底苦笑を浮かべる達也であった。
「あの……」
すると、隣に座った少女の方から話しかけられる。
俺と隣にいる志羽に目を交わりながら言葉を継ごうとしている様子を見て、この先の展開が何となく読めてきた。
「私、柴田美月と申します。よろしくお願いします」
「……司波達也です、よろしくお願いします」
そう、互いに自己紹介する。この世、度が入っていない眼鏡をかける理由はおのずと限られる。そういった事に考察を深めている達也に。
「――あたしは千葉エリカ。よろしくね、司波くん」
「こちらこそ」
美月の向こう側に座った彼女とも自己紹介をした。そして話はそこで終わるはずだったが――
「……あ、あのそちらの方は……」
美月は、俺の隣に座っているであろう男を見て何かを言いたげにしている。
どうにも、辰也のことが気にかかっているらしい。エリカの方も気になっていたそうで美月に同意する形で頷く様子が見られた。それも当然か……とため息を吐きたくなってくる。
「……志羽」
「ん、どした?」
講堂のステージに目を向けていた辰也は、俺の声を聞いてこちらに振り返る。
相変わらずの瓜二つさに、とても落ち着いてはいられない気分になってくるが、自制する。
俺の隣に座っている少女……美月に目を向けた辰也は、この状況に気づいたのか体ごと美月に向ける。
「俺は志羽辰也と言うんだ、よろしくなー」
「あっ、柴田美月と申します。よろしく、お願い……します……?」
言葉を綴る途中で、疑問を持ったのか首を傾げる美月。
何に疑問をもったのかというと、それは当然名前の読みに関することだろう。
「ああ……俺も驚いたんだが、漢字こそ違うが名前の読み方は同じなんだよ、こいつと俺」
「そ、そうなんですか?」
美月は、困惑とした様子でそう返事をした。
「じゃあ、漢字は違うけど名前の読みは同じって感じ? なんだか複雑そうな家庭ね……」
ち、ちょっとエリカっ……と美月がエリカをなだめる。どうやら彼女は物怖じしない性格のようだ。
「複雑な家庭……?」
エリカのその言葉に疑問を持った辰也。
「……ああ」
そして、何かがズレていると理解したらしい辰也は、改めてエリカの方に向かって。
「誤解しているみたいだが――コイツと俺、双子じゃないから」
「……?」
どういうこと? と言いたげに首を傾げるエリカ。そして美月もまた同じような様子であった。
「顔がそっくりなだけの赤の他人」
「――……え、ええっ? 噓でしょ?」
エリカは、大きな声を上げなかったみたいだが、それだけ衝撃なことだったのだろう。
「と、とてもそうは見えません……」
美月もまた、困惑とした様子でそう口にする。自分もコレには衝撃を受けたものだ。
「最初こそドッペルゲンガーか何かと思ったんだよなぁ」
「ドッペルゲンガーて……まぁ無理はない、のかなぁ? ホントに双子じゃないの? どう見ても双子しか思えないぐらいにそっくりなんだけど」
「うん、まぁ……どっかの親戚なんじゃないかなってぐらいにそっくりなんだけど。少なくとも司波とは赤の他人だ」
――そう、赤の他人。辰也とは赤の他人なはずなのだ。
偶然似ているというレベルだけならばここまで警戒する必要はなかったかもしれない。だが――辰也の異常ならざる類似度には頭を悩ませざるを得ない。
表面的から読み取れる情報のほとんどが俺と同じ。違う点と言えば、自分と違って明るい性格をしているようでエリカと同じく物怖じしない性格であるらしいという事。
「あっ、そういえば自己紹介してなかったな。志羽辰也だ、よろしく」
「千葉エリカよ、よろしくね。志羽くん……これじゃどっちを呼んでいるのか分かりづらいわね」
「あー……そうだなぁ、どうしようか……」
呼び方問題に頭を悩ませている様子の辰也。
辰也を見ていると……感情がある自分はこのような感じだったのではないか、と妙な考察が思い浮かんでしまい――あまりいい気分ではないのは事実であった。
◇
この場にいる新入生の視線がステージの方に固定される。
今から始まるのは、主席である深雪の答辞。達也にとっては、愛する妹の晴れ舞台と言っても過言ではないこの瞬間である。
――深雪が、ステージ上に立つ。
凛とした振る舞いを感じさせられる彼女は、感情がほぼなくなった達也を以ても、感銘を抱かせるほどのものであった。彼女を妹に持つ達也でさえ、感銘を抱くほどの彼女。ならば兄でも何でもない男子ならば――言うまでもないだろう。
「……」
そして、達也は深雪がステージに上っている途中の、僅かな間――辰也の方に目を配らせた。もちろん、自分と瓜二つである辰也の様子はどうなのかが気に掛かるため。これが何でもない男子なら気に留める必要はないが――辰也は例外なのだ。
「おー……」
辰也の様子はというと、他の男子と同じように深雪の美貌さにほれ込んだように感銘めいた声を上げる様子が見られた。
……似たような反応、か。
とりわけ特殊な反応をしているというわけではない様子の辰也を見て達也はそんな事を考えていた。しかし、特殊な反応が見られなかったからといって、警戒を解くほど楽観視などしない。
――深雪が、講堂中をゆっくりと見渡している中。俺を見つけたらしい深雪は微笑みを浮かべる。
「――――ッ」
その次の瞬間、先ほどとは打って変わって驚愕めいた表情をする深雪。
……言わずもがな、辰也を目にしたからだろう。
今、この瞬間だけは……深雪の気持ちが手に取るように分かってしまうため、達也は本当に心底ため息を吐きそうになった。