真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
割と記念すべき話なのですが、全く別の内容に皆さん動揺したと思います。
という訳でこちらが真の本編です。
ちなみに今回の話をチラッと読んで興味が湧きましたら是非、『ヒーロー社会で悪役やってます』の方も読んでみて下さい。
遠のく意識の中で、ホーンテッドの別れの言葉が俺の耳に入った。
———そうか、死ぬのか……。
当然だ。剣で胸を貫かれたのだ。死ぬに決まっている。
———クソ。
死の間際に胸の中に湧いた思いは、悔しさと申し訳なさだった。
ミーシャやレイアにあんなに格好を付けて、仲間達に助けられながらここまで来たというのに………。
何も果たせずに、俺はこのまま———。
『ならダメだね。こんなところで終わったら』
———えっ?
意識を閉じようとしていた俺は、突然聞こえてきた中性的なその声に、思わず顔を上げる。
すると、視界に光に覆われた……いや、光で構成された人型の何者かが立っていた。
「……ッ⁉」
『おいおい、ちょっと驚き過ぎじゃない?』
「いや、だって………?」
どこか不満げに抗議の言葉を漏らす目の前の光人間に言い訳をしようとした俺は、そこで今更ながら、自分の意識がハッキリしていることに違和感を覚える。
それによく見れば、周りの景色も変だ。
ホーンテッドや邪霊達の姿がなく、ただひたすらに暗い空間が広がっている。それこそ、アペプスの闇の中のような感じだ。
『ここは精神世界。まぁ、夢のようなものさ』
「夢?」
『そう。だから心配しなくても、現実の君はしっかり死にかけているよ』
「それはむしろ心配しなきゃいけないことだろ……」
ふざけているのか、天然なのか。顔を含めて全身が輝いているため、表情がまるで分からず、判断がつかない。
『ハハッ! 確かにその通りだッ!』
「何笑ってんねん」
やっぱりふざけているのだろうか?
こんな絶体絶命の状況で笑っている場合かとは思うが、不思議と不快感はない。
……何故だろうか?
『けれど、ここにいる間は少なくとも死ぬことはないよ。現実の時間は止まっているようなものだからね』
「ここが今の俺にとって都合の良い空間だってことは分かったが、お前は何者なんだ?」
全身が光っている胡散臭い奴からの、何の確証もない言葉を受け入れながら、俺はその正体を尋ねる。
『おやおや、まさか私のことが分からないと?』
「何だ、その心外そうな反応は……」
大袈裟な動作でショックを受けたようなリアクションをする光人間にそう突っ込むと、『そりゃ、そうさ』と言葉を返されてしまう。
『今まで私がどれだけ君に尽くしたと思っているんだい? その献身を考えれば当然の反応さ』
「えっ? なんで俺、そんな暴力彼氏みたいなこと言われなきゃいけないの?」
まるで訳が分からない……と思っていると、光人間が『冗談だよ』と笑った。
『君は今まで、あの怖い小悪魔のせいで私の声を聞くことができなかっただろうからね』
「……? どういうことだ?」
『…………』
訝しむ俺の言葉に対して、光人間は言葉を返さず、どこか微笑むような気配を放ちながら話を続ける。
『正直、君には散々振り回されたよ。無駄に大見得を張っては自分自身を追い込んで自爆はするし……。戦闘では毎回酷使されるし、不気味な力を流し込まれるし。おまけにずっと嫌な気配を放っているし……まぁ、お陰で霊位を上げることはできたけど』
「え、いきなり酷くない? いや、そもそも何を言って———」
『けれど、君はそんな逆境を全て超えてきたね』
その声は、先程までの馬鹿にするような声音とは打って変わり、温かい声だった。
『格好付けて、後悔して、それでも最後は頭を捻って色んな精霊や人々の力を借りて、君は目の前の壁を打ち砕いてきた。そうだろう?』
「…………」
『なら、今回も超えようじゃないか。あんな可愛い子達に格好付けて、こんなところで負ける訳にはいかないだろ?』
「……まさか、お前は」
俺の前に静かにゆっくりと手が差し伸べられる。
『さぁ、手を取れ、ローク・アレアス。どうせ君のような精霊師と付き合える奴なんて、邪霊以外じゃ私くらいしかいないさ』
「酷い言われようだな」
光人間……否、精霊の言葉に、俺は思わず苦笑を漏らしながら、その差し出された手に自分の手を伸ばす。
「……相棒、お前の名前を聞かせてくれるか?」
『ああ、答えよう。私の名前は——————』
互いの手が重なり、世界が光に包まれる中、確かに俺はその名を耳にした。
*****
胸を貫かれて動かなくなったロークの身体から血を回収しようとしていたホーンテッドは、ふと彼の右手を見て違和感を覚える。
「………」
その身体はだらんと力を失った様子を見せながらも、その右手だけはしっかりと剣を握り続けており、そんなロークの様子にホーンテッドは目を細める。
「ヴラド、血はいい。そのまま内部から貫け」
『……?』
「構わない、やれ」
良いの? というヴラドの確認にホーンテッドは即答でそう返し、完全にとどめを刺さんと指示を出す。
応じたヴラドによって刀身が紅く輝き、そのまま内部から霊術で弾き飛ばそうとした瞬間だった。
突然、視界の中に鮮血が舞った。
「……あ?」
湧き上がる疑問。
この血は誰のものか?
ロークの血? いや、違う。まだヴラドの霊術は発動していない。
それならば、この血の正体は———。
「……ッ!」
ホーンテッドは視線を動かし、その瞳に剣を逆袈裟に振り上げるロークの姿を映した。
「馬鹿な……」
血飛沫が自分の身体から生まれたものだと気付いたホーンテッドは、それがロークの一太刀によるものだと理解し、思わず目を見開いた。
「ぁああああッ!」
ヴラドの霊術が発動する直前、ロークはホーンテッドの身体に全力の蹴りを放った。
激しく動揺していたホーンテッドは咄嗟に防御することができず、そのまま蹴り飛ばされる。同時に、ロークの胸元に突き刺さっていたヴラドが、勢いよく抜けてしまう。
「チィッ!」
霊術の不発、そして身体に一撃を浴びたことに、ホーンテッドは苛立ちから思わず舌打ちを漏らすが、すぐに首を横に振って冷静さを取り戻す。
「……油断していたとはいえ、見事だ」
受けた一撃を霊術で治癒しながら、ホーンテッドはロークに称賛の言葉を漏らした。
「けれど、一太刀入れたところで大局は変わらない。今の君の状態じゃ、勝ち目は……」
ホーンテッドは話している途中で、気付けば言葉を止めていた。
依然として危機的状況にあり、その身体には深い傷が刻まれているというのに、今のロークはまるで凪いだ海のように泰然としていた。
そして———。
「クラウ・ソラス」
ロークがその真名を静かに呟いた。
その瞬間、ロークの身体から霊力が溢れ出し、手にした剣精霊————クラウ・ソラスの刀身に亀裂が入った。
「……これはッ!」
ホーンテッドが先程を超える驚きに声を漏らす中、罅割れが刀身全体に行き渡り、音を立てながら砕け散った。
『……何だ、ありゃ?』
『………』
砕け散った刀身の中から現れたのは穢れ一つない純白の剣だった。
この闇に覆われた空間で白い輝きを放つ剣にホーンテッドを始めとして周囲の邪霊達、そして四凶までもが一瞬、動きを止めて視線を向けていた。
しかし、ホーンテッドの目を引いたのは変化した剣精霊クラウ・ソラスの姿ではなく、ロークの左の瞳に刻まれた、剣を模した精霊紋だった。
「その精霊紋、まさか精霊契約を……ッ!」
「開闢の剣———霊刃」
ホーンテッドの言葉を遮り、ロークは白剣を横薙ぎに振るう。
白光を放つ剣から放たれた斬撃が真っ直ぐに飛翔し、進路上の邪霊達を斬り裂きながらホーンテッドに直撃する。
「ぐッ、ォオオオッ‼」
咄嗟に剣で斬撃を受け止めたホーンテッドは、その威力に思わず顔を歪めながら肉体強化を全開にすることで、その軌道を逸らすことに成功する。
「……フフッ……ハハハッ! 面白いじゃないか、ローク・アレアスッ!」
予想外の力を見せるロークにホーンテッドは狂笑を上げると、全身から霊力と魔力を滾らせる。
「来いッ! 今度こそ決着を付けようじゃないかッ!」
「ああ、そうだ……なッ!」
叫ぶホーンテッドに、ロークはそう答えると、その場から大きく後退した。
「なッ⁉」
「なッ! おいッ!?」
戦意に満ちていたホーンテッドはいきなり目の前から消えたロークに驚きの声を上げるのだった。
という訳で139話にてついにローク・アレアス、契約精霊ゲットだぜ!