マジックワールドにて。
とある目的の為、高い魔力を持つ《魔財宝》と呼ばれる宝石を集めている怪盗団、その名も《ドラゴ怪盗団》

彼らは仕事の終わりの後、1人の気絶していた少年を保護する。
彼はマジックワールドと繋がっていない人間界から迷いこんでいた。
自分の世界で虐められいた彼は、自分の世界を捨て怪盗となる道を選ぶ。

ドラゴンの怪盗団が織りなす華麗な“ショー”の物語。
これは、それのほんの1ページ。


注意

①ISとバディファイトのクロスオーバーです。
 苦手な方はブラウザバックを。

②ドラゴ怪盗はアニメでも漫画でも出番が無かったので作者の妄想がかなり混じっています。

③IS学園が舞台ではありません。

④この作品は読み切りです。

以上が理解できる方は、お楽しみください!


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この小説は、元々作者が連載している「無限の成層圏と煉獄騎士」の番外編として思い付いたものでした。
ですが、いろいろと考えていくうちに番外編とは言えないくらい本編とあれこれ変わったので読み切りとして投稿する事にしました。

それなのにも関わらず結構カバカバな部分があるのでご了承ください。

最後まで読んでいただけると嬉しいです!


無限の成層圏と怪盗団

「クッソォ!待てハリー!!」

 

 

「That’s all for today!それでは、良い夜を!!」

 

 

不思議な事に、シルクハットをかぶった竜の紋章が浮かび上がっている満月輝く空の下。

怒りに満ちた叫び声と、高らかに笑う声が響く。

 

 

怒り声の主は、警察官の制服を着用しており、その身体は網でぐるぐるになっており、身動きが取れる状況にない。

笑い声の主は、シルクハットをかぶり、目元に漆黒のマスクを装着し、赤黒のマントで身を包み、小型艇に乗り込んでいた。

 

 

対峙する2人。

いや、2『人』では無いのかもしれない。

何故なら2人の露出している顔や両手足は、人間のものではなく、まるで竜のようなものであったから。

 

 

「ハッハハハ!!」

 

 

その笑い声を残し、小型艇は一瞬にして影も形も綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

「クソォ!また逃げられたぁ!絶対に許さんぞ!ハリーィィィ!!」

 

 

未だに網でぐるっぐるなので、いまいちカッコ付かない状態でのその叫びは、満月だけが聞いていた。

 

 

 

 

 

この世界は、人間が暮らしている世界では無い。

マジックワールド。

これがこの世界の名前である。

 

 

マジックワールドは『親近界』と呼ばれる異世界の1つ。

人間界と親近界は、1つのカードゲームで結ばれていた。

そのカードゲームとは、『バディファイト』と呼ばれている。

 

 

親近界の住民はバディモンスターと呼ばれており、バディファイトをプレイする人間はファイターと呼ばれる。

バディモンスターは、自分が気に入ったファイターと相棒(バディ)を組み、人間界に滞在するのである。

 

 

 

 

 

「フフフ、今日も良いショーを行えました」

 

 

「ハリー!お疲れじゃん!」

 

 

小型艇、《チェイサー・ビートル》に乗っていた竜人《華麗なる怪盗 ウィンズ・ハリー》が空を飛んでいると、下からそんな声が聞こえてきた。

ハリーがその方向に視線を向けると、地面に立ち両手をブンブンとふる竜人が1人。

 

 

「あなたもお疲れ様です、アカウィン」

 

 

ハリーは優しく声を掛けながらチェイサー・ビートルの高度を下げる。

彼の名は《天下の怪盗 モン・アカウィン》。

ハリーの仲間であり、子分のような存在である。

 

 

「ハリー、今日の“しょう”は如何だったんじゃん!?」

 

 

「完璧ですよ」

 

 

アカウィンの言葉に、ハリーはチェイサー・ビートルの後方に積んである袋に視線を向ける。

キラッキラした瞳でアカウィンはその袋を開け、中に入っているモノを見て嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「大量じゃん!」

 

 

「はい、今日は大量です。さ、帰りますよ。アカウィン、乗って下さい」

 

 

ハリーは再びチェイサー・ビートルに乗り込み、アカウィンもそれに続く。

そしてチェイサー・ビートルは目的地に向かって飛び立つ。

それから10分ほど経った時、

 

 

「っ!ハリー!大変じゃん!!」

 

 

アカウィンが慌てた様子でそう声を発した。

 

 

「どうしましたか?」

 

 

「人間!人間が倒れてるじゃん!」

 

 

「人間が?」

 

 

ハリーは一瞬ありえないと考えた。

此処はマジックワールドだ。

バディモンスターが人間界に行く事はあれど、人間が親近界に来ること等滅多にない。

仮にあったしても、その場合はバディの付き添いがある筈。

アカウィンがわざわざ「倒れている」と言ったという事は、バディ不在という事だろう。

 

 

(だが、人間が単身でこちらに迷い込んでしまった事例が無い訳では無い。確か…そうそう、黒渦ガイト…でしたね)

 

 

マジックワールドとは異なる親近界の1つ、ダークネスドラゴンワールドではこのような事例があった事を思い出した。

ハリーは一瞬で考えを巡らせ、チェイサー・ビートルの進路を変更。

再び下降させる。

 

 

「アカウィン、先に行っていただけますか?」

 

 

「おう!任せろじゃん!」

 

 

アカウィンはチェイサー・ビートルから飛び降り、倒れている人間の元に急ぐ。

 

 

「おい!しっかりしろじゃん!」

 

 

アカウィンは人間の上体を軽く起こさせ、声を掛ける。

だが、人間の反応は無い。

チェイサー・ビートルを着陸させたハリーも側にやって来る。

 

 

「大丈夫ですか?返事を」

 

 

ハリーの呼びかけにも応じない。

 

 

「気絶してしまっているようですね…」

 

 

そう呟いたハリーは、改めて倒れていた人間の事を見る。

12、13歳頃であろう少年だった。

黒髪で整った顔立ち。

身長は平均より少し高いくらいだろう。

だが、身体がやけに細い印象を覚えた。

 

 

そんな情報よりも、ハリーとアカウィンの視線を引き付けるものがあった。

ボロボロの服。

そして、開いてしまった穴から見える、夥しい傷跡。

擦り傷、切り傷、打撲跡等々、全身に長時間暴行を受けなかったら到底出来ないような傷が、全身に広がっていた。

 

 

「…連れて帰りましょう」

 

 

「えっ!?良いのかじゃん?」

 

 

「アカウィン、私には私なりのプライドがあるんですよ。何故かこの子を放ってはおけません」

 

 

「ハリーがそう言うなら、それに従うじゃん!」

 

 

アカウィンから少年を受け取ったハリーはチェイサー・ビートルに優しく乗せ、自分も搭乗する。

アカウィンが慌てて飛び乗った直後、チェイサー・ビートルは目的地に向かって全速力で向かっていく。

その上空に浮かぶ満月が、何処か不吉な雰囲気を放っていた。

 

 


 

 

マジックワールドの上空に浮かぶ、幾つもの歯車と蒸気機関を持つ、巨大な機械仕掛けの要塞。

《ドラゴ怪盗の天空城“ルブラ・モーリス”》

その1室に、先程ハリー達が保護した少年が、治療をされ寝かされていた。

 

 

ルブラ・モーリス。

それは、怪盗団の根城にして住処。

伝説の大秘宝の為、日夜活動をしている。

 

 

ドラゴ怪盗。

とある目的の為に、マジックワールドに存在する『魔財宝』と呼ばれる宝石を集めている怪盗団。

そのリーダーこそがハリーである。

所属している怪盗たちはなかなか個性的。

その盗みは華麗で、人々の心を魅了する。

 

 

少年がルブラ・モーリスに運び込まれてから、約1時間が経過した。

 

 

「ん、んんぅ…?」

 

 

今の今まで気絶していた少年が目を覚ました。

寝起きで思考がまわらないようで、ボーッと天井を見上げる。

 

 

「ここ、何処…?俺、なんでこんなところに……?」

 

 

見た事の無い天井。

軽く体を起こし見回すと、やっぱり見た事の無い部屋。

こんなところで寝ていたら、誰だって混乱するに決まっている。

 

 

「っ!あ、アイツ等は!?」

 

 

少年は、急にビクっと身体を震わせると、部屋の中をキョロキョロと確認する。

まるで何かに怯えているような表情を浮かべていたが、暫くするとひとまず安心したかのようにホッと息を吐いた。

ここで、少年は自分の身体が治療されている事に気が付いた。

 

 

「……誰がしてくれたんだろう?っていうか、此処本当にどこだろう?あの廃倉庫から離れてるのかな?」

 

 

少年がしばし考えを巡らせていると、突如として部屋の扉が開いた。

 

 

「おや、目を覚ましたようですね」

 

 

その声を聞き、声の主が自分を助けてくれた人だと少年は察した。

取り敢えずお礼を言おうと身体の向きを入り口の方に向ける。

 

 

「助けてくれてありがと…ええっ!?」

 

 

だが、入って来たハリーを見て少年は驚きの表情を浮かべる。

人だと思って振り返ったら人じゃなかったのだ。

それは驚く。

 

 

「フム、バディモンスターを実際に見るのは初めてかな?」

 

 

「ばでぃ…もんすたー?」

 

 

ハリーの言葉に、少年は首を捻る。

バディとモンスター、それぞれの言葉の意味は分かっている。

だけど、それを繋げた言葉は初めて聞いた。

 

 

そんな少年の反応を見て、ハリーは表情こそ変えないものの心の中ではまた疑問を感じていた。

ハリーは実際に人間界に行ったことが無いが、向こうの情報は持っている。

例えこの少年が田舎出身だったとしても、そして詳しいルールは把握していなくても、バディファイトとモンスターの事くらいは知っている筈。

だが、この反応を見るに全くと言って良いほど知らなさそうだ。

 

 

「さっきまで気絶していたのです、そのあたりの話は落ち着いてからにしましょう」

 

 

「あ、はい…」

 

 

未だに情報を飲み込めていない少年は、そう頷く事しか出来なかった。

そんな反応を見て、ハリーは苦笑を浮かべる。

 

 

「ああ、そう言えば名を名乗っていなかったですね。私の名前はウィンズ・ハリー。ハリーと呼んでください」

 

 

「は、はい、ハリーさん」

 

 

「私に敬語もさん付けもいりません」

 

 

「わ、分かったよ、ハリー」

 

 

少年はぎこちないながらも笑顔を浮かべ、ハリーの名前を呼ぶ。

ハリーは笑顔を浮かべる。

 

 

「もしよろしければ、君の名前を聞いても宜しいかな?」

 

 

「…織斑、一夏」

 

 

少年、織斑一夏は少し言いにくそうな表情を浮かべながら自分の名前を伝える。

 

 

「一夏、食欲はありますか?」

 

 

「食欲…」

 

 

ハリーの言葉を繰り返す一夏。

その瞬間

 

ぐぅぅぅぅぅ

 

と、一夏のお腹が鳴った。

 

 

「っ///」

 

 

「ふふふ、如何やらバッチリの様ですね。貴方の分も食事を用意しておいて正解でした。時間も時間ですし、食事にしましょう。自分で立てますか?」

 

 

「あ、ああ」

 

 

ハリーに言われ、一夏は今の今まで寝ていたベッドから降り、自分の足で立つ。

 

 

「付いて来て下さい」

 

 

ハリーはその言葉を残し、部屋から出て行った。

一夏は慌て部屋から出てハリーを追いかける。

ルブラ・モーリスの中を移動する事数分。

共通食堂の扉の前にやって来た。

 

 

「もう既に私の仲間は揃っています。全員とてもという言葉じゃ足りないくらい個性的ですが、まぁ…大丈夫です」

 

 

いまいち安心できない説明をし、ハリーは食堂の扉を開ける。

一夏は緊張しているのか、扉の隙間からチラリと中の様子を伺う。

食堂の中にはハリーの説明通り、沢山の人影があった。

否、竜人影があった。

 

 

「ハリー、遅かったな」

 

 

「ああ、すまない、彼が起きたので連れて来たんだ」

 

 

ハリーの言葉で、全員の視線が開けっ放しにされた扉に集まる。

ここまで注目されたら、出ない訳にはいかない。

一夏は若干気まずそうにしながら、全員の前に姿を現す。

 

 

「おっ!無事そうで安心したんじゃん!」

 

 

「あ、あはは…」

 

 

アカウィンの嬉しそうな声に、一夏はから笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 

 

「いろいろ話したい事はありますが、取り敢えず食べましょう。一夏はあの空席です」

 

 

ハリーが指差した席に大人しく座る一夏。

机の上にはとても美味しそうだが、見たことも無い料理が並んでいた。

 

 

「それでは、今日のショーも無事に成功したことを祝い」

 

 

ハリーはグラスに赤ワインを注ぎ、軽く掲げる。

それに従い、一夏を含めた全員が同じくワイングラスを掲げる。

 

 

「乾杯」

 

 

『乾杯』

 

 

「か、かんぱい…」

 

 

ハリー達怪盗はワインを1口飲む。

一夏の机の上にもワインが用意されてはいたのだが、未成年である為飲むことはせず、机の上に戻した。

周囲の竜人達はそのまま料理を食べ始める。

だが、一夏はなかなか食べ始めない。

このご飯を自分が食べていいのだろうか、といった不安そうな表情を浮かべながら、ジッと自分の分の料理を眺めていた。

 

 

「一夏、食べないのですか?冷めてしまうと美味しく無いですよ?」

 

 

ハリーの言葉で顔を上げた一夏。

その瞬間に、全員の視線が自分に注がれている事に気が付いた。

 

 

「い、いただきます…」

 

 

注目されているという事実に、一夏は若干緊張した様子で、用意された食事を口に運ぶ。

 

 

「美味しい…」

 

 

そう呟いて、そのままガツガツと食べ始める。

まるでまともな食事をするのが久しぶりかのような食べっぷり。

それを見た竜人達は、微笑ましい表情を浮かべた後、自分達の食事を再開する。

そんな中、ハリーだけは一夏を見て怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

 

(やけに痩せている身体…それに食べる前と後の反応…これは、なかなか事情がありそうですね)

 

 

ワインの入ったグラスを揺らしながらそう考えるハリー。

1口飲み、食事を再開する。

 

 

そこから大体20分後。

全員が食事を完了させ、後片付けを行う。

この時に一夏の手際がこの中の誰よりもよく、全員が驚いていた。

 

 

そんなこんなで落ち着き、話が出来る環境になった。

一夏とハリーが並んで座り、その反対側に竜人達が並んで座る。

 

 

「さ、一先ずは自己紹介からですね。一夏、お願いできますか?」

 

 

「ああ…織斑一夏です。出来れば、苗字で呼ばないで下さいよろしくお願いします」

 

 

一夏は自分の名前を呼び、ペコリと頭を下げる。

一夏が頭を上げた事を確認してから、竜人達が簡単な自己紹介を始める。

 

 

「私の名前はソフィー・パーカーよ。気楽に接してね、よろしく♪」

 

 

「あっしはスター・マウスっていうんさ。まぁ、よろしくなのさぁ」

 

 

「私はベラミー・ハート!高貴な存在さ!よろしく頼むよ、一夏君」

 

 

「吾輩は嘗て一世風靡を巻き起こしたジゴ・マーニである!」

 

 

「俺の名前はリータ・ロレンゾって言うんだ!よろしく頼むぜアミーゴ!」

 

 

「僕はファントマリア・ルドマン。変装が得意なんです。よろしくお願いしますね」

 

 

「僕た…私はトゥエンティ・ファニー!決して小さい20人で1人という訳でないぞ!」

 

 

「オイラはモン・アカウィンって名前なんじゃん!よろしくじゃん!」

 

 

「俺はデビアス・ザ・ウェイク。よろしくな」

 

 

「そして、私がリーダーのウィンズ・ハリー。改めて、よろしくお願いしますね」

 

 

「ああ、よろしく」

 

 

一夏は全員と握手をしていく。

ファニーとの握手の時に若干ドタバタがあったものの、無事に終わり一夏は再び席に着く。

 

 

「それじゃあ、私達が一夏を発見した時の状況を説明しましょうか。でも、その前に一夏に聞いておきたい事があります」

 

 

「なんだ?」

 

 

「バディファイト、というカードゲームの名前を聞いたことはありますか?」

 

 

「ばでぃ、ふぁいと?いや、今初めて聞いた」

 

 

『っ!?』

 

 

一夏が首を捻りながらハリーの疑問に答え、その言葉を聞いたソフィー達は驚きの表情を浮かべる。

その反応を見て、一夏はそんなに当たり前のことなのかと心の中で疑問符を大量発生させる。

 

 

「如何やら、このマジックワールドがどういった世界なのか、から説明する必要がありそうです」

 

 

それから、ハリー達は一夏に丁寧に説明を開始した。

此処が人間の住む世界ではなく、親近界の1つである事。

人間界とはバディファイトで繋がっており、バディモンスターが人間界に滞在する事例もある事。

 

 

「そ、そんな事1回も聞いたこと無い…けど、流石に信じないといけないな…」

 

 

どれもこれも、一夏にとっては初めて聞く事だった。

だけど、ハリー達の言葉を嘘だという事はしなかった。

だって目の前に竜人達が立っているのだ。

信じざるを得ないだろう。

 

 

ハリー達は説明の続きをし始める。

自分達がマジックワールドを拠点に活動するドラゴ怪盗であるという事。

仕事帰りに、1人気絶している一夏を発見し、ルブラ・モーリスまで連れて来て治療を行った事。

 

 

「そう、だったのか。ありがとう、助けてくれて」

 

 

自分が此処にいる経緯を知った一夏は、ハリー達にお礼を言う。

 

 

「気にしないで下さい。それにしても一夏、私達は人間界に実際に行ったことはありませんが、情報は知っています。たとえ出身がどれだけ田舎でも、バディファイトの名前ぐらいは聞けるはずです。ですが、貴方は今日までそれを全く知らなかった」

 

 

「……ああ、今日初めて聞いた」

 

 

自分が知らないものの知名度がそこまであると、こんな反応になるもの仕方が無い。

 

 

「あなたがどのような生活をしていたのかを知らないと、推測すら出来ません。教えてくれませんか、貴方がどんな環境で育ったのかを」

 

 

ハリーの言葉を聞き、一夏は一瞬顔を俯かせた。

その仕草は、説明したくない、というのではなく説明をするために思い出したくないものがある、と言った表情だった。

だが、話さないと話しは何も進まない。

決心をした一夏は、ぽつりぽつりと話し始める。

 

 

物心ついたときから、一夏に両親という存在は居なかった。

家族は、年の離れた姉と双子の兄だけ。

 

 

姉と兄は、優秀な人間だった。

文武両道で成績優秀。

周囲の人間からの評価はとても高かったが、その評価以上に2人は様々なことが出来た。

 

 

そんな2人の弟である一夏は、かなりの期待が重圧のように注がれていた。

だけど、一夏はその期待に応える事が出来なかった。

 

 

一夏が、いわゆる落ちこぼれであるかどうかと問われれば、それは否であった。

平均的よりではあったが、平均を下回る事は無い成績をずっと維持してきた。

だがその成績は、姉兄と比べるとどうしてもパッとしなかった。

それが原因で周囲の大人からは軽蔑され、同級生からは虐められていた。

 

 

一夏は家族に助けを求めた。

だが姉は忙しい事を理由に碌に話を聞かず、兄は虐めの主犯だった。

 

 

そんな攻撃され続ける日々は、ある時を境に更に激化する事になる。

インフィニット・ストラトス、通称ISと呼ばれるパワードスーツの登場だった。

 

 

姉の友人である天才科学者が開発した宇宙に行くためのスーツ。

だが、ISは現存する全ての兵器を上回る力を秘めていたため、宇宙開発ではなく、兵器として世界に広まっていく事となる。

戦争に発展しないように条約で規制されて以降、競技としての一面が強くなっていく。

 

 

そういった流れの中で、一夏の姉はIS世界最強へと昇りつめ、ブリュンヒルデと呼ばれるようになった。

その結果として、兄は周囲から一層チヤホヤされるようになり、それに比例する形で一夏への攻撃は激しくなっていった。

 

 

そんな中行われた、第二回のIS世界大会。

姉の連覇妨害目的で兄が誘拐されそうになったが、兄は一夏を身代わりにした。

結果として、誘拐された一夏。

その先で暴行を受けたが、隙を付いて自力で脱出。

 

 

逃げるために走って、走って、走って、走って、走って。

体力の限界が来て、何処だか分からない所で倒れた。

そうして目を覚ましたら、ルブラ・モーリスの部屋に寝かされていたという事だ。

 

 

「まぁ、俺が生きてきた環境はこんな感じかな?ごめんね、重たい話して」

 

 

話し終えた一夏はボソッと呟くと、笑みを浮かべる。

だが、その笑みはどう見ても無理をしている、とても痛々しいものだった。

 

 

暫くの間、辺りに重い空気が漂う。

一夏が溜まらずトイレと言って逃げようとした時、

 

 

「今まで頑張って来たんだね。よしよし♪」

 

 

「えっ!?」

 

 

ソフィーが、足音も気配も察知させずに一夏に近付き、そん頭を優しく撫でる。

ソフィーの接近に全くと言って良いほど気が付かなかった事、そして頭を撫でられた事に一夏は驚きの声を発する。

 

 

「頑張って来たのに、それを認められないって辛いよね。初対面の私が言うのはアレかもしれないけど、君の努力は、しっかり理解してあげられるから」

 

 

優しい表情で一夏に語り掛けるソフィー。

それに続くように、珍しく怪盗たちが一夏を励ましていく。

 

 

「そうだぜアミーゴ!自分の努力は、自分に帰って来るんだ!自信を持て!」

 

 

「吾輩の経験から言って、最後に報われるのは君だ!」

 

 

物心ついたときから、誰にも褒められた事が無かった一夏。

初めて、温かい言葉を、優しい言葉を、掛けられた。

 

 

「う、あ、あぁぁぁぁあああああ!!」

 

 

一夏は涙を流した。

今まで流した涙は、悲しみや痛みからのものだった。

だけど、今の涙は、嬉しさからのものだった。

怪盗たちはそんな一夏の事を優しい表情を浮かべながら見守っていた。

 

 

そこから大体10分後。

落ち着いた一夏は気恥ずかしそうにしながら頬をポリポリと掻きながら言葉を発する。

 

 

「ご、ごめん…そして、あ、ありがとう」

 

 

一夏はニコリと笑みを浮かべる。

 

 

「さて、折角の雰囲気を壊すようで申し訳ないのですが、私達が知っている人間界と一夏が生活していた世界の情報の差がやっぱり気になります」

 

 

ハリーのその言葉に全員の表情が一気に真面目なものに変わる。

ハリー達が知っているのは、バディファイトによって親近界と繋がっている人間界。

一夏が生きて来たのは、インフィニット・ストラトスが開発された人間界。

情報が違い過ぎる。

 

 

「……一夏さんの人間界と、あっしらが知ってる人間界は、似てる部分もある異世界って可能性は無いですかねぇ?」

 

 

『っ!それだ!』

 

 

「それ、なのか?」

 

 

マウスが呟いた事に、怪盗たちが一斉に頷き、一夏は首を捻る。

 

 

「そもそも、マジックワールドを始めとした親近界がこれだけ多くあるし、まだ発見されてない世界や、バディファイトで繋がれていない世界があったってなにも不思議では無いな」

 

 

「なかなかに信じがたいが…仮にそうだったとして、何故一夏はマジックワールドに来たんだ?」

 

 

「まだ分からない事だらけだが……魔財宝の影響かもしれない」

 

 

「確かに!今日は魔財宝大量だったじゃん!」

 

 

怪盗たちは意見を交換していく。

だが、訳の分からない事が多く当事者である一夏は置いてけぼりになっていた。

 

 

「…一夏、貴方に聞いておきたい事があります」

 

 

「なんだ、ハリー」

 

 

そんな中、ハリーが一夏に声を掛ける。

一夏がそれに反応した瞬間に、がやがやしていた怪盗たちがすぐさま静かになり2人に視線を向ける。

 

 

「まだまだ考察の範囲内ですが、私達がいける人間界と貴方が生活していた人間界は違う可能性が高いです」

 

 

「ああ、考察の範囲って言っても、もうそこは確定みたいな気がする」

 

 

「そこでですが、貴方は、貴方の世界に帰りたいと思いますか?帰りたいというのならば、私達も出来る限りのサポートは致しますが」

 

 

ハリーの言葉を聞き、一夏は一瞬だけ思考を巡らせた。

自分が生きていた世界で、味方なんていない。

戻ったとしても、あの苦しい日々が続くだけ。

あんな世界に戻る必要なんて、微塵も感じない。

ならば、答えは1つだった。

 

 

「俺は帰らない。帰りたいとも思わない。だから……」

 

 

「こっちの世界で生活する、という事で大丈夫ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

ハリーの言葉に頷く一夏。

その返事を聞いてハリーはニヤリとした笑みを浮かべる。

 

 

「なら、一夏が取れる選択肢は2つです。1つは人間界に行き、保護してもらう事。もう1つは、私の相棒(バディ)になる事」

 

 

『っ!』

 

 

ハリーの提案に、一夏だけでなく怪盗たちも驚きの表情を浮かべる。

 

 

「私達は怪盗なので、私と相棒になるという事は、つまりそう言う事です。勿論、保護を選んだ場合でも特に何もしません。さて、どうしますか?」

 

 

ハリーは笑顔を浮かべ、一夏に右手を差し出す。

尋ねてはいるものの、ハリーは確信していた。

目の前にいるこの少年は、絶対に自分の手を取ると。

 

 

「…ああ!俺はお前の相棒になる!」

 

 

暫くの間迷っていた一夏だが、顔を上げニコッとした笑顔を浮かべると、ガシッとその手を取った。

ハリーはより一層濃い笑みを浮かべると、バサッと身を翻し怪盗たちの方向を向く。

 

 

「我らドラゴ怪盗団、新メンバーだ!」

 

 

『おおぉぉぉぉぉおおおおおお!!』

 

 

ハリーの言葉に、怪盗たちが一斉に喜びの雄叫びを上げる。

 

 

「一夏、もう戻れませんよ」

 

 

「戻るつもりはない。俺は、前に進むから」

 

 

「そうですか。では、これからよろしくお願いしますね、私の相棒くん?」

 

 

「ああ、よろしく!」

 

 

一夏とハリーは再び握手をする。

 

 

これが、ドラゴ怪盗団唯一の人間加入の瞬間であり、ドラゴ怪盗団の激しい戦いの始まりの出来事だった。

 

 


 

 

一夏が元々住んでいた世界を捨て、ドラゴ怪盗の一員になってから、約2年が経った。

当時13歳だった一夏も15歳となり、中学3年生になっていた。

 

 

ドラゴ怪盗になって最初に行ったのは、一夏の中学編入の為の偽装だった。

いくら怪盗でも、流石に中学は卒業しておきたい。

その為通信教育が可能な中学校に編入する事にした。

怪盗たちの協力で戸籍を偽造し、変装が得意なルドマンが親の役をして無事に中学に編入。

そのまま進学を続けた。

 

 

中学校に通い続けながら、一夏はハリー達に怪盗としての技術を学んだ。

基礎身体能力の大幅上昇に加え、様々な分野での専門知識を詰め込んだ。

それに加え、怪盗としての心得に、ピッキング等々盗みの技術を高めていった。

今では一夏もドラゴ怪盗の立派な一員として、ハリーと共に潜入を行っている。

 

 

満月輝く、とある夜。

 

 

「待てぇ!待たんかぁ!!」

 

 

「「“The show is over!”また会おう!」」

 

 

マジックワールドのとある洋館では、1人の怒声と2人の高笑いが響いていた。

怒り声の主は、屋敷の主。

表の顔は、困っているモンスターに食料等を与える等善良な貴族だ。

だが、裏ではそう言ったモンスターから魔力や魔財宝をだまし取っている下種。

 

 

笑い声の主の片方は竜人であり、もう片方は機械竜の顔のようにも見える仮面をつけ、真紅のマントを纏った人間だった。

竜人…ハリーはチェイサー・ビートルを、人間…一夏、怪盗名《仮面の怪盗 ウィンズ・アルベル》はチェイサー・ビートルと同じくらいのサイズの小型艇《チェイサー・スタッグ》を操作していた。

チェイサー・ビートルとチェイサー・スタッグには袋に入った大量の魔財宝が乗せられていた。

 

 

「さらばだ!」

 

 

「今度会ったらお茶でもしよう!」

 

 

ハリーとアルベルはその言葉を残し、洋館から飛び立った。

空に輝く満月には、シルクハットをかぶった竜の紋章が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

「今日も良い満月だな」

 

 

「そうですね。私達が出会ったあの日の様です」

 

 

洋館から飛び立って数分後。

ルブラ・モーリスがステルスをOFFにしていたら視認できる距離。

仮面を外した一夏が満月を見上げながら呟き、ハリーが頷く。

 

 

「そうだな…懐かしい気もするし、昨日のようにも感じるな、あの日は」

 

 

「はい、私達にとっても、一夏にとっても大きな変化の日でしたから。印象に強く残っているのでしょう」

 

 

「そうかもな」

 

 

一夏とハリーの会話はそこでいったん中断し、2人はルブラ・モーリスに向かって飛んでいく。

 

 

「ただいま」

 

 

「一夏!ハリー!お帰りじゃん!」

 

 

「アカウィン、出迎えご苦労様です」

 

 

ルブラ・モーリスに着いた一夏とハリーをアカウィンが出迎える。

そうして3人で協力して魔財宝を保管庫に入れる。

その後、夕食の時間なので食堂に向かうと、もう全員が揃っていた。

 

 

「今日は如何でしたかぁ?」

 

 

「大量大量」

 

 

「だいたい200個ほどですかね?」

 

 

「流石」

 

 

一夏とハリーは笑いながら自分の分の食事を用意する。

そうして席に座ったとき、異変は起こった。

 

 

ガタガタガタガタ!!

 

 

そんな音を立てながら、ルブラ・モーリスが振動を始めた。

ルブラ・モーリスは天空城。

地面に接していないので、地震なわけが無い。

 

 

「っ!なんだ!?」

 

 

「整備不良ではないはずだが…」

 

 

「な、なんか移動してない!?」

 

 

ソフィーのその言葉の通り、ルブラ・モーリスはまるで何かに引っ張られるように移動をしていた。

 

 

ガタガタガタガタ!!

 

 

その間にも振動は止まず、寧ろだんだん激しくなっていく。

 

 

「全員何処かに捕まって下さい!揺れが落ち着くまで待機です!!」

 

 

ハリーの指示に従い、全員が食堂内の固定されている場所を掴む。

ルブラ・モーリスの揺れは更に大きくなり、何処かに引っ張られていく感覚も大きくなっていく。

すると、ルブラ・モーリスが引っ張られていく方向に、巨大な渦巻きが発生した。

渦巻きに吸い込まれていくように、ルブラ・モーリスは引っ張られていく。

ルブラ・モーリスは渦巻きへと完全に飲み込まれ、ほどなくして渦巻きは消失した。

 

 

こうして、マジックワールドからドラゴ怪盗が失踪したのであった。

 

 


 

 

「…揺れが収まったな」

 

 

床に伏せていた一夏が立ち上がりながらそう呟く。

それに続くようにハリー達も立ち上がる。

 

 

「取り敢えず全員無事ですかね」

 

 

「さっき移動してるみたいだったけど、此処どこなのかな?」

 

 

「分からないな…マジックワールドの何処かだとは思うが……」

 

 

食堂からはルブラ・モーリスの外を見れない為、渦に吸い込まれた事を怪盗たちは知らない。

そして、どのくらい移動したのか、外がどういった環境なのかすら分からない。

 

 

「じゃあ、いったん全員で周囲の索敵、此処が何処かを調べるって事で良いか?」

 

 

「それが良いじゃん。情報収集が1番大事じゃん」

 

 

「では、1時間後にもう1回食堂に集まって下さい。マウス、流石に今回は手伝ってもらいますよ」

 

 

「流石に分かってるさぁハリーさん」

 

 

取り敢えずどういった状況になっているのか分からなければ、どう行動するのが正解かも分からない。

怪盗たちは手分けして情報収集を行うため、行動を開始した。

簡単に方向を全員に割り振り、ルブラ・モーリスを中心として半径2㎞をいったん捜索する事にした。

一夏も再び仮面をつけ、チェイサー・スタッグを操作しルブラ・モーリスから出発する。

 

 

「廃倉庫…」

 

 

担当の方向に向かったアルベルは、視界に入ったものをそのまま呟く。

怪盗として活動していた中で、こんな場所もの見たことが無い。

つまり、ここら辺いったいは知らない場所。

 

 

「…何でだ?何で見たことがある気がする?」

 

 

だが、アルベルは謎のデジャヴを感じていた。

何故だが胸がざわつく。

この廃倉庫の事を調べてはいけないと、心が警鐘を鳴らしている。

 

 

「…俺はドラゴ怪盗だ。調べ無い訳にはいかない」

 

 

チェイサー・スタッグを廃倉庫近くに着陸させ、アルベルは廃倉庫内に入っていく。

廃倉庫になってからは何年も経っているのが一目見て分かる。

だが、人の入り自体は何回かあったのか、壁や天井の劣化具合に比べ、埃などの量はそれほど多くは無かった。

 

 

「…やっぱり何処かで見たことが……」

 

 

仮面の下で眉をひそめながらアルベルはそう呟く。

なにかここら辺の手掛かりは無いかと倉庫内を見回すと、比較的新しめなドラム缶が置いてある付近に1枚の紙切れを発見した。

それに何か情報が書いてある事可能性があるので、確認しない訳にはいかない。

紙切れに近付き、拾い上げる。

 

 

その紙は新聞だった。

一面記事の部分らしく、大きな写真が使われていた。

 

 

「っ!?」

 

 

その新聞を見たアルベル…否、一夏、動揺し思わずその場にへたり込んでしまう。

新聞がパラリと地面に落ちる。

マントや白い手袋が汚れるが、そんなもの気にしてられない。

 

 

「あ、あ、あ、あ……」

 

 

一夏は、何か言葉を発しようとするも、上手く声が出せない。

だがそれも仕方が無いだろう。

何故ならその新聞には大きく、『ブリュンヒルデ織斑千冬、二連覇なるか!?』と書いてあり、同じく大きな千冬の写真が使われていたのだから。

こんな新聞が、マジックワールドに存在するわけが無い。

つまり……

 

 

「此処は…俺の…世界……!!」

 

 

一夏は震える口でなんとかそう声を発する。

手や足もガクガク震えており、明らかに何時もの一夏ではない。

そして、何処か見たことがある理由も判明した。

此処は嘗て自身が誘拐された場所だった。

 

 

「っ!」

 

 

一夏は逃げるようにその新聞を掴むと、チェイサー・スタッグに乗り込みルブラ・モーリスに全速力で帰還した。

 

 

食堂に戻ったのは、一夏が最初だった。

仮面、手袋、マントを外し適当に纏めると椅子に座る。

新聞を机の上に置き、右手で心臓を、左手で顔を覆う。

 

 

「なんで俺の世界に…さっきの揺れは、世界を移動したときの余波って事か…?分からない、俺がマジックワールドに行ったときは俺が気絶してたからよく分からない……」

 

 

動揺から冷静な思考を出来ないでいる一夏。

だが、暫くの間思考を巡らせるとドンドンと落ち着いてくる。

 

 

「そうだ、今の俺はあの時の俺ではない。ドラゴ怪盗の一員、アルベルなんだ。何も焦る事は無い」

 

 

そうして次にアカウィンが戻って来た時には、一夏は完全に落ち着いていた。

これも、あの時から成長した部分だろう。

それから30分もしないうちにドラゴ怪盗全員が戻ってきた。

なにかを発見出来た全員が、織斑千冬に関する事かISに関する事が書いてあるものを回収する事に成功した。

 

 

「これは……」

 

 

「ああ、これはもう疑いようも無いだろう」

 

 

ハリーのその言葉で、全員の視線が一夏に集まる。

一夏は目を伏せながらコクリと頷く。

 

 

「恐らくだが、此処は俺の世界だ」

 

 

その瞬間に、全員の表情が一段と固いものになる。

 

 

「なんで一夏の世界に…」

 

 

「そもそも一夏がこっちの世界に来た理由が分かってない。そして、こっちから向こうに行く事が可能なら逆も可能なのが、普通だ」

 

 

「確かにな…これからどうするのさぁ?」

 

 

「如何にかして帰る方法を探すしか無いじゃん」

 

 

「……IS」

 

 

アカウィンの言葉に反応して、一夏がボソッとそう呟く。

その瞬間に全員の視線が再び一夏に集まる。

 

 

「俺がマジックワールドに転移した原因も、ルブラ・モーリスがこっちに来た原因も分からない。でも、この世界で世界を転移出来るほどの可能性があるのは、ISだけだと思う」

 

 

「IS…人間の女性にしか動かせないパワードスーツよね?」

 

 

「そう。そして世界に467個しかないもの」

 

 

「……だったら、私達がやる事は1つですね」

 

 

ハリーのその言葉に全員が同時に頷く。

 

 

「取り敢えず1個か2個何処かから頂戴する。ISって言うのは何処にあるんだ?」

 

 

「分かんないけど…多分どの国でも良いからIS研究所的なのがあると思う。まぁ、そしてその中には違法研究所もある筈」

 

 

「そうですね…私達のプライドとして、最初から健全な研究所から盗むのは気が引けます」

 

 

「と、言う事は…」

 

 

そこから先の言葉は要らなかった。

全員が頷き合うと、各々の行動を開始するのであった。

 

 


 

 

アメリカのとある施設。

表向きはもう既に稼働していない場所なのだが、裏では違法集団の拠点兼研究施設である。

日夜表立って誇れないような汚い研究で稼働しており、その研究内容には当然のようにISも含まれていた。

ISは絶対数が限られており、通常だったらこのような施設にはISは流れてこない。

だが、テロリスト等の集団と取引する事で、ISを2つも入手したのだ。

 

 

「今日の成果は如何だ?」

 

 

「はい、このようになっております」

 

 

施設の中で一番豪華な部屋。

施設の汚さとは相反する高級な机の前に、同じく高級な椅子に座る男性が隣に立つ女性に声を掛ける。

女性はタブレットに男性が望んでいるデータを表示させ、机の上に差し出す。

 

 

「フム、なかなか良い感じではないか…ルーラ、コーヒーを」

 

 

「はい、ダニエル様」

 

 

男性…この施設の長であるダニエルは、女性秘書であるルーラからコーヒーを受け取る。

そうして飲みながら、タブレットに表示されたデータを今一度じっくりと確認する。

中々いい結果だったのかその口元には笑みが浮かんでいる。

 

 

「ダニエル様、今朝届いたあの手紙に関してはどのような対応をするおつもりですか?」

 

 

「手紙…?ああ、これの事か」

 

 

ダニエルは懐から1枚のカードを取り出す。

カードにはシルクハットをかぶった竜の紋章が描かれており、その裏には

 

《今宵、時計の針が頂上で重なるその時に、英知の結晶を頂きに参上します byドラゴ怪盗団》

 

と書かれていた。

 

 

「こんなもの、ただの悪戯だろう。ドラゴ怪盗団など、聞いたことも無い」

 

 

こんな研究施設に悪戯を行う一般人が果たしているのかとルーラは言いそうになったが、ダニエルが全く気にしていないので黙っている事にした。

 

 

「今は11時59分。異変は何もない、つまり心配すること等何もない」

 

 

ダニエルはそう言い、カードをびりびりに破く。

そうしてもう1度コーヒーを飲み、カップを机の上に置いた。

その、瞬間だった。

 

 

バァン!

 

 

「ダ、ダニエル様!大変です!」

 

 

思いっ切り扉が開き、1人の男性が中に入って来た。

その男性は、この施設のIS研究の最高責任者だ。

 

 

「どうした?」

 

 

「あ、ISが全て忽然と無くなりました!」

 

 

「なぁっ!?」

 

 

ダニエルはガバッと時間を確認する。

24:00。

カードに記載されていた時間と同じだった。

最高責任者に連れられ、ダニエルとルーラは慌ててISを保管してあるエリアに向かう。

そのエリアは、研究員の怒号とドタバタとした物音が響いていた。

だが、そんなものダニエルは全く気にならない。

 

 

視線の先にあるのは、研究をしていたISが乗せられていた台。

そこからISだけが綺麗さっぱりと無くなっていたのだ。

 

 

「ダニエル様、どういたしましょう?」

 

 

「…全員施設中を探せぇ!他の部門の人間も動員しろ!」

 

 

『はいっ!』

 

 

ダニエルの指示に、さっきまでドタバタしていた研究員は一瞬にして従い、エリアから離れ捜索をする。

こうしてエリアに残ったのはダニエルとルーラのみ。

ダニエルは暫くの間呆然とISの無くなった台座を見つめていた。

台座の向こうはISを稼働させるためのアリーナの入り口となっており、ISを探したためかその扉は開けっ放しになっており、アリーナも天井が開けっ放しになっていた。

 

 

脳裏に浮かぶのは、ついさっき自分でびりびりに破ったカード。

《英知の結晶を頂きに参上します》

ISは、まさに英知の結晶と呼ぶにふさわしいもの。

まさか本当に無くなるとは。

ダニエルの心は絶望に包まれていた。

 

 

「……?」

 

 

だが、暫くするとダニエルは何かの違和感を覚えた。

全員が動揺し、慌てているというのに、1人だけ焦った様子も動揺した様子も見せない人物がいた。

 

 

「……」

 

 

「ダニエル様、どうかなさいましたか?」

 

 

「貴様…本当にルーラか?」

 

 

「何を仰っているのですか?私は私ですよ?」

 

 

ダニエルはルーラを睨みながらそう言うが、ルーラは平然とそう返答する。

その様子が、ダニエルの違和感を加速させた。

 

 

「…この施設の運用は何年前から始まった?」

 

 

「約50年ほど前からです」

 

 

「私が長になってからは?」

 

 

「8年ほどですね」

 

 

「なら、お前が私の秘書になった理由は?」

 

 

「……」

 

 

2人の間にしばしの沈黙が流れる。

 

 

「まぁ、もう隠す必要は無くなりましたね」

 

 

「っ!貴様ぁ!」

 

 

パァン!

 

 

ダニエルは懐から拳銃を取り出し、ルーラ?に向かって発砲する。

 

 

「ふっ!」

 

 

ルーラ?はその場から跳躍し弾丸を躱す。

離れた地面に着地した時、その姿はルーラのものでは無くなっていた。

 

 

「っ!?!?な、なんだお前!?」

 

 

「私の名前はファントマリア・ルドマン。ドラゴ怪盗団の先兵を担当しています。何せ変装が得意なものでね」

 

 

ルドマンは何時もの調子でそう話しているが、ダニエルは動揺を隠せない。

ダニエルは竜人を見るのが当然ながら初めてだ。

混乱するに決まっている。

 

 

「貴様ぁ…何時からルーラと入れ替わっていた!?もしや、今朝届いた書類を取らせに行かせた時か!?くそっ!何故気が付かなかった!?」

 

 

地団駄を踏んでいるダニエルに、ルドマンはクスクスと笑いを漏らしながら事実を突きつける。

 

 

「今朝?いやいやいや、私はそんな危険な橋を渡りませんよ?ええ、ええ、1週間前から既に入れ替わってましたよ」

 

 

「1週間…だと!?」

 

 

ルドマンの言葉に、ダニエルは頭の中を直接叩かれたかのような衝撃を覚えた。

この1週間、毎日ルーラと共に居たし、長時間同じ部屋で仕事もした。

それなのにも関わらず、まさか入れ替わっていた事に気が付かなかったなんて…

 

 

「いやはや、普段でしたら1ヶ月前から入れ替わるんですがね。ああ、無論彼女は私達が保護をしています。ええ、ええ、後日ご帰宅いただきますよ」

 

 

「っ…!貴様ぁ!ISを返せぇ!」

 

 

「怪盗に返せとは、中々酷な事を仰いますね……さて、ダニエル卿、アリーナの空を見てください」

 

 

「空…だとぉ……?」

 

 

ダニエルはルドマンの言葉のまま彼の背後、開いた扉のそのまた向こうを見つめる。

 

 

「「「ショータイムの始まりです!」」」

 

 

ルドマンと、姿が見えない2人の声が重なる。

その瞬間、満月輝く空に、何もなかったはずのそこにとあるものが姿をあわらした。

幾つもの歯車と蒸気機関を持つ、巨大な機械仕掛けの要塞。

ステルスを解除したルブラ・モーリスが、威風堂々と浮かんでいた。

 

 

「アレこそが、我らがドラゴ怪盗の誇る天空城、ルブラ・モーリスでございます!」

 

 

ルドマンが誇らしげに言う後ろで、ダニエルは拳銃を落とし、その場に尻もちをついてしまう。

例えISがあったとしても、現代科学では造る等不可能だというのが一目でわかる天空城。

そんなものを目の当たりにして、冷静でいられる訳が無い。

 

 

ルブラ・モーリスの近く、同じくステルスを解除した2艇の小型艇…チェイサー・ビートルとチェイサー・スタッグが近くにまでやって来た。

小型艇に乗るのはハリーとアルベル。

その手には、それぞれISのコアと呼ばれる部分を手に持っていた。

 

 

「あ……っ!返せぇ!」

 

 

ダニエルは必死の形相で手を伸ばす。

だが、2人は空中にいる為手が届くわけが無い。

 

 

「ふふふ」

 

 

ルドマンがアリーナに走っていき空へと跳躍すると、アルベルがチェイサー・スタッグで拾う。

 

 

「私の名はウィンズ・アルベル!ドラゴ怪盗団のファイターさ」

 

 

「私はその相棒(バディ)のウィンズ・ハリー!ドラゴ怪盗団のリーダー!」

 

 

「「さぁ、今宵もドラゴ怪盗団の、華麗な盗みをご覧に入れよう!」」

 

 

その言葉と同時に、ルブラ・モーリスから幻想的な光が漏れ出す。

それは、ルブラ・モーリスに蓄積された魔力の1部だ。

凝縮された魔力は空中に広がり、満月の光を屈折させ、オーロラのような光景を広げていた。

 

 

「「That’s all for today!それでは、良い夜を!!」」

 

 

その言葉を残し、怪盗たちはルブラ・モーリスへと帰って行った。

ルブラ・モーリスとオーロラのような光は、雲の合間へと隠れて行った。

未だ輝く満月には、不思議な事にシルクハットをかぶった竜の紋章が浮かび上がっていた。

 

 

これが、後にこの世界をも騒がすドラゴ怪盗団の、この世界の初仕事だった。

 

 

 

 

 

ISを2個も盗まれるという失態を犯したこの施設は、どの組織とも取引が出来なくなり、またスポンサーやクライアントからの資金援助も無くなり、解体されることになった。

ダニエルは見たことをそのまま報告したのだが、到底信じられる内容ではなかった。

IS窃盗の失態の事も加味し、精神病院という名の監獄に入れられる事になった。

 

 

ルドマンの変装の為ドラゴ怪盗に捕まっていたルーラだが、ルブラ・モーリス内では唯一の人間である一夏の至れり尽くせりな接客を受け、健康的な生活を送っていた。

全てが終わった後は魔法により記憶を消され、怪盗たちが裏で色々と情報を弄り、ルーラは至極全うな仕事に就くことが出来た。

今は幸せに暮らしているようだ。

 

 


 

 

ISを盗んでから3日後。

いろいろと解析を終えた為、怪盗たちは食堂に集まっていた。

解析を担当したハリーとルドマン、一夏が全員の前に立っている。

 

 

「さて、では解析結果をお伝えします」

 

 

資料を持ったハリーが全員の表情を見ながらそう言う。

 

 

「結果から言うと、このISを使う事でマジックワールドに帰る事は…可能です」

 

 

『っ!!』

 

 

その言葉を聞き、全員が同時に嬉しそうな表情を浮かべる。

ハリー達は頷きながら続きを説明する。

 

 

「ISだけでは不可能ですが、私達が今までためて来た魔財宝を組み合わせる事で、次元を震わせる力を無理矢理創り出すことが出来ます」

 

 

「そうする事で、マジックワールドへの扉を開く事も可能という事ですね」

 

 

「ああ、だけど折角今までためた魔財宝をかなりの量使わないといけない試算なんだ…大丈夫?」

 

 

一夏がそう聞くと、怪盗たちは

 

 

「うん、あっちに戻ったらまた集めればいいだけよ」

 

 

「取り敢えずマジックワールドに帰る事が重要じゃん!」

 

 

と口々に返答する。

一夏は取り敢えず安心したような表情を浮かべる。

 

 

「そして、ISだけど今ある2個だけじゃ出力が足りないんだ」

 

 

「ええ、ええ、ISは後213個ほど必要なんですよ」

 

 

213。

ISの絶対数が467個なのでおよそ半数近く。

到底無理に思える数字だが、ドラゴ怪盗団は確信していた。

自分達なら、絶対にやり遂げられると。

 

 

「さて、早速次の仕事の準備に取り掛かるとしますか」

 

 

「ああ、次も俺達の華麗なショーをご覧して頂くとしよう」

 

 

こうして、怪盗たちは次なるショーの為の準備を開始した。

 

 

そのメンバーの1人である少年がIS学園に入学してしまう事になるのは、そう遠くないお話……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

簡単な設定

 

 

〇織斑一夏/仮面の怪盗 ウィンズ・アルベル

 

主人公。

幼少期に優秀な姉と兄に比べられ虐められてきた。

第2回モンド・グロッソの際誘拐され、自力で脱出し無我夢中で走っていると何故だがマジックワールドで気絶していた。

その後ドラゴ怪盗団に保護され、自分の世界を捨て怪盗として活動する決意をする。

 

様々な分野で専門家と遜色ないほどの知識や、かなり高い身体能力、洗練された盗みの技術、そして心意気等怪盗としてかなりのレベルを誇る。

今やかつての姉や兄を完全に超えている。

家事が得意。

 

怪盗としての姿

仮面:ハリーの顔を機械化したようなもの

服:遊戯王OCG《デスピアの道化 アルベル》みたいなやつ。

 




いかがでしたでしょうか?

バディファイトで唯一魔法がバディのデッキ、ドラゴ怪盗。
別のバディ魔法も見てみたかった。
インフレ調整ミスったから6年でサ終するんだよ?

間違っている点等ありましたら、優しく指摘して頂けると嬉しいです。

ご意見やご感想もよろしくお願いします!

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