久々のあのお方&ルキアの独自解釈及び過去描写の捏造設定注意…
「……まさか、またここに来ることになるとはな」
懐かしいというには物々しいようなその場所で、朽木ルキアは思わず呟いた。
葉や枝、房の一つ一つに至るまで凍結され、さらにしんしんと降る雪。凍えた針葉樹の森のその奥に、城はあった。氷にしては反射度合いが高い、クリスタルのような
「相も変わらず、か。…………
苦笑しながら歩を進めそして、城の中心にあるそれを彼女は見た。
あの時から────志波海燕を手にかけたあの時から、とてもとても慣れ親しんだ、氷の断頭台。あまりにも巨大すぎて現実感を失うくらい、の大きさのそれは、ふと首を差し出せば簡単に自らの魂魄の命を断てるだろう。
そう何度も確信しそう何度も手をかけて。
だからこそ、そんなルキアを止める声がここには存在した。
『────なりませぬよ、ルキア様。それで気が晴れるならと思いたくもありますが……、意味などないことは
嗚呼、だから。
ルキアが触れた個所から瞬時に凍結し
まるでルキア自身の身体が触れるものすべてを凍らせるような。そんな凍てつく波動でも放っていそうなように、ごくごくあっさりと、簡単に粉々に砕け消え失せた。
その様に苦笑いしながら、ルキアは背を向く。
「息災で安心したというべきか、相変わらず
『どちらでも。私を
よしなに、と。そう話し、思いつめた表情の彼女は一護の内在世界で見た時とやや趣が異なる。白い衣装は変わらないが、その上から羽織物。天女の羽衣を思わせる、爛々と輝く足元の柄と対照的に、顔にかかるベールの白さは濃く、その彼女の表情を絶妙に隠す。ただ口元と、わずかにゆらめく視線がその感情を物語っていた。
すなわち
自分の胸に抱える押しつぶされかねない罪悪感とを、正しく受け止めた表情。
……だったのだが、数言かわすうちに表情が一変する。
『貴女も変わりないようで……と言いたいですが何です!? 嫁入り前の生娘がそのような、はしたない恰好を!!? 胸元もおへそも肩も丸見えではありませぬかッ!』
ぬなぁ!? と、変な声を上げてしまう朽木ルキア。
この内在世界における彼女の衣装は、この
「ひ、人が気にしていることを……! 大体これは私の趣味ではないわ、たわけ!」
『いいえ、あの黒崎一護相手におへそ丸見え衣装を着用していたのをこの目で見ております、言い逃れは出来ませぬよ! 全くはしたない……! 言うほど違和感もないでしょう、おへそについては嗚呼はしたない、はしたない!
これが私のルキア様だと思うと頭が痛くなってまいりますっ! 意中の殿方に捧げる前にそう身体を安売りするべきではありませぬとも! 学園のスカートについては仕方ないとはいえ、あれで跳び蹴りして黒崎一護に中身を見せているのは正気ですかッ!』
「が、がが、ガキ相手に意識するものではないわーッ!? というか腹の一つ程度恋次相手に昔────」
『ええいもう我慢なりません、
「何を訳の分からぬことを言っておるか!?」
袖をまくり肩をぐるぐる回して何やら気合を入れる袖白雪に、ルキアもまた何故かちょっと頬を赤くしながら股のあたりを抑えていたのはご愛敬。意識するようなことではないが、それはそうとして自らの半身ともいえる彼女から指摘される羞恥心を覚えるらしい。
閑話休題。
「其方、何というか……前より面白くなっておらぬか? 袖白雪」
『そういうルキア様も現世でセンスが磨かれたかと』
ぜえぜえとお互い肩で息をして、疲れたのかその辺に生えていた(?)に座る。ディティールがやや現世の公園のような直覚的なシルエットになっているのは、昨今のルキアの経験値が反映されているのだろうか。
と、どうしてかきょろきょろと周囲を見回す袖白雪に「どうした」と声をかけるルキア。
『いえ、不可思議と言えば不可思議というか……。
「いや待て貴様、今何を口走った」
『あっ』
あっ、と思わず目を見開き両手で口元を抑える袖白雪。
「口をつぐんだからとて誤魔化せる範囲を超えていえるぞ? む?
『えっ、えっ、あ、あの、えっと────』
「──そこに直れ、何を都殿から泥棒猫をしておるか貴様ァーッ!?」
『してませんよ、人聞きの悪い!?』
ならば何故口ごもった! と叫ぶルキア。面食らったのも無理はない。ひくひくと口の端を引きつらせながら自らの斬魄刀に正座と反省を促す彼女であるが、袖白雪も袖白雪の事情で首を縦に振らない。ええいまだるっこしいと軽い追いかけっこになるところであるが、結局お互いが疲れて動かなくなりその場で終了した。
「ま……、全く、何を頑固になっておるのだ其方」
『頑固も何もありませぬが!? いえ、そもそもその言いぶりからして────』
「
『…………』
「多くは問わぬ。というよりも、問える立場にはない。だから一護には黙ることしか私には出来ぬ。だが、だからといってそうも脇の甘いことを言われては……、な」
大体妻云々は妄言にしても一線を超えておるだろう貴様、と。
その声はわずかに熱を孕んだもったそれであり……、後悔の響きを伴ったものであり。
ちらりと、共に背を地面に預け倒れる朽木ルキアの姿を見る袖白雪。悔恨に刺殺されたような、希望の一つもともっていないその目を。
その確信がおそらく間違いであると、先ほどのルキアの言葉から確信している袖白雪ではあるが。だからといってその真実が、むしろ朽木ルキアの心象を一切救わないことを理解している。いうなれば彼女の確信とは、絶望の中にある一つの希望の光なのだ。
その希望すら勘違いであり、もはや不可逆に朽木ルキアが自らの手で志波海燕を世界から失わせてしまったと。その事実を突きつけることなんと、人の心のないことか。
ゆえにこそ、彼女が夫と
憮然とした表情になっていたのだろう、ルキアから「どうしたのだ?」と問われ、袖白雪は「何でもありません」とため息一つ。どちらにせよのこの状況において、ルキアが悪い点は一つもないと彼女だけは言ってやりたかった。しいて言えば裏側で何かしら全部仕込んでいただろうあのアルトゥロという男と…………、そもそも自分が黒崎一護の内在世界にとらわれる直因を作った浦原喜助という悪い男。
いずれ機会があれば凍結してやろうと決意を新たに、袖白雪はルキアに確認する。
『それで? 何故あなたの内在世界が再構成されているのです? てっきり私も
……それとも、あなたの腰に下がるそれのせいでしょうか。常に意識があるわけでもありませんでしたし』
「…………だろうな。私も驚いている」
言いながら朽木ルキアが取り出した、金の、鎖が二つ連なったような形をした鍔の刀。本来のルキアが持っていた始解前の袖白雪のそれとも異なる鍔の刃は、有体に言えば斬魄刀のそれで。
「
『…………』
「嗚呼そうだな、
『いえ何でも』
少し苦い思い出があるだけです、と。つんと袖白雪は顔をそむけた。
そうなのか? とよくわかっていないルキアに対して、袖白雪は自らの身体を抱きつつ、続けて問う。
『それが斬魄刀の役割を果たして、結果として貴女の内在世界が再構成されているというのは理解いたしました。子雪が居ないのが少々気がかりですが……
「……考えては、いないだろうな。嗚呼、ああも意味深なことを続けられれば、私とて思うところは有るが」
それでも知らねばならぬのだ、と。朽木ルキアは袖白雪の目を見据える。
「あの男が一護と私の何をどう知っているのかもわからぬが……、きっとそれを知らずして、私と一護は、一つも前に進めぬ。私と一護の間に、真に
『…………』
「もとより一護を庇うためにここに来たのもある。せっかくだ、その真相とやらを拝んでから、あやつらの元へと帰ろうではないか」
それに、と。首元にぶら下がる宝珠を握り、ルキアは肩をすくめた。
「ここにこれたということは、ようやくこれを使えるということだからな」
『……これ、とは?』
ああ、と。ルキアはつい先日のこと、斬魄刀のようなそれを手渡された時のことを思い出す────同時に説明された、最初から自らの首にかけられた、その宝珠のことを。
『部下の配下にあたるシャルロッテ・クールホーンに無理を言って仕立ててもらった君のその衣装。開いた胸元の魄睡から直接、君の霊圧を吸って馴染むように調節させてもらった』
『……何だというのだ、これは』
『名を────
何を男が言っているのか、ルキアにその意味が分からない。零番隊がどうのこうのという諸条件は、特殊な事例を除き隊長クラスでもなければ公表されてもいない。ゆえにこそ彼の言葉の真意を測りかねているルキアに、アルトゥロを名乗る鳥の骨のような仮面の男の声は、やはり
『今から二百年程度前かな? 三界を超え、地獄を超え、
もっとも
『何、を?』
南流魂街七十八地区に流れ着く前、君は一体どこに居たのかな────?
アルトゥロを名乗る男の、その言葉に。朽木ルキアの脳裏に、電流のようにフラッシュバックが走る。
闇が吹き荒れる荒野。こことは異なる色のついた砂。その奥にある建物に居た……
──
──このような木っ端の魂魄を偉大な我が
『
『何、を』
『これは余談ではあるが、だからこそ、
話を戻そう。君に渡したその「破面の斬魄刀」に、内在世界をある程度写し取り終わったなら。君に渡した千里玉を使えるようになるはずだ』
先ほどから意味が分からない。そんなものを手渡して何を目的としているのか。混乱するルキアと、その隣で息を殺して「大丈夫か? 本当に大丈夫か?」と心配そうにしているリリネット・ジンジャーバック。そんな二人に微笑んで、アルトゥロを名乗る男は囁いた。
いっそ、それは悪魔のように。
『それで、黒崎一護の姿を見ると良い。
私の言葉が君を騙るものでないことも、より理解できるはずだ、と。
「意図も意味も不明だが……、これで一護の無事を確かめられるのならば。それだけで、少しは私も報われるというものだ。こちらから声を届けることが出来ぬのは、中々にもどかしいが」
どこか寂し気に微笑むルキアに、袖白雪は言葉を紡げない。
彼女の瞳に映るルキアの姿は────どこか違う場所、違う状況にあった
では試すぞ、と。まるで祈るように指を重ね、手を組み。その手で包んだ透明な宝珠に、死神の霊圧を注ぎ込むルキア。鬼道の成績は五番隊に呼ばれるほどではなかったものの悪くなく、黒崎一護に対しての死神の霊力譲渡もすんなり行えたくらいには霊力コントロールに長けている。
まかりまちがっても縛道一つでちょっとした災害を引き起こす一護とは違うのだと、いつかの軽口を思い出してフフっとルキアは目を閉じ、微笑んだ。
どくん、と。音が響く。
ルキアの手元にあったその宝珠の色がどす黒く濁り、桃色とも赤紫ともつかない霊圧が漏れ出る。目を開け、中空を見上げるルキア。それにつられて袖白雪も彼女と同じように、空に霊圧で描かれる何かの姿を見て────。
「……いや、何? 何だ、あのまた訳のわからぬものは…………?」
『また我が夫が頭を抱えていそうですね、嗚呼、おいたわしや…………』
そこに描かれた映像は。