突然だが、現在高2の私、
ええ、私の趣味趣向にどストライクですが、なにか。
それでなくとも、優乃とは十年以上の、お隣さん同士としての思い出がたくさんある。物心付いた頃にはガッツリ惚れ込んでいたし、毎日会いに行っては遊んだりお喋りしたりした。クラスメートになってもならなくても、登下校はいつも一緒、お弁当の日はいつもお昼を一緒していた。互いの両親が忙しい時期には、朝食や晩御飯も一緒にしていたことがよくあった。家族ぐるみで長期旅行にでかけたことだって何度もある。
「……なのに、他の女を彼女にするなんて……ぐっすん」
「そりゃあ、あんだけしつこくつきまとってたら嫌われもするだろ」
「つきまとってなんかいないよ! いつも一緒にいたかっただけだよ!」
「付き合ってるならそれでもいいんだけどな」
そうなのだ。これまでずっと一緒に過ごしていたのに、私と優乃は彼女彼氏として付き合っていたわけではない。少なくとも、表向きは。私としては、好き好きオーラをこれでもかとぶつけていたけど、直接的な告白を優乃にした記憶はないし、私もされた記憶がない。他の男子には何度かされたことはあるけど。
「おめーも、その凶悪なボディのせいで男共に人気があるんだから、振られた幼馴染のことなんか忘れて、とっかえひっかえすればいいだろうが」
「振られてないよ! ただ、私なんかとても敵わないほどの美少女が優乃の部屋にいたのが見えたってだけだよ! あと、私をビッチに堕とそうとするのやめて」
顔は我ながら普通に女の子っぽいと自負しているが、体がなぜだかどこぞのお色気女優が持ち合わせているようなパーツで構成されている。困るのよ、服によっては超絶太って見えるし、そう見えないよう工夫すると体のラインがわかりやすくなったり露出が多くなったり。コンプレックスはないけど、このせいで、優乃と一緒にプールに行ったりお風呂に入ったりすることを拒否されることが何度もあった。あれはとても、とても悲しかった。
「おい、風呂の話が何歳頃かによっては小一時間問い詰めるぞ」
「え、声に出てた? やだなあ、さすがにお風呂は中学までだよ」
「よーし、二時間ほど説教してやる」
「なんで!?」
先ほどから私をこれでもかといじめ抜いているのは、クラスメートで高校からの友達である
「説教の前に、その思考ダダ漏れしがちな口を縫い付けてやる! そのまま唇を閉じろ!」
「いやー、るーちゃんこわーい」
「オレにその気の抜けた呼び名はやめろっつってんだろ!」
なお、
「……はっ、もしかして、優乃の部屋にいたのは」
「んなわけあるかよ。昨日は中原のやつが用事で早く下校したからってオレに泣きついて、帰りにたこ焼き食いながら帰ったじゃねえか」
「たこ焼きよりもクレープの方が良かったのになあ。るーちゃんがはむはむするの見たかった。あ、たこ焼きをはふはふする姿もキュートだったよ」
「もうおめーとはぜってー一緒に下校しねえ」
「なんでえ!?」
それはともかく……優乃の部屋にいたのがるーちゃんじゃないとすると、一体誰だったんだろう。隣の家の私の部屋から見かけた途端、すぐに部屋から出ていったから、容姿の細部までは覚えていない。ただ、小柄な背格好で栗色の長い髪だったことと、フリフリなロリータ服だったのはよく覚えている。あんな感じの雰囲気を出せる知り合いはるーちゃんしかいないんだけど。中身はともかく。
「なぐりてー。マジでなぐりてー」
「針山に拳を向けるのはあぶないよ、るーちゃん」
「こらえろ、オレ、こらえろ……ふう。あー、でも、なるほど、そういう見た目かー」
「るーちゃん、その娘の心当たりがあるの!?」
「いや……普通はすぐに思いつくだろうが。それって、女装した中原なんじゃねえの? 理由は知らんが」
「……はっ! そうか! そうよね! あんな可愛らしい娘が女なわけないじゃない!」
「つっこまないぞー、オレは常識人だからなー」
そうとわかれば、すぐにでも確認しなきゃ!
◇
どたたたたたたた
ばんっ
「優乃!」
「わあああああっ!? って、瑞希ちゃん!? なんで!?」
「なんでって、断りもなく優乃の部屋に押し入るのはいつものことじゃない」
「開き直らないでよ……い、いやその、これは」
「現場を押さえたよ! さあ、そんな可愛らしくて抱きしめたくなるような格好を、なぜ私に無断でしているのかすぐに吐きなさい!」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ! あと、瑞希ちゃんに無断ってなに!?」
今日も優乃が先に帰宅していることを知った私は急いで家に戻り、自分の部屋から昨日と同じ娘が優乃の部屋にいることをそっと確認した私は、こうして堂々と優乃の部屋に突撃した次第である。回想終わり。
「よかったー。女じゃなくて男と付き合うための前フリとかじゃなくて」
「違うよ! 僕が付き合いたいのは瑞希ちゃんだけだから!」
「えっ」
「あっ」
わああああああああっ!!!!
やったー! 私と優乃、両想い、確☆定!!
「嬉しいいいいい!! 私も、私も優乃が大好きだよ!」
がばっ
「わわっ、瑞希ちゃん!? 急に抱きつかないで!! っていうか、いたいいたいいたい」
「これで私達、彼氏彼女だね! お付き合いしてるんだよね! 結婚まで秒読みだよね!」
「いたいいたいいたい……」
がくっ
「あれ? 優乃? 優乃!? いやああああ! 私を置いて死なないでー!」
「力をゆるめてくれたら死なないよ……」
◇
一時間後。
「ねえねえ、その服どこで買ったの? とってもよく似合ってるよ! 私が予備を何着か買ってあげようか?」
「いや、それよりも……自分で着ておいてなんだけど、なぜこんな格好しているか、疑問に思わないの?」
「超絶似合うんだからどうでもいいよ。あ! 結婚式は優乃も私もウェディングドレスにしない? 神様も参列者も喜んでくれるよ!」
「はあ……僕、なんで瑞希ちゃんが好きなんだろう……」
「え? 急に哲学の話?」
そりゃあ、真理に疑問を抱いて思考を深めるのは、人類の発展のために必要なことかもしれないけど。
「えっと、もう僕から言うね。こんな格好をしているのは、瑞希ちゃんに襲……喜んでもらうためじゃなくて、……動画配信者になるためなんだ」
「動画配信者? あ、Vtuberになるの? あれ、でも、それなら服装は関係ないよね? んー?」
「だから、アバターとか作らず、この格好で実写配信するんだよ」
「えっ、それって、つまり……」
「うん、そう。こないだ街を歩いていたら、ネット系の芸能事務所の人に声をかけられて……」
「つまり、こんな可愛い優乃を、私が独り占めできないってこと!?」
「……ウン、ソウダヨ……。えっと、それで、僕も配信には関心があって、そのままその人と話をしていて……女装して配信することにしたんだ」
なるほど、ずいぶんと審美眼が鋭い人に捕まったみたいね。
「……ずっと、悩んでいたんだ。僕の取り柄ってなんだろうって。勉強も運動も普通だし、何か楽器ができるとか歌が上手いとかインス◯映えする写真が撮れるとか、そういうの全くなくって。だから、将来が不安になっちゃって……」
「え? 優乃は私が養うんだから不安なんてないじゃない。私これでも、勉強も運動もバッチリだし、ピアノ得意で絵もそこそこ描けるし、家事も一通りできるんだよ? あ、最近流行りのビデオゲームも一通りクリアしたよ!」
「だからだよ……。ねえ、それって、僕は瑞希ちゃんと一緒にいて何ができるの? ただ、横に座ってるだけ?」
「優乃……」
「まあ、瑞希ちゃんはそれでもいいって言うかもしれないけど、でも、僕は……」
がばっ
「うわっ! 瑞希ちゃん、また……!?」
「嬉しい、嬉しいよ、優乃! 私達の将来のこと、そんなに真剣に考えてくれてたんだね! 優乃ー!」
「いたいいたいいたい……」
◇
1時間半後。
「えっと……それで、まずは僕自身でPVを作ることになったんだけど……」
「なるほど、私は公開されるまで全裸待機していればいいのね」
「服は着てね。あと、収録中に乱入するのもなしね」
「ちぇっ」
「しようとしてたの!?」
まあ、さすがに無理だとは思ってたけど。もう優乃の御両親が家にいるからね。
「僕ができることは雑談だけだから……ああ、プロフィール設定はこんな感じ」
「プロフィール? それって普通、Vtuberが仮想的な存在として設定するものなんじゃないの?」
「……この格好自体がアバター相当だとかって、マネージャーさんが」
「実質的なVtuberじゃないの……えっと、どれどれ」
・魔法の世界からやってきた、とっても魅力的な女の子
・不思議なトークと笑顔で、現世社会に愛と希望をふりまくの
「JA◯◯ACにどれだけお金つぎ込んだのかしら?」
「え、瑞希ちゃん、元ネタ知ってるの?」
「まあね。でも、これが極めつけよねえ」
・小学校在籍、4年生
「うーん、マネージャーさんとは、いいスポーツドリンクが飲めそうね」
「あの……それだけ?」
「ああ、もちろん、おそらくは女性のマネージャーさんには、ぶっとい釘を打ち込んでおくつもりよ。優乃は私の全てなのよって」
「ねえ、僕の女装が10歳前後に見えるってことには何もコメントがないの!?」
「やあねえ、女装しなくても可愛いじゃない」
「いまさらだけど、瑞希ちゃんの趣味趣向って……」
私は優乃のためなら、全てをなげうってでも社会正義に挑戦する所存である。それが、私の公約、私のレゾンデートル。
「で、雑談内容としては、僕の身の回りで起きたことを、小学生の経験のように置き換えてってことなんだけど……正直言うと、よくわからないんだ」
「むっ、マネージャーさんもまだまだね。やはり私が主体になってプロデュースせねば」
「どういう意味?」
「優乃の身の回りで起きたことをそのまま話せばいいって意味よ」
「本当に、どういう意味!?」
「優乃の身の回りの出来事のエキスパートは、他ならぬ私だから!」
「そうじゃなくてー、そうじゃなくてー」
よーし、早速PV用の台本を書かなくちゃね! プロフィール紹介はあんな感じでー、最初の雑談テーマはあの出来事をチョイスしてー。うーん、優乃の魅力が世界を席巻するね!
◇
1か月後。
優乃の配信はPV投下を皮切りに好調に次ぐ好調。収益化のための条件は瞬殺でクリアし、週に1度の実況配信と数回の動画投稿だけで、大手配信者と肩を並べるほどの有名人となった。
「中原のやつすげーなー。グッズの売上だけでそこらの配信者を超えてるんじゃねえの?」
「こないだ、マネージャーさんと社長が菓子折り持って訪ねてきたよ。これからも末永くよろしくって」
「瑞希ちゃんにだけどね……」
今日も学校で、優乃とるーちゃんとの三人で、至福のお昼時間を堪能する。これも両手に花って言うのかな?
「違うの! 本命は優乃だけよ! るーちゃんは、ほら、枯れ木も山の賑わいっていうか」
「おー、ついに口からダダ漏れていることを自覚したのか。えらいえらい」
「小坂さん、それでいいの……?」
「いやあ、オレは小学生として可愛がられる性癖はないしなあ」
「僕だって性癖じゃないよ!?」
そうよ、優乃のそれはそんなんじゃなくて、この世の
「でもまあ、瑞希のプロデュースっていうか、台本か? よくできてるのは確かだな」
「でしょでしょ! 優乃の魅力を余すことなく!」
「こないだの小テスト、解答欄をひとつずつ間違えたってマジか。定番中の定番じゃねえか」
「答案返却の時に泣き出しそうな顔になって、臨時職員会議で合格点にしてもらったこともセットだよ!」
「やめて……やめて……」
実のところ、優乃の本質はドジっ子属性である。マネージャーさんは、初めてあった時にそれが見抜けなかったようだ。容姿と雰囲気だけでイケると思ったところは評価したいが、まだまだ私の足元にも及ばなかったわけだ。
「ドジっ子か。確かに、瑞希と幼馴染になっちまったってのが最初で最大のドジだな」
「ホントだよ……」
「いやー、るーちゃんもいきなり褒めないでよー。優乃も私の前でそんなに
「「はあ……」」
よし、次の配信では、いよいよ私との馴れ初めに触れていくべきね! 女の子同士になっちゃうけど、その方が炎上しないだろうし。そうなれば、ゆくゆくは私と優乃のコラボが実現するかも……!
「炎上もなにも、水原は本名でやってるから、男だってことバレバレじゃねえか」
「クラスメート経由ですぐに暴露されちゃったよね……。あと、瑞希ちゃんが台本書いてるのも事務所の公式サイトで普通に公開されてるし」
「だな。ほら、これ、瑞希の手書き台本がネットオークションで高値つけてるぜ」
よーし、今日もノートいっぱいに優乃の魅力を書きまくるぞー! あ、フリフリのデフォルメ優乃も一緒にね。私、絵もそこそこ描けるから!
あとでタグとして『狂気』を入れるかも。なんだよこの主人公(筆者談)。