「おお!我が麗しの猿の顔の魔族にゃ!歓迎いたしましょうにゃ!」
「お、お前、誰だ?!」
「は?」
「俺はここがギュユスナ・デドルディアとギレーヌ・デドルディアの邸宅って聞いたんだが…お嬢ちゃんは一体誰だ?」
「は、は…?!」
俺は理解した。
奴の記憶を飛ばさなければならない、そう理解した。
背後に回り込んで強打!
カラテチョップ!
相手は死ぬ!
「うぎゃ…」
俺も、衰えたものだ…
昔は音もなく殺せていたというのに…
玄関に横たわる、猿に視線を向けてやれやれと肩をすくめ、昔の服装に着替えてから、医者を呼びに行った。
「はっ?!ここは一体どこだ?俺は一体何を?思い出せねぇ…」
「ああ 落ち着いてください 焦ることはありません あなたにお話があります いいですか? どうか 落ち着いて あなたはずっと昏睡状態だった ええ ええ わかってます どれくらいの長さか? あなたが眠っていたのは…… 9年です」
「寝起きの着付けには最高のジョークだぜ…ギュユスナ」
「おはようにゃ?いい夢見れたにゃ?」
「ああお陰様でな、何もかも思い出したぜ…!お嬢ちゃん。」
くそあ!
再会は散々なものだった。
この目の前でにやけた面を惜しげなく、世間様に晒している猿顔陳列者に、お前には再会の時碌な目にあってねぇーななんて言葉を投げかけられた時本気で殺意を覚えたが、考えてみてみれば女装の兼は、ルーデウスたちとその他大多数にはもう知られているのだ。
何も失う物は無い堂々とするのだ。
「で、なんの用事があって来たにゃ…」
俺のテンションはダダ下がり、旧友兼恩人兼仲人の猿であっても歓迎する気分になれないが、一応聞いてやる。
「いやな、近くによったもんだから、少し面でもみせようかなと思ってな。」
俺の腹の虫の居所が悪いとわかっているだろうに、この猿はわざとこんな口調で語りかけるのだ。
「そーゆうところが嫌いにゃ…ギース。」
「おれは、お前のそーゆう所が好きだな。ギュユスナ」
オエ
「オエ」
「ひでーなおい」
まあ、コイツはこういう奴だからな、仕方ない。
負けてやるか。
結局は、歓迎の飲み会がが始まった。話題は久しぶりの再会なだけあってどうしても近況報告になってしまった、筆無精の俺とギレーヌの近況を知るためには、周りか本人に聞くしか無い。
王の護衛としては上出来な情報対策網だななんて、考えたりするがどう考えても手紙を送るのがめんどくさいだけだった。
ギースが珍しく自分の最近の出来事の報告を全くしないので、自分からぺちゃくちゃくっちゃべっていると、ギレーヌが仕事から帰って来た。
当然の如く、飲み会に加り酒と食事をかっこむ、ギレーヌに自然とにやけた顔になってしまうのを自覚する。
これもかれも、このお猿殿のおかげ!
拝んどこう。
酒でトチ狂ってギースに向かって念仏を唱えていると、ギースが突然こう切り出した。
「よし!ギレーヌも揃った事だし、本題と行くか。」
「にゃ?てめーうそつきやがって!やっぱり理由があったんじゃ無いかにゃ!」
「話を聞こう。」
「えー」
ギースが喧嘩売ったと判断して関節技でも決めてやろうかと立ち上がるも、昔なら一緒に立ち上がってギースをボコしたギレーヌの裏切りにより、いく先を失った。
「突然スクワットしたやつは置いておいて本題にいくぜ」
このヤロウ…ブッ
「頼む。力を貸してくれ。どうしても殺さないといけない相手がいる。」
食器の音が止んだ。
それも当然だ手を止めて、ギースに注目しているのだから音が止む当然のことだ。
俺たちの言葉を待たずに立て続けにギースが喋る。
「相手は、龍神オルステッドとその部下ルーデウスだ。」
乱雑に立ち上がり今にも掴みかかりそうなギレーヌを手で制し、続ける様に促す。
ギレーヌは俺に強い目線を向けたが、長年一緒にいて信頼関係は並の夫婦より強固だと自覚している、俺を信じて席に着いてくれた。
「話を聞いてくれるんだな…お前に賭けて良かったぜ。」
心底安堵した表情でそう言った、ギースの顔は俺には不気味に思えた。
結局、俺はいくことになった。
「行ってくる。」
ギレーヌの眼帯で隠していない方の目を凝視してそういうと、ボソリとギレーヌらしからぬ声で告げた。
「行って帰って来い」
ギースについて行った。
ギースはオルステッドと戦うという事でギレーヌの力も借りたがっていたが俺が拒否した。
俺はギースが何を考えてオルステッドとルーデウスを殺そうとしているかは考えていない。
ギースに恩返しが出来るなんて事も、もちろん考えていない。
俺にも俺が何を考えているか解らない。
俺はなぜギースの話に乗ったのだろうか。
そこには俺の万感の想いがあったはずだ。
けれど言語化出来ない。
魔剣の拵えの皮帯を握り締め、ギースの背を追った。
……これでギースを切る事も有るだろう。
アリエルに話をつけずに飛び出して来たが良かったのだろうか?
ギースの先導のもと旅を続けていると、昔を思い出して俺の機嫌は徐々に回復して行った。
ギースは不気味な程いつも通りだったのだ。
ギースの飯に舌鼓をうち魔物を退け、街道を進みたまに道なき道を進む。
難しい事は考えても無駄なのだ。その時になったら考えて動けばいい。
それを成し遂げ平穏かつ穏便に事を終わらせる力を俺は持っていると信じたい。
オルステッドに負けてから暇な時にコツコツと構想を練って編み出した、対龍神決戦兵器も持って来たしななんとかなるだろう。
ギースと俺の少数の旅路は、双方が旅で生涯の殆どを費やしただけはあって早めに目的地着いた。
ギースの目的地とは、ビイヤル王国だった。
大陸北部にある小国だ。
特徴といえば、鬼族とやらと人間が共存しているという事だけ、ギレーヌを探して赤竜山脈を超えてここに来た際は、鬼族をみて興奮したがそれだけだったという印象の国だ。
「こんな所で何をどうするにゃ?オルステッドはここにいるのかにゃ?」
「ああ、まだいえねぇな。詳しい事は言えなねぇが、ギュユスナお前は約束通り俺の指示に従ってくれれさえいればいい。」
「…そうかにゃ」
「にゃんか陰気な森にゃね。」
ギースに連れられて来た森は普通そうな森だったがなんとなくそう言ってみて、ギースの反応を待つ。
「そうか?それよりこっちだギュユスナ」
「……わかったにゃ。」
連れられて来たところは、巧妙に隠蔽が施されたなんとも小さな小屋だった。
「ここで待機していてくれ、食料は勝手に食って食べてもらって構わないぜ。数日後オルステッドを連れてくる。いつになるか解らないが1ヶ月はここにいてくれ。」
「……了解にゃ」
ギースは足早に去って行った。
はぁ…
不味い干し肉を齧りながら天井の木の木目の数を数える。まだだろうか。
ギースの奴どうかしちまったのかなぁ…
晩年の豊臣秀吉みたいになってしまったのだろうか…
俺に何かできればいいけどなぁ
俺はオルステッドには負けない自信があるオルステッドのために編み出した必殺技があるからだ。
ルーデウスに負けない自信がある、単純に俺の方が強いからだ。
問題は他にある。
ルーデウスを殺すべきか。
思い浮かぶのは、パウロ、ゼニス、ルーデウス、ギース、の顔。
この中に誰も死んで欲しい奴なんて居なくて全員に生きてほしい。
なんだ答えは決まっているじゃ無いか。
倒すのはオルステッドだけにして、後はギースとルーデウスで話し合いをさせれば良い。
よし!
そうと決まったら、オルステッド戦に備えて寝よう!そうしよう!
「うにゃぁ??!」
起きたら空にいた。
体に奔る痛みにこんらんし、情けない声をあげながら身につけていた魔剣の柄握り締め、迫り来る地面に対処する。
しかし時すでに遅し、対処しようと思った時には、南無阿弥陀仏。
俺は地面に突き刺さった。
うえぇ…耳に泥入った…
寝ていたら空にいた。
訳がわからないよ!
とにかく情報を知るため地面から上半身を抜き、周りを見ると不思議な光景が広がっていた。
巨大なクレーターが広がっていてその中心地に、巨大な大剣を背負った少年がいた。
俺との身長差はそれほど無く…
いや。クレーターでそう見えただけで、俺の方が明らかに身長が低く。
背負っている剣は彼が背の小さい奴だから、大剣に見えたとかでは無くただ単に大剣だった。
片手剣を腰に佩けず、背負っている身からすれば羨ましい限りである。
ここまで状況証拠が揃っているのだから、疑う余地もない。
あの小屋を吹き飛ばしたのは、目の前の少年という訳だ。
しかし、些細なことで怒る俺では無い。先ずは穏便に対話を試みよう。
「てぇめ!にゃにしやが…」
「おお!その風貌、貴方がギュユスナですか!ギースから聞きましたよ。一緒に龍神を倒しに行きましょう。」
「エ?あっにゃい。」
強引に少年に促されるまま森に進むことになった。
訳がわからないよ?
というかコイツ誰?ギースの知り合い?
そんな感じの事を考えていると、少年が喋り出した。
彼の大仰且つ自慢が所々振り掛けられた言葉を要約すると、
我が名は北神カールマン三世アレクサンダー・ライバック大英雄だ!オルステッドを倒して、序列を上げる!ガル・ファリオンと協力して倒そうと思ったが死んでしまった!お前の力は借りるつもりは微塵もなくわざと予定通り小屋には来なかったが、ガル・ファリオンが死んだので話は変わった、強大な敵を倒したので探そうとしたが、君が空から降って来たのは僥倖だった、探す手間が省けた!さて!龍神を倒しにいくぞ!
要約してこれである。
うーんこの…
君は自慢話が好きで話が長い説明口調なフレンズなんだね!
ただ、何も説明が無いよりマシだ。
しかし俺が、やる事はわかったオルステッドを倒すそれだけだ。
覚悟を決めて、森へ歩みを深める。
しかし敵が襲って来た。
その敵は、大剣を背負った少年北神つまり彼の父らしい。
つまり彼の父らしい。
なんで?
オルステッドが敵じゃないのか…?
なんでお前の父が出てくる?
と言うかお前本当にオルステッドの場所分かってんの?
なし崩しに、北神の父と戦うことになった。
意外と弱かったので、北神と北神の父をボコボコにする。
コイツらの親子関係が全くわからなぇ…
北神と北神の父は何かを話し合い、部外者でアウェイを感じている俺は黙りこくるしかない。
北神の父はなぜか壊れた兜を庇っていたので、顔は見えないがきっと息子と喧嘩するつもりで来たら、よくわからない猫耳と息子にボコボコにされたのだ。
きっとすごい顔をしているだろう。
そんな感じに、適当な事を考えながら、北神が喋っている間暇を潰す。
なぜなら俺が出来る事と言ったら、オルステッドの元への道案内の北神に着いて行くことだけだ。
よくわからん状況を甘んじよう。
…どうしてこうなった。
俺は茂みから現れた数人の人影を見て、考える。
ルーデウスとエリスとルイジェルドだ。何度も助け合って旅をしたあの四人組がここに揃ってしまった。
最悪の形で。
「なんでいるのよ…」
まるでここにいて欲しく無いような口調で、エリスが呟く。
実際問題そうなのだろう。
見たことが無いほど、苦い顔をするエリスとルイジェルド。
ルーデウスもまた、複雑な顔をしていた。
懐かしい顔だ。
旅の途中幾度となく見た顔に、思わず笑ってしまう。
今は、敵同士だと言うのに。
笑みを浮かべた俺に、蛇に睨まれたカエルも角やという表情を浮かべた、ルーデウスが重々しく口を開き喋り出した。
「エ、エリス、ルイジェルドさん、それとシャンドルさんそこにいる、獣人のギュユスナは死んだはずなんです…」
へ?
「……何?」
「?…目の前にいるじゃ無い!」
「か、確実に死んでいるはずなんです。死んでいなかったら、俺は生きてません…!」
はあ?
「ルーデウス…本当なのね」
「…はい」
「にゃ…にゃにを言っているにゃ!?ルーデウスどういうことにゃ!」
流石にこれは看過出来ない。俺が死んでいるはず?
冗談はよしこちゃん!
なんの話をしているんだ!
「にゃんの話にゃ!死んだことなんてにゃいにゃ!」
「ル、ルーデウス!」
エリスが珍しく判断に迷っているかの様な、戸惑った声をあげてルイジェルドとルーデウスに助けを求める様に振り向いた。
「長くなるので詳しく言えませんが、コイツがギュユスナではない事は確実です!信じて下さい!」
「はああ?ざっけんにゃ!!」
「分かったわ、後で詳しく説明しなさい!」
「そうか…ギュユスナは死んだか…」
「生きてますけどにゃ!」
「やりにくいわね…!」
「…同意します。」
はぁ…
そうかそうか君達はそういう奴等だったのか!
殴って正気に戻してやる!
「あの…もう始めてもいい?」
「あ、どうぞにゃ」
律儀に聞いて来た北神が、北神の父シャンドルに切り掛かったのを元に斬り合いが始まった。
一度始まって終えば、必ず覚悟を決めて殺しに来る。エリスとルイジェルドはそう言う戦士である。
殺しに非積極なルーデウスも何故か今回ばかりは、俺をめっちゃ積極的に殺しにかかって来た。
まるで親しい人の仇であるかの様に、鬼気迫る攻撃を三人から受けていたが、だが無意味だ。
エリスとルーデウスは小さな頃から見ていて、癖から何まで把握しているし、ルイジェルドも技に衰えは無いものの進歩は余り感じられない。
俺は昔ルイジェルドに苦戦していたが今戦えば勝てるだろう。
案の定だった。
北神と俺の攻撃に少しは耐えたものの、瓦解は早かった。
北神か俺どちらかが、一人だったならばそれなりの所まで行けただろうが、たらればの話はしないほうが良いだろう。
あるのは現実だけなのだから。
絶望的な状況になり、焦りを見せるルーデウス一行を眺める。
ルーデウスはなんで俺が死んでいると思い込んでいるのだろうか?
人間余裕ができたら無意識にでも頭は回るもので、そんな疑問が猫耳付きの頭に浮かび上がって来た。
そして人間とは、全く分からず情報が不足している。事柄に対しては、それっぽい事を妄想して自分を無理矢理に納得させる事が常である。
そのご多聞に漏らさず、艶々の猫耳を生やした内容量が少なそうな頭で、妄想が陳列され答えが導き出される。
そうか!
オルステッドだ!
奴がルーデウスを騙して俺を殺しに来たのだ!
一度はルーデウスを部下にする事で俺を見逃した龍神だったが、オルステッドに恨みがあってそれなりに強い俺が邪魔になったのだ!
約束を破るとは、卑しい奴め!
健全な肉体には、健全な魂が宿って欲しいものだなッ!
やる事は変わっていないじゃないか!
オルステッドを倒して、ルーデウスとギースを和解させる!
その為の力!
断じてルーデウスやルイジェルド、エリスついでに北神の親父を倒す為の力ではにゃい!
「北神よ…!」
「なんですか?」
「後は任せたにゃッ!!」
「え?」
俺は、北神が当初向かっていた方向にオルステッドが居ると、当たりをつけて突貫した。
オルステッドを倒す為に!
今人生で最高速を出しているだろう、俺を追うものは居ない!
森を直行してついた場所は、なんとも牧羊的な村だった。
こんな所にオルステッドはいるのだろうか?
俺はなんとなく村の門の前に居た、フルフェイスヘルメットの様な物を被った門番に話しかけた。
「すみませんにゃ!ここの村に、顔面が恐怖の象徴の様な奴いにゃいか…」
なぜ
殺気
まず
……ッ
死ッ!
「あっぶにゃ……」
「ち、やはり力はそのままか…」
このフルフェイスヤロー!いきなり殺しに来やがった!
「なにをす…」
「先ず俺の質問に答えろ。」
コイツらの間で俺を無視するの流行ってんの?
「ヒトガミと言う言葉に覚えはないか?」
「……?なんにゃ…?そのひとがみってのは?」
「やはり、ギュユスナは死んでいたか…」
え?
「ど、どうしてそうなるにゃ!?フルフェイスヘルムマン!」
「……気づいていなかったのか、俺は龍神オルステッドだ。そしてその質問には教えてやる義理は俺にない。」
え…?
分からない。
何が起こっているんだろう…
取り敢えず、会話を伸ばして情報を聞き出そう…
流石に状況が分からな過ぎる。
「あ!あー!ヒトガミにゃね…!ヒトガミ!あれにゃね!果実の絞り汁かけたらして食べたら美味しいにゃよね!」
秘技!ワザと知ったかぶりをすると、普通に聞くより答えてくれる確率が高くなる奴!
「……はぁ。赤竜の下顎での事だ。本物のギュユスナ・デドルディアなら、この一言で分かるだろう?」
フルフェイスで見えないが、ありありと侮蔑の感情が凡ゆる目の前の男から感じられた。
それのせいか俺は言葉に詰まった。
詰まってしまった。
思考を止めてしまった。
「……」
「やはり答えないか。ヒトガミがどうやったかは知らないが、かなり出来た代物だな…死んでヒトガミに会ったらこう伝えてくれ、お前を必ず殺すとな。」
理不尽や理解できない物に対する行動は限られている。
俺の場合それは、自分への怒りと悔しさだった。
最近ではギースの事やうまく行かない事だらけで心が疲弊して居たのだろう。
ちくしょう。
いつも俺の預かり知らない所で事は進み、気づいた時には解決もしくはどうしようもない所にある。
ちくしょう
次何したら良いかわからない。
やり場の無い怒りが悔しさが、腹の底に溜まっていく。
それに伴って俺の体の闘気が湧き出ると共にその流れが澱んでゆく。
俺はオルステッドを一瞬で無力化する方法がある。
けれどそれを今何も知らないままやったら、取り返しの付かない事になってしまう。
そんな予感もするのだ。
ちくしょう。
不甲斐ない!
殺気を剥き出しにして、以前と違って油断も隙もなく。こちらに向かって来る。
オルステッドを見て俺は泣いた。
怖いからでは無い。
悔しいんだ。
なんで俺には選択ができない時に、選択に迫られるんだ。
なんで力が有るのに、辛い事ばかり起こるんだ。
なんで力で解決出来ないんだ!
けど俺に出来ることは力を振り回すだけ、結果それが俺にとって良い方向へ向かったとしても、それは俺の知らないところで起こるだろう。
そう俺に出来る事は力を振ることだけなんだ。
俺には力が有るのではなく。
力しか無いのだ。
涙を流す俺に、驚き硬直して足を止めているオルステッド。
その隙は俺にとって十分すぎた。
これは俺が最も気に入っている技だ。
これを初めて見た時心が躍った。
オルステッドと言う最強を油断も無くなった圧倒的格上を越えるにはこれしか無いと思った。
俺の持っている技で最も強いのはこの技だろう。
再現するのにはかなりの時間と手間が掛かった。
闘気の使い方を一から学び直す必要があった程だ。
覚悟を決めて、とある物を取り出して地面に置く。
そして闘気を練り上げ、力を使わざる終えない悔しさと、不甲斐なさと、怒りと、涙に、突き出した腕に、乗せて叫ぶ。
「魔封波!!!!」