喧嘩師《セイント》カシオス   作:ソロモンは燃えている

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バレンタインデー企画です。
乙女ゲームってこんな感じかなってイメージで書きました。


IF ときめき聖コスモ学園

 

 

 

 天界では、多くの神が想い悩んでいた。

 聖域で行われたシャイナと4柱の神々の戦い。

 そこで見せた神聖衣(ゴッドクロス)を纏ったシャイナの美しさと気高さを前に4神達は想いを寄せるようになっていた。

 

 4神、すなわちサターン、アベル、アポロン、マルスは互いにシャイナの心を欲する恋敵(ライバル)であり、障害であると認識している。

 牽制しあっていることで中々シャイナとの距離を縮めることが出来ていない。

 一時的にとはいえ、アテナと敵対したことも後を引いている。

 遅々として進まぬ状況にシャイナへの想いは膨らみ、焦りを募らせていた。

 あれ程の女だ。

 自分達以外にも想いを寄せる神や人間は多いだろう。

 こうしている間にも先を越されているかもしれない。

 そう思うと居ても立っても居られなかった。

 ああ、過去や立場を気にせずにシャイナと触れ合える世界であればいいのに。

 

 そんな神々のもやもやした気持ちが世界に影響を及ぼし、新たな世界を創造してしまった。

 これは、そんな世界での物語。

 

 

 

「まずい、まずい、入学初日に遅刻してしまう!

 くそっ、カシオスの奴、起こしてくれてもいいじゃないか!」

 

 私の名はシャイナ。

 今日から聖コスモ学園に通う新入生だ。

 憧れていた高校に通えることに浮かれてしまい、昨日の夜、なかなか寝付けなかったことで寝坊してしまうなんて。

 弟のカシオスは、あっさり姉を見捨てて中学校に向かっていた。

 アイツには姉に対する敬意が足りない。

 お陰でパンを咥えながら学校への道を走ることになってしまった。

 

「うわ!」

 

 そんな私に路地から誰かがぶつかって来た。

 

「いててっ、お前か?

 俺にぶつかったのは!」

 

 ぶつかった衝撃で倒れてしまった私が顔を上げた先には、青い髪の気の強そうな男がいた。

 どうやら、私は彼にぶつかってしまったらしい。

 

「すまない、急いでいて周りが見えてなかった」

 

 向こうも路地から飛び出してきたような気がしたが、道を全力で走っていた私が強く言えるはずもない。

 何より、ここで時間を食うわけにはいかない。

 

「くっ、本当にもう時間がない。

 それじゃ、これで!」

 

 そう言って、再び走り出す。

 

「あっ、待ちやがれ!

 それで済むと・・・って、もういない」

 

 なんて女だ。

 俺はアベル、この辺の不良どもが恐れる最強の男だぞ!

 そんな俺にあんな口を利きやがるなんて。

 

「おもしれぇじゃねえか。

 それにあの制服、同じ学園の生徒か。

 学園で見たことないから新入生だな」

 

 気の強い女は嫌いじゃない。

 次、会ったら覚悟しておけよ。

 

 アベルの顔は、獲物を狙う狩人のものだった。

 

 

 

 なんとか時間ギリギリで校門を通過することが出来たが入学式の場所がわからない。

 聖コスモ学園は良家の子女が通う超名門校に相応しく広大な敷地内に校舎や体育館などの施設が点在している。

 これから職員室を探して確認する時間などないだろう。

 

 うう、結局遅刻して入学式に出られないのか。

 

 楽しみにしていた学園生活は、初日から躓いてしまった。

 入学式の日に遅刻してきた女。

 同級生や先輩、それに先生方からどう思われるだろうか?

 私は弟と違って不良じゃないのに。

 

 弟のカシオスは中学生なのに近所で不良として有名だった。

 近隣の中学の悪い奴はだいたい舎弟だって言われている。

 そんな連中からカシオスの姉として姉御と呼ばれている私を周りは怖がって遠巻きにしていた。

 正直に言おう。

 私は、ぼっちだった。

 近くにいるのは弟の舎弟ばかり。

 カシオスが私の言うことを聞く姿を見て、尊敬と畏怖の視線を送ってくる奴らだ。

 違うからな。

 カシオスは、ああ見えて家族を大切にする(たち)だから姉である私の言うことには大抵従ってくれるだけでカシオスより強いとか、そんなことは全くないからな!

 

 だから、そう言った不良とかと縁のない名家の令息、令嬢が通う名門校に入学したんだ。

 なのに、このままでは私自身が不良と思われてしまう。

 同級生が挙動不審になり、目も合わせてくれない学生生活を高校でもするのかと思うと軽く死にたくなってしまう。

 カシオスが悲しむから本当に死にはしないが。

 いや、カシオスは家族思いのいい子なんだよ。

 だから、姉として遠慮なく接することが出来るし、機嫌が悪い時は当たりがキツくなってしまう。

 そんな姿を見られて余計に誤解されているのはわかってるけど、家族の仲を取り繕うのは嫌だった。

 

 

 そんな私に救いの手が差し伸べられた。

 

「君、新入生だね。

 道に迷ったのか?」

 

 その声の方向に目を向けると整った顔立ちの大人の男性が立っていた。

 

「えっと・・・」

 

「私はマルス。

 この学園の教師をしている者だ。

 ここは広いからね、毎年道に迷ってしまう子が出るんだよ。

 君もそうじゃないかと思って声を掛けたんだ」

 

「はい、新入生のシャイナと言います。

 おっしゃる通り、入学式の会場の場所がわからなくて途方に暮れていました」

 

「そうか。

 会場の体育館は、この方向に向かうと左手に見えてくるよ。

 もうすぐ式が始まってしまう。

 急いだ方がいい」

 

「あちらですね。

 ありがとうございます、マルス先生!」

 

 そう言ってシャイナは体育館へ向かって走り出す。

 彼女を見送るマルスは、優しい眼差しを向けていた。

 

「あんな風に走るってことは一般家庭の子か」

 

 この学園の女生徒は、いわゆるお嬢様が多い。

 彼女達はお淑やかに振る舞うよう教育されているから校内を駆け抜けるようなまねはしない。

 

「ああいう子は、なかなか周りに馴染めないことが多い。

 少し気にして見ておくべきか」

 

 会場の場所を教えてあげた時に見せた明るい笑顔は、ご令嬢にとっては(はした)ないと感じるものかもしれないがマルスには好ましく感じた。

 あの笑顔が曇るのは見たくないな。

 自然とそう思っていた。

 

 

 

 なんとか無事に入学式の会場に入ることが出来た。

 今、壇上に生徒会長が立ち、私達新入生に対して歓迎の言葉を述べている。

 

 生徒会長って顔で選ばれてるのか?

 そう思ってしまうほど会長の顔は整っていた。

 周りを見渡しても顔が整っている子達が多い。

 そんな中でも突出した美貌の持ち主は存在する。

 今、挨拶している会長もその一人だった。

 

「はあ、やっぱりサターン様はかっこいいわね」

 

「ええ、そうね。

 文武両道で生徒会長に選ばれるほどの優等生、その上家柄も申し分なし。

 まさに完璧な王子様ですわ」

 

 周りの女生徒達が顔を赤らめながら見つめている。

 

「こうして同じ学園に入学したのですから、部内生と部外生の区別なく交流し、視野を広げていって欲しいと思います。

 なにより、皆さんの一度しかない学生生活が楽しく、実り豊かなものになることを願っています」

 

 そう言ってサターン会長は、私達、高校受験組(部外生)が座る席に視線を向けて優しく微笑んでくれた。

 さすが生徒会長だ。

 私達部外生にもきちんと気を遣ってくれている。

 私は、これからの学園生活に向けて期待に胸が膨らませていた。

 しかし、やっぱり顔がいいな。

 私と同じ部外生の女生徒達も顔を赤らめてぼーっとしていた。

 

 

 入学式終了後の生徒会室

 

「どうしたんですか、会長?

 ずいぶんと機嫌が良さそうですが」

 

「そうかい?

 特に何かあったわけでもないけど」

 

 どうやら、少し顔に出ていたようだね。

 気を付けないと。

 でも、面白そうな子がいたな。

 

 サターンは、入学式で部外生の席で見たシャイナの様子に興味を抱いた。

 大抵の女生徒は、自分の笑顔を見れば顔を赤らめて、好意を向けてくる。

 なのにシャイナは、サターンにこれっぽっちも興味を示さず、これから始まる学園生活への期待に満ちた表情をしていた。

 こんな反応は、アテナやエリスのような幼馴染たちくらいしか経験がなかった。

 

 私にまったく興味を示さない女生徒のことが何故これほど気になるのだろう?

 わからないけど、彼女ことばかり考えてしまう。

 

 

 

 無事に入学式を終えて、私は教室に移動していた。

 やはりと言うか、付属中学からの部内進学組が大半で少数派の部外生は肩身の狭い思いをしている。

 このままでは生徒会長の言葉とは裏腹に部内組と部外組に分かれて固まってしまいそうだ。

 まあ、私には当てがないこともない。

 頼りになるかはわからないが。

 

 そんな中で動いたのは生徒会長と同じく際立った美貌を持つ女生徒だった。

 部内組から進み出て、私に声を掛けてきた。

 

「はじめまして。

 私の名はアテナ。

 貴方のお名前を伺ってもよろしいかしら?」

 

 周りの部内組の面々は、彼女に賞賛の眼差しを送っている。

 どうやら、部内組のカースト頂点はこの少女らしい。

 会長の言葉を実践するために部外生である私に声を掛けたのだろう。

 私としても拒絶するつもりはない。

 これをきっかけに部内生と部外生の間の空気が良くなって楽しい学園生活が送れるようになるなら歓迎だ。

 

「はじめまして。

 もちろん、いいですよ。

 私の名前は、シャ」

 

「シャイナお義姉様ーーーーー!」

 

 アテナに名乗り返そうとした私の言葉を遮るように抱きついてきた女生徒。

 彼女こそ、部内生との仲を取り持ってくれるかもしれない当てだったのだが、やはり役には立たなかった。

 

「ちょっと離れてくれないか、エリス。

 後、同学年なのにお姉様呼ばわりはやめてくれと言っただろう」

 

「何故です?

 私がカシオスと結ばれればシャイナさんは私のお義姉様ですわ!」

 

 だから、何の問題もありません。

 と続けるエリス。

 そう、この子は何故かカシオスに惚れているのだ。

 なんでも不良にしつこく絡まれていた時に助けてもらったのがきっかけらしい。

 それ以来、カシオスに積極的にアピールを続けていて、私にも懐いている。

 だが、今はタイミングが悪い。

 

「その話はまた今度にしてくれ。

 クラスメートとの挨拶がまだ終わってないんだ」

 

 そう言ってアテナへの返事を再開しようとするが、

 

「エリスさん、急に抱きつくなど端ないですよ」

 

「あら、アテナさん。

 私、今忙しいのです。

 後にしてくれませんか?」

 

 アテナは私そっちのけでエリスに注意をし始めた。

 エリスの反応からどうやら二人は知り合いのようだ。

 しかし、あまり相性が良くないみたいで視線でバチバチとやり合っている。

 

 何故か異様に緊張感が高まっている教室に新たに男子生徒が入ってきた。

 

 いや、この空気の中で躊躇いなく入ってこれるってすごいな。

 

 そんなことを考えているシャイナの前で、その男子生徒はあっさりと二人に話しかけた。

 

「アテナ、どうやらエリスと話せたようだな」

 

「アポロン兄様、どうして教室に?」

 

「いや、最近エリスと会えなくて寂しがっていただろう?

 だから、また昔みたいに仲良くしてほしいとエリスに頼みに来たんだが、彼女がアテナの教室に向かったと聞いてね」

 

「なっ、お兄様!

 私はエリスに会えなくて寂しいなんて思ってません!

 でも、エリスがどうしてもって言うならお茶をしながら話してあげてもいいわ」

 

 なんと言うか、とても分かりやすいツンデレだな。

 しかし、エリスには通じなかった。

 

「えっ、私はそんな暇じゃないわよ。

 カシオスとの未来のためにシャイナさんとの仲を深めないといけないんだから」

 

 エリスーーーー!

 そんなばっさり切り捨てたら教室の空気がさらに悪くなるだろうが!

 

「あー、エリス。

 アテナさんは、まだ学園の雰囲気に慣れてない部外生の私のために声を掛けてくれたんだ。

 けど、私も勝手がわからないから失礼なことをしてしまうかもしれない。

 だから、エリスが間に入ってくれると嬉しいな」

 

「任せてください、シャイナさん!

 アテナ、すぐにお茶会をセッティングしなさい」

 

「ふふん、やっぱりエリスも私とお茶会がしたいのね。

 そこのシャイナさんと一緒に招待してあげるわ」

 

 エリスがお茶会に乗り気になったからか、アテナの機嫌が目に見えて良くなった。

 教室の空気も和らいで安堵していると、アテナの兄であるアポロンが耳元で囁いてきた。

 

「アテナのために気を遣ってくれてありがとう。

 あの子はなかなか素直に慣れなくてね。

 最近、エリスが遊びに来てくれなくなって心配してたんだ」

 

 アテナの兄だけあってアポロンもとんでもなく顔が整っている。

 その顔で耳元に囁くのは心臓に悪いからやめてほしい。

 

「いえ、アテナさんは学園生活に馴染めるように声を掛けてくれました。

 これくらい大したことではありません」

 

「そうか、君はエリスとも仲が良さそうだし、これからも妹をよろしく頼むよ」

 

「はい、アポロン先輩の期待に答えられるかは分かりませんが、私も仲良くしていきたいと思ってます」

 

 

 

 こうして、私の学園生活は始まった。

 恋に、友情に、学校行事、様々なイベントが私を待っているだろう。

 ようやく私も普通の青春を謳歌できる。

 

 

 ときめき聖コスモ学園編 スタート

 

 

 

「いや、待て!

 そのキャストはおかしいだろう!」

 

 叫びながら起き上がると、そこは見慣れた自室のベッドの上だった。

 

「夢か。

 あれが私の深層心理が望んでいる世界なのか?

 確かに安全で平穏な生活が欲しいとは思うが周りが豪華すぎて気が休まらないぞ。

 もう少し、胃に優しい世界にしてくれ」

 

 シャイナは、聖闘士一筋で生きてきたため乙女ゲームなんてものの存在は知らない。

 4柱の神々から好意を向けられている状況が乙女ゲームに酷似していると言う認識もない。

 そもそも神々の好意に気付いてもいなかった。

 神々が望んだ別次元の世界でも、この世界でもシャイナを鈍感系主人公にした乙女ゲームは展開されていく。

 どんな結末を迎えるのかは、誰にも分からない。







続きません。
シャイナは登り始めてしまったのです。
この卒業まで続く、恋愛坂を!
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