魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~   作:竜華零

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第79話「始まりの場所」

Side アリア

 

「・・・え?」

 

 

私は思わず、間抜けな声を上げてしまいました。

場所は、メルディアナ魔法学校の医務室。

 

 

私はエヴァさん達と共に、飛行機などの公共機関を使用してメルディアナにやってきました。

転移魔法とかを使っても良かったのですが、手続きが面倒ですし、せっかくだからと言うことで。

機内では家族で楽しく過ごし、まさに旅行と言った風でした。

しかし、メルディアナに到着した私は・・・。

 

 

「ごめんなさい、アリア」

 

 

通されたのは、校長室でも職員室でも無く、医務室。

そこで頭に包帯を巻いたドネットさんが、泣きそうな顔で私達を出迎えてくれました。

 

 

「私は、私達は、守れなかった・・・」

「・・・何が、あったんですか」

 

 

ドネットさんからもたらされた情報は、2つです。

一つは、ウェールズのゲートが先月から休止されていること。

何でも、テロがあったとか・・・。

たまたま向こうにいたアーニャさんやネカネ姉様、ロバートが、未だに連絡が取れていないのが気になりますが・・・。

 

 

魔法世界行き自体は、どう言うわけかトルコの魔法協会が協力してくれるらしく、ゲートが確保できています。

そして看過できない問題が、もう一つ。

 

 

私の故郷の村の人達が。

私が今日、救うはずだった人達が。

 

 

「連れて行かれたって、どう言うことですか・・・!?」

「落ち着け、アリア」

「エヴァさん、でも」

「今、お前がしなければならないのは、状況の把握だ・・・違うか?」

 

 

エヴァさんの言葉に、ぐっと詰まります。

茶々丸さんが心配そうな顔で、私の肩に手を置いてくれました。

・・・私が落ち着いたのを見て、ドネットさんが話を続けました。

 

 

先月、ウェールズのゲートが大破してすぐのこと。

本国――メガロメセンブリアの正規兵が多数、メルディアナに派遣されてきました。

「悪魔に石化された、哀れな民の保護」が、その名目でした。

しかし、ここに村人が保護されていることは、極秘事項だったはず。

なら何故、本国に知られているのか?

 

 

ゲートが大破する直前にメルディアナを解雇された職員の一部が、本国にリークしたのです。

私の村の、情報を。

そのせいで、村の人達が。

 

 

「私達もだけど・・・校長は、最後まで抵抗したわ。けれど、生徒まで人質に取られては・・・」

「お祖父さま・・・校長は、どこに?」

「本国に・・・別のゲートを使って、石化した村人共々、連れて行かれてしまったわ・・・」

「・・・そんな」

「酷い・・・」

 

 

さよさんが、悲痛な声を上げます。

私も、同じ気持ちです。

 

 

「本当はもっと早く連絡すべきだったのだけれど、私も数日前に目を覚まして・・・ごめんなさい」

「いえ、ドネットさんは・・・悪く無いです」

 

 

今の話の中で、ドネットさんが悪い所を見つけることはできません。

むしろ、悪いのは本国、中でも・・・。

 

 

元老院。

 

 

元老院と聞いてまず思い浮かぶのはクルトおじ様ですが、おじ様ならこんな手段はとらないでしょう。

と言うか、利益がありません。

となれば、他の何者かの意思があるはず。

でも、誰でしょう?

 

 

魔法世界の政治については詳しくありませんが、村人達を連れて行って、どんな得が?

・・・わからない。

色々なことが、頭の中をグルグルと回っていて、整理ができない。

 

 

「・・・とにかく、明日中東地域への転移魔法の許可を取ってあるわ。それまで自由に過ごして頂戴」

 

 

ドネットさんの声が、空虚に響きました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

何たる、失態。

その報告を聞いた時、私は愕然とした気分になりました。

足下が崩れ落ちる感覚と言うのは、こう言う物を言うのでしょうか。

 

 

「申し訳ありません」

「いえ・・・別のゲートを用意した段階で、メルディアナから目を離した私の非です」

 

 

目前で膝を付くシャオリーに、呻くように答えます。

先月、メガロメセンブリアのゲートが何者かに破壊された後、私は旧世界中東地域の魔法協会に渡りを付けました。面白い程簡単に行きましたね。

その後、姿を消したネギ君達の捜索もあり、旧世界から目を離したのが裏目に出ました・・・。

 

 

私はこの一カ月、非常に多忙な日々を送っておりました。

具体的に何をしていたかと言えば、旧ウェスペルタティア領内を精力的に周り、地域の有力者と会談したり、反連合の小規模勢力を懐柔したり。

スプリングフィールドとしてのアリア様の話を社交界に流したり、アリカ様のご息女としてのアリア様の噂を裏社会に流したり。

一言で言えば、「将来におけるアリア様の味方作り」に励んでおりました。

 

 

なので、ここ新オスティアに戻るのは久しぶりです。

しかし、それにしても。

 

 

「私を介さずに、旧世界に兵を送るとは・・・」

「クルト様が外遊中だったことに加え、メガロメセンブリア主席執政官の命令があったようです」

「ダンフォード主席執政官・・・あの政治屋の豚か」

 

 

ダンフォードと言うのは、まぁ、旧世界における大統領みたいな方でしょうか。

一応、私を含む執政官の主席ですが・・・アレは傀儡に過ぎません。

裏で糸を引いているのは・・・。

 

 

「・・・アリエフか」

「は・・・物的な証拠は何もありませんが、ほぼ間違いないかと」

「流石に、尻尾は掴ませてくれませんか・・・」

 

 

それにしても、アリア様にどう顔向けした物か。

詳しい話は聞いておりませんが、メルディアナは壊滅的なダメージを被ったとか。

加えて部下から上がってきている情報では、6年前の悪魔襲撃時に石化された村人達が、連合のどこかに収容されたとか・・・。

 

 

これは、非常に不味いですね。

アリア様守護の任について以来、初の失敗ではないでしょうか。

しかし過去の失敗でクヨクヨしてはいられません。

これからどうするかを、考えなければ・・・。

 

 

「私は、新オスティアを離れられません。シャオリー、貴女は連合中枢に潜り込み情報を集めなさい」

「は・・・承知いたしました」

「何としても、連れ去られた村人の所在を掴むのです・・・必要な資金、人員は好きなだけ使って構いません」

仰せのままに(イエス・)我が主(マイロード)。全ては我らの姫様のために」

 

 

さて、つまらないことになって参りましたね・・・。

しかし目下の所、私には、いえ私達には、アリア様の存在が必要不可欠です。

そのためには、アリア様の望む環境を整えて差し上げる必要があります。

 

 

オスティアの、いえ、世界の未来のために。

 

 

 

 

 

Side アリエフ

 

クク・・・ゲーデルめ、今頃腰を抜かしていることだろうな。

多少「おいた」が過ぎたようだからな、ここで叩いて置くのも悪くはあるまい。

 

 

「それにしても・・・ゲーデルめ、こんな駒を隠していたとはな」

 

 

私は、手駒の若い議員が上げて来た報告書に目を通していた。

そこには、かのサウザンドマスターの娘の情報が載っている。

メルディアナから本国に上がって来ていた物と、大筋は同じだが。

そこには、元職員から得たより詳細な情報が写真付きで記されている。

 

 

例えば、旧世界の極東の島国における活動とかな。

その他、学生時代の交友関係や細かな成績、思想、兄であるネギ・スプリングフィールドとの関係。

もっと調べれば、より面白いことがわかるかもしれん。

長年この業界にいれば、本能的にわかるものなのだよ。

 

 

政敵の弱い部分(ウィークポイント)が、な。

 

 

「そのためにも、ネギ・スプリングフィールドを確実に手に入れておかねば」

 

 

ゲート破壊に巻き込まれて、今はエリジウム大陸にいると聞いたが。

まぁ、エルザに任せておけば良い。

アレは、優秀な駒だ。

 

 

ネギ・スプリングフィールド自身には価値が無いが、彼の母親には価値がある。

20年前、そして10年前と6年前には、排除しようとした価値だがな。

その意味では、息子だけでなく娘も手に入れたい物だ。

それに良く見れば、母親に似て美しく育ちそうな顔をしているではないか。

アレは、気高く美しい女だった・・・。

 

 

「・・・埒も無いな。とにかく、将来に備えることだ・・・」

 

 

ゲーデルが何を企むにしても、旧ウェスペルタティア領内でのことだろう。

奴をいつでも失脚させられるよう、連合内の意見を調整しておこうか。

メルディアナで回収した骨董品の他にも、手札は補充したしな・・・。

 

 

連合と隣接する旧ウェスペルタティア貴族領領主への賄賂と元老院議員選挙への推薦も、必要なら積み増しておこう。

あの地域には、連合に好意的な難民も多いことだしな・・・。

 

 

そこまで考えた所で、私は満足げな溜息を吐いた。

これだから、権力の座から退こうとは思わんのだ。強くそう思う。

特に、国家や人間の運命を無形のチップとして行われる戦略と政略のゲームは、私の老いた心身を充足させてくれる。

 

 

「さて・・・」

 

 

目下の所、諸勢力の注目の的である白い髪(シルバーヘア)の少女。

彼女は、はたしてこの魔法世界に何をもたらしてくれるのか?

 

 

「この<銀髪の小娘>は、どんな駒になるのかな」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

何とも、フォローのしにくい状況だな。

アリアの様子を見ながら、静かに溜息を吐く。

人間と言うのは、本当に度し難い。その気になれば、どこまでも下劣になれるのだからな。

 

 

「ここで、卒業式をやったんですよ」

「恩人、お腹がすいたぞ」

「・・・案内のしがいが無い人ですね・・・あ、人じゃなかったですか」

「スクナは神だぞ」

「あははー、はい、すーちゃんは引っ込んでようねー」

 

 

場の空気を和ませようとしたらしいバカ鬼が、さよに引っ張られて下がった。

まぁ、バカ鬼なりにアリアのことを考えてのことだろう。

やっていることは、ただのバカだが。

 

 

とにかくも、アリアの落ち込み様は凄まじい物がある。

今は校内を案内するなどして気を紛らわせているようだが、隠しようも無い。

6年・・・別荘内の時間を含めれば、それ以上の時間をかけて開発した、石化解除式。

それを携えていざウェールズに来て見れば、救うはずだった村人達はいない。

 

 

その胸中、察するに余りある。

 

 

元老院。

かつて私に賞金をかけ、平穏な時間を奪った連中。

そして今、私の家族の悲願を阻害した連中。

本来なら、皆殺しにしてやっても良いのだが・・・。

中にはクルト・ゲーデルのように、使える奴もいる。

まずは、敵が誰かを把握する必要があるのだが・・・。

 

 

「マスター?」

「・・・何でもない」

 

 

表情に出ていたのか、茶々丸が心配そうに声をかけてきた。

何でもないとは言ったが・・・実際には、悔しくて仕方が無い。

私には、倒すべき敵が誰かをアリアに提示してやることができない。

それは、私にはできないことだ。

 

 

「この廊下で、麻帆良行きが決まったんですよ」

「ホホゥ、ソレハジュウヨウナロウカダナ」

「10歳ノ少女ニモ歴史アリデス」

「難しい言葉を知っていますね、田中さん・・・」

 

 

ちなみに、この旅には田中もついて来た。

その肩の上には、チャチャゼロと晴明が載っている。

ただし、晴明は目を閉じて眠っている。

どうも、日本から離れるほどに起きていられる時間が短くなっているようだ。

やはり、社から離れると弱体化するのか・・・?

 

 

「あ、そうそう。ここの柱の所にですね、アーニャさん達との背比べの跡が・・・」

 

 

と、アリアが廊下の柱の一つを指差した、その時。

 

 

「・・・ぁ~・・・」

「む? 今何か声が・・・」

 

 

しなかったか、と私の言葉が続くよりも早く。

何かが、私の横を凄まじい勢いで走り抜けて。

アリアに対して、突撃した。

・・・なぁ!?

 

 

「おねえぇさまああぁぁぁぁ――――――――っっ!!」

 

 

・・・お姉さま?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「わっ・・・ど、ドロシー!?」

「お姉さまお姉さまお姉さまぁっ!」

 

 

突然アリア先生に抱きついたその方は、アリア先生よりも少し年下のようでした。

左右で括った茶色の髪に、そして何より背中にくっついた子竜が印象的な女の子です。

ドロシーと言うその方は、アリア先生にしがみつきながら、アリア先生の胸に顔を擦り付けています。

背中の子竜も、「クルックー☆」と鳴きながらアリア先生の頬に顔をくっつけています。

 

 

メルディアナの校章の刺繍されたローブからして、この学校の生徒のようですが。

しかも、アリア先生のお知り合い。おそらくは学友。

 

 

「What is the matter・・・あ、んんっ」

 

 

アリア先生は軽く咳払いをすると、改めて。

 

 

「ひ、久しぶりですね、ドロシー」

「何故ですか、お姉さま!」

「は・・・?」

「何故、ロバート先輩には会って私には会ってくださらなかったのですかぁ~・・・」

 

 

どうしましょう、意味がわかりません。

いえ、言語は日本語なので、言葉の意味自体は通じますが。

それはどうやらアリア先生も同じだったようで、困ったような顔でドロシーさんをあやしていました。

 

 

「せ、説明しましゅっ・・・!」

 

 

その時、赤色に近い茶髪の女の子が現れました。

ドロシーさんと違い、大人しそうな印象を受けます。噛みましたし。

トテトテと駆け寄ってくるその姿に、マスターがげんなりとした表情を浮かべて。

 

 

「また、何か現れたな・・・」

「二度アルコトハ三度アルト申シマス」

「用法が正しくありませんよ、まだ三度目ではありません」

「申シ訳アリマセン、姉上」

 

 

弟の言動に誤りがあったので、私は優しく訂正しました。

田中さんの情操教育は、ハカセより私に一任されているのです。

 

 

「ヘレンさん・・・久しぶりですね」

「は、はい・・・アリアおねー・・・先輩も、お元気そうでっ」

 

 

顔を紅くしながら、ヘレンさんは笑顔を浮かべました。

それは、とても可愛らしい笑顔でした。一応、撮影しておきます。

 

 

「ドロシーちゃんは、アリア先輩に会いたかったんです」

「はぁ・・・それは、嬉しいんですけど」

「お兄ちゃんが、日本でアリア先輩に会ったって言ったから・・・」

「私も、行きたかったです・・・!(クルックックックー☆)」

「ああ・・・」

 

 

アリア先生はそれで大方の事情を察したのか、困ったような、それでいて嬉しそうに微笑みました。

それは、マスターや私達に向けてくださる笑顔とも、3-Aの方々に向ける笑顔とも違う、そんな笑顔でした。

 

 

「・・・ありがとう、ドロシー。その気持ちだけで、嬉しいですよ」

「お姉さまぁ・・・」

 

 

マスターやさよさん達と、顔を見合わせます。

先ほどに比べて、アリア先生の表情も軽くなったように思います。

まだ、全てを吹っ切ったわけでは無いでしょうが・・・。

それでも、それは私達にはできなかったことで。

アリア先生にはこの場所で過ごした、私達の知らない時間があるのだと、改めて思い知らされて。

 

 

少しだけ、羨ましい。

そんな気持ちになった、瞬間でした。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

どうして、こんなことに。

もう何回考えたかわからないけど、やっぱり考えちゃうよ・・・。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

溜息を吐くと、チャプッ・・・と水が跳ねた。

今僕がいるのは、ジャングルの中の水辺だった。

この一ヶ月間、同じようなジャングルや砂漠、山脈なんかを彷徨ってる。

いや、方角と目的地ははっきりしてるんだから、迷ってるとかじゃないんだけど・・・。

 

 

あの日、あの白髪の少年の攻撃で、僕は酷い怪我をした。

肩を見れば、そこには大きな傷跡がある。

起きた時には、どうしてか塞がっていた。

 

 

「ネカネお姉ちゃん、明日菜さん、のどかさん・・・」

 

 

聞いた話では、僕が気絶している間にゲート事故があって、この世界のどこかに散ったって・・・。

本当は、すぐにでも探しに行きたいのに・・・街に入れない。

道なき道を進んでるから、時間もかかる。

 

 

「こんなペースじゃ、いつまで経っても・・・」

「仕方が無い、エルザもネギも賞金首だから」

 

 

その時、後ろの方から声がした。

振り向くと、そこには僕と同い年くらいの女の子が、服を脱いでえぇぇぇ!?

 

 

「ち、ちょ、何で服を脱いでるんですか――っ!?」

「・・・? 服を脱がないとエルザは水浴びができません」

「い、いやいやいや、だったら僕上がるから・・・!」

「何故? ネギもまだ水浴びの途中」

「え、英国紳士として女性と混浴はあぅあぅ・・・!」

 

 

この人は、エルザさん。

僕を助けてくれたらしんだけど、良くわからない。

なんだか、不思議な人で・・・。

 

 

「問題無い、なぜならネギはエルザの夫になる人間」

 

 

本当に不思議な人なんだ!

一ヶ月前に知り合ってから、「自分は僕の妻になる」ってばかり。

どうしてそんなことを言うのかって聞くと・・・。

 

 

「お父様が、そう言いました」

「そ、そう・・・」

「大丈夫、お父様の所に行けば、賞金も消えます。ネギの心配事も消えます。お父様の望みも叶います。皆幸せになれます。何もかもが上手く行きます。だからネギは何の心配もしなくて良い」

 

 

・・・と言う調子で。

う、うう・・・でも今は、エルザさんしか頼れる人がいないし。

 

 

「で、でも、お父さんに言われたから、結婚なんて・・・」

「ネギは、違うのですか?」

「え、な、何が?」

「ネギはネギのお父様の言う事を聞かないのですか? お父様の言う事を聞くのは良い子供の条件だと、エルザはお父様に教わりました」

 

 

父さんが・・・僕に?

もし、父さんが僕に何かを望んだら、僕は・・・。

僕は、どうするだろう。

 

 

「エルザはネギの妻になる、そしてネギの子を産む。そうすればお父様は喜びます。ならエルザも嬉しい」

「・・・」

 

 

良く・・・わからないけれど。

本当に、お父さんのことが好きなんだってことはわかる。

そこは、僕と一緒だ。少し違うけど。

 

 

それに結婚はともかく、エルザのお父さんに会うのが、本当に皆を助ける近道なら。

僕は、エルザのお父さんに会いに行く。

・・・それに。

ちら・・・と、隣のエルザさんの身体を見る。

そこには、黒い紋様が描かれていた。

 

 

アレは・・・もしかして。

ブンブンと首を振って、浮かんできた考えを振り払う。

まさかね。

エルザさんがあんなに好いてるエルザさんのお父さんが、あんな物を刻むはずが無い。

何か、事情があるんだろう。

 

 

今はとにかく、皆を助けにいかないと。

 

 

「だからそれまで、エルザがネギを守ります。安心してください」

「・・・うう」

 

 

でもなんだか、とても情けなかった。

強くなりたい、何者にも負けない力が欲しい。

父さんやマスターのような、「本物の強さ」が。

 

 

僕が、皆を助けなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

Side 環

 

「ち、ちょっとちょっと、どう言うことぉ!?」

「何、暦」

「フェイト様のことよ!」

 

 

フェイト様は今、ここにはいない。

計画を前倒して、デュナミス様と旧世界のゲートを破壊しに行った。

 

 

メガロメセンブリアのゲート破壊以降、警備が厳重になりつつあるから。

これ以上警備兵の数が増える前に、残り10箇所のゲートを壊す。

栞も調も、魔法世界側からサポートしてる。

確かに、フェイト様にしては「どう言うこと」な状況に・・・。

 

 

「フェイト様が、何で女の子連れて帰って来るわけ・・・!」

「あ、そっちの話・・・」

「他にどんな話があるの!?」

 

 

また、その話。

この一ヶ月間、暦はその話ばかり。

 

 

メガロメセンブリアでの事件の直後、フェイト様は女の子を連れて来た。

私達の仲間になるわけでも無くて、ただ怪我をしている女の子。

確か、アーニャとか言う名前の。

詳しい話は聞いて無いけど・・・熱量がどうとか、酸素がどうとか言ってた。

医療用ゴーレムのおかげで、今では傷一つ残らずに快復したし、問題は無い。

 

 

「確かに私達は女の子の扱いについて、それこそもう畏れ多い勢いで教えたけど!」

「暦が一番、張り切ってた」

「いつか自分に返って来ると信じて・・・!」

 

 

む、今の発言は聞き逃せない。

 

 

「私達だって、同じ・・・」

「そ、それは・・・そうだけど」

 

 

私達も、事情は違えど、同じような状態でフェイト様に拾われた。

フェイト様には、私達を仲間にする意思はなかった。

今回のケースも、きっと同じ。

 

 

暦は、複雑な顔をしてる。

私も、たぶん同じ顔をしてると思う。

・・・複雑。

でもこれは、けして口にしてはいけない。

 

 

「・・・戻ったぞ」

 

 

その時、焔が戻ってきた。

いつも通りのツインテール。フェイト様に「似合う」って言われてからずっとあの髪型。

私達は大体フェイト様の好みで髪型や服装を決めてる。

・・・でも皆バラバラだから、適当に言われてる気がする。

 

 

「あ、お疲れ焔、どうだった?」

「帝国側のゲートは大方潰せた。連合は情報を提供していなかったらしい」

「そっか」

「連合側の他のゲートは、栞や調が上手くやるだろう」

 

 

私達は、生まれながらに何かの能力を持ってる。種族的に。

暦は豹族、私は竜族・・・そして焔は。

 

 

「そ、それで・・・あの捕虜はどうなった?」

「アーニャさんのこと?」

「医療用ゴーレムのおかげで、普通に治ったけど・・・」

「そ、そうか・・・良かった」

 

 

焔は、本当にホッとした顔をした。

あの子を見てから、焔の様子がおかしい。

視線が泳ぐと言うか、モジモジしてると言うか・・・普段の焔と全然違う。

フェイト様の前にいる時とも、違うし・・・もしかして。

 

 

「焔、そう言う趣味?」

「は・・・? ・・・!? ち、違う!」

「え、嘘、そうなの!?」

「違う! 私はフェイト様一筋だ!」

 

 

むむ、聞き逃せない発言。

 

 

「ただ、その、何だ。あの小娘を見るとだな、何と言うか・・・」

「何?」

「こう、守ってやらなくてはと言うか、助けなければと言う気分に・・・」

「「・・・」」

「な、何だその目は!?」

「「別に」」

「なら何故私から距離をとる!?」

 

 

焔は、炎の精霊にまつわる一族の出身。

関係ないけど、何故か説明しなくちゃいけない気がした。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

その日は、メルディアナの職員寮に泊まることになりました。

一ヶ月前に半分が解雇されて、残った半分の職員の人も、過半数が本国に連れて行かれて・・・。

つまり、部屋が凄く余ってるんだそうです。

<闇の福音>であるエヴァさんが普通に学校の中に入れるのは、ドネットさんや校長先生のはからいもあるけど、それ以上に警戒する人間そのものがいないから。

 

 

それでも、ドロシーさんやヘレンさんに紹介した時は、2人とも泣いて逃げちゃったけど。

・・・エヴァさん、何で満足そうだったんだろ。

 

 

「さーちゃん、おかわりだぞ!」

「あ、はーい・・・って、何で私に言うの?」

「習慣だぞ!」

 

 

習慣なんだ・・・習慣じゃしょうがないね。

今は、食堂で夕食をご馳走になっています。

ビーフパイにポテト、グリンピース・・・ボリュームはあるけど、何と言うか大味。

美味しいんだけど・・・。

 

 

ふと、茶々丸さんと目が合いました。

頷き合う私達、そして同時に。

 

 

「「後で厨房を貸してください」」

「へぅ!? こ、コックさんに聞いてみないと・・・」

 

 

一緒に食事をとっていたヘレンさんが、ビクビクしながらそう言いました。

その視線は、未だにエヴァさんから離れません。

アリア先生が「大丈夫」って言ってたから、かろうじて逃げてない感じ。

ちなみに、日本語はアリア先生から教わったそうです。

 

 

「それで、その時お姉さまは言ったのです・・・『私の後ろに従い、百鬼夜行の群れとなれ』と・・・!」

(クルックー・・・)

「ほぅ・・・いや、本当かそれ!?」

 

 

一方では、エヴァさんがドロシーさんから学生時代のアリア先生の話を聞いています。

ドロシーさんは何故か、最初ほどエヴァさんを怖がって無いみたいです。

しかも、話の内容がかなり怪しいです。

 

 

あれ・・・そう言えばアリア先生は、どこに行ったんだろう?

他にも、田中さんとかチャチャゼロさんとかが見当たらない・・・。

 

 

「ヘレンさん、アリア先生達はどこに・・・?」

「え・・・あ、えっと・・・」

 

 

ヘレンさんは、困ったように眉をひそめると、数秒考え込んで・・・やはり困ったような顔をしました。

どうやら、心当たりが無いみたい。

 

 

アリア先生、どこに行ったんだろ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・ここは、そのままですか」

 

 

ほっ・・・と息を吐いて、周囲を見渡します。

私は今、メルディアナから数キロ程離れた場所にいます。

私の故郷。私の村に。

良くも悪くも、ここはあの時のまま、保存されています。

 

 

魔法的にこの一帯は封鎖されていますが、ドネットさんに許可を貰い、入らせてもらいました。

焼け落ちた廃墟。月明かりが、無人の村を照らしています。

 

 

「田中さん、ありがとうございます」

「問題アリマセン」

 

 

私の傍にはター○ネーター・・・もとい、田中さんがいます。

流石に夜の山に一人で入る気にはなれませんでしたので、ついてきてもらいました。

 

 

「ケケケ、ココガアリアノムラカ」

「ええ・・・5歳頃まで、ここで過ごしました。直にお見せするのは初めてですね」

 

 

そして私の頭の上には、チャチャゼロさん。

以前、私の記憶で見た風景と照らし合わせてでもいるのか、興味深そうに周りを見ています。

 

 

そのまましばらく、村の中を歩きました。

そうは言っても、何もありませんが。

その間、チャチャゼロさんも田中さんも何も話しかけてきませんでした。

そしていつしか、私の足は・・・あの湖の畔へ。

 

 

シンシア姉様と出会った、あの場所へ。

この場所には・・・。

 

 

「・・・お久しぶりです、姉様」

 

 

そう声をかけた先には、小さな白い石を削って作った、粗末な墓石。

でもここに、シンシア姉様はいません。

私が勝手に、作っただけですから・・・。

だから、声をかけても返って来ることは無い。

 

 

「・・・」

 

 

しばし、ただ佇むだけの時間が過ぎます。

村に戻っても、スタン爺様も誰もいない。

ここに来ても、シンシア姉様会えるわけでも、無い・・・。

 

 

・・・夕食前、メルディアナの地下を確認しました。

愚かとも思いましたが、この目で見るまでは信じたくなかった。

かつてアーニャさんと磨いた村の人達は、いませんでした。

一人も・・・。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギリッ・・・と、歯噛みします。

そんな私の右手には、青い小箱があります。

開いてみれば、そこには銀の翼を模したアクセサリーの付いたイヤーカフスが。

翼の中央に、白い真珠のような宝石。

 

 

支援魔導機械(デバイス)。

超さんがもたらし、ハカセさんが作ってくれた石化解除の鍵。

私がエヴァさん達の協力で導き出した、石化解除式を忠実に実行できる唯一のアイテム。

でも、それもスタン爺様達に会えなければ意味が無い。

 

 

「・・・ッ!」

 

 

気が付けば、私はそれを地面に投げ捨てていました。

箱が跳ね、中から支援魔導機械(デバイス)が飛び出し、草むらの中へ。

 

 

「オイ、イイオカヨ」

「・・・良いんです」

「イヤ、デモアレハ・・・」

「だって・・・意味が無いじゃないですか!」

 

 

やりきれない。

何だって私は、望んだ何かをすぐに手に入れることができないのか。

世界は何故、こんなにも。

いつだって、こんなはずじゃ無い事ばかりなのでしょうか。

 

 

「だとしても、こんな・・・こんな!」

 

 

誰もいない空間だから、叫べる。

両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるように膝を付きます。

 

 

「教えてください、チャチャゼロさん。どうして村の皆は連れて行かれたんですか・・・」

「・・・ソレハ」

「どこに行ったんですか・・・誰が! 何のために・・・教えて、教えてよ・・・っ」

「・・・」

「教えてよ、シンシア姉様・・・なんで、答えてくれないの・・・!」

 

 

いつも語りかけているのに。

一度だって、貴女は答えてはくれなかった。

 

 

「・・・元老院・・・!」

 

 

メガロメセンブリア元老院。

私から両親を奪い、スタン爺様や村の人々を奪い、かつてはエヴァさんの人生を狂わせた存在。

以前はそれ程意識してはいませんでしたが・・・今また、私から村の皆を奪って行った・・・。

元老院。

憎い。憎かった。憎悪とはこんな感情だったのかと、そう思いました。

私の・・・。

 

 

私の身内に、手を出したな。

 

 

「マァ、オチツケヨ」

 

 

チャチャゼロさんが私の頭から降りて、支援魔導機械(デバイス)の飛んで行った方へ歩いて行きました。

そのまま草むらに入り、しばしガサガサと何かを探す音が・・・。

 

 

「ゴシュジンノイイグサジャネーガ、ココハレイセイニ・・・ッテ、ウオ!?」

「・・・チャチャゼロさん?」

「魔力反応ヲ感知シマシタ」

 

 

田中さんの声に、立ち上がります。

チャチャゼロさんの方を見ると、何か光って・・・。

 

 

「チャチャゼロさん!」

 

 

慌てて駆け寄れば、そこには。

イヤーカフスを拾ったチャチャゼロさんと、その目の前に輝く貝殻が。

これは・・・魔力で構成されています。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で確認すると、やはりこれは私の、いえ。

 

 

「シンシア姉様の・・・?」

「ナンデコンナトコニ?」

「さ、さぁ・・・」

 

 

恐る恐る、手にとって見ます。

すると、私にはコレが何かわかりました。

この貝殻の名は、『魂の貝殻』。

 

 

・・・まさか、もしかして。

貝殻の口の、開いた部分を耳に。

この貝殻は、CDのように音声を残しておくことが・・・。

 

 

『自分が・・・』

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

「自分が終わることを自覚した時、人間がどう行動するか知っているかい?」

 

 

その女性は、身体の半分が無かった。

顔の右半分が無かった。

右腕は、胸の半ばから抉り取られたかのように失われている。左手も指が半分無い。

下腹部には大穴が開き、左足は太腿の大部分が削り取られ、右足はそもそも膝から下がない。

失われた部分を補おうとするかのように、黒い何かが滲み出ている。

 

 

女性の名は、シンシア・アマテル。

シンシアは今まさに、自分が消滅しつつあることを自覚していた。

ふ・・・と、残った左目で、自分のすぐ隣に横たわる2人の少女を・・・特に、金髪の少女を見つめた。

 

 

「・・・何かを、遺そうとするんだよ」

 

 

次いで、シンシアは少し離れた場所を見つめた。

そうは言っても、数メートル程だが。

 

 

「キミも、そうなんじゃないのかい?」

「・・・そんなんじゃねぇよ」

「息子に形見だとか言って杖を渡したくせに、何を言ってるんだか」

 

 

おかしそうに、シンシアが笑う。

そこには、ローブを纏った一人の男がいた。

燃えるような赤毛、強い意思を感じる瞳。

その容貌はどこか野性的で、それでいて粗野では無い荒々しさを備えていた。

 

 

「感謝するよ、キミがここに運んでくれなければ、ボクは何も遺せずに消えてしまう所だった」

「別に、ついでだよ、ついで」

「ついで、ね・・・キミらしいよ、ナギ」

 

 

その男の名は、ナギ・スプリングフィールドと言った。

彼らがいるのは、例の湖の畔。

ここでならば、シンシアももうしばらくは保つ。

 

 

「・・・キミの娘は大丈夫だよ、生き残れる」

「・・・そうか」

「何も聞かないのかい?」

「別に・・・俺は俺のやりたいようにやっただけだ」

「そうかい」

 

 

ナギの言葉に、シンシアは金髪の少女・・・アリアのことを説明する気を失った。

アリアがどこから来て、そしてどこへ行くのか、その全てを。

事実、ナギにとっては、それはどうでも良いことだった。

ただ・・・。

 

 

息子と同じように、娘も助けただけだ。

 

 

「・・・行くのかい?」

「ああ」

「せめて、頭の一つも撫でてやれば良いのに」

 

 

ナギは、眠り続ける娘を・・・アリアを、じっと見つめた。

そして、片手を伸ばしかけて・・・やめた。

気恥ずかしいと言うのもあるが、何より・・・。

 

 

「俺には、そんな資格はねぇよ」

「キミにしては珍しく、殊勝な発言だね」

「うるせっ」

「なら、言葉ぐらいは残して行きなよ。杖は息子に渡してしまったのだから・・・一言ぐらい、ボクから伝えてあげても良いよ」

「・・・」

 

 

ナギは黙って背を向けると、そのまま空中に浮遊し始めた。

そのまま、離れていく・・・直前、振り向いた。

その目には、かすかに涙が浮かんでいたように、シンシアには思えた。

 

 

そして、ナギは。

 

 

「こんなことを、言えた義理じゃねぇが・・・」

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

「・・・オ、オイ、ドウシタ?」

「体温ガ上昇、心拍数ガ・・・」

「だ、大丈夫、大丈夫です・・・っ」

 

 

役目を終えたからか、長い間放置されていたからか。

その貝殻は、砕けてしまいました。

私はその欠片を手に持ったまま、チャチャゼロさんを抱き締めていました。

 

 

両目から、とめどなく熱い雫が溢れて、止まりません。

それを見たからか、チャチャゼロさんが困り果てている様子です。

それでも、私はチャチャゼロさんを離すことができませんでした。

 

 

「カンベンシロヨ・・・」

「す、すみませっ・・・!」

「アーアー・・・シャーネーナー」

 

 

ポンポンッ、と背中を叩かれました。

それが、それだけのことが、たまらなく嬉しかった。

 

 

シンシア姉様の声を聞けた。

そしてあの時、私だけが放置されたと思っていました。

でも・・・。

 

 

私は、ちゃんと・・・!

 

 

私はちゃんと、救われていた。

ネギだけが、救われていたわけじゃなかった。

あの人はちゃんと、私にも言葉を残してくれていた・・・っ。

それなのに、私は。私は・・・。

 

 

 

『・・・元気に育て、幸せにな』

 

 

 

・・・とうさま。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「ただいま戻りました」

「お、お姉さま、いったいどちらに・・・!」

「探したんですよー?」

「ごめんなさい、ちょっと外の空気を吸いたくて・・・」

 

 

夕食後しばらく経って、ようやくアリア達は戻ってきた。

さよとドロシーが、出迎えている。

田中から茶々丸に連絡が入っていたから、特に心配はしておらんかったさ。

チャチャゼロも付いていたわけだしな。

 

 

「マスターはアリア先生が心配でいつもより食事の量がすふはふはっふぇ」

「お・ま・え・は!」

 

 

巻くぞ、このボケロボが!

茶々丸は本当に、最近私のことを敬わなくなったような気がする。

これも成長と喜べばいいのか、どうなのか・・・。

それともまさか、私に威厳が足りなくなったとでも言うのか、はは、まさか・・・。

 

 

・・・まさかな。

いや確かに家事は全部茶々丸に任せているし、最近の私は威厳のある所を見せているとは言い難いし。

し、しかしだな・・・。

 

 

「エヴァさん」

 

 

茶々丸の頬をムニムニと弄りながらそんなことを考えていると、いつの間にかアリアが傍に来ていた。

何かと思って顔を見れば、先ほどよりもすっきりしている気がする。

何があったのかは知らんが・・・。

 

 

まぁ、落ち込んでいるよりは良いだろう。

すると、アリアが左手で髪をかき上げた。そこには、銀の翼を模したイヤーカフスがついている。

支援魔導機械(デバイス)とか言ったか。

まぁ、この場では無用の長物になってしまったがな・・・。

 

 

「似合ってるぞ」

 

 

そう言ってやると、アリアは小さく笑った。

それから、真剣な目で私を見て。

 

 

「私、魔法世界に行かなくちゃいけない理由が増えました」

「・・・そうか」

「はい」

 

 

決意の込もった、と言うほど気負っているわけではないが、何かを決めてきた表情だな。

外に出ている間に、何があったのやら。

また後で、聞かせてもらうとしよう。

 

 

「私、取り返しに行きます」

「村人をか?」

「はい・・・いえ、もしかしたら、それに加えて色々あるかもですが・・・」

「・・・ふん?」

「・・・手伝って、もらえますか?」

「・・・ふん」

 

 

苦笑して、アリアの頭をグシグシと撫でる。

多少乱暴に撫でたからか、アリアは「わわっ」と驚いたような声を上げたが、嫌がりはしなかった。

ま、スキンシップと言う奴かな。

ドロシーとヘレンが、意外そうな顔でこちらを見ていることに気付いた。

 

 

それに、少し愉快な気分になった。

私は確かに、奴らの知っているアリアを知らないかもしれないが。

奴らもまた、私達の知っているアリアを知らないというわけだからな。

 

 

小さな独占欲が満たされていくのを感じる。

言われなくても、手伝ってやるさ、面倒だがな。

仕方が無い。

 

 

「お前は、私達の家族だからな」

 

 

私がそう言うと、アリアは少し目を丸くした。

そして・・・。

 

 

そして、花が咲くような笑顔を、見せてくれた。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「いやぁ、ラッキーだったねココネ!」

「うん・・・」

 

 

膝の上に乗せたココネの頭を撫でながら、そんな会話をする。

うん、本当にラッキーだったね。

何でかって言うと、イギリスのゲートが壊れて無しになるはずだった異世界旅行が、トルコの魔法協会の好意とかでできるようになったんだもん。

 

 

本当、ラッキー♪

まぁ、もう少し欲を言えば、ココネと2人きりが良かったかなーってこと。

 

 

「美空! ゲートが開くまでまだ時間があるとは言え、シャンとなさい!」

「へいへーい」

「返事は、はい! 最近また弛んできていますよ!」

「はーい・・・」

 

 

シスターシャークティーまで来てるんだもんなー・・・。

何で引率の先生が来てるのさ。

 

 

「未成年の生徒だけで行かせられるわけが無いでしょう」

「・・・そっスねー」

「しっかりしなさい。貴女は麻帆良の代表でもあるのですよ」

 

 

面倒なことに、私は麻帆良の生徒代表ってことになってる。

まぁ、だからこそ旅費とかタダなわけだけどさ。

何でも、新生麻帆良を印象付けるとかどうとか・・・。

 

 

私が・・・っていうか、ココネが選ばれたのは、あっちの世界の出身だから。

旧世界人は、あんま良い目で見られないんだって。やだよねー。

あ、それと私達の他にもいるよ。

 

 

「あちらに戻るのも、久しぶりですね」

「よ、良かったですね、お姉様」

 

 

高音さんとか言うウルスラの先輩と、その従者の・・・なんだっけ?

 

 

「佐倉愛衣です!」

「ああ、うんうん、覚えてるって」

 

 

片手をヒラヒラ振って、適当に答える。

真面目と言うか、頭が固そうで面倒そうなんだよねー。

特に、高音さん。

 

 

「・・・お? あんたは・・・こんな所で奇遇やな」

「あ、貴女は・・・これも、主のお導きですね」

 

 

その時、シスターシャークティーに声をかけてきた女の人がいた。

眼鏡をかけた美人さんで、どっかで見たことがある。

 

 

「あ、お、おはようございます」

「ん? おー、武道会の時のねーちゃんか、おっす」

「何ですか愛衣・・・って、貴方達は!?」

「どうも、神鳴流です~・・・おねーさん、誰ですかー?」

「んなっ!?」

 

 

高音さん達は、やっぱりどこかで見たことのある黒髪の男の子と、長い髪の女の子と話してた。

えっと、確か・・・関西の。

 

 

「ミソラ・・・」

「ん? なーにココネ。私は記憶を精査してる所で・・・」

「あっち・・・」

「だから何・・・げっ」

 

 

ココネが指差した方向を見た時、思わず顔を隠した。

な、なんであの人達がここに。

 

 

わ、私は謎のシスター。

あんな髪の白い女の子は知らんとです・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

早朝、私達は転移魔法で中東のゲートまでやってきました。

左眼のせいでかなり危なかったですが、何とか成功しました。

トルコの魔法協会に知り合いはいませんが、今回の好意には感謝ですね。

 

 

「それで、基本は予定通りなのだろう?」

「はい、まずはアリアドネーへ・・・そして新オスティアへ」

 

 

その他の情報の刷り合わせは、私の「知識」も含めて、昨夜の内に終わらせてあります。

とはいえここまで展開が変わると、私の「知識」もどこまで役に立つか。

とにかく、アリアドネーや新オスティアを拠点に、ネカネ姉様やアーニャさん、村の人達の行方を探しましょう。

 

 

「なら、私はもう少し寝るぞ・・・茶々丸」

「はい、マスター」

「さーちゃん、スクナは実に眠いぞ」

「すーちゃん、最近本当に一直線だよね・・・良いけど」

 

 

適当な場所にシートを敷いて、エヴァさんは茶々丸さんの膝枕で寝始めました。

その横で、明らかにさよさんの膝枕を狙っているスクナさんは、何と言うか・・・。

まぁ、エヴァさんは朝は弱いですし・・・私もですけどね、ふわぁ・・・。

 

 

「アリアはん!」

 

 

欠伸をしていると、聞き慣れた声で名前を呼ばれました。

むぅ、どこかの勇者が旅立ちそうな発音で私を呼ぶのは・・・。

 

 

「千草さん、それにシャークティー先生も・・・おはようございます」

「おはようございます、アリア先生」

「おはようやな。アンタも今から行くんか?」

「はい、お2人もですか?」

 

 

話を聞くと、このトルコの魔法協会からの渡航が最後になりそうなので、予定を早めて魔法世界に行くことになったのだとか・・・。

まぁ、千草さんもシャークティー先生も、私とは目的地が違うようですが。

当然といえば、当然ですね。行く目的が違うのですから。

 

 

視線を転じれば、少し離れた所に小太郎さんと月詠さんがいました。

小太郎さんは片手を上げて、挨拶のつもりでしょうか。

隣の月詠さんは、顔を紅くして私を・・・さて、時間はまだでしょうか。

 

 

あと、どうでも良いですが、あの挙動不審なシスターは何でしょう?

美空さんですよね、あれ・・・。

 

 

「お待たせしました、ゲートが開きますので順番にお並びください! 係員の指示に従って・・・」

「お、開くみたいやな。ほなアリアはん、向こうで会うたらよろしくな」

「私達も行きます、またお会いしましょう」

「はい、お2人ともお気を付けて」

 

 

千草さん達とお別れして、さて、私もエヴァさん達の所へ・・・。

 

 

ドンッ。

 

 

「きゃっ・・・」

「失礼」

「あ、いえ・・・」

 

 

ローブを頭までかぶった男性と、肩をぶつけてしまいました。

謝罪しようと顔を上げた時には、その男性はすでにいなくて・・・あれ?

 

 

「・・・良い旅を、アリア」

「・・・!」

 

 

その声!

慌てて振り向いて見ますが、そこにはやはり誰もしません。

・・・気のせいだったのでしょうか。

 

 

しかしその考えを否定するかのように、私の手には一輪の花が。

いつの間に・・・。

薄い赤色の大きな花弁が、光を反射して輝いていました。

華美な花の先端は、波打つようで まるで花火のように鮮やかです

花には詳しく無いのですが・・・何の花でしょうか?

 

 

「アリア先生、そろそろ・・・む、その花は?」

「あ、茶々丸さん。コレ、何の花かわかりますか?」

 

 

すっかり眠りこけてしまったエヴァさんを背負った茶々丸さんが、私の傍にやってきて、私の持っている花をじーっと見つめました。

そして、数瞬後。

 

 

「コレは、ネリネの花であると思われます。別名ダイヤモンドリリー」

「はぁ・・・」

「南アフリカ原産で、花期はちょうど今頃です。どうして、こんな所に?」

「・・・ふふ」

 

 

私が軽く笑うと、茶々丸さんは不思議そうな顔をしました。

その後、ネリネの花の花言葉も教えてもらいました。

 

 

<また会う日を楽しみに>

 

 

それが、この花の花言葉。

思わず、笑みが零れてしまいました。

他にも、「幸せな思い出」などの意味もあるそうです。

 

 

ネリネの花を手の中でクルクルと弄びながら、私は白い髪の誰かのことを思い浮かべました。

何だ、魔法世界へ行くにあたって、悪いことばかりでも無いじゃありませんか。

順風満帆、前途洋洋・・・とまでは、行きませんが。

 

 

 

シンシア姉様、魔法世界とはどんな場所で・・・。

何が、待ち受けているのでしょうね?

 

 

アリアは、新たな場所で、またまた頑張ります。

 

 

 

 

「なお、<箱入り娘>と言う意味もあります」

「え」

 

 

どういう意味ですかそれ!

 

 

 

 

 

Side コレット

 

うぁっちゃー、もう皆揃ってるよー。

いや、当たり前だけどさ。

 

 

「何をしているのです、早く列に並びなさい!」

「うわわっ・・・ゴメンゴメン!」

 

 

小声で私を叱るのは、委員長のエミリィ・セブンシープ。

凄く真面目で、まさに「委員長」って感じの子なんだよね。

成績優秀で、しかもお嬢様だって話。

 

 

とにかく、私も慌てて列に並ぶ。

まったくもー、バロン先生にも困ったもんだよ、何もこんな時に雑用を言いつけなくたって。

大広間には、私を含めた同学年の子達が整列してる。

今日は、新任の先生が来るから、その顔合わせなんだって。

どんな人だろ、ちょっと興味ある。

 

 

「皆、おはよう」

「「「おはようございます!!」」」

 

 

壇上に現れたのは、アリアドネー魔法騎士団総長にして、私達の校長先生。

セラス総長。

偉い人なんだけど、気さくな性格で人気もある。

だから割と、朝礼とかで顔は見る。話したことは無いけどさ。

 

 

「今日は事前に通達していた通り、新しい非常勤の先生2人と、旧世界の魔法学校からの留学生を紹介するわ」

 

 

旧世界!

伝承とかでしか聞いたこと無いけど・・・そりゃまた遠い所から!

セラス総長が呼ぶと、ゾロゾロと複数人が壇上に上がった。

えーっと。

 

 

10歳くらいの白い髪の女の子に、金髪の女の子。そいで黒髪の男の子。

15歳くらいの古風な女の子に、緑の髪の女の子・・・人族かな? 違う気がする。

と言うか、あの人形を2つ抱えた大きな男の人は何だろ・・・。

な、なかなか、個性的なメンバーみたいだね!

・・・で、先生は?

 

 

その時、セラス総長に促されて、白い髪の女の子が中央へ。

そして、マイクを渡される。

お、おお、挨拶的な?

白い髪の女の子が、話し始めた。

 

 

『皆さん、初めまして。私は・・・』

 

 

 

・・・後になって、わかったことだけど。

その時の私は、気付いてすらいなかったけど。

それは・・・。

 

 

 

『私は、アリア・スプリングフィールドと申します』

 

 

 

それは、運命の出会いだった。

 




アリア:
アリアです。
今回で、長かった旧世界編は終了です。
皆様の応援のおかげで、どうにかここまで来ることができました。
改めて、お礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございます。


今回は久しぶりに魔法具が登場しました。
ダイの大冒険から「魂の貝殻」:haki様提供です。


アリア:
さて、第二部・・・魔法世界編は、新しい小説として新設する予定です。
原作からかなり前提条件が変わっていますので、何が起こるかは私もわかりません。

第二部のタイトルは、以下の通りです。

「魔法世界興国物語~白き髪のアリア~」

では、皆様・・・本当にここまで、ありがとうございました。
第二部でお会いできることを、心よりお待ちしております。
では、またお会いしましょう。

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