この世界には人のココロを食べる“オトクイ”が存在する。人のココロの傷や苦悩につけこみ、闇に堕として喰らう、人とは決して相容れない怪物が。

それに唯一対抗できるのが、“オトダマ使い”だ。音楽の精霊である“オトダマ”と契約を結び、ウタの力で“オトクイ”と戦う事ができる存在である。


もしも、バンドリのキャラがオトダマ使いだったら。

これは、そんなお話。



※※

本作はBanG Dream!と初音ミクTRPGココロダンジョンのクロスオーバーです。
初音ミクTRPGココロダンジョンは、KADOKAWAから出版されたTRPGのシナリオ集です。
シリーズ2作目のココロセッションが手元にないので、基本的にココロダンジョンの設定を使って、或いは書きやすいようにアレンジしながら物語を進めていく予定です。

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創作意欲を失いつつある時に、ハーメルンの特殊タグで遊びたいなー、と思った結果産まれた作品です。なので、特殊タグがマシマシです。リハビリも兼ねてますので、温かい目で読んでいただけたら幸いです。


プロローグ

 

 私──戸山香澄は歌が、歌うのが好きだ。好き、だった。小学4年生の時、河原で歌っていたのをきっかけに、クラスメイトの男子達にからかわれた。何でかは今でもわからない。けれど、その事が問題になって学級会議が開かれて、男子と女子で喧嘩みたいになった。

 どうしてこうなったの? 私はただ、好きな歌を歌っていただけなのに……。なのに皆が怖い顔をして。これって、私のせいなの? 

 それ以来、歌うのが怖くなった。同級生の輪にも上手く馴染めなくなった。小さな頃に感じた星の鼓動もわからなくなった。

 でも、本当は歌を歌いたい。皆と歌って、楽しい事をしたい。キラキラドキドキしたい。

 けれど、怖いよ。もしもまた、私の歌で喧嘩が起きたら……。

 そう思うと、なかなか一歩踏み出す事ができなかった。中学生になっても、あの日から何も変わらないままだった。

 このままは嫌だ。満天の星空を眺めながら変わりたいと願った私の前に、あの子が現れた。

 

『初めまして。ワタシはオトダマの初音ミク、よろしくね』

 

 ブルーグリーンの長い髪をツインテールにした女の子、オトダマの初音ミクと出会った。そして、私はオトダマ使いになった。

 それから色々な事があって、オトダマ使いの友達もいっぱいできた。怖い事もたくさんあったけど、ミクや皆と一緒に乗り切る事ができた。

 でも中学卒業直前に、私はミクとお別れする事になった。私が失くしていたウタの欠片を取り戻して、オトダマ使いじゃなくなったから。

 

「ミク、ミクぅ……いなくならないでよ、ねえ……」

 

 オトダマ使いの仲間達に見守られる中、半透明になったミクを抱き締めながら泣く私に、ミクは言った。

 

『ワタシはいなくならないよ。香澄がワタシの事を見えなくなって、ワタシの声を聞こえなくなるだけで、ずっと傍にいるから。香澄と話す事ができなくなるのは寂しいけどね』

 

 泣きじゃくる私に、ミクは目を潤ませながら悪戯っぽく微笑んで言う。

 

『香澄……貴女はとても成長したわ。友達もできた。自分で決断する勇気も持てた。ワタシがいなくても、貴女は立派に歩いていける……』

 

 ミクが私の頬を撫でる。それすら、そよ風に撫でられているかのような、朧気な感触だった。今までは確かに温もりを感じる事ができていたのに。

 

『これから先、何かあったらオトダマ使いとして過ごした日々を思い出して。決して楽じゃなかった。苦しい事や辛い事がいっぱいあった。それでも、貴女は仲間と共にそれを乗り越えてきた! だからきっと、大丈夫! 香澄なら、きっと……』

 

 別れの時が迫り、寂しさと悲しさに襲われている私に、ミクは目尻から涙を零しながら笑って言った。

 

『ありがとう。香澄と出会えて、とても楽しかったよ』

「うっ……私も、私もぉ、ミクに、出会えて、本当に良かった。あり、がとぉ……」

 

 薄れ行く彼女に感謝を。彼女がいない未来に期待を。

 私はオトダマ使いと中学を卒業し、花咲川女子学園に入学した。

 

 

 そして、四人の女の子とキラキラドキドキな出会いがあったんだ。

 

 

★★★★★

 

 

 親友の市ヶ谷有咲と一緒に通学路を登校中、ギターケースを背負った戸山香澄は気持ち良さそうに伸びをする。

 

「う~ん、今日も天気がいいね! 絶好の練習日和だよ!」

「うちの蔵で練習するんだから、別に天気なんか関係ねえだろ。まあ、雨が降ったらギターが濡れるだろうし、晴れるのは良いことなんだろうけどさ」

 

 そう言いながら「ん?」と有咲が道の端に目を向けると、見覚えのある黒服サングラスの女性がいた。弦巻家のSPが一人、何故か電柱の陰に潜み、ヒソヒソと襟元のマイクに向かって話している。

 

「有咲、どうかした?」

「いや、なんでもねえよ」

 

 花咲川女子学園に弦巻財閥のお嬢様が通っているのは、在校生や教職員等関係者全員が知っている事だ。SPの人達が破天荒なお嬢様をサポートする為に学園周辺にいるのはいつもの事なのだが、電柱や物陰に隠れている弦巻家のSPと何度もすれ違う。花女に入学してから一年以上経過しているが、今まで黒服さん達がこんなにも警戒している事がなかった為、有咲はなんだか気になった。

「おはよー」「おはようございます」と、朝の挨拶が飛び交う花咲川女子学園の校門。その周辺でも、緊張した雰囲気を漂わせた教師が生徒に挨拶しながら、あちこちに目を向けている。

 生徒会役員でもあり風紀委員でもある氷川紗夜も、普段より表情を厳めしくして、登校してきた生徒に挨拶していた。

 

「紗夜先輩、おはようございます!」

「おはようございます、紗夜先輩」

「戸山さん、市ヶ谷さんおはようございます」

 

 香澄と有咲に、紗夜はいつもより硬い声で挨拶を返してきた。

 朝から妙に学校周辺の空気が物々しい事が気になり、有咲は事情を知っていそうな紗夜に質問する。

 

「あの、紗夜先輩、何かあったんですか? なんか先生達も妙に緊張してるっていうか……」

「いえ、その、まだ何か起きた訳ではないのですが……」

 

 紗夜は辺りを窺うと、声を潜めて有咲に事情を教えた。

 

「実は黒いコートを着た怪しい人物が学校周辺で何度か目撃されてまして……一応警察にも相談してパトロールはしてくれるそうなんですけど」

「ああ、だから……」

 

 有咲は納得した様子で呟いた。そりゃ黒服さん達も本気出す訳だ。

 

『ん? この気配……オトクイ?』

「まあ、弦巻さんが通っている学校周辺を狙った以上、すぐに捕まると思いますし、あまり怖がらずにいつも通り過ごしてください」

「はーい!」

「お、おい香澄。あんまり騒ぐなよ」

『うーん何だろう、この変な気配……誰か近くに現役のオトダマ使いっていたっけ?』

 

 そして、いつも通りの一日が始まった。紗夜が言っていた通り、いつもと違う事が起きる事はなかった。

 6時間めの授業も終わり、ホームルームの時間となる。教壇に立った担任教師が重々しく口を開いた。

 

「えー、最近学校周辺で不審者の目撃が複数ありました。職員会議の結果、1週間の部活動の時間短縮と放課後の居残り禁止が決まりました。寄り道もしないで、まっすぐ家に帰るように」

「えー!? じゃあ、蔵で練習もできないのー!?」

「お、おい香澄……」

 

 先生の通達にクラス全体から軽くブーイングが出かけるが、それは香澄の大声にかき消された。

 数秒の沈黙の後、クスクスと笑い声があちこちから聞こえた。

 

「はい、そうです。戸山さん、バンドの練習は暫く家でしてください」

「え~~……ガックリ……」

 

 香澄は相当ショックだったのか、やや大仰に項垂れる。

 そんな香澄を見て、笑いながら仕方ないと受け入れる生徒が大半になり、中には早く帰れる事を好意的に捉える子もいた。

 そしてホームルームが終わって帰り道。Poppin'Partyは一緒に下校していた。

 

「はぁ、もうすぐライブがあるのに……」

 

 その為に、今日も放課後は有咲の家に寄って練習する筈だった。その証拠にポピパの竿隊は皆、ギターやベースが入ったケースを背負っている。

 項垂れる香澄を、牛込りみと山吹沙綾が慰める。

 

「でも香澄ちゃん、変な人がいるなら仕方ないよ」

「そうだよ。まあでも、こころの家の黒服さん達も動いているし、すぐに警察が捕まえてくれるよ」

「だといいけどな」

 

 やや悲観的な有咲に、本気なのか冗談なのかわからない声音で花園たえが言う。

 

「じゃあ、私達で捕まえる? そうすればすぐに練習できるよ」

「無茶言うな!」

 

 打てば響くような有咲のツッコミに、自然と笑い声が零れた。ポピパにとっていつものやり取りをしながら歩いていると、ふと香澄が気がついたように言った。

 

『香澄、気を付けて! 近くにオトクイが……!』

「……あれ、急に周りが静かになったような」

「ん? ……確かに、車の音が全然しないな」

「っていうか、何も音が聞こえなくなったような……」

 

 都会ならば、近くだけでなく遠くからも色んな車のエンジン音が聞こえるのに、今は何も聞こえない。

 鳥の鳴き声も、何処かから聞こえる人のざわめきも、飛行機が飛ぶ音も、信号の音も、工事の機械が作動している音も。あらゆる音が絶えてしまった。

 香澄達が不安に駆られて周りを見回しても、誰も通りすがらない。

 まるで、自分達以外誰もいなくなって、世界が止まってしまったかのような。

 

「どうなってんだ、これ……?」

「怖い……」

 

 不気味な程に静かな中、不意に足音が響いた。

 反射的に香澄達がそちらへ振り向くと、ボロボロの黒いトレンチコートを着て、目深にチューリップハットを被っている人物がいた。見るからに怪しい人物が目の前に現れ、ポピパの面々は警戒する。

 

「……クックックッ。オトダマ使いじゃなくなって、随分間抜けになったんじゃねえか? なあ、戸山香澄」

 

 やけに濁った低い声で不審者が喋った。

 不審者に名前を呼ばれた香澄は、限界まで目を見開いた。

 

「その声っ……まさか──!?」

 

 不審者は、チューリップハットを脱ぎ捨てて放る。

 顔が露になった瞬間、香澄以外が悲鳴をあげて後ずさった。

 髪の毛は一切なく、肌は漆を何重にも塗ったかのようにどす黒い。顔の中心で、両目が爛々と金色に光っている。

 男はギザギザの白い歯を見せて、ニチャアと粘着質に笑って言った。

 

「……よぉ、また会えて何よりだなぁ」

「……どうして、なんであなたが?」

誘闇(サタン)!? 香澄達が倒したのに何で!?』

 

 香澄は目を見開いて愕然としながらも、強い敵意を込めて男を睨む。ポピパのメンバーは、そんな香澄と男を交互に見ながら戸惑っていた。

 

「香澄、知り合い……?」

 

 たえの質問に答えず、香澄は険しい表情のまま一歩前に出る。

 

「皆、私の後ろに下がって。いざという時は私を置いて逃げて」

「な、何言ってんだ、お前も一緒に逃げるぞ!」

『香澄、逃げて! 皆も早く!』

 

 有咲が香澄の肩を掴んで言うが、香澄は男を見据えたまま有咲の方を見向きもしない。まるで目をそらした瞬間、襲いかかってくると予感しているようだった。

 

「クックックッ、もう俺と戦えねえくせに勇ましいじゃねえか。よっぽどそいつらが大切みたいだな? ────やっぱりお前の学校の近くで観察してて良かったぜ」

「っ! まさか、不審者って、あなたなの!?」

『っ!? どういう事? なんでオトクイの姿が普通の人に……?』

「フッ……さあ、お前の前でそいつらをオトナシにしてやろうじゃねえか」

 

 男が掲げた掌に黒い光が集まっていく。まるでCGのような出来事を目撃して、ポカンとする有咲達に香澄が叫ぶ。

 

「皆逃げて!」

 

 しかし、有咲達は凍りついたかのように動かない。男が恐ろしい。香澄を置いていくなんてできない。恐怖と戸惑いが、無意識に体を硬直させていた。

 

「ど~い~つ~に~し~よ~う~か~な? 誘~闇(サ~タ~ン)~さ~ま~の~──」

「させるかぁっ!」

『香澄っ!!』

「言~う~通~り~★」

 

 香澄はギターケースを有咲に預けると、男に向かって駆け出した。けれど香澄が男に触れるよりも先に、男の掌から黒い光線が撃たれる。その瞬間、香澄は身体を捩って跳躍し、ポピパの誰かに向かって撃たれた光線をその身で受け止めた。

 ポピパのメンバーが目を見開いて硬直する。黒い光線が当たった香澄は、ゆっくりと仰向けに地面に倒れた。

 

「……か、香澄ぃぃぃいいいいいいい!!」

「いやぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」

『香澄ぃっ!!』

 

 有咲の叫びが、りみの悲鳴が響き渡った。たえと沙綾は、ショックで声も出せないまま固まっている。

 

「……ちっ、なんだよ面白くねえ。せっかくてめえの前で、てめえの大事なものを潰そうとしてたのによぉ……」

 

 男は倒れた香澄に近づいて覗き込む。

 

「なぁ、なんで庇っちまうんだよ。面白くねえんだよそんなの。どうすりゃいいんだ、これからよぉっ!?」

 

 不審者の男は怒りを見せながら香澄を踏みつける。だが香澄は何も反応を示さない。

 

「香澄から離れて!」

「その足をどけろ!」

『ダメ、二人とも!』

 

 男の暴挙に怒ったたえと有咲が男に体当たりをしようとする。だが、男が無言で横凪ぎに振った腕から衝撃が放たれ、有咲とたえを吹き飛ばした。

 

「有咲ちゃん!」

「おたえ!」

 

 りみと沙綾は、吹き飛ばされて転がってきた親友に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「ぐっ……ああ、だ、大丈夫だ」

 

 有咲はお腹を押さえながら、痛みに顔をしかめて応じる。

 たえは擦りむいたのか、頬が赤く滲んでいた。けれど、すぐに立ち上がって男を睨み、怒りに声を荒げながら叫ぶ。

 

「なんなの、貴方……! なんでこんな事をするの!?」

「はぁ~……つまんねえ。つまんねえけど、こいつらもついでにオトナシにするか。なんか面白くなるだろ。なあ、そうだろ?」

 

 しかし男はたえの叫びを気にも留めず、再び掌を掲げて黒い光線を撃とうとする。

 これは現実なのか。悪い夢でも見てるんじゃないか。

 訳がわからない状況に有咲達がそう思った時、誰かの必死な叫び声が聞こえた。

 

『誰か! 誰か、ワタシの声が聞こえる人はいないの!? お願い、誰か返事をして!』

 

「誰? この、声……」

「沙綾ちゃんにも聞こえるの?」

「けど、どこにいるんだ……?」

「そんなことより、香澄を、助けなきゃ……」

 

 男は有咲達の様子を意に介さず、退屈そうに黒い光を溜めている。

 

『香澄を助けたいの!』

 

 だんだんと声が鮮明になってくる。

 

『誰でもいいからワタシに力を貸して!!』

 

 今、ハッキリと声が聞こえた。なんとなく人とは違う声。スピーカー越しに聞くような、機械的な声。

 誰なのかは知らない。けれど、この状況で香澄を助けようとしている。その必死な声に、有咲は、りみは、たえは、沙綾は同時に応えた。

 

『香澄を助けられるなら、何だってする!』

 

 有咲は白の、りみは赤の、たえは緑の、沙綾は青の光を纏いながら立ち上がる。

 トレンチコートの男は軽く目を見開くと、手を振って黒い光を空中に散らした。

 

「ほぉ、土壇場で目覚めやがったか。…………なら、こっちの方が面白いかもなぁ。クックック」

 

 愉快そうに笑うと、スゥッと男の姿が空気に溶けるように消えた。

 

「消えた……」

「一体なんだったの……?」

 

 茫然とするポピパメンバーの耳に、必死に呼び掛ける声が聞こえた。

 

『香澄、香澄!』

 

 いつからそこにいたのか、ツインテールの少女が香澄の傍にひざまずいて涙をこぼす。

 

『香澄、ごめんね。助けられなくて、本当にごめんなさい』

 

 すすり泣く少女に、たえが声をかけた。

 

「貴女、誰?」

『……ワタシはオトダマの初音ミク。ねえ皆、お願い。私に力を貸して。このままだと香澄が死んじゃう』

 

 香澄が死ぬ。その一言で、有咲達は凍りついた。

 香澄に黒い光線が当たった事に思い至っても、ポピパのメンバーの動きは緩慢だった。仲間が傷ついているにも関わらず、状況があまりにも現実離れしていて、理解が追い付かないでいた。

 硬直から真っ先に立ち直ったのは、たえだった。

 

「そ……そんな、香澄! しっかりして!」

 

 たえに引っ張られる形で、有咲達も香澄の周りに集まって膝をつく。

 

「香澄! おい、目を開けろ!」

「香澄ちゃん! 香澄ちゃん!!」

「香澄、起きてよ! ねえ起きてよ!?」

 

 全員で呼び掛けても、香澄は何の反応も示さない。黒い光線が当たったのに、見る限りでは全くの無傷だ。服も破れたりしていない。けれど顔から生気が抜け、薄く開いた目は虚ろで何も映していない。

 脈も息もある。けれど反応はない。沙綾は動揺しながらも冷静にスマホを取り出した。

 

「きゅ、救急車を呼ばないと……」

『それじゃ、香澄は助からないわ!』

 

 ミクが血相を変えて叫んだ。

 

『香澄は、ココロのウタをさっきのオトクイに奪われてしまったの。ココロのウタを失った人は生きる気力を失って、取り戻さないと死んでしまうの』

 

 初音ミクの説明に、有咲達は言葉を失った。ショックを受けた様子で、ノロノロと香澄に視線を向ける。そこには顔色が悪く目が虚ろなままの香澄がいる。

 沙綾が声を震わせながら呟いた。

 

「香澄は、このまま助からないの……?」

『いいえ、手はあるわ』

「どうすれば香澄を助けられるの?」

 

 食い気味にたえがミクに質問する。

 

『……ワタシと契約して、オトダマ使いになって。オトダマ使いだけがココロダンジョンを攻略してオトクイを倒せるの。そしてココロのウタを取り戻したら、香澄は助かるわ』

 

 ミクは真剣な表情で言う。しかし、そう説明された時点で有咲のキャパシティが限界を迎えたようで、目に涙を浮かべながら叫んだ。

 

「オトダマ使い? ココロのウタ? オトクイって何なんだ!? 訳わかんねえ……なんでそんな事に私達が巻き込まれるんだよ!? なんで香澄が狙われるんだよ!?」

 

 それは沙綾も、たえも、りみも思っている事だった。香澄は悪いことなんてしていないのに、どうしてこんな目に遭うのか。

 すると、ミクは伏し目がちに話し出す。

 

『……香澄は、中学生の時にオトダマ使いだったの。ワタシは、香澄のパートナーだった』

「え?」

『さっきの奴は、香澄が最後に戦ったオトクイで、倒した筈なんだ……。なのに何であいつ、また……』

「えっ? じゃあ、香澄がさっきの奴を知ってたのって、そういう事?」

 

 沙綾が驚きながら聞くと、ミクは悔しそうな表情で頷いた。

 それを聞いて、ポピパのメンバーは納得がいった。どうして香澄があんな事をしたのか。どうしてあの不審者が自分達を狙ってきたのか。

 

「……つまり、中学生の時、香澄はさっきの奴と戦ってたってこと?」

『うん、そうだよ。せっかくオトダマ使いを卒業して、楽しく暮らせてたのに……』

 

 ミクは手を固く握りしめながら、香澄に視線を向けた。それにつられて、沙綾も香澄を見つめながらミクに質問する。

 

「オトダマ使いを卒業って、じゃあ今の香澄は……」

『……うん。今はオトクイに襲われても何もできない、普通の女の子よ』

「そんな……」

「なんだよ、それ。無茶しやがって……バカ野郎」

 

 りみは瞬きもせず呆然と呟き、有咲は香澄に預けられたギターケースを強く握る。

 沙綾とたえも沈痛な面持ちで黙りこんだ。

 重い沈黙を割くようにミクが口を開く。

 

『時間がないわ。とにかく、詳しい説明はココロダンジョンを進みながら説明するから』

「……有咲」

「……ああ、わかったよ。香澄を死なせる訳にはいかねえからな」

 

 沙綾の呼び掛けに、有咲は覚悟を決めた。オトダマ使いやオトクイの事、まだ受け止めきれていないが、香澄を喪いたくなんてないから。香澄とこれからも、Poppin'Partyとして活動していきたいから。

 

「私もやる。絶対に香澄ちゃんを助ける」

「もちろん、私もやるよ」

 

 りみもたえも決然と言った。

 

『ありがとう。でも4人となると……よし、みんなはスマートフォンを持ってるよね? 出してくれる?』

 

 ミクの言葉に応じて、四人はそれぞれスマートフォンを出した。その前でミクは両腕を広げて翳すと、厳かに唱える。

 

『市ヶ谷有咲、牛込りみ、花園たえ、山吹沙綾──―オトダマ〝初音ミク〟の()の下に、汝らと契約を結ばん』

 

 すると、何かが自動的にスマホにインストールされる。赤、青、緑、白、黒の音符がアイコンになっているアプリが画面に加わっていた。四人はハッと息を飲む。

 

『……最後に確認するけど、心の準備はできてる?』

 

 ミクが念を押すように尋ねた。けれど、言われるまでもない。四人はほぼ同時に頷いた。

 それを見たミクは深呼吸をして、力強く唱えた。

 

『ココロフォン、起動(スタート)

 

 四人が持つスマホの画面にココロフォンというデコレーションされた文字が浮かび上がり、メロディが聞こえてきた。

 スマートフォンから光が溢れだす。眩しい輝きが有咲、りみ、たえ、沙綾、そして初音ミクを包んだ。

 

“大胆不敵にハイカラ革命♩♫♬磊々落々反戦国歌♩♫♬”

〝よぉっし、今日から高校生! ……ミク、私、頑張るから見ててね〟

 

 メロディと共に歌が朗々と響き渡る。

 くぐもって、香澄の声が聞こえた気がした。

 やがて目映い光が収まり、恐る恐る目を開くと、茜色が目に飛び込んできた。

 

「────ここは……?」

 

 有咲達が辺りを見回すと、そこは満開の桜の樹が立ち並ぶ、黄昏時の町だった。

 

 

ココロダンジョン:千本桜ver.戸山香澄

★★★★

★第1エリア:旅立ちの箒星★

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ココロダンジョンを買ったまま死蔵してたので、有効活用しようと考え、バンドリと初音ミクTRPGの相性がいいと思ったのでクロスオーバーしてみました。

一応、次の話の構想は練ってますけど、小生は筆が遅いしスマホ勢なので、連載ではなく短編にしようと思った次第です。

というか、千本桜のシナリオが2作目のココロセッションに載ってると知ってどうしようと思ったけど、別扱いにする事にしました。GM用のマップシートを公式サイトからダウンロードして確認したんですが、多分ネタバレには繋がらないと思います。バンドリとオリ設定全開で進めていく予定です。

では、いつかはわかりませんが、また次回の投稿で。
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