人の気持ちは分からない、自分のさえ分からない。
やっぱり霊長は難しい。
でもどうにか格好を取り繕って、歩んでいく。
裏側からなんとか支えてもらって、ようやくだけれど。

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まさか菖蒲ちゃんが妹だとは……。


アオのハコ#67 SideB

 言葉にしてみて、ようやく形が定まり出した気がする。我ながらなんて呑気なんだろうな、まったく。

 隣で寝ている花恋に聞こえないように、私はベッドの中で小さく嘆息する。

 私は大喜くんを――どう思っているんだろうか、それさえまだわからない。ああ、どうしてこうも頭が悪いんだろうな。こんなフワフワした話を聞かされて、よくもまあ笑わないでくれたもんだ。

 でも誰かに話せて良かった、とも思う。無い頭を捻って悩んでも、気持ちが重くなるだけだから。こういう時は()()()を頼るのが一番な筈だ、そういう意味では渚たちじゃ無理なわけで。……揃いも揃ってワンパクで逞しい子だからなぁ、私たち女バスの面々は。少しくらい女子っぽいのいないのか、と思う私自身、女子力って概念を母のお腹に置き忘れて来たようなガラッパチだしね。

 にしても、今日こうして打ち明けられたのは良いことだ。

 明後日からはまた、猪股家での生活が始まるんだから。

 

 大喜くんを好きなのか、と聞かれれば好きだと思う。でもそれはまだ恋愛とかそういうんじゃない、……と思う。いつも頑張って挑んでいる、その真っ直ぐな姿は好感が持てる。笠原くんが言うには私の影響らしいけど、そんな事はないだろう。あれは本人の意思、そして内にある信念の賜物だ。私なんかがそれを動かせるわけがない。

 同じ家に寝起きするようになって半年、部活以外にも大喜くんの色々な面を知った。

 それは必ずしも良いことばかりではないけれど、でもそれを引っ括めてもなお私は大喜くんが――()()()()()()()。それは日に日に加速している、どんどん強まっている。

 同居が始まったばかりの頃は、大喜くんと蝶野さんの仲に遠慮して猪股家を出ることを考えた。でも少しして蝶野さんの気持ちに気付いた時、それでも私は「申し訳ないけどバスケの為だから」と居座る決意をしていた。そして蝶野さんが大喜くんに告白したと知った時、私は……少しだけホッとしたのだ。

 ああ、この二人はまだ付き合っていないんだ。そう確信できたから。

 とは言えこのまま行けば、そうなるかもしれない。花恋も言っていたけど、迷っている間に取られてしまってもおかしくはないんだ。

 でも、だ。こんな半端な気持ちのままで、蝶野さんを押し退けるような事が出来るのだろうか。

 「特別なカンケイ」になれるのは、一人だけ。私が大喜くんをこのまま「恋愛的に好き」な状態になって、それを彼が受け入れたとして。そうなれば蝶野さんの気持ちはどうなってしまうのか、そう考えると……。

 ああ、どうしようかな。

 

 こんな風に悩んでしまうのは、私が――()()()だからなんだろうか。菖蒲ちゃんくらいの玄人なら、悩みもしないようだし。

 気になって付き合って、でもなんだか違ったからバイバイ。さて次は誰を好きになろうかな、みたいな。ああなりたいとまでは思わないけど、前向きに誰かを好きになれるというのは悪いことじゃない。……多分そうなんだろう、うん。きっと……いやー……、えっと……どう……かな。

 でも私が花を咲かすまで待っているのとは違って、種を蒔いた時点でもう「好き」と言ってしまえる。勇気があって行動力もある、恋愛と真っ直ぐ向かい合う子。……もし菖蒲ちゃんみたいな子が大喜くんの側にいたら、気が気じゃないだろうな。下手をしたら一気に押し切られかねない、スピードが違いすぎる。

 そう言えばあの子花恋と違って栄明生なんだっけ、ちょっとしくじったかも。学校で余計な気を効かせてきたりしたら不味いな、さすがに。まあ針生くんもいるから妙な事はしないだろうけど、うーん。

 あれこれ考えながら、ただ時間は過ぎていく。

 明後日の夜はまた、大喜くんの隣で眠るんだな。間に壁があるけどさ、うん。

 でもこれまで通り、いつものように居られるんだろうか。一度気がついてしまった想いを、抑え込んでおけるかな。気まずいかもしれない、大丈夫かなこれから。

 そして大喜くんも大喜くんで、蝶野さんと色々あったわけだ。いまだその本心が見えないまま、それでも話は動き続けている。

 私も大喜くんも、少しずつ変わっていく。時間は止まらないし、戻りもしないから。

 前途多難にして波高し、か。まったく、困ったものだ。

 何度目かの息を吐いて、私は目を閉じる。どうにかなるさ、と胸の中で嘯きながら。

 

 


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