七武海ですが麦わらの一味に入れますか?   作:赤坂緑

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大変......大変長らくお待たせいたしました......(土下座

もう話の内容をお忘れになっている読者の方もいらっしゃるかと思いますので、簡単にこれまでのあらすじを説明させていただきます。


カイドウに七武海の皆で喧嘩を売りに来た。以上。


開戦

 

七武海たちを従え国盗りに来たと宣告したドフラミンゴに対し、カイドウは真剣な表情で言った。

 

「この国を奪いに来た、か。まさかワノ国の弱者どもを哀れんで……ってわけじゃあなさそうだな」

「当たり前だろう」

「では何故この国を欲する?」

 

不敵な笑みを浮かべドフラミンゴは答えた。

 

「野心のため」

 

七武海連合の盟主が突きつけるあまりにも真っすぐな欲求。

ある意味で、この場にいる誰よりも強欲で、海賊らしいその言葉を聞いてカイドウは笑った。

 

「ウォロロロ! いいぜ! 良く言った! それでこそ海賊だ! だが――」

 

横並びの七武海を前にそれでも四皇は笑う。

 

「テメェ、()()()()()()()()()()()()()?」

 

圧倒的な覇気が鬼ヶ島を支配する。

シュガーがこの場に居れば間違いなく意識を失っていただろう。

世界最強格の力を戦わずとも見せつけてくるカイドウを前にしかし、ドフラミンゴは落ち着いていた。

 

「分かっていなきゃここにはいねェよ。テメェは俺が七武海であることを知りながらうちの国に攻め込んできた。世界の均衡を保つ俺たち七武海が舐められたんだ。このまま黙って終わるわけにはいかねェだろ?」

「だから俺の国に討ち入りか。ウォロロロ……確かに理には適っているが、テメェ一つ計算違いをしてるぜ――雑魚七人揃えた程度で四皇に勝てるわけねェだろうが」

 

ゾッとするほど冷たい瞳でカイドウが七武海を睨みつける。

舐められたと感じているのは彼とて同じ。

この程度の戦力で百獣海賊団に太刀打ちできると思われていることに憤りを感じていた。

 

「ふん、俺たちが雑魚か……おいカイドウ! もうちんたら話し合うのは止めようぜ。ここまで来たんだ。さっさと始めようッ!」

「ウォロロロ……その意見には同意だ。野郎ども! 宴は延期だ! コイツらを皆殺しにしてから仕切り直しにするぞ!」

 

両軍の大将は口を揃えて宣言した。

 

「「開戦だッ‼」」

 

鬼ヶ島内が歓喜と狂気の声で埋め尽くされる。

七武海を圧倒する数と言う名の力。

しかし少数である七武海たちは誰一人として動じることなく真っすぐに四皇を見据えている。

 

誰が仕掛けるのか。

今すぐにでも押し寄せてきそうな百獣海賊団の大軍を前に戦いの幕を切って落としたのは意外な人物だった。

 

「頼むぜ、鷹の目」

「心得た」

 

世界最強の剣士が背中の大剣に手を伸ばす。

 

(百獣のカイドウか)

 

世界最強の生物と名高い四皇が一人。

相手にとって不足なし。

 

一瞬で抜刀した鷹の目ミホークは“夜”を真っすぐにカイドウへ振り下ろした。

世界最強の斬撃が飛び、遠距離武器のようにカイドウへ一直線に伸びていく。

原作の頂上決戦と違い、四皇までの距離はそこまで遠くない。

 

カイドウが誇る最強の肉体か、ミホークが誇る最強の斬撃か。

誰もが気になる矛盾の答えはしかし、まだ明らかにはならない。

 

「させん!」

 

カイドウを守るように奇妙な黒い影がミホークの斬撃に割り込んできた。

その影は世界最強の斬撃を真っ正面から受けてしかし――倒れない。 

 

「ウオロロロ……どうだったキング。世界最強の斬撃は」

「確かに重いが……俺に傷を負わせるほどじゃないな」

 

黒い翼に黒い衣装。そして背中から噴き出す炎。

異形の塊のような彼こそが大看板を背負うカイドウの右腕。

“火災のキング”である。

 

堂々と立つ四皇最高幹部を目にしたキリアは思わず叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり“キング”は取れねェだろうよいッ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「???????」」」」」」

 

鬼ヶ島内が沈黙に包まれる。

四皇たちだけでなく味方の七武海まで首を傾げる地獄のような空気が形成される中、ドフラミンゴは渋々口を開いた。

 

「……お前、突然どうした?」

「いえ、なんか言わなきゃいけない気がしたんで」

「ふざけんな!」

 

せっかくドフラミンゴが討ち入りの台詞をカッコよく決めたのにこれでは全部台無しである。

 

「なぁ、頼むから思い付きで何でもかんでも口にする癖直せよ!」

「うっす」

「ったく、この空気どうすんだよ……」

 

場に弛緩した空気が流れる。

折角の戦闘ムードをぶち壊されたドフラミンゴが嘆くが、こういうギャグよりの空気に左右されない頼もしい人材が居た。

 

「安心しろ。テメェらはここで俺が殺すッ‼」

 

空気などお構いなくミホークの斬撃からカイドウを庇ったキングがプテラノドンの姿に変身し、凄まじい速度でドフラミンゴ目掛けて突進を仕掛けてきた。

軽い空気になりながらも油断などしていなかったドフラミンゴが構えるが、それよりも先に七武海の列から飛び出した男がその突進を食い止めた。

 

「鷹の目のミホーク……!」

「俺の斬撃が効かなかったとはプライドが傷つくな。貴様の首で慰めにするとしよう」

 

プテラノドンに変身したキングの嘴を難なく剣で受け止めながら世界最強の剣士が笑う。

 

「調子に乗るなッ!」

 

空中で身を翻したキングは自慢の蹴りを放つが、見事な体捌きでそれを躱したミホークは一呼吸で氷山をも切り裂く斬撃を繰り出した。

 

「ぐっ……!」

 

キングの種族特性による防御力は絶対だ。

無論、今の斬撃でも傷を負ったわけではない。

しかし桁違いの威力に踏ん張りが利かず、キングはボールのように吹き飛ばされた。

 

「ふむ……やはり堅いな。不自然なまでに堅い」

 

軽々と四皇最高幹部を吹き飛ばしたミホークは不思議そうな表情を浮かべながら愛刀を眺めた。

世界最強の剣士として君臨するミホークに斬れないものなど存在しない――否、存在してはならない。

 

戦闘を欲してこの島に降り立った男はニヤリと不敵に笑った。

 

「面白い。斬りがいのある者がいるな」

「……おい、鷹の目。盛り上がっているところ悪いが作戦忘れてねェよな?」

「分かっている。すぐに終わらせて後で合流するからお前たちは先に行っていろ」

 

四皇最高幹部をすぐに倒すと宣告しながらミホークは吹き飛ばしたキングを追って“夜”を手に悠々と歩みを進める。

しかしそんな彼の行き先に巨大な影が立ちふさがった。

 

「おいこら鷹野郎! テメェ、好き勝手やってくれるじゃねェか!」

「……疫災のクイーンか。そこをどけ。貴様に用はない」

「あァ? 随分と舐めた態度取ってくれるじゃねェか! この百獣海賊団のアイドルクイーン様を前によォ!」

 

ミホークの前に立ちはだかり、分かりやすい挑発をしながらもクイーンの頭の中は冷静だった。

海兵狩りとして名を上げ、遂には世界最強まで上り詰めた人類の最強格。

目の前の男の危険度を把握しているからこそキングが復活してくるまでの時間を稼ごうとしていたのだ。

 

そんな中、キリアはのんびりとハンコックに話しかけた。

 

「あっ、女王。ちょっといいですか?」

「なんじゃ?」

「あのクイーンとかいうデブ、自分こそがこの世で一番美しい女王だってこの間言ってましたよ?」

「ほう?」

「ボア・ハンコックなんて屁でもないって」

「――そうか」

 

コソコソと話し合う怪物と女王など眼中にないクイーンは見聞色でキングの様子を探りながら挑発を続ける。

 

「鷹野郎。テメェ、剣士と戦うことに随分と執着しているらしいじゃねェか。どうだ? 俺だって剣士だぜ? 一戦交えて行けよ」

「その玩具のような剣でか? 貴様に剣士としての誇りは感じられん。いいからそこをどけ」

「剣士としての誇りだァ? ムハハハ! 馬鹿を言うんじゃねェ! そんなもんはキングだって持ち合わせちゃいねェよ!」

 

ミホークの発言を鼻で笑いながらクイーンは抜刀した。

 

「馬鹿正直に真正面から乗り込んできたことを後悔させてやるよ! 七武海ども!」

「――そこをどけ、下郎」

「ぶげらッ⁉」

 

強烈な蹴りを腹部に受け、見事なエネル顔を晒しながら吹き飛んでいくクイーン。

ミホークと同じく強烈な一撃で四皇最高幹部を吹き飛ばす武力を見せつけた彼女は美しく地上に着地した。

 

「げほっ……いきなりこの俺を蹴り飛ばすとはとんだ礼儀知らずがいるなァ! しかも鷹の目となかなかクールなやり取りをしている最中に攻撃を仕掛けてくるとは空気の読めねェ野郎だぜ。一体どこの誰が――海賊女帝ボア・ハンコック⁉

 

クイーンは目ん玉を飛び出しながら驚いた。

ハンコックは絶対零度の視線を向けながら告げる。

 

「許可なくわらわの名を呼ぶな」

「おいおい、随分と冷てェじゃねェか。仲良くいこうぜ?」

「わらわの許可なく立ち上がるな」

「おぉ、キツイぜ。だが……世界一の美女ってのは誇張じゃなかったらしいなァ。ん~! 美しいぜ!」

「許可なくわらわを見るな」

「ところで海賊女帝さんよ、テメェどうしていきなり俺を蹴り飛ばしたんだ?」

「わらわの許可なく口を開くな」

よぉし! 良く分かった! テメェ、性格最悪だろッ‼

 

何も許してくれない海賊女帝のあまりの理不尽さにクイーンがツッコミをいれる。

ミホークは鬱陶しいクイーンをぶっ飛ばしたハンコックに意外そうな視線を向けた。

 

「珍しいな海賊女帝が出陣か」

「貴様に言われたくはないわ、鷹の目。――こやつはわらわが始末しておく。さっさと先に行け」

「……どういうつもりかは知らないが、頼んだぞ」

 

ハンコックにクイーンを任せ、鷹の目のミホークが先へと進んでいく。

 

「おいこら! 待て!」

 

ミホークのことを止めようと動くクイーンだが、そんな彼の全身に強烈なプレッシャーが襲い掛かり、思わず動きを止めてしまう。

悠々と歩みを進めるミホークの背を睨みつけていたクイーンだがゆっくりと覇王色を放ったハンコックの方を振り向いた。

 

「――おい、ちょっと調子に乗りすぎなんじゃねぇか? 女王さんよ。テメェら雑魚の分際で誰の許しを得て好き勝手してやがるんだ?」

「ほざけ! わらわは何をしようと許される! なぜなら――」

 

見下しすぎて逆に上を見上げながらハンコックは堂々と確たる真実を口にした。

 

わらわは美しいから‼

「……それは理由になってんのか?」

 

冷静にツッコミを入れながらクイーンが構える。

ハンコックは怒りのままに突撃し、その強烈な足技を放つ。

 

女王の名を持つ2人が衝突した。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ウォロロロ! 盛り上がって来たじゃねぇか!」

「おいおい、大事な部下が七武海に蹂躙されようとしているのに随分と呑気じゃねぇか、カイドウ」

「馬鹿を言え! アイツらの強さは俺自身が良く知っている! そう簡単にやられはしねぇよ」

 

自分の部下たちを称賛しながらカイドウは残る七武海たちを睨みつけた。

 

「さて、残ったテメェらは俺が相手を……と言ってやりてぇが、俺以外にも戦いたくてうずうずしている連中がいるようだなぁ」

「――その通りだぜ、カイドウさん」

 

カイドウの後ろから一歩を踏み出し、姿を現したるは最後の大看板、旱害のジャック。

彼は怒りの表情を浮かべながら七武海たちを睨みつける。

 

「ここまで百獣海賊団を舐められて大看板の俺が黙っているわけにはいかねェ。七武海だか何だか知らねぇが、ここで全員始末してやるよッ!」

 

愛用の刀を取り出し、二階の宴会会場から飛び降りたジャックが連合の盟主であるドフラミンゴの首を狙う。

ドフラミンゴは応戦する前に鷹の目やハンコックのようにキリアが率先して幹部を倒しに行ってくれないか期待しながら横を見るが――

 

「ん?」

「……」

 

肝心のクソ馬鹿が呑気に鼻をほじっていたので仕方なく自分で対処すべく糸を張り巡らせた。

 

「死ねぇ――!」

「させんッ!」

 

だが、どこぞの馬鹿と違って気が利く人材がまだ七武海には残っていた。

突撃してくるジャックとドフラミンゴの間に割り込んでくる一人の漢。

振り下ろされた双刀を武装色でコーティングした両腕で弾き、漢は固く握ったその拳を解放させた。

 

五千枚瓦正拳ッ!

 

炸裂する魚人空手の技。

血の滲むような研鑽を重ねることによって完成させたその拳は凄まじい巨体を誇るジャックを易々と吹き飛ばして見せた。

 

「ジンベエ……」

「早速鷹の目たちが勝手に動きよったせいで作戦は台無しじゃが……盟主のお主が幹部に討ち取られるのはまずいじゃろう? あいつはワシが相手をする。お前たちは先に行け!」

「俺がアイツに負けるとは思えねぇが……その気遣いはありがたく貰っておこう。頼むぜ、ジンベエ」

「心得た」

 

仁義によってこの国へやって来た漢が力強く頷く。

一方、他の大看板たちと同じように吹き飛ばされたジャックは瓦礫を吹き飛ばして立ち上がった。

 

「海侠のジンベエ……! 随分といいパンチを撃つじゃねェか! 流石は魚人族の中でも最強と称されるだけのことはある」

「その割には納得のいってなさそうな顔じゃな」

「あたり前だ。俺ァ、こう見えても魚人の血が流れていてなァ……最強の座を好き勝手にされるのは気に入らねェんだッ!」

「そうか……ならばその腕で示してみるがいい、お主の力を。だが覚悟するんじゃな」

 

七武海入りの理由も政治的な意味合いが強いジンベエではあるが、その実力が七武海に相応しくないかと言うと、決してそんなことはない。

寧ろタイヨウの海賊団として暴れ、海軍に危険人物と認定されたその実力は本物だ。

さらに彼は日々鍛錬を怠ることなく、今もまだ強くなり続けている。

 

唐草瓦正拳ッ!

「ッ!」

 

見た目にそぐわない俊敏な動きで移動したジンベエはジャックへと強烈な正拳突きを食らわせた。

 

「わしは強いぞ」

 

最強の魚人が牙をむいた。

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

「ジャックも行っちまったか……こうなると、残るは俺と」

 

カイドウはぐるりと首を動かして宴会会場内を見渡した。

 

「俺の可愛い部下たちだけだな」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉッ‼」」」」」

 

会場を包み込む百獣海賊団の雄たけび。

 

ドフラミンゴ、キリア、ハンコックの覇王色を受けて半分以下に数は減ったものの、七武海に比べ多勢であることに変わりはない。

さらに大看板たちは戦闘を開始してこの場を離れたが、まだ彼らが残っている。

 

真打と呼ばれる精鋭たち。

その中でも特に秀でた実力者として一目置かれている強者。

その名を――

 

“飛び六胞”

 

「おいテメェら! 勝手に人の家に上がり込んで何をしているでごわすか! ぶっ殺りんすよ!」

 

動物系古代種リュウリュウの実 モデル“パキケファロサウルス”の能力者。

懸賞金 4億ベリー。

うるティ。

 

「ぶっ殺りんすって何言葉だよ……」

 

その弟にして同じく動物系古代種リュウリュウの実 モデル“スピノサウルスの能力者。

懸賞金 2億9000万ベリー。

ページワン。

 

「うふふ、言葉遣いが変なうるティちゃん可愛い♡」

 

吠えるうるティを見て妖艶に微笑む巨体の美女。

動物系古代種クモクモの実モデル“ロサミガレ・グラウボゲリィ”の能力者。

懸賞金4億8000万ベリー。

ブラックマリア。

 

さらにその後方には同じく飛び六胞の一人であるササキが率いる鉄壁の装甲部隊が控え、さらに残り2人の飛び六胞たちも血を求めて目をぎらつかせている。

 

この分厚い戦力を突破することは容易なことではない。

 

しかし、ドフラミンゴに焦りはなかった。

 

「……旅行するならどこへ行きたい?」

 

一瞬で飛び六胞たちの前に現れた巨体の男が今にも消え入りそうな声でそっと呟く。

暴君バーソロミュー・くま。

契約に基づきこの場に参戦した男は自分の仕事を全うすべく、手袋を外しながら律儀に問い掛ける。

ギロリとくまを睨みつけたうるティは不機嫌そうな表情で答えた。

 

「天気が良い南国でごわす。ここはカイドウの馬鹿のせいで曇りが多くて嫌いじゃ」

「おい! なんてことを言うんだ馬鹿姉貴! あと流石に語尾がブレすぎだ!」

「馬鹿とは何でありんすかぺーたん!」

「敵の前でぺーたん言うなッ!」

 

ガヤガヤとやかましく喧嘩をしながらも百獣海賊団が誇る姉弟コンビは油断することなく不気味な七武海を前に臨戦態勢を取る。

 

すっかりやる気になった同僚を見た飛び六胞の一人、ブラックマリアは困ったように色っぽく溜息をついた。

 

「あらら、二人ともすっかりやる気になっちゃって……じゃあ、私のお相手はそこのあなたかしら?」

「キシシシ! ゾンビにすればいい戦力になりそうな女だな!」

「あら、こんな美女捕まえてゾンビだなんて。趣味が悪いわね」

全くだぜ!

 

突如モリアの横から割って入って来た男が大声でブラックマリアの言葉を肯定する。

眼をハートにしながら現れた馬鹿の名を怪物キリアという。

 

「あら、あなたは……」

「お初にお目にかかります。俺の名はキリア。そこの馬鹿はモリアといいます」

「おい」

「あぁ、噂は聞いているよ。随分と滅茶苦茶な男なんだって?」

「ハハハ、照れますね」

「褒めてはないけどねぇ」

「それにしても、あなたのような美女をゾンビにしようだなんて……うちの同僚が失礼いたしました。お嬢さん」

「まぁ、お嬢さんだなんて!」

 

何やら照れている様子のブラックマリアにニッコリと微笑みかけてからキリアは後ろを振り向いた。

 

「おいモリア! テメェ何を考えてんだ馬鹿野郎! こんな美女をゾンビにするだとか、セクハラって言葉知ってるか? 今のご時世ハラスメントに厳しいんだからそこら辺もっと考えろよ馬鹿野郎! アニメで放送できなくなんだろうが! 俺に殺されてェのかテメェは⁉」

「……おい、ドフラミンゴ。コイツは味方ってことで良かったよな?」

「いや、戦いが終わった後なら殺してゾンビにしていい」

「分かった」

 

先輩七武海たちの発言を華麗にスルーし、キリアは再びブラックマリアの方を向いた。

 

「大変失礼しましたお嬢さん。この馬鹿には俺の方からきっちりと言い聞かせておきましたので」

「あら、話の分かる七武海もいるのね。ということは……私の相手をしてくれるのはあなたかしら? イケメンのお兄さん♡」

「はい! そうです♡」

テメェじゃねぇよ

 

喜ぶキリアの首根っこを掴み、ドフラミンゴは馬鹿を引きずっていく。

 

「あぁ、そんなぁ! 俺はあの美女と戦うんだ! 離してよパイセン!」

「馬鹿を言うんじゃねぇ! テメェはカイドウと戦うんだよ!」

「嫌だよ! どうしてあんな髭面メンヘラ拗らせ中年露出狂酒臭おじさんと戦わなきゃいけないんだ⁉ 嫌だよ! カイドウキモいよぉぉぉぉぉぉぉ!」

「……」

「馬鹿! 俺だって同意見だが、アイツと戦うって決めただろうが! 男なら腹くくれ!」

 

さらっとキリアの言葉に同意してカイドウに精神ダメージを与えていくドフラミンゴ。

 

「あとは任せたぞ、モリア」

「あぁ。テメェもそいつを任せたぞ」

「……あぁ」

 

こうして飛び六胞たちはくまとモリアが相手をすることが決まった。

 

◆◆◆◆

 

 

大看板たちは宴会場を離れ、飛び六胞たちもまた戦闘を開始している。

宴会会場を覆いつくしていた圧倒的な数の戦士は今や無惨……! キリア、ドフラミンゴ、ハンコックの覇王色でかなり人数が削られていた。

 

覇王色に耐えて残っている強者たちもいるが、彼らとてこの2人を前にしては雑魚も同然だろう。

 

悠々と歩みを進めた最後の七武海であるドフラミンゴとキリアは宴会会場の2階にて悠長に酒を飲んでいるカイドウを見上げた。

流石にここまで来てふざけるほどキリアの頭は終わってはいない。

ドフラミンゴと共に鋭い視線で百獣海賊団の長を睨みつけている。

 

 

二人の視線を真っ向から受け止めながら酒を一升飲み干したカイドウは酒臭い息を吐き出してから言った。

 

髭面メンヘラ拗らせ中年露出狂酒臭おじさんで悪かったな

「根に持ってんのかい。意外と女々しいんだな、お前」

「流石に言っていいことと悪いことがあるだろうが」

「否定はできない」

 

カイドウの性格が女々しいことに驚きながらもドフラミンゴは言い過ぎの馬鹿を横目で睨む。

馬鹿は極めて真剣な表情でカイドウを睨みつけながら鼻くそをほじっていた。

 

「……まぁ、この馬鹿のことは無視するとして。俺たちもそろそろ始めようじゃねェか、カイドウ」

「ウォロロロ……なんだ、本当にテメェら2人だけで俺を相手にするつもりか? この間のドレスローザでは手も足も出なかったくせに」

「確かにこの間は不甲斐ない戦いをしちまったが……前までの俺たちと同じと思ってもらっちゃ困るな。あれから一か月経った。俺たちだって何もしなかったわけじゃねェんだぜ?」

「たった一か月で俺と張り合えるくらいにまで強くなれるんなら苦労はしねェんだよ! だがまぁ、テメェら以外に戦う奴らが残ってねェのも事実か……あまり気乗りしないが仕方ねェ。ついて来い」

 

そう言ってカイドウは巨大な青龍の姿になって天井を突き破り、鬼ヶ島ドームの屋上へと昇って行った。

 

「……行くぞ、キリア」

「うっす」

 

カイドウと同じく飛行能力を有している二人もその背中を追う。

キリアが竜の翼を羽ばたかせ、ドフラミンゴが糸を操りながら屋上に到達した時、カイドウは満月の光を浴びながら佇んでいた。

その圧倒的な存在感は神話上の生物と言っても過言ではないほどだ。

 

『ウォロロロ……今宵は満月か。テメェらを殺したら月見酒と洒落こむか』

「余裕かましていていいのか? 飲みたいなら今のうちに飲んでおくことを勧めるよ」

『デカい口を叩くじゃねェか、新人。すぐに楽にしてやるからそう生き急ぐな』

「こっちは善意で言ってあげてるんだけどなー」

『ふん、相変わらず舐めた野郎だ。……始まる前に一つ聞いておきたい。怪物野郎、テメェさっき覇王色を使ってやがったな?』

「あぁ、使ったよ。なんだ? 羨ましいのか?」

『ほざけ! 俺が聞きてぇのはどうしてテメェのようなちゃらんぽらんに覇王の資質が宿っているのかだ! テメェ、アホの振りをしているだけで実は王の座を狙っているのか?』

「さぁ、どうだろうね? 一発殴らせてくれたら教えてあげてもいいよ」

 

「ウォロロロ……やっぱり読めねェ奴だ」

 

龍の姿から人の姿に戻ったカイドウはキリアの読めない言動に多少イラつきながらも戦いを始めるべく自慢の金棒を握った。

 

「俺ァ、強い奴が好きだ。さっきは部下たちの手前雑魚といったが、テメェらのことだって結構好きなんだぜ? だからよぉ――」

 

全身に凶悪な覇気を巡らせながらカイドウは牙をむいて笑った。

 

「頼むからテメェらのこと、嫌いにさせないでくれ」

 

臨戦態勢に入った四皇を前にキリアが構える。

竜の翼を展開し、右腕を竜頭に変化させ、脚を山羊のそれに変化させる。

同じように臨戦態勢を取るドフラミンゴは指揮者のように両腕を持ち上げた。

 

「安心しろ。失望はさせねェよ。やれ! キリア!」

「おう!」

「ッ⁉」

 

開戦は突然だった。

ドフラミンゴが両手を翳した瞬間にカイドウの身体が一瞬だが硬直させられる。

 

(会話の最中に仕込んでやがったのか……!)

 

だが、以前にもこの糸による拘束は経験している。

難なくドフラミンゴの糸から力ずくで脱出したカイドウは視線を上げて驚愕した。

 

 

「開戦っていったらやっぱり()()だよなァ!」

 

(なんだコイツ! 前より早ェ……!)

 

凄まじい速度でカイドウへ接近していたキリア。

彼は不敵な笑みを浮かべながら竜に変化した右腕を振り上げる。

そのまま覇気を込めて殴りつけるだけであればいつも通りの攻撃ではあるが――今回は少し違った。

 

(悪ぃな、船長。アンタの技、ちょいと借りるぜッ!)

 

竜の口が開き、火炎を吐き出す。

その炎を竜頭の拳全体に纏わせる。

正史の世界において、かの麦わらの男が横たわる侍たちを目にし、怒りと共にカイドウへ放った拳。

 

慢心する四皇たちの目を覚まさせた未来の海賊王の一撃。

技の威力も、戦う理由も、背負っているものも、何もかもが違う。

 

しかし、その拳を構えるキリアに一瞬だけ麦わら帽子を被る太陽のような男の影が重なった。

 

業火竜拳(レッドロック)ッ――‼」

 

炎を纏った巨大な拳がカイドウの顔面に突き刺さる。

 

(なんだ、この威力は……!)

 

顔面を歪ませながらも何とか持ちこたえていたカイドウだが、遂には踏ん張りが利かず殴り飛ばされた。

地面に頭をめり込ませながらも致命傷には至っていないのか、ゆっくりと顔を上げるカイドウ。

だが、その瞳には油断の色など欠片も残っていなかった。

 

地面に着地したキリアは自慢の金髪を整えながら事前の問答通り、殴らせてくれた四皇に向かって口を開いた。

 

「王の座を狙っているのかって言ってたね。悪いけど、俺は王になんて欠片も興味はないよ。ましてや海賊王なんて本当に心底どうでもいいんだ」

「……」

「でも、アンタを倒せるならなってやってもいいよ? 王様に」

「……なんの王にだ?」

 

百獣のカイドウにキリアは答えた。

 

 

 

「怪物の王に」

 

 

 

覇王の資質を持つ七武海の異端児が不敵に笑う。

 

鬼ヶ島の各地で巻き起こる戦い。

こうして後世まで語り継がれる七人の海賊の伝説――百獣海賊団との大戦争がここに開戦となった。

 




怪物の王=世の中で怪物って呼ばれる理不尽な過去と強さを持つ奴らの王
→理不尽の王

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