当たってみれば、良い方向へと転がるかも。
裏方としてそんなことも考えてみたりするけど、でも。
うまくいかないのが、これまた世の常人の常。
「思ったことはハッキリ言わせて頂くんで! それが私なので! 宜しく!」
そう言って中指立てくさるマネージャーに、俺は溜め息を一つ。
こんな「夜路死苦」に聞こえる宜しく、初めて聞いた。それに面と向かって中指立てられたのも、多分初めてだ。アメリカの学園ドラマかコイツは。
でもまあ、そういう人間なんだろうなとは思う。なにしろ一目惚れした男子を探しに、わざわざバド部のマネージャーになったくらいだ。
命の限り好き勝手、って手合いだな。好きも嫌いもハッキリしてて、突っ走ったら止まらない。
――ああ、そうか。この女は、どこか似ているんだ。大喜に、そして蝶野さんに。
だからこそ、こうやって自分の事みたいに入れ込んでくるんだろう。
まったく、面白いな。
蝶野さんをフッたのが気に入らない、と大喜に噛みついているのを見て最初は違和感しかなかった。蝶野さんと出会ってまだ一週間かそこらの筈だし、くっついては別れてを繰り返すタイプがそこまで他人の恋路に首を突っ込むもんだろうか、と。詳しく調べたりはしないけど、告白されればよっぽどの事がない限りすぐ付き合うのに些細なことでフッてしまう、恋多きというか昆虫採集気分で男子を漁る口だとは噂になっている。下品な言い方だけど「挑めば100%ヤれる」とかそんなのもあったな、実際どうなのかは知らないが。
自分はそんななのに、どうして熱くなれるのか。余計な事をして煽った挙げ句に正面からフラせたみたいだし、悪気があってやってるのかもしれない。
……一度はそう思ったが、今こうして考えてみると逆なのかもしれない。
勝ち目がないと知りながら、蝶野さんは一歩も退かなかった。今は先輩を好きなままで構わない、とかも言っていたな。
そんなの、良いわけがないだろうに。
告白という手持ち最強のカードを切って尚、大喜は変わらなかった。多少意識はしたようだけど、やっぱり千夏先輩しか見ていない。
それでももがく姿に、少しでも力になりたいと思っても不思議じゃない。俺が大喜を応援するのと、同じように。
大喜にせよ蝶野さんにせよ、困難に屈することなくぶつかっていく。それはマネージャーには多分無いであろう姿勢であり、そして俺には決して持ち得なかったものだ。
だって俺は、諦めたから。
あんなに好きだったのに、彼氏が出来たらしいという話一つで挫けてしまった。もう顔さえ忘れて、それでも俺の心は引き裂かれたままだ。我ながら臆病で愚かだとは思う。大喜たちへ偉そうにあれこれ言える立場じゃないな、それこそ。
だからこそ、せめて。あいつらには、俺とは違う結末を迎えて欲しい。上手くいこうがいくまいが、悔やまず先へ進んで欲しい。
――まあ、それにだ。どうやったって俺では、蝶野さんへのフォローは不可能だ。なまじ大喜に近しい分、余計に傷を抉りかねん。そもそも俺だって外野だし、正面からフラれた経験もないから気持ちも細かくは理解できない。そして気を遣えば遣うだけ、拗れてややこしくなっていくだろう。配慮なしの距離感でゴリゴリ押していくサバけた優しさが、今の蝶野さんに必要なのかもしれない。こう言ってはなんだが、本当に友達いないからなアイツ……。俺も多くはないが、女子であれは……。
アクが強くて強烈な劇物だけども、一人くらいはこういうのがそばにいてあげた方が良いんだろう。
気軽に中指立てるのだけは、可能な限り早く止めて頂きたいが。あれは万国共通で「大挑発」だからな。
あんまり頻繁にやられると、余計ないさかいを招きかねん。
「まあ、良いけどさ。あんまりやり過ぎるなよ」
「だーいじょうぶ! まーかして!」
胸を張って元気に言い放つその姿は、何処かで見たような――いや気のせいか。
さて、練習に戻るか。やるべき事は幾らでもある、時間は有限だ。
振り返った時に悔いを残さないよう、全力で駆け抜けよう。