『・・・お伝えしています通り、先ごろ鈴木財閥へ怪盗キッドからの予告状が届いた事が判明しました。今週末12月21日より、大阪にあります鈴木近代美術館において開催される・・・』
冠城がグアムに旅立つため休暇を取ってからしばらくした頃。
世間は、『月下の奇術師』と呼ばれる怪盗キッドの犯行予告に盛り上がっていた。
(怪盗キッドですか・・・これはコナン君が動いている事でしょうねぇ)
テレビの中で怪盗キッドの今回の標的についてアナウンサーが解説をしているのを眺めながら、杉下はキッドキラーとして一部で知られ始めているコナンの顔を思い浮かべていた。
「おはようございます」
突然杉下の元に珍しい来訪者がやってきた。
「おや、陣川君。おはようございます」
陣川公平。現・警視庁捜査二課の刑事であり、通称『特命係・第三の男』である。
一度、特命係に短期間所属していた経緯から杉下とも親しい間柄となっている。
「あれ、冠城先輩は?」
「あぁ、冠城君なら今は家族水入らずで長期休暇中です」
「そうでしたか・・・」
ちなみに、冠城は陣川目線だと本来後輩であるが、それは・・・それはそれは紆余曲折があり謎の先輩呼びが定着している。
「今日はどうされたんです?」
「いやぁ実は」
そう言って陣川は顔を引き締めると、杉下に向き直って頭を下げた。
「杉下さんに、紹介したい女性がいまして・・・っ」
この時、『あぁ・・・また悪い癖か・・・』と思った杉下を責められる者は警視庁内に誰もいなかった。
***
その晩。小料理屋『こてまり』。
杉下と共に夕食を共にする陣川の横に、一人の女性がいた。
「初めまして、私香坂夏美と申します」
「杉下です。その、陣川君とはどういう」
「以前パリで菓子職人をしておりまして、その頃に初めてお会いしまして」
「あ、あはは、実はスコットランドヤードの研修中、偶然パリに行く機会がありまして・・・」
「それから帰国して、横須賀でケーキ屋で働くようになってからは良くお店に来て頂けて」
「・・・陣川君?」
陣川の相変わらずな様子にジト目を向ける杉下。
「あ、あはは・・・そ、それでですね!!夏美さんとお話している中で、少し杉下さんにご相談したい事が」
「ほう。僕にですか」
「ええ。えっと、夏美さん」
「はい、実は・・・」
そう言って夏美は、近くにかけていた鞄からクリアファイルを取り出す。
その中から古びた図面を取り出し、杉下に見せる。
「今、怪盗キッドが狙っているとされる『インペリアル・イースター・エッグ』の51番目、『メモリーズ・エッグ』の写真が、曾祖父が残した絵と違っているんです」
「・・・はい?」
突然の話に困惑する杉下。
「私の曾祖父は喜市と言いまして・・・」
***
そもそも『インペリアル・イースター・エッグ』とはロシアの金細工師ファベルジェにより製作された、ロシア皇帝による皇后への復活祭の贈り物として作られた宝飾品の事である。
今回キッドが狙っているものとは、先月鈴木財閥の蔵から発見されたエッグ、それもこれまで存在が知られる事のなかった51個目のエッグであった。
夏美は、自身の曾祖父である喜市がファベルジェの工房で細工師職人として働いていた事や、革命の翌年に日本へ渡り、ロシア人の妻――つまり夏美の曾祖母――との間に女の赤ちゃん、夏美の祖母をもうけた事。
そして祖父と両親が事故で亡くなり祖母に育てられたが、その祖母の死去により帰国。
帰国後、横須賀で働きながら遺品を整理していた時に真ん中が破れた図面が出てきた事を杉下に説明した。
「しかし、今回怪盗キッドが狙っていると分かり報道された写真のエッグとは、見た目が違っていまして・・・」
杉下はスマホで、報道されている『メモリーズ・エッグ』の写真を呼び出し、夏美の図面と比べてみる。
すると確かに、図面には沢山の特徴的な宝石が散りばめられているにも関わらず、鈴木財閥のエッグにはそれらの宝石が見受けられなかった。
「・・・図面の下部に『MEMORIES』とありますねぇ。確かに、これは鈴木財閥の『メモリーズ・エッグ』の図面なようです」
「これが一体何を指すのか・・・本当に鈴木財閥が持つエッグが曾祖父の作品ならば一度見てみたい。しかし全く別物ならば、また話が変わってきてしまいます」
「キッドが狙っているなら同じ二課の中森警部に、と思ったのですが・・・生憎、既に大阪へ先行してキッド対策で出られまして。それで、一度杉下さんの意見を聞いてみてはどうだろうと思い至りまして夏美さんに紹介したんです」
陣川が持ち込んだ思いがけない謎。
杉下が図面を見ながら考えにふけっていると、女将の小出茉梨、通称こてまりが料理皿を手に間に入ってきた。
「はい、こちら煮付けです。それにしても、なんだかロマンのある話ですねえ」
「おや、こてまりさんはこういう事に興味がおありですか」
「興味という程ではないですけど、何だか歴史に迫るって感じじゃありません?」
陽気にはしゃぐこてまりの姿に、重くなりかけた空気が弛緩する。
「んーでもそれ、何か凄く違和感があるんですよねぇ」
と、こてまりが図面を指して指摘し出した。
「違和感、ですか?」
「えぇ。何か、バランスが悪いというか何というか。凄く違和感があって」
こてまりの言葉に何か思い至った杉下は改めて破れて二つに分かれた図面を見る。
「・・・もしかすると、このエッグは二つ存在するのかもしれません」
「ど、どういう事です?」
突然の杉下の推理に動揺する夏美と陣川。
そんな二人に杉下は改めて図面を見せる。
「良く見てください。もしこの図面が一つのエッグを描いた一枚だとすると、おかしな事があるんです」
その言葉に図面を注意深く見る二人。
「・・・あっ!輪郭があわない!」
そこで陣川が違和感に気づいた。
「えぇ。比べてみると、微妙にエッグの輪郭がずれているんです。恐らく本来は二つのエッグが描かれていたが、間の部分が何らかの理由で無くなってしまったのではないでしょうか」
「そ、そうなると、今回の鈴木財閥のエッグは」
「えぇ。何かまだ謎がありそうですねぇ。それにキッドの事もあります」
「というと?」
「そもそも、これまで怪盗キッドが狙って来たものの殆どは『ビッグジュエル』と呼ばれる特別な宝石でした。しかし今回はそれとは全く関係のないエッグ・・・不思議ですねぇ。一体何故、キッドはエッグを狙っているのでしょうか」
報道が出てからずっと興味が湧いていた疑問に動きが出てきた。
杉下は、本格的に関わろうと決める。
「夏美さん、陣川君。よければ週末の予告日にエッグを見に大阪へ行きませんか」
「え、エッグを?」
「ええ。この謎を解くには、一度エッグを調べてみるのが良いと思うのです。いかがでしょう」
「・・・えぇ!勿論、私は構いません。午後からになりますが、執事と共にご一緒させてください」
杉下の提案に快諾する夏美。
しかし、同じく快諾すると思っていた陣川は悔し気に顔を歪ませていた。
「・・・すみません。ちょうど明日からどうしても外せない出張がありまして・・・」
「おや、そうでしたか。残念ですねぇ」
「すみません夏美さん。ご一緒できませんが、杉下さんなら心配ありません。貴女の憂いが解決することを願っています。杉下さん・・・夏美さんをよろしくお願いしますっ」
そういって杉下に陣川は再び頭を下げる。
どんな仕事があっても、惚れた女性の事なら絶対優先しそうだと思っていた陣川の言葉に、成長が見えて嬉しいような、寂しいような、『でも本当に大丈夫なんだろうか。何か嫌な予感がする』と逆に心配な気持ちも芽生える複雑な杉下であった。
だが、違う意味で嫌な予感が的中するとは流石の杉下も思い至らなかった。
というわけで『アイツ』とは、我らが陣川君でした~。
やはり服部と思っていらっしゃった方が何名かいらっしゃいました。
服部はもうしばらくお待ちください(´^ω^`)
ずっと杉下を今回の事件に関わらせるきっかけに悩んでいたのですが、ふと陣川君の過去回を見た時に「これは使えるぞっ・・・!!」となりまして。
この世界ではちょっと大人になった陣川君にしましたがいかがでしょうか。
そしてこてまりも初登場。
今後もちょくちょく出していきたいなぁと思ってます。
次回「魔術師」編、第3回。
9/22更新予定です。
お楽しみに。
皆様いつもありがとうございます。
感想お待ちしております。
餌屋TwitterID @esaya_syosetu