「見て、リュウマ! 私もオーラを安定させることができたわ!」
「おお……」
ポンズ、ゴン、キルアに精孔を開いてから数日。
ポンズは二回目にしてオーラを安定させることに成功し、纏を身につけた。
(しかも、絶もこなすと来たか。ポンズは思いの外、オーラのコントロールにかなりの才能があるな)
ゴンやキルアと違い、ポンズの纏はかなり滑らかで美しくもある。
ハンター試験中、蜂を操ることができると言っていた。ポンズは操作系の系統に属している可能性が高い上、元々ポンズは発だけは開花している。
「うん。オーラも安定しているし、これならゴン達と一緒に次の段階に進めそうだな」
「本当に? よしっ!」
俺達が天空闘技場にやって来てから数日。纏を習得してからは、当然のようにストレート勝ちを続け、一気に100階まで到達した。
『3日前に登録してから怒涛の一発KOで6連勝! 手刀のキルア、押し出しのゴン、蹴りのポンズ! そしてデコピンのリュウマ!! この4人組の勢いを止める者はいないのかぁ!?』
念能力者でない相手なんて大したことはない。
俺達は危なげなく勝利し、試合後は纏の修行に集中していた。
100階クラスとなれば、闘技場内の個室へ移ることができる。
部屋に移った3人は、早速纏の特訓を始める。
「その感覚が当たり前になるまで、ひたすら瞑想と座禅だ。座禅に関しては、自分がやりやすい体勢で構わない」
纏において重要なのは、無意識でも発動・維持できるようになることだ。
敵意を感じた時や、危険や戦闘を意識した時に、反射的に纏が発動するのが理想である。
そのためには、ひたすら纏を続けるしかない。
これは積み重ねが重要なのだ。
もちろん、その感覚を掴む早さには人によって差がある。
ポンズ、キルア、ゴンは自然体で立ち、目を閉じて瞑想している。
暇があれば、どこでも纏の修行をやらせている。
「(感覚に関しては筋がいい。ポンズも、予想に反して二人について行けている……やはり発のみが開花しているのも影響しているのか)」
すでにゴンとキルアの纏はかなり洗練されてきている。ポンズもオーラの流れが静かになってきている。
しかし、まだまだオーラが乱れることも多く、量も弱々しい。それでも、念に目覚めて数日であることを考えれば、十分すぎるほど上達が早い。
「(200階の前に、練を一度やらせてみるのもいいかもしれないな。200階の連中と戦わせる前に凝を教えられれば、そうそう遅れは取らないだろう)」
それと、ここまで纏を維持しながらの移動や体術なども叩き込んでいる。最初こそ、激しく動きながら纏を維持することに苦戦していたものの、数日ほどで維持に成功した。
「今日からは練の修行も始める」
「「押忍!」」
「気に入ってるわねぇ、あなた達」
ポンズは呆れて二人を見るも、すぐに気持ちを切り替える。
「練は前に説明した通り、オーラを多めに放出する技だ。イメージとしては、全身から体の中心に力を溜めて、それを一気に解き放つ感じになる」
一通り説明し、俺は練を行う。
すると、オーラが一回り膨れ上がり、力強さが増した。
一応、本気ではない。
それでも、ポンズ、ゴン、キルアはその力強さに冷や汗を流していた。
「練はオーラを強く出すだけだと、すぐにガス欠を起こす。相手の攻撃を防げへん上、強く出したと同時に纏も意識せなあかん。もちろん、その分だけ纏のコントロールは難しくなる上に、気を緩めると途端に弾けてまう」
「そうなると、オーラを無駄にするだけってことね」
「その通り。さらに練の密度を高めれば、その分だけ攻防力も上がる。これが纏と練を毎日行う最大の理由だ」
毎日、纏と練を行い、その密度を高める。
そして、必要な時にすぐ出せるよう、その感覚を体に覚えさせる必要がある。
「まずはオーラを強く出すことからだ。やってみろ」
俺は練を手本として維持したまま、ポンズ、ゴン、キルアにもやらせる。
三人は拳を握って脇を締め、目を閉じて集中する。
髪の毛の先や足先から力を体の中心に集めるイメージを作る。
そして、それを一気に解き放つ。
ポンズ、ゴン、キルアのオーラが炎のように膨れ上がった。
「「「っ!!」」」
三人のオーラは普段の二回りほど大きく膨れ上がり、今にも弾けそうなほど不安定だった。
といっても、初めて行ったのだから不安定なのは当然である。
「うん。纏の意識が遅いし、オーラも出しすぎだ。今の半分程度まで抑え込まないといけない。それに、まだまだ力も弱い。とはいえ、ポンズに関しては上手く抑え込めていたぞ」
「は、初めてなんだからしょうがねぇだろ!」
「ふぅ……これ、結構疲れるね」
「ええ……長く維持しようとするだけでも、疲労が半端じゃないわよ」
三人とも疲労困憊の様子だった。
初めてにしては十分すぎる結果だ。
ここからは纏・練・絶の順に行い、200階に行くまでに素早く安定した練ができるようになることを目指す。
そして、練の修行を開始してさらに数日後。
俺達はついに200階に足を踏み入れた。
エレベーターを降り、受付へ向かう通路に足を踏み入れた途端、ゾクリと怖気が背中を走る。
咄嗟に纏を発動すると、怖気がかなり和らぐのを感じた。
それでも、嫌な予感は消えない。
「いきなり殺気かよ……」
「随分と物騒な歓迎じゃない」
「纏ができなかったら、進む気にもならなかったね……」
「おい……試すのは十分だろ、ヒソカ」
「「「!!」」」
「くっくっくっ♠ そのようだね♥」
通路の奥の角から、ヒソカが笑いながら顔を出す。
オーラを発していた人物の正体に気付き、ポンズ達も身構える。
「200階クラスへようこそ♥ リュウマがいるなら、洗礼は受けずに済みそうだね♣」
「そこは相手次第だ。まだ発まではいっていない」
「君はまだ、ゴン達をここで戦わせる気はないんだろ?」
「当然だ。俺が許可を出さない限り、戦わせる気はない」
「なら、問題ないね♦ けど……まだ駄目だね♣」
ヒソカはゴンに顔を向ける。
「リュウマが許可を出さないだろうし、僕もまだ君と戦う気は全くない♠」
ヒソカは両人差し指を立てる。
すると指の間でオーラが蠢き、オーラで♠マークを作り、さらに髑髏マークへと変える。
「しっかりと念を学びなよ、ゴン♦ リュウマが許可を出して、かつこのクラスで1勝できたら相手になろう♥ リュウマに関しては、いつでも相手になってあげるよ♠」
「丁重にお断りさせてもらう。お前と戦う理由も特にないしな。というか、こんな所で俺達が戦ったら周りに被害が出かねないしな」
「フフフ、残念♥」
俺がそう言うと、ヒソカは心底残念そうに背を向けて歩き出した。それを見送った俺達は、登録をするために受付へ向かう。
「200階クラスへようこそ! こちらに登録の署名をお願いします」
受付嬢から用紙を受け取り、登録する。
「ありがとうございます。それでは、早速参戦の申し込みもなさいますか?」
「え? 申し込むの?」
「はい。このクラスは申告戦闘制といいまして、90日間の戦闘準備期間をご用意しております。その間であれば、戦いたい日に戦っていただけるシステムなのです。毎日でも構いませんし、期限ギリギリまで戦わなくても構いません。一度戦闘を行えば、また90日間の戦闘準備期間が与えられます。ただし、期限内に戦わなければ即失格となり、登録抹消となります」
「一度戦えば?」
「このクラスをクリアするには10勝が必要となります。ちなみに、このクラスからはファイトマネーは発生せず、名誉のみの戦いとなりますのでご了承ください。さらに、このクラスからは武器の使用も認められております。怪我、死亡などは自己責任となりますのでご注意ください。そして、10勝する前に4敗してしまいますと、これまた失格となります」
「ふ~ん……」
「まだ申し込みはしなくていい。それと、後ろに控えてる奴らもいるしな」
後ろを振り向くと、そこには車椅子に乗った男、左腕がない能面顔の男、そして一本足の義足で杖を突いている男がいた。
「……何か用か?」
「いいや? 俺達も申し込みたいから並んでいるだけさ」
「なら、すぐ退く」
「せっかく来たんだからさー。いつなら戦えるか教えてよ。君らと戦ってみたいからさー」
能面顔の男が、いやらしげに笑みを浮かべて言う。
その言葉で、ポンズ、ゴン、キルアも、この三人が洗礼を受けた者達であり、自分達がされたように新入りに標的を定めて勝ち星を稼ぐ連中なのだと理解した。
「……はぁ。1人選べ。俺が相手になる」
ポンズ、ゴン、キルアは目を見開いて、俺を見る。男達はニヤリと笑みを深め、顔を見合わせて相談を始める。
ゴンが近づいてきて、小声で問いかける。
「大丈夫なの?」
「問題ない。所詮、新入り相手にしか戦えない雑魚にすぎない。念の基礎さえできれば、お前達でも十分勝てるレベルだ。それに、お前達には一度、念能力者同士の戦いを見せるいい機会だしな。参考になるかは正直怪しいが……」
ポンズ達も現状では念に関して向こうが上である以上、自分達ではまだ危険だと判断していた。
「待たせたな、俺が相手をする」
声を掛けてきたのは、杖を持ち足は鉄の一本足の義足の男だった。俺は頷き、申込用紙の『いつでもオーケー』の欄にチェックを入れる。
「これでいいか?」
「ああ」
「では、リュウマ様は2204号室となります。戦闘日は決定次第、お知らせします」
俺達は鍵を受け取り、部屋へと向かう。部屋は100階の時とは違い、かなり豪華で広くなっていた。荷物を置いた俺は、ふとテレビに目を向ける。
すると画面に通知が表示されていた。
『戦闘日決定!220階闘技場にて、3月11日午後4時スタート!』
「明日か」
試合の日を確認し、ゴンの部屋へ向かう。
そして今日も纏・練・絶の修行をやらせながら、明日の予定を話した。
「はやっ!明日かよ」
「準備は大丈夫?」
「必要ない。それより、明日はしっかりと試合を見ておけよ?」
「ええ。リュウマなら、あいつらに負けるとは思えないしね……。キルアはハンター試験中にリュウマとヒソカの戦いを見ていたから分かると思うけど……」
「ああ。お前があいつら程度に負けるとは思えないしな」
「え……そうなの? リュウマってそんなに強いの?」
「そっか……ゴンは最終試験中、ハンゾーにやられたから知らないのね」
そういえば、ゴンは最終試験中にハンゾーに意識を落とされて、ハンター試験終了後の翌日に目を覚ましたんだっけ?
だから、ゴンは俺とヒソカの試合を見ていない。ポンズはその時のことを説明し、それを聞いたゴンはそれはもう驚いていた。
「ヒソカにダメージを!?」
「まっ、お互い本気でやったわけじゃないけどな。それより、そろそろ次の段階に入る」
「「「!」」」
次の段階という言葉に、三人は一瞬で意識を切り替える。
「遂に発か?」
「いや、違う」
「「え?」」
「なら、今から何をするの?」
「これから教えるのは、凝という技だ」
「凝?」
俺は用紙に《凝・隠》と書いて、三人に見せる。
「え? でも、四大行で残ってるのって……」
「発だ。けど、凝が重要になるから先に教える」
「隠って方は?」
「それを含めて説明する」
そう言いながら、俺は右手の人差し指を立てる。ポンズ、ゴン、キルアは首を傾げる。
「目を凝らして指先を見てみろ」
「「「……」」」
言われるがままに三人は目を凝らすが、何も見えている様子はない。
「うーん……」
「な、何も見えないんだけど……」
「一体何なんだよ?」
キルアがそう尋ねた直後、俺は指の上に数字の『0』を浮かび上がらせた。
「「「!?」」」
「これが、オーラを見えにくくする絶の応用技……隠だ」
「応用技……」
「隠の利点は、オーラを保ったまま絶のように気配を消せること。そして、今みたいに形を変えたオーラで不意打ちすることも可能だ」
ポンズ、キルア、ゴンは隠の恐ろしさを理解し、冷や汗を流す。
目に映るオーラだけに注意するだけでも厄介なのに、見えないオーラまであるとなると、一体どれだけ注意を払わなければならないのか。
「そして、隠を見破るために使うのが練の応用技の一つ、凝だ」
「見えなくなったオーラを見えるようにする技ってこと?」
「正解だ。両目にオーラを集中して、視力を強化する。凝は正確にはオーラを集中させる技であって、他にも拳や脚にも使えるが、まずは目で使うことを意識するところから始める。実力者と思われる相手に出会ったら、纏の次に凝を使うのが基本だ」
「少なくとも、纏・練・凝の三つを戦闘中に素早く使えない限り、発には移れないって事よね?」
「ああ、今のお前達は自分以外の念能力者相手では逃げ回ることしかできない。それを心に刻んでおけ」
俺の言葉に、三人は顔を引き締めて頷く。事実、ここまでの修行をしても、俺には手も足も出ないレベルだしな。
「まずは練。そこから全てのオーラを目に集中」
三人は練を行い、オーラを目に集めるように意識する。
「ぐ……!」
「うう……!」
「………」
「何が見える?」
俺は隠を使い、右手の人差し指を立てる。三人はオーラを目に集中させたまま、指へ視線を向ける。三人の目に、俺の指の上に薄っすらと何かが見えた。
「……丸?」
「いや、0じゃないか?」
「数字の18」
「ポンズ正解」
「「ぷっはぁ!! きっつー!!」」
「そう? 私は普通にできたんだけど……」
「はぁ!? 嘘だろ!?」
「どうして? 俺達、結構キツいのに……」
ゴンとキルアは凝が解け、息を吐く。初めて練を使った時と同じくらいの疲労感に襲われるが、ポンズは余裕の表情を浮かべている。
それに二人は驚いていた。
「それに、俺にはぼんやりとしか見えなかった……」
「ああ、俺もだ」
「まだまだ集中させたオーラが足りない証拠だ。隠も使い手が強ければ強いほど見えなくなる上、凝が使えないと、トラップや物を遠隔操作できる能力を見抜くことは不可能だ。基本、それらは隠で隠されていることが多い。怪しいと思ったり、違和感を感じたら即座に凝を使うことだ。何もない時が一番危険だと思っておけ」
「けど、ポンズは俺達と違って一発で成功させたぞ。何か理由があんのかよ?」
「ポンズに関しては稀な事例だからな。その辺は発を教える時に話す。それからポンズ、凝ができるなら、俺が指を立てたらすかさず凝。指を立てていなくても、怪しかったり違和感を感じたら凝だ。何が見えたか声に出して言ってくれ。二人も凝ができるようになったら同じことをさせる」
「数字の5」
俺は腕を組みながら指を立てていたので、ポンズはすかさず凝に移り、隠で隠したオーラの数字を当てる。
「正解だ、ポンズ(すぐに凝に移れるか……ゴンとキルアの才能はかなりのものだが、ポンズはオーラのコントロールの才はなかなかのものだな)」
ゴンとキルアも負けじと凝の修行を再開する。三人は順調に念の知識と技術を身につけていった。