まあ思い出にはなりますかね。
裏側であれこれ考えても始まらない、結局はそういうもの。
いっそ飛び込んでしまおう。
「――合同合宿、ねぇ……」
体育館を使う部活の中で、大会に行っている卓球部とバレー部を除いたバド・バスケ・新体操の三つが創立記念日と土日を使って二泊三日の合宿をする……らしい。らしいと言うのは、そもそも私はあんまり興味がないから詳しく聞いていないのだ。
大喜とお泊まり、とかそういう色っぽいイベントじゃないし。ちゃんと男女別々の棟だし、一応自由時間に話くらいはできるだろうけど特に遊んだりは出来ないわけだ。揃って基礎訓練に明け暮れる、至って健全な強化合宿。少なくとも去年はそうだった、筈なんだけどな。確か当時の女バドと男バレの先輩方が、合宿をきっかけに付き合い出したとかそんな話は聞いた気がする。まったく、そういうのもいるんだなあ。
まあそれはさておいても、最近色々と思いはする。恋をしている身としては、色々と。
菖蒲は心外そうにしていたけど、私は今のフワフワした関係を楽しんでいる。どうせ、――実らない恋なんだから。
保留してもらってる、なんていうのは都合の良い嘘。実質私は、振られているようなものだ。だって大喜が好きなのは千夏先輩、私を「意識」してくれてはいるけど気持ちそのものは揺るがない。多分これからも、絶対に。でもそれは、安心できる事でもある。つまり大喜は私に、……
男子って、オトコノコって、分からないから。そんなのとキスしたり、それ以上の事をしたりするなんて、ちょっとだけ――怖い。
好きになって、ドキドキする日常を楽しんで。でも怖い思いはしたくないから、踏み込んでこないで欲しい。
ワガママで自分勝手、恋に恋するっていうやつだろうか。我ながら乙女だねぇ、本当に。
今日も大喜は練習に励んでいる、いつもと変わらず。合宿の話はもう聞いているのか、まだなのか。それは表情からは読み取れない。いつも通りのバドバカっぷり全開だ。あれは真っ直ぐしか進めない、天下無敵のバカ野郎なんだから。
しかし私と一緒に二泊三日過ごす事を知ったら、どう思うのやら。まあ、何も思わないかもしれないけど。そういう事で分かりやすく動揺する奴なら、千夏先輩と一緒になんか住めやしない。あれはバカで鈍くて、いつだってバカなんだから。て言うか二人きりならまだしも、大勢で合宿なんだから気にする方がおかしいかな。考えすぎ考えすぎ。
にしても、だ。
『いのたっ! 教員室にシャトル取り行こー』
……何で菖蒲は、やたらと大喜のそばにいるんだろう。マネージャーの仕事はもう覚えただろうに、不自然なくらいに距離が近い。
あれも相当読めないんだよね、協力するとは言ってくれたけど、どうも不安だ。前に大喜と試合してた遊佐って他校の男子が好きで、大喜自身には興味ないとか言ってはいた。でも興味ない男子のそばに、ああも居たがるもんだろうか。私の為にあれこれ動いてくれているのなら良いんだけど、もしかしたら。
ここで菖蒲まで「実はいのた、結構好きかも」とか言い出したら困るな、せっかくの味方なのに即行で敵に回られると傷付くぞ。
どうもあれは恋が多いと言うか気が多いと言うか校内元カレだらけな蛸足配線女だから、不安はある。でも一方で、そこまでは行かないとも思えている。 菖蒲の元カレはどれもキラキラして目立つタイプだし、向こうから好きだと言ってきたから付き合ったらしい。大喜から菖蒲を好きになる事は有り得ないし、それに大喜はキラキラなんかしてない。地味で目立たない栄明のジャガイモ、あれを菖蒲が好きになったりはしなさそう。付き合いの長い私だからこそ、みたいな所はあると思うんだけど。……でもなあ、多少警戒してしまいたいかもしれない。あれは底なしのバカだけど誰にでも優しいし、顔は可愛いから勘違いするのもいるかも。いやどっちだよ、って話だけど。
女房焼くほど亭主モテもせず、か。〽️愚痴も言うまい悋気もすまい 人の好く人持つ苦労、……は違うかな。
ああ、全く。私と来たら、勝手な事ばかり考えてるな。
さて、それにしても合宿か。そういえばキャンプファイアーもやるそうだし、ちょっとは楽しみにしておくかな。
せっかくの非日常だ、満喫させてもらおう。