別れは必ずやってくる、でもそれは永久の別れではない。
必ずまた逢える、信じる限り。
だから大丈夫、心配はいらない。
愛している限り、大丈夫。

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暮れる冬空、煌めくアオい星

 季節は冬色を強め、街には雪が舞い始める。そんな中で私と大喜くんは、海沿いの遊園地で寄り添い歩いている。寒さが堪えるせいもあって、人影はまばら。いくら夢の世界でも、この時期には賑わいも影を潜めるようだ。

 もう一ヶ月もせず、新しい年が来る。そうすれば程無く、この生活も終わってしまう。楽しくも忙しかった、この二年間が。

 鹿野家の海外移住が決まって、でも私はバスケへの未練を捨てきれないままもがいていた。家族の為に自分を圧し殺すくらいにはオトナではあるけど、全てを犠牲にして親のいうことを聞けるほどコドモでもない、そんな中途半端な私。それを救ってくれたのが、大喜くんだった。

 日本に残る覚悟を決められたのは、彼がいたからだ。背中を支えてくれたその想いに、応えたいと素直に思ったのを鮮明に覚えている。

 泣いてすがって歯茎をむいて、暴れて叫んでまた暴れて。無理も道理も蹴り飛ばして、我儘を押し付け私は日本に残った。

 ……まさか、その大喜くんの家に住むことになるとは思わなかったけど。

 それから何度もすれ違い、ぶつかり、そして私たちは――そういう関係になっていた。

 

 始まりは、朝の体育館。練習ですれ違うだけの、そんな仲。顔見知りになって尚、名前さえ知らないままだった。

 だから、そう。もう会えなくなると知っても、大した感情は湧かなかった筈。私は母の未練を果たすため栄明にいて、その母がそれよりも家族での移住を優先するのだから私がどうこう言う筋合いは無い。その程度でしかなかった私、生きているのかどうかさえ曖昧だった私。

 だけど、でも。抱いた気持ちまで、嘘にして良いのか。あの日抱いた絶望も悔恨も、私だけの物なのに。

 そんな風に思わせてくれたのが、思い出させてくれたのが、他ならぬ大喜くんだったんだ。

 母から受け継いだ夢なんか、知ったことじゃない。周りがどう思おうと、私はこんな所では終われない。この私を、――誰だと思っているんだ。

 その覚悟が、私を作り替えた。生きているか死んでいるか分からなかった私は、ここで漸く産声を上げたのだ。

 だけど世の中は、そうそう上手くはいかない。

 何度も負けて、うちひしがれて。その度に大喜くんに支えてもらって、どうにか私は立ち上がる。それをどのくらい繰り返したか。

 気が付けば私にとって大喜くんは、誰よりも大切な存在になっていて。なのにいつまでたっても、思いを伝えられなくて。

 気持ちに区切りをつけようとして買ったサボテンはとっくに花を咲かせたのに、私はウジウジ悩んでばかり。

 結局は、大喜くんに頼ってしまった。

「好きです」と言わせようと、どれだけ思わせ振りな事をしたか。私から一言そう言ってしまえば、もっと早く話が終わったのに。

 さんざん回り道させて、よく大喜くんに愛想を尽かされなかったものだ。

 ――ああ全く、ひどい女だよ私はさ。

 

「ね、観覧車乗ろうよ」

 手を繋いで歩きながらそう誘い、私たちはゴンドラへと乗り込む。

 二人だけの空間は少しずつ上昇し、眼下に広がるのは光に溢れる街の姿だ。

 ああ、ああ――ずっとこうしていたい。ずっと、二人でいたい。先の事なんか、考えたくない。

 あと数ヵ月、卒業式が終わってしまえばもう、私は猪股家を離れなければならない。さすがに卒業後の事まで我儘を通すわけにはいかず、一度家族と合流する手筈になっているのだ。どんなに瞳を光らせ牙を剥き遮二無二足掻こうとも、親からしたら私は只のコドモでしかないから。経済基盤を持たない人間が自分を押し通せる程、世界は優しくない。

 ゆっくりと上がっていたゴンドラは頂点に達し、今度は僅かずつ視界が下がっていくのが分かる。

 もう半分もない、か。

 少し感傷的になっていると、隣の大喜くんが口を開いた。

「あの、千夏……先輩」

 その声はか細く、でも決意を感じる。それがどういう意味か、私は知っている。ずっと前から、知っている。

 大喜くんが私の行く先について、納得しているわけがない。私から何も言わないままでいても、必ず()()行動を起こそうとする。大喜くんは、そういう子だ。

 しかしまあ私は本当に、見下げ果てた先輩だな。またしても全部分かった上で、言わせようとしているんだから。

 本当ならこれも、私から言うべきなんだ。

「卒業したら、必ず迎えにいきます。一年だけ、待っていてくれますか」

 まるで粉雪が舞い降りたように、大喜くんの頬を涙が伝う。それでも視線は、揺るがない。私を貫く、灼熱色の眼差し。

 大喜くんがここから何を言いたいか、私はそれを知っている。

 だからこそ、私は言わなければならない。何もかも言わせてしまっていたら、私は自分を許せなくなるから。

 震える手を握り締め、息を吸い込み。私は言うべき事を、口にする。

「――うん。その時は、……結婚しよう」

 

 二人歩くのは、冬空の下。雪雲が切れて星明かりが落ちてくる中で、私たちは手を繋ぎあってただ歩いていく。

 何も言わなくても、手の温もりが御互いの気持ちを伝えあうから。

 並んだ足跡が、私たちの未来を教えてくれるから。

 誰よりも愛してる、その想いだけで十分だ。

 私たちはきっと、いつまでも一緒。少しの間離れても、すぐにまた逢えるから。

 きっと、ずっと。




まあもっと早く伝えあうと思いますけどね。

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