ちょっとだけ映画の前日譚を含めています。
よろしくお願いします。
あと、ちょいちょい前の話を修整したりしているので、読み返したりしていただけると嬉しいです。
スイス連邦
ダボス
公式セッションが終わると、会場の照明は柔らかく落とされ、参加者たちはシャンパンやワインを片手に談笑を始めた。
仙水はその輪に自然に溶け込むように立つ。
周囲には各国政府の要人、巨大企業の代表者、金融機関の責任者。名札や肩書きがなければ、ただの人の集まりに過ぎないが、彼にとっては誰が情報を握り、どの決定権を持つかがひと目でわかる。
“How do you see the next investment opportunity?”
「次の投資案件、どう見る?」
イギリス財務大臣の声が軽やかに響く。シャンパンを傾ける手元の動きさえ、仙水の観察対象だ。
会話の表面には柔らかな笑みが並ぶ。しかし、微かな視線の交差、言葉の間の沈黙、手の位置や体の傾きが示す真意を、仙水は瞬時に読み取る。
経済、安全保障、技術の未来――それらはここに集う者たちの間で暗黙の駆け引きとして交わされていた。
シャンパンの香りが漂う中、仙水は静かに自らの思考を整理する。目の前の人々が表面的に交わす言葉は、ほとんど意味を持たない。重要なのは、彼らの決定力がどこに向かうか、誰が情報を独占し、誰が操作する可能性があるか。それだけだ。
数分後、立ち話の輪を抜け、仙水は控室に向かう。
黒いスーツの影が、静かに彼を迎える。
「久しぶりねピスコ。早速で悪いけど、アフガニスタンの軍関係者から、密会談の要請が来てるわよ。」
そこにはキュラソーが待っていた。
キュラソーの低い声が控室に反響する。
「アメリカ軍の撤退で戦争は終わったが、彼らはまだ我々の支援を求めているのか。」
仙水は微かに頷く。外交の場と違い、こちらはすべてが直接的な駆け引きになる。
「我々の調べでは、アメリカをはじめとするNATO軍の撤退の理由は、政治的判断によるものだけど、どうやら我々の兵器が使用されたのがバレたことも理由の1つみたい。これに先立って、NATO軍の再侵攻に備えて軍備を整えておきたいのね。」
キュラソーは冷静に説明する。彼女の言葉には一切の感情がなく、事実だけが淡々と並ぶ。
「そいつはまずいな」
もしこのまま行けば、烏丸グループがテロを支援したとして、
組織と多国籍軍の全面戦争になりかねない。
こっちは日本の一民間軍事組織に対して相手は10を超える多国籍軍…。
こうなってしまえば圧倒的戦力差で敗北は避けられない。
いかにして各国の正規軍、治安当局が手出しできないようにするか…
仙水は一瞬で、現地の状況、撤退のタイミング、情報の出所について数字と可能性を整理する。
「……」
3時間後
同国の待ち合わせのホテルに行くと、軍関係者が待つ部屋に通される。
仙水は控えめに扉を開け、静かに足を踏み入れる。目の前には複数の高官が座し、緊張感を漂わせていた。彼らの目的は明確だ――我々の兵器による安全保障の維持と、今後の支援要請。
「我々の目的は、戦争を終わらせることではなく、次の秩序を作ることだ。」
仙水は言葉少なに切り出す。だが、その眼光は一瞬にして部屋の空気を凍らせる。
会談は進む。軍関係者は、烏丸グループの兵器による「戦略的優位」の重要性を強調する。しかし仙水の頭には、情報が漏れた場合のリスクが浮かぶ。撤退の背後にある真実、誰が情報を流したのか、そしてその責任をどう取るか。計算はすでに始まっていた。
会談の終盤、軍関係者の一人が口を開いた。
「我々は今後も、貴組織の兵器供給を――キューーーン
――ぐあっ!?」
言葉が途中で止まる。
グラスを持つ手が、わずかに震えた。
次の瞬間、男は椅子から崩れ落ちた。
床に倒れる鈍い音と共に手にしていたワイングラスが弾ける。
室内が一瞬凍りつく。
「なんだ、どうした!?」
護衛が駆け寄り、脈を確認する。
しかし目は見開き、瞳孔は開いたままだった。
「し、死んでる……!」
額には一発の風穴が空き、
そこから鮮やかな赤色の液体が流れていた。
仙水はその光景を静かに見ているだけだった。
「おや、こんな場所で狙撃されてしまうなんて…窓には注意した方が良いようですね」
カーテンを腕で軽く持ち上げ窓の銃痕を眺めながら言う。
そんな軽々しい態度に部屋にいた軍関係者全員が銃を突きつける。
チャキ!!!!
「貴様!!!!どういうつもりだ!!!!!!!!」
ニヤ
仙水はここで初めて口角を上げた。
「そんなことをしていいのですか?あなた方は今、日本の財界を武力で解決しようとしてるのだと知ってのことですか…?」
「たった今殺した貴様がそれを言うか!!!」
「殺した…?私はただ君たちと会談していただけなんですが…それとも私か私の友がやったとでも言うんですか?」
そう言うと仙水はキュラソーの肩に腕を回し、仲良しアピールをする
「いぇーいピースピース」
「き、貴様…ただでは置かんぞ!!!!」
「ただでは置かん…?そうなればビジネスはなくなりますが、それでもいいと?」
「貴様…………」
「あなた方には、どうか選択を誤らないでもらいたいものです。」
「………」
「何ですか? 何か言ったらどうです?」
「……鹵獲したアメリカ軍の例の機体。それとコイツの命で手をつけたい…」
「ほう、鹵獲した米軍機とな?…承知した。では後日こちらの工兵員を派遣しますので、今後は彼らの指示に従ってください。」
「あ…あぁ……。お、おい!これで支援は継続してくれるんだろうな!?」
「もちろんですとも!大変良いお土産、ありがとうございますね」
「……」
********
「アハッ!いい面だったねぇ!軍人にはふさわしい末路だよ!」
「俺、頭打ちたかった。」
「あんた、本当に頭好きだねえ。」
「わざわざジンから借り受けて正解だった。2人とも助かったよ。キャンティ、コルン。」
狙撃をしたのは実働部隊の狙撃手キャンティとコルンだった。
仙水とキュラソーがホテル内にはいる時に配置を命じていたのだ。
そして左ポケットに入っていた通信機のマイクに爪でコンコン叩き射撃の合図をした。
合図を受け取ったキャンティは500m離れたホテルのバルコニーから見事頭を打ち抜いたのだった。
「アンタとアタイらの仲じゃないの〜!また困ったら連絡しな!」
「俺とお前、友達。」
「あぁ……そうだな。また何かあったら連絡する。じゃあな」
ピッ
「情報流出の原因はやはり彼のようね。」
「組織の兵器が使われていると米軍に気づかせたんだろう。さすがに始末しないとだめだな。」
仙水は視線を落としたまま答える。
「とはいえ脅威の評価自体は正しい。CIAとNSAはすでに動いているわ。」
「……。」
「…どうしたの?」
「情報を漏らしたのは間違いなく彼なんたが、アメリカ軍、もといNATO軍にリークしたのは彼ではないんじゃないかってね。」
「どういうこと?」
「CIA, NSAが動くには早すぎるんだよ。君がCIAから盗み出した情報によると、奴が情報漏洩したとされる日からわずか1週間でアメリカ軍は撤退に向けて動き出した。でも普通、情報収集や軍の指揮、戦争国間の手続きを含めて少なくとも1ヶ月以上はかかる。」
「ということは、どういうこと?」
「彼が情報提供するよう誘導したネズミがいるのかも知れないってことだよ。」
「なっ!?」
驚く声がホテルの廊下に響き渡り、
冷たい風が流れた。
******
会談を終え、キュラソーと共に次の目的地を目指す。
「ドイツで防衛産業の展示会があるけど。良かったら行く?」
「どうせここまで来たしな。せっかくだしヨーロッパ観光でもしようか」
彼女の言葉には淡い誘導のニュアンスが含まれていたが、仙水にとっては次の任務の選択肢に過ぎない。
*******
ドイツ連邦共和国
バイエルン州
ミュンヘン空港
ミュンヘン空港に到着すると、組織のドイツ人幹部、リースリングが出迎えた。
淡いグレーのスーツを身にまとい、落ち着いた笑みを浮かべる。案内役として完璧に振る舞うその姿に、仙水は視線を合わせるだけで次の行動の流れを確認した。
彼女は、仙水の足取りや目線、わずかな呼吸のリズムまで瞬時に把握する。
展示会場に足を踏み入れると、最新の防衛技術や兵器が整然と並び、金属光沢が照明に反射して輝いていた。
仙水は淡々と歩きながら、技術的な情報と各国の動向を頭の中で整理する。
展示物ひとつひとつに目を通すだけではなく、その背後に潜む意図や利害関係、各国代表者の視線まで読み解く。
誰が注目しているか、どの国が新技術に強い関心を抱いているか、それを観察するだけで次の一手の構図が浮かぶ。
キュラソーは静かに彼の隣に立ち、展示会場の空気を読みつつ報告を行う。
リースリングは笑みを絶やさず、展示物の解説を続ける。周囲の誰もがその説明に耳を傾ける中、仙水は彼女の目の奥にわずかに異質な光を認めた。
展示会場の喧騒の中、情報、兵器、国家、企業――すべてが秩序と混沌の間で微妙にバランスを取り合っていることを仙水は感じ取る。その秩序の中心にいるのは、自分自身だということも。そして、彼は冷静に次の一手を計算していた。
ふと仙水は立ち止まり、天井から吊るされた巨大スクリーンに映る新型軍用ヘリの映像を眺める。するとリースリングはよどみなく解説を行う。
「このタイプのヘリは、超低空飛行ならば既存の防衛網を突破する能力を持っています。既に試験は成功しています。」
その声に微かな緊張が混じる。
キュラソーが興味津々で模型を見ながら言う
「いいわねこれ」
「いや超低空で飛んだら民間人にバレるだろ」
「あ…。」
リースリングはそのやり取りを笑顔で見守りつつ、次の展示へと静かに誘導する。
「こちらは最新型の潜水艦です。極めて低騒音での潜航が可能で、対潜・対艦作戦において高い生存性を誇ります。最新のセンサー群により、水中でも敵の艦船や潜水艦を正確に探知できます。」
「いいわねこれ」
「いや対潜能力最強の日本で使ったら一瞬でバレるぞ」
「あ…」
「………なにこれ仕込み?」
展示会場を進むにつれて、各国代表者の動きも細かく把握できる。誰が特定の兵器に注目し、誰が会話を交わしているのか、誰が不自然な沈黙を守っているのか。すべての断片が、仙水の頭の中で一枚の巨大な地図となり、次に何が起こるかを予測させる。
その間も、リースリングの目は常に仙水とキュラソーの動きを追っていた。
展示会場の喧騒の中で、仙水は再び思う。情報、兵器、国家、企業――それぞれが秩序と混沌の間で絶妙なバランスを取り合っている。
だが、中心で静かに計算する者の存在が、すべての流れを左右することもまた事実だ。
彼は淡々と足を進め続ける――
そして脳内ではただ計算し続けていた。
アメリカ軍のアフガニスタン撤退については、以前、「それぞれの思惑」にてCIAの新聞読んでるおっさんが話していたことであり、その撤退した理由が組織の武器が使用されていたことというものでした。これを理由にCIAは組織に歩み寄ってきたわけです。
そして、
ヨーロッパということでリースリングが登場しました。
彼女はまだNOCとバレていないので、組織の重鎮がヨーロッパに来たときの案内役をしています。
ちなみにこのとき却下した潜水艦は、後日知らないところで日本で勝手に入手しました。仙水君は怒ってます。
ちなみにスタウト、アクアビットはそれぞれの場所で任務を全うしています。
次回、遂に帰国し、とある事件に巻き込まれます。
お楽しみに。