巨大な掌が朽木朝緋を押し潰そうと迫ってくる。
(瞬歩でも間に合わ────)
その瞬間、朝緋を護るように花弁の刃が壁となる。
同時に朝緋は父である白哉に抱えられて距離を取らされた。
それを見ていて平子はホッとすると同時に流石パパやな、と軽口を叩く。
「無事か」
「はい。ありがとうございます父様」
流石に今のは心臓が凍った。
窮地を脱して嫌な汗が一気に噴き出る。
「油断するな」
「とは言っても、真っ二つにしても死なないとは思いませんでした。破面だってあそこまで出鱈目ではありませんでしたよ」
生物として間違ってますと言わんばかりに前髪を掻き上げる。
普通真っ二つにすれば死ぬ筈だが、再生し、更に力を付けてくる。
「あの人を倒すには、何かしら条件があると見るべきですかね。最悪、全身を粉微塵にしても復活されるかもしれません」
流石に無いと思いたいが、本当に不死身だとすると、浦原喜助が藍染惣右介にしたように封印するしか手段が無くなる。
そして、その手段をこちらは持っていない。
ジェラルドがその巨体に相応しい声量で笑う。
「我にここまで傷つけるとは! 流石は護廷十三隊!」
そう言うと花を手折るように建造物を破壊し、手にしたそれをこちらに投げてきた。
それ自体は難なく回避したが、ここからジェラルドの攻勢が始まった。
「やっぱり大きいってそれだけで有利ですよねー」
白哉と別々に逃げた後に朝緋は適当な建物に入って身を潜めていた。
巨大化したジェラルドが時折建物を破壊しながら歩いている。
おそらくは霊圧を探知していると思うのだが。
朝緋は小さな瓢箪に入ってる薬を飲む。
「これで、卍解をあと一回くらいはなんとか……」
霊圧を無理やり回復させる薬だ。
多少副作用もある為、使用は勧められてないが、今は仕方ない。
「とにかく今は少しでも体力と霊圧の回復に努めないと」
ジェラルドが近付いて来たので、少し距離を取ろうと移動する。
その間に、仮面の軍勢が全員合流して攻勢に出ている。
移動する最中にルキアと恋次を見かけて側に着地した。
「ルキア姉様! 阿散井副隊長!」
「朝緋か!」
「ここでなにしてるんですか?」
首を傾げて訊く朝緋に恋次が眉間にしわを寄せる。
「アアン! あのデカブツをぶっ倒す算段をつけてるんだろうが!!」
「必要ありません」
「どういうことだ朝緋?」
朝緋はユーハバッハが居るであろう居城を指差す。
「一護さん達のところへ行ってあげてください。アレは私達で倒しますから」
「はぁ!? お前……!」
「
はっきり言ってこちらの勝利条件はユーハバッハを倒す事だ。
その手下程度に戦力をこれ以上割くわけにはいかない。
「今回は本来、死神と滅却師の戦争です。敵の頭領を倒すのに、現世の人間達だけに任せる訳にもいかないでしょう?」
そう言ってルキアと恋次の背後に回って背中を押す。
「行ってください。お二人が護廷十三隊の代表です」
冗談めかして言う朝緋にルキアは確認するように問う。
「大丈夫なのだな?」
「こっちには父様も居るんですよ? 私はともかく、父様の実力が信じられませんか?」
卑怯な言い方だ。
ルキアにとっては兄で、恋次にとっては超えるべき目標の死神。
その実力を疑うのかと言っているのだ。
「わかった。恋次、私達は一護を助けに行くぞ」
「わーったよ! アレだけデカけりゃ、こっちは気付かねぇだろ! 一気に駆け抜けるぞ」
やる事を決めたら居城まで走っていく二人。
それに手を振っていると白哉が現れる。
「行ったか」
「駄目でしたか?」
「良い。私もそうしていた」
仮面の軍勢がジェラルドと戦っているが、押されている。
早く参戦した方が良いだろう。
そこで朝緋にはひとつ思い当たる物があった。
「父様。私があの人を真っ二つにした時に、滅却師が力の触媒にしていた装飾品、見えましたか?」
「朝緋はそれが奴の核だと思うか?」
白哉の問いに朝緋は頷く。
「確証は無いですが。脳や心臓を斬っても駄目となると、他に弱点が思い浮かびません。それに、真っ二つにした肉体は、アレに引き寄せられてくっついたように見えました」
朝緋の推測に成程と目を細める。
すると平子と雛森がやって来た。
「面白そうな話しとるやないか。オレも一枚噛ませろや」
「無事だったんですね。やられちゃったのかと思いましたよ」
「阿呆か。隊長があれくらいで殺られる訳ないやろ。ま、手詰まりなんは事実やからな。その予想に乗ったるわ。朝緋、お前まだ卍解は使えるんか?」
「……一度だけなら」
とはいえ、次がこの戦いで使える最後の卍解になるだろう。
次に卍解を振るえば、もう始解すら難しくなる。
「よっしゃ。ならアイツの注意を引くんはオレら仮面の軍勢が引き受けるわ。親子二人で何とかあのデカブツを倒してや。桃、お前は二人の援護や」
「はい! 分かりました、平子隊長!」
指示を受けて桃が頷く。
霊子の足場が作れないこの場で、二人が上手く立ち回れるように鬼道を駆使するのが雛森の役目。
「ほな、行ってくるわ。しくじるなよ?」
そう言って虚の仮面を被り、ジェラルドに向かっていく。
同時に雛森が縛道の七十七"天挺空羅"を使って仮面の軍勢に今の作戦を伝える。
動こうとした時に白哉が朝緋の嬉しそうな視線に気付いた。
「どうした?」
「いえ。護廷十三隊に入隊してから父様とこうして肩を並べて戦えるのは思えば初めてだなって」
朝緋が入隊した時は白哉はもう六番隊の隊長だった。
入隊と同時に席官入りしてたとはいえ、仕事での接点は薄かった。
藍染惣右介との空座町での決戦では白哉は虚圏に向かってたし、滅却師との戦争でも別々のところで戦っていた。
まぁ、朝緋が敵に操られて襲いかかったのはノーカウントだろう。
白哉は息子の頭に手を乗せる。
「失敗は許されぬ。心して自分の役目を果たせ」
それだけ言うと、最大の攻撃を準備する為に場を離れる。
父らしいと苦笑しつつ、朝緋を機を探っていた。
「えぇい! 滅却師ってのは虚が弱点なんやないんかっ!」
虚閃を放ちながら平子が毒づく。
浦原喜助に聞いた、純血の滅却師は虚に対する抗体を一切持たない種族だと。
虚の霊圧で放つ虚閃を撃ちまくっているのにダメージを負っている素振りすら無い。
自身の斬魄刀である逆撫の能力もジェラルドの奇跡とやらで耐性付けられ、通じなくなってしまった。
せっかく合流した仮面の軍勢も一人、また一人と倒れていく。
そこで、ジェラルドを攻撃していた
猿柿ひよ里の虚閃の後に、有招田鉢玄、矢胴丸リサ、愛川羅武が同時に攻撃を仕掛けるも、それすら虫を払うように弾き飛ばされた。
しかし、鉢玄の背中にしがみついていた朝緋が彼の肩を蹴ってジェラルドの腕に跳び乗る。
「卍解────雷鳴千鳥丸!」
再び卍解を解放する朝緋。
それをジェラルドは笑った。
「我が肉体に二度目は通じぬ!」
「通す!」
雷光の刃をジェラルドの喉に突き刺した。
横向きに刺したせいか。それともジェラルドの肉体の強度が上がったせいか、今度は下まで斬れずに突き刺さったまま止まる。
「二度も我の肉体を傷付けるとは……恐ろしき卍解だ。だがそれまで。これ以上の奇跡は起きぬっ!」
ジェラルドの手が今度こそ朝緋を潰そうと迫ってくる。
その前に次の手を打つ。
「ここからが本命ですとも。囀れ、雷鳴千鳥丸……」
刀身に使っている
首から上が肉体内部からの爆発に吹き飛び、それが飛び出た。
滅却師十字。
ジェラルドが奇跡によって復活する前に、白哉が触媒に近付く。
「終わりだ滅却師」
千本桜景厳の花弁が一つの形へと押し固まれていく。
「終景・白帝剣」
卍解の力を一振りの刀に集約した一撃を巨体な滅却師十字に叩きつけた。
白哉が地面に着地すると滅却師十字がひび割れ、時間差で粉々に砕け散る。
「馬鹿な……我の、奇跡が……」
その言葉を最期にジェラルドの肉体は崩れ去っていった。
「ようやく終わったな……しぶと過ぎやろ、アイツ」
敵が死んだのを確認すると消耗から平子はその場に座り込んだ。
自分で起こした爆発で弾け飛んだ朝緋は雛森に庇われる形で地面への衝突を回避していた。
「あぁん? なんだ、もう敵を倒しちまったのか?」
運が良いのか悪いのか、ジェラルドを倒したタイミングで更木剣八がやって来た。
別の場所で戦っていた更木剣八は、負傷して治療を受けていたのだが、完治して巨大化して分かり易いジェラルドの所まで走って来たのだが、戦闘はもう終わってしまった。
平子は重い腰を上げて更木の所まで移動する。
「遅かったやないか」
「喧嘩売ってんのかテメェ……」
「そんな訳ないやろ。霊圧の感じからして残っとる敵は多くない。こんなところでモタモタしとったら、一護にユーハバッハを掻っ攫われるで?」
ユーハバッハと闘いたかったらさっさと行けと城を指差す。
流石に更木剣八でも、あんな目立つ居城までは迷わないと信じたい。
面倒臭さ半分、楽しみが半分といった様子で更木剣八は居城を見る。
「面倒臭ぇが、それしか敵が残ってねぇってんなら仕方ねぇ」
更木剣八は敵を求めて居城まで走って行った。
「難儀なやっちゃな……」
今度こそ平子は腰を下ろして休んだ。
「お見事です、父様」
既に卍解を解除し、日番谷隊長に折られた斬魄刀を晒して座り込む朝緋。
「いや、良くやった。お前の助けがなければここまで上手くはいかなかっただろう。強くなったな、朝緋」
「……………………!」
父に褒められたのだと気付くのに数秒かかったのは、霊圧の消耗による疲労だと思いたい。
「すみません。流石にもう限界ですので、このまま休ませてもらいますね」
「あぁ。ゆっくり休め」
そのまま目蓋を閉じて朝緋は休息に入った。
滅却師の集団である星十字騎士団の頭領であるユーハバッハとの戦いは尸魂界へと移る。
藍染惣右介。
更木剣八。
黒崎一護。
ユーハバッハが特記戦力と定めた五人の中の三人。
そして石田雨竜の手によって討伐された。
後に、霊王護神大戦と呼ばれる死神と滅却師の戦争は多くの犠牲を払いつつも死神達の勝利で集結した。
そして十年後。