地獄絵図、と言っても差し支えないだろうそこは箱根の有名ホテルは焼け落ち運び出される怪我人や死傷者、断続的に響く悲鳴や轟音は昨年の横浜騒乱に負けず劣らずだろう。
そんな中で八幡は怪我人の治療をしていた。
「…もう大丈夫だ」
血色の戻った少年の治療を終えた次に目につく他重軽傷者の治療に周り一息つくと先に治療に当たっていた魔法救助隊の隊員の一人から声を掛けられた。
「…本来なら関係者以外の治療は断るんだが…助かったよ。我々だけじゃ手が回らなかった」
「たまたま通りがかりで…いえ、すんません…」
博愛主義者ではない。目の前で死なれるのが寝覚めが悪い…それだけだった。
一礼してその場から離れる。
「あっ、君名前を…!」
後ろから声を掛けられたが無視して歩を進める。声を掛けた救急隊員は俺よりも怪我人の方を優先すべきだ、と判断して作業に戻った。
(身体がダルい…な)
想像以上に想子を使いすぎたようだがそれを表に出すほどやわではないのでその場から立ち去ると後ろから救助隊員から声を掛けられるが無視して一団が集合している場所へ歩みを進めると深雪が此方に駆け寄ってきた。
(…想子を使いすぎたか…?)
「八幡さんっ」
少しふらつくが何て事はない…と思ったが彼女が俺の側に立って身体を支える形になる。
どうやらふらつくのがバレているらしいことに苦笑し突如離れた事に謝罪を入れた。
「悪ぃ。遅れた」
そう言うと深雪から呆れられたと同時にむず痒い表情を向けられた。
「…本当に…大丈夫なのですか?」
「…大丈夫だ。
心配そうに深雪が問いかけたのは俺の《物質構成》の使用についてだろう。
流石に息がある重傷者、助けられる人々にのみ範囲を絞って使用した…それに中には爆発する前に既に
「(使用するにしても記憶改編はここにいる人々、機器含め無理だ…)取り合えず当主達に合流しよう。達也達は?」
「あちらで既に…参りましょう」
視界の先には十師族の当主が一塊になっている光景が広がる姿は壮観だったが何故この場に留まっているのかを考えたときに私服警官がいるのを見て察した。
(調書作成に第一発見者…このテロの標的、”容疑者”扱いか…)
が、それを見て疑問を浮かべていた泉美が食って掛かる場面に困惑する香澄と七宝は動けずにいるのに遭遇した。
当然俺たちは学校からそのまま来ているので”制服”のままだ。
第一高校の生徒が問題を起こした…となればこのままではある意味晒し者になってしまうため暴走する下級生…もしくは家族としてその暴走を止めなくてはならなかった。しかし、周りの当主達はそれを咎めようとせず少なくとも父親である弘一は神妙な顔をしているだけで言葉を掛けない。真夜(朔夜)も面白そうに此方を見るだけだ。
(なにかんがえてやがんだ…?ともかく心象を少しでも良くしておけ、ってことか?)
動かないのであれば此方が動くしかない。俺は達也にアイコンタクトして動く。
引き留めるのなら俺の仕事だ。
「…やめろ泉美。警察の方の邪魔をするんじゃない」
「何故お止めになるのですかッ!?お父様は被害者で…!」
俺は暴れる妹の手を引いて警察官の前から引き剥がす。柔術の要領で勿論痛くしないように自然に。
耳元で小さくささやく。
「泉美落ち着けって…。ここで騒いだところで意味ないから…警察の方は仕事をしているだけでどうこうするつもりはないよ…おまえが邪魔したら事情聴取が長引く…失礼しました。何せこの状況ですので妹の方が混乱しておりまして…」
「あ、いえ…お気にならず…此方も仕事ですので」
俺が一礼すると話の分かる刑事だったらしく苦笑いを浮かべ泉美の妨害を咎めることはしてこなかった。
泉美の手を引いて視線で香澄の隣にいる小町が引っ張っていき七宝も頷いて大人達から離れていく。
こういう時に真っ先に問題…と言うか物怖じしないのは泉美であり逆に香澄は冷静に物事を俯瞰している…普通逆かと思ったが…この状況ならば仕方のない事なのだろう。
その様子を真夜(朔夜)、弘一、そして剛毅が離れていく子供達を興味深そうに見ていた。
◆ ◆ ◆
事情聴取は長引いていた。勿論このような事故が起これば仕方の無い事なのだが。
父親と母親(朔夜)が自爆テロ程度で死ぬとは思っていない。その場に居合わせた十師族の当主達はそれこそこの国の最高戦力と言っても過言ではない…と言っても中身は普通の人間だ。至近距離で爆弾を受ければ障壁が間に合わず即死だし銃弾も当たりどころが悪ければ…だ。
まぁ母さんに至っては”物質抗生”を扱うことが出来るので本当に心配していない(二度目)
「出来ることもねぇな…一先ず俺たちは帰るか?」
そう投げ掛けると泉美は小さく「はい…」と頷いていた元気がないのはこの状況もあるからだろう。
俺の隣を離れようとしないのは相当だった。一先ず頭を撫でてやると少し落ち着いたらしいが俺の制服の裾を離してくれない…意外と泉美の方がこういう状況に弱いのか…。意外な収穫を得た。
達也も同じ意見だったらしくここで俺たちが出来ることはないだろうと頷いて学校へ戻ろうとすると見覚えのある制服が視界に入った。
「…一条か」
「七草」
きっと緊急通信を受け駆けつけたのだろう一条も父親を探しに来ていた。左右に気を配りながら此方へ向かってくる。俺を見る目はなんとも言えない、と言った感じだ。
「司波…四葉さんもいらっしゃってたんですか」
俺の左隣に立つ深雪を見て一条は喜びと落胆が混ざりあった非常に判断しづらい表情を浮かべる。
一条が深雪に向けている感情を読み取ることは難しくない…と言うより俺との婚約を発表した直後に婚約を申し込むのははっきり言って
(…?あれ?それだと俺が勘違い野郎にならね?…最近俺ちょっと可笑しいな)
そんなことを考えていると深雪にもそれが伝わったのか愛想笑いを浮かべ俺との距離を詰めてくる。
しかし、一条はその微妙な変化に気がつかずに深雪に微笑まれたことで上機嫌になっているのを見て「現金な奴」と思ってしまったのは俺は悪くない。
尚深雪が不機嫌そうな表情を表向きの微笑みに内包しているのを気がつかない一条が悪い。
事情聴取を受けていることを知らせると取り囲まれている十師族のところへ走っていった。
そろそろ帰ろうと思った矢先に取り囲まれていた人垣から一人の男性が歩いてくるのが視界に入るとそれは俺と達也、深雪とも馴染み深い人物が現れた。
「七草、四葉」
そう言葉を掛けたのは第一高校のOB…十文字先輩がここにいるのは何となく察しがついた。
「(代替わり、ってことか…)お疲れさまです。十文字先輩。警察の方からの事情聴取は一段落っすか?」
新しい”十文字家”当主になられたのだからここにいるのだと自ずと答えにたどり着く。
「いや、おまえ達に状況の説明をしておこうと思ってな」
そう告げると十文字先輩は此方の同行者に目線を向ける。泉美、香澄、小町は既に顔見知りだし初めて、と言うのであれば七宝と水波がそれに当てはまり其々が自分で挨拶をすると軽く会釈して俺たちは少し離れた場所で事の経緯を確認することになった。
「おまえ達も通知を受け取ってここに来たのだろう?七草殿も四葉殿、七宝殿も無事だ。」
「そうですか…ところでなのですが先輩、何が起こったのか教えていただけませんか?」
達也が問いかける。
「うむ。他の方々への説明になるため簡単になるが…」
周囲の警戒には四葉の荒事担当部隊と七草の実働部隊…佐織達が目立たぬように潜んでいたのを確認した。
どうもこのテロの実行犯は見つけられなかったらしい…遠隔からの指示かもしれない。
「お願いします」
達也が頭を下げ俺も頭を下げると十文字先輩は構わない、と言った感じに頷き簡易的な説明をしてくれた。
要約すると
『十文字先輩含む
人間主義者…警察の中には一定の思想に染まったものがいるかもしれないがそこはプロ、分別はつくだろうが調査の目線でも教唆や共謀の嫌疑は掛けられずともその場に居合わせた
それの説明を聞いた泉美はぎゅっと俺の手を握るのは理不尽だ、と思っているからだろう。
実際に七宝も分かりやすくその理不尽に歯を食い縛っているのが目に見える。
「人間主義者団体が思い付きそうな設定っすね…」
思ったことを口にする。すると達也も同意見だったらしい。
「反魔法師団体が思い付きそうな設定です」
必死に堪えている(小町は『あほらし』と思っているので除外)一年生の姿を見て感心した達也がそう呟いた。
「八幡さん、お兄様…もしや警察の方の中に反魔法師団体が…?」
おいおい…その場でそれ言うのかよ。
突然の深雪の言葉に一年生組はぎょっとした表情を浮かべ深雪を見る。
「いやいや…そんなのが混ざってたらもっと『
「ああ。実際にそれに近い…京都でやられたからな」
そう問いかけると達也が頷く。
あー、嵐山での伝統派襲撃の件な?そのときはマジですまんかった。とジェスチャーすると達也と深雪は苦笑いを浮かべていた。
その後十文字先輩殿やり取りを終えて立ち去るのを確認し俺たちは一先ず学校へ戻ることにした。
「ところで八幡」
「んあ?」
戻ろうか、と言うタイミングで達也から話しかけられた。未だ話は終わっていなかったらしい。
「さっきの話だが…」
「さっきの話?」
「警察の、だ」
「ああ。…心配いらんと思うぞ?そんなのに汚染されてたら警察上層部が対処するだろ。
その返答に食いつくのは深雪だった。
「ですが警察上層部もその多数に含まれていたら?」
「簡単だ。
「…」
「だが警察も魔法師の力を見逃せないだろ。一人で戦略兵器に近い力を誇るそんな存在を普通の人間が対処できる筈がない。それこそ同じ魔法を使える魔法師が必須なんだ。そうなる前に政府が動く…」
「だが今回の件、偏見や思想無しに”今回の事件は十師族が悪い”と考えているかもしれないな」
「ああ…きっと今回の事件マスゴミは『魔法師の
俺は苦虫を潰したような表情でそう告げる。あいつら本当に揚げ足取るの上手いからな…滅びてしまえ。
「実際に犠牲者は出ている…仕方の無い事とは言え、な。テロリストが悪い、と今の俺が思っていたとしてもネットやテレビでそう吹き込まれれば少ない人々はそうなのか、と信じるだろう」
「わたくし達も同じ日本国民で血が流れていますのに…」
隣にいた泉美は哀しげに目を伏せる。俯いたままなのは儚げで幼い無垢な少女の証であり俺はそのままでいて欲しいと願ってしまう。目を伏せたままの泉美の頭に手をポンッ、と置いて撫でる。
「大丈夫。四月の頃みたいに此方を攻撃するだけのマスゴミ、いやマスコミじゃないのがいるのも分かっている此方の権利、主張を擁護する団体も少し増えてるみたいだしな」
しかし、状況は厳しいものだ。あのときとは違い実際に”被害”が出てしまっているのだから。
「この状況を魔法協会と十師族が黙っている筈がない。なんとかするだろうさ」
達也がそう告げる。そうだ、この状況を今の段階で悲観していても仕方がない。これから起こることを最大限受け入れ対処しなくては。
「…それで俺たちの仕事が増えるわけね?…本当にめんどくせぇ…」
そう告げると深雪と達也は苦笑いを浮かべる。そして隣にいる泉美は少しだけ笑ってくれたのは俺の何時も通りの言葉を聞いたからだろうか?それだとしたら嬉しいが。
「さて…父さんと四葉のご当主の無事を確認できたし学校に戻るか」
状況の把握と両親の無事を確認することが出来た。既にでしゃばってしまったが警察と消防、そして救助隊にこの場を任せ撤退することにした。
七宝は俺になにか言いたそうだったが言葉を自分で引っ込めたのを確認し追求することはしなかった。
◆ ◆ ◆
その光景を
自爆テロを企てたジード・ヘイグもとい顧傑がプランで最もロスが少ない形で達成された。
爆発物は街の至るところに設置されたセンサーを通り抜けたのは型落ちとはいえ流石はUSNAの装備だった。
それに彼が扱う死体操作魔法で操られる兵士達もセンサーに引っ掛からず十師族が集うホテルにも呼び止められることはなかった。
十師族にかすり傷を負わせることは出来なかったがそれも想定内、あの爆弾程度で死亡するとは毛ほどにも思っていないがそれこそ狙いだった。
十師族は自分の身だけを守り利用者を犠牲にし死者を弄ぶ術を使える顧傑が関知したのは自ら爆弾にした死者の数は二十名ほどであり負傷者は五十人は下らない。
これだけの人数が犠牲になったことを顧傑は
十師族は同じ国の同じ民族にこの国を追われるのだ、と嘗て自分が大漢から居場所を失ったように。
顧傑は薄暗い笑みを浮かべその場所を移動する。その足元に彼が滞在していた家の家主、そして家族の亡骸が転がっていた。
◆ ◆ ◆
漸く警察からの事情聴取を終えて将輝が乗ってきたヘリに搭乗しそのまま関東魔法協会へ向かい急にも関わらず用意された円卓の椅子に全員が腰かけると最年長である二木舞衣が口を開く。
「無意味な前置きは置いて本題に入りましょう。この非常事態にどう対処するか、皆様の意見をお聞かせください」
そう言って円卓を見回し最後に弘一に視線を向けた。
「マスコミを押さえるのは難しいでしょう。現段階で死者は十数名…未発見者を含めれば二十名を越える。世論をヒステリックな方向へ持っていくには十分すぎる犠牲者の数です」
「だからと言ってただ手をこまねいているわけには行かないでしょう」
五輪勇海が対面から反論する。しかしその声には勢いはない。
「いや、当面は静観する方がよいのではないか?性急に反論工作すれば世論からの反感を覚えかねない」
三矢元が消極論を話すが。
「そうですね。そもそも私たちは被害者であり弁明しなくてはならないことは何もない。焦って動いて痛くもない腹を探られるのは得策とは言いがたい」
八代雷蔵が同意を示す。
「しかし、黙っているだけでは一方的に悪者扱いされるだけだ。事は我々だけには留まらず魔法師全体に波及する…白眼視されかねない」
「私も一条殿に賛成だ。やりすぎて反感を買うのは論外だが黙っていても良いことは一つもない。此方が抵抗しなくては相手に追い詰められていくだけだ」
剛毅と温子が積極的に手を打つべきだと主張する。其々が主張し早くも決裂ムードになり掛けているのを舞衣は眉をひそめまだ喋っていない者達へ意見を促した。
「十文字殿は如何お考えですか?ご意見をお願いします」
克人は話を振られ一礼してからテーブルについている十師族の面々を見渡す。
「マスコミ工作は無駄でしょう。七草殿に同意見です」
「では、なにもしない方が良いと?」
「いいえ」
雷蔵の問い掛けに克人は首を振らずに答える。
「小細工はせずに我々の主張を堂々とするべきと考えます。具体的には魔法協会を通じてテロを非難するのです」
「あ、なるほど」
雷蔵は手をぽん、とおいて納得がいった。
ここにいるもの達は搦め手に囚われすぎていて正論を通すということを疎かにしており見落としていたのだ。
「私も十文字殿の提案に賛成です。現実的で検討する価値の有るものだと思います。」
「あ、私も十文字殿に賛成です」
「八代殿は弁明不要というお考えでは?」
雷蔵が手をあげると温子が茶々をいれると不快そうに剛毅が顔をしかめるが雷蔵は笑って聞き流した。
「四葉殿はどうお考えか?」
雷蔵の暖簾に腕押しの対応に場の空気が少しよくなったかぐらいの感覚で気にせずに直ぐ様真夜(朔夜)へ向き直ると紅唇を開いた。
「どれかを選ぶ、という必要は無いかと思いますわ。そうではありません?七草殿」
そう問い掛けると弘一が頷く。
「確かにそうです」
真夜(朔夜)の言葉を引き継ぎ弘一が話し始める。
「魔法協会を通じた声明を出すのは当然として…テロを非難するだけではなく、魔法師…いや民間人を巻き込んだ”テロ”を引き起こした犯人を逮捕するために全面協力するという宣言を付け加えた方が良いですね」
円卓をぐるりと見渡し反論する声が上がらないのを聞いて言葉を続ける。
「無論、マスコミ工作は同時並行で進めるべきですが」
「だが、マスコミ工作は難しいと仰ったのは七草殿ではないか?」
元が弘一に納得しないという表情を向ける。
「ええ。魔法師が悪いという声が高まるのは避けられないでしょう。ですが何もしないでいるのは得策ではありません。魔法師にも責任の一端はあるにしてもやはり悪いのは”テロリスト”であるという方向にマスコミの論調を誘導していく必要が有るでしょう」
「しかし、そう簡単にいくだろうか?一旦反魔法師的な世論が形成されれば、それを覆すのは容易ではない」
「魔法師を敵視する風潮は長期化するかもしれません…しかし此をご覧ください」
そういって弘一は端末を操作して会議室のモニターに新聞の見出しが表示される。
「此は…」
そこにはいつ撮影されたのか分からない事故現場での場面写と共に文章がある。一般人が撮影した写真を新聞社が買い取ったのか。
魔法を用いた必死の救助活動で瀕死の重体であった子供(六歳)が一命を取り留める。
病床の身でありながらインタビューを快く受けてくれたそのご両親と少年はこう語ってくれた。
「痛くて辛かったけどお兄さんが魔法を使ってケガを治してくれた。パパとママもあのお兄さんとお医者さんが”魔法”でケガを治すのを頑張ってくれたから。お名前は聞かなかったけど今ここでありがとうを伝えたい」、とーー。
そこには怪我人を治療する第一高校の生徒の姿が写っていた。顔は見切れていてよく見えないが分かるものには分かる、といった感じに。十師族の面々はおおよそ検討がついていた。
そして付け加えられた文章にはこう記されている。
『魔法という存在は我々非魔法師には埒外の力であり確かに恐怖を感じるものではあるがともあれ素晴らしい力なのだろうと子供の笑みを見てそう思えた。実際に魔法師という人々は幼い子供の命を救い痛みと恐怖から救い笑顔にして見せたのだ。一概に”悪である”と断じるのは早計なのかもしれない』
…と言ったような文言が記載されている。どうやら新聞社がこの魔法師の行動を肯定するような文章だ。
かなりリスクが高いようだったが実際にこの文章はかなりのインパクトがあった。
弘一は確信をもってこう告げた。
「此が出回っているお陰で魔法師に対しての敵意が減っている…寧ろ褒め称える言葉が多い。逆に子供を巻き込んだテロリズムに対しての敵意が向けられています。ここでテロリスト捉え『責任をとった』とすれば敵意の転嫁は容易い…それどころか此方を擁護する声の方が大きいようです。
弘一のその言葉には”我々十師族がテロの首謀者を捕えるべきだろう”と意味が含まれていた。それはその後押しをされている、と。
その言葉に剛毅が反応する。
「まさか…我々の手でテロリストを捕える、べきだと?リスクが高すぎる。我々十師族が表だって行動するには総合軍本部の同意が必要だ。国法に定められていない非公式のルールで非公式の同意を…とは言え我々と政府の関係をかんがみればこの手続きを無視は出来ない」
「一条殿は軍本部からの同意を得られない、と?」
「それだけではない。我々が首謀者の捕縛に乗りだして第二、第三のテロリズムを許した、となれば十師族の権威は地に落ち、魔法師への逆風も倍加してしまう」
「しかし…テロリストを放置する、というわけには行きませんわ」
真夜(朔夜)の発言は場の流れを変える一言だった。
「今回の件で連続テロや模倣犯を阻止するためにも私たち、十師族の面子に掛けて首謀者を捕える…あるいは”処分”する必要がありますわ」
場の流れは完全に真夜が握った。
「…しかし、一条殿のご心配もわかります」
「それは…どういう意味でしょう?」
「私たち当主が捜索に加わるというのは得策ではない、ということです。捕まえられなかった場合の外聞も問題ですがそれよりもテロの再発防止に向けて目を光らせておくべきだと思いますわ」
「私たちはテロの阻止に目を配るべきと?」
そう舞依が問いかけると真夜(朔夜)が「ええ」と頷いた。
「では、テロリストの捜索には誰を遣わしましょうか?」
温子の台詞は真夜(朔夜)だけに向けられたものではなくこの会場にいる十師族のメンバーに対して向けられていた。
その事に関して七草からは八幡、四葉からは達也。そして七草八幡に張り合うように剛毅が将輝を選出していたのは父親として息子に男を見せて深雪の心を動かそうと仕向ける親心ではあった。
しかし、テロの首謀者を捕えるために動かそうとするメンバーは全員高校生であり最年長の舞依が「学業はいかがされる?」となったが真夜(朔夜)が問題ありませんと微笑んだ。
しかし、三人とも学生であることに変わりなく外聞はよろしくない。
結果として克人がリーダーとして捜索隊を結成し八幡達が動く事となり一応は十文字家預かり、となる。
その後声明を魔法協会から出すこととなったのだ。
そうして箱根テロの首謀者を捕える任務が若い時期当主達に振られる事になった。
その際に弘一の「八幡に任せれば問題ないでしょう」と関東圏を監視する七草と十文字、そしてその提案をした四葉が合同で事を進める事になったのだが剛毅が待ったを掛ける事となる。
一条家に限っては深雪を振り向かせるチャンスであった。
剛毅的には既に八幡が今蔓延る魔法師への逆風をはね除けようとしている屋台骨となろうとしている手柄をたてていることに息子の将輝に焦ってほしい、という気持ちがあるために張り合うような物言いになったが実際に魔法師への逆風を止めなくてはならない任務であったのだ。
◆ ◆ ◆
師族会議が漸く終了した。
各当主たちは直ぐ様本拠地へ向かいテロへの警戒を強める為の対策を分家と共に進める。
剛毅も魔法協会のヘリポートから伴ってきていた息子の将輝と共に金沢へ帰宅するそのヘリのなかで魔法協会から決定した方針を伝えた。
「将輝」
「はい」
「今回のテロに関する師族会議の方針を伝える」
その改まった声色を聞いた将輝は背筋を伸ばす。
「十文字殿以外の十師族当主達はテロ再発防止に当たる。将輝、お前には十文字殿の下で事件の首謀者を追う任務が与えられた」
「はい」
その事を告げられ更に背筋をピンと伸ばした。
「学校はしばらく休んで貰うこととなる。公休扱いとなるように俺の方から手配しておく」
「わかりました」
本音を言えば学校生活に愛着を持っている将輝出来ることならば学校を休みたくはないが十師族の嫡男としての役目の方が重要だと感じているからだ。其に今回のテロ首謀者の捕縛と無力化は名誉なものだ、と考えている。
更に事の重大さを父親の告げた言葉が真剣味を帯びさせた。
「今回の件で七草家の七草八幡殿と四葉家の司波達也殿も同様に捜索に加わる。将輝、男としての意地を見せてみろ!」
「はいっ!(見ていろ七草…必ず四葉殿を振り向かせて見せる…負けないぞ…!)」
将輝はその闘志を高く燃やしていた。
◆ ◆ ◆
「えっくしっ…!」
「お風邪ですか?お兄様?」
近くに座っている泉美が心配そうに顔を覗き込み体を密着させた。
「ああ、いや…なんか噂されてる気がしてな…」
「え、一体誰が…?」
そして隣を陣取る香澄も泉美ほどではないが距離が近いのは流石に不安だったからだろう…と信じたい。
「…さぁてな。命を狙われる理由なら幾つかあるが?」
「いやいや…さらっと真顔で言うことじゃないからね?」
場所は変わって七草家のリビング。
一先ずの騒動を終えた事にお馴染みのコーヒーを飲んで一服していた所だった。
今の状態的に中心に俺、左右に泉美と香澄、そして小町が俺の膝の上にコンバインしている状態になっていた。
何?俺はスーパー戦隊ロボなの?五体合体エイトロボなの?一人いないけど…と思ったけど後ろから柔らかい感触が伝わった。
「一先ずはお父様達が無事だったから良いけれど…今回の件で確実に魔法師の風向きは厳しいものになったわね」
「真面目な話して姉さんも何してんの…?」
「だって皆が八幡を独占してるんだもん。首筋は私のもので良いわよね?」
そう告げソファーの俺の後ろに入り込んで首筋に手を回し抱きつくその体勢のせいで背中に思いっきり柔らかいやら暖かいやらの幸せな”アレ”が直撃し大変な事になっていた。
いや、マジで勘弁して欲しい…小町は血の繋がった兄妹なのでそんなものは一切沸き上がらないが左右後ろに居るのは義姉妹であり婚約者…何かの間違いがどうしてくれんの!?責任とれるんか!?とるぞバカ野郎お前!となってしまうので過度なスキンシップは勘弁して欲しい…と思っているとリビングの扉が開く音がした。
「…何を、しているのかしら?」
振り返るとそこには俺の幼馴染み、もとい従妹の真夜が此方をクズ男を見るような目で見ていたのだ。
変態ならその凍りすぎる眼差しに致死凍傷するレベルだったが生憎と俺はその類いではないので直ぐ様弁明?した。
「いや、これは不可抗力、と言うか家族のふれあい、と言いますかね?」
そう告げると深雪もビックリなレベルの微笑を浮かべ口を開いた
「…何故私に弁明するの?怒っていないわよ?」
「いや、明らかにお前…」
と言い掛けようとすると「これ以上喋ったら”流星群”撃つわよ」と口パクして脅していたので口をつぐんだ。
いや、俺が何をしたと言うのか…。
「仲睦まじいの良いことだけど先程弘一さんが帰ってきていたわ。先の件で話がある、そうよ」
「ッ!…ああ。わかった今行く」
恐らくは箱根での事件の事だろう。その事で話があるのだ。俺は姉さん達を振りほどき?して真夜とは別れた振りをして二人で義父の執務室へ入室すると魔法協会での十師族会議後だと言うのに疲れを見せていない姿があった。
「よく来たね八幡。真夜さん」
義父に「掛けてくれ」と言われ書斎のソファーに腰かけるのを確認し反対側に腰を掛け話し始めた。
「八幡。お前にテロ首謀者の捕縛任務を与える。」
その事に眉をひそめたが今回の件で世論は魔法師にとって劣勢を強いられるのは確実だった。
「なんで俺たちが?テロだったら警察に任せたら良いじゃないか」
「そういう訳には行かなくてな…これを見ろ」
そういって義父はタブレットを操作し何かの記事…何処かの新聞を見せてきたがその掲載を見て俺は思わず表情が固まった。
「…ここに映っているのはお前だろう?八幡」
そう指摘され俺は苦い顔を浮かべた。その場面は先程のテロ現場…第一高校の制服を着た男子生徒の後ろ姿…と跳ねた髪が俺である、と分かるものには分かるものだったのだ。まさかあの時写真…と言うか助けた子供の両親がインタビューを受けていたらしい。
「…んで?俺が率先して事件解決しろって?」
「そういうことじゃない。十師族の会議で今回のテロの首謀者を追うのは我々七草と十文字殿と四葉殿…と一条殿だ」
含みのある言い方に俺はなんとも言えない溜め息が出た。
「お姉さまが…?と言うよりも達也さんが…」
どうやら俺一人で解決する、って訳ではないらしい。其にしても一条がねぇ…。
「んで?首謀者とかは分かっているの?」
「いや、そこまでは分かっていないが…お前なら
「…まぁ、知ってる、と言うか知らせてくれた、と言うか…」
「そうか、では教えてくれ」
そういわれ俺は今回のテロの首謀者の名前と出身地とその外見を伝えると何故か満足した表情を浮かべていた。
「いや、流石は僕の息子だ…」
いや、普通に背信行為では?と思ったが去年の今頃だったかリーナを捕縛したその際に恐らく名倉さん経由で知られていたんだろう。
「…普通そこは怒るところでは?」
「…やっぱり弘一さんに似たわね貴方」
真夜は少しだけ嫌そうに、それでいて嬉しそうにしていた…ように見える。
「嬉しいやら悲しいやら…」
俺が情報を手に入れた入手経路をボカシながら説明…したが俺がバランス大佐…【スターズ】との繋がりがあるのがばれてしまっていたのだが。
一先ず、この俺の出来事で世論の風向きが若干と変わりそうになっている其をその当の本人がなにもしない、と言うのは不味いらしい。
…自分で巻いた種、とは言え仕方がない。
其に今回の件で一条が深雪を振り向かせる為に無理くり捜索隊にねじ込んできたらしいその対応もしなくてはならないのか、と……ともあれ明日からはまた面倒な事になりそうだな、と【賢者の瞳】を使わずとも予測できてしまい溜め息を思わず吐いた。