戦いが終わり、静寂が肆条大橋を覆った。激しい刃のぶつかり合いや叫び声が消え去り、そこに残されたのは、血と硝煙の匂い、そして散らばる屍だけだった。冷たい月明かりが赤黒く染まった地面を照らし、風の音がどこか遠くから耳に届く。4人はその場に立ち尽くし、言葉もなくただ戦場の余韻に包まれていた。
だが、その静けさは長くは続かなかった。重い足音がゆっくりと近づいてくる。その音が徐々に大きくなり、緊張感を運んできたのだ。杉原をはじめとした4人は無意識のうちに身構え、音の主に目を向けた。
目に映ったのは、黒い隊服を纏った一団だった。その特徴的な衣装に、一瞬で正体が判明する。真選組の隊士たちだ。無言のまま、整然とした足取りでこちらに向かってくるその姿は、どこか冷徹で威圧的だった。
一団の先頭に立つのは、初めて目にする男だった。月光に照らされたその顔は端正で、切れ長の鋭い目と高い鼻筋が特徴的な美丈夫だ。スクエア型の眼鏡をかけたその目つきはカミソリのように鋭く、倒れた屍を一瞥した後、冷静に万事屋たちを見据えた。その一挙手一投足には無駄がなく、戦場の状況を瞬時に把握する冷静さを感じさせる。彼の背後には、屈強な隊士たちが整然と続き、息を潜めたように進んでくる。
杉原の表情が少しだけ硬くなり、彼は緊張した声でその男の名を呼んだ。
「永倉さん……」
その名前を口にした瞬間、永倉の後ろから別の隊士が勢いよく顔を出す。帽子を斜めに被ったその男、二木が声を上げた。
「俺っちもいまーす!」
その明るい声が場の空気を少しだけ和らげたように見えたが、それは一瞬のことだった。銀時は肩に担いでいた木刀を少し下ろし、深くため息をつく。緊張は緩んだとはいえ、体にはまだ戦いの疲労感が色濃く残っている。だが永倉の無言の歩みに、自然と再び警戒心が生じた。その表情には感情がなく、これから何が起きるのかをまるで悟らせない。やがて一団が立ち止まり、肆条大橋には再び緊張が漂い始めた。
「真選組の局中法度、第2条、局を脱するべからず。第21条、敵と内通せし者これを罰する。四番隊隊長を務めている貴殿なら、当然理解していような」
永倉は冷静な目つきのまま、低く重い声を響かせた。その抑揚のない口調には品位が感じられるが、同時に冷たい硬さも含まれている。その言葉を受け、杉原は静かに目を伏せた。そして、意識を集中させるように短く息をつく。
「ええ、当然。理解しています」
彼の声は静かだが、どこか覚悟が滲んでいた。言葉に続けて杉原は両手をゆっくりと差し出す。それを見た永倉は一瞬だけ隣に立つ隊士に目配せした。その隊士はすぐに動き、手錠を取り出すと杉原の手首にそれをかける。
その場面を目にした神楽が慌てた様子で声を張り上げた。
「ちょっと待ってヨ!」
彼女は杉原と永倉の間に飛び出し、両手を広げる。
「コイツは悪くないネ! アイツらのせいでちょっとややこしい状況になっただけで、お前ら真選組の不利になるような事は何一つやってないアル!」
だが、永倉の表情は変わらない。その冷静さを崩すことなく、淡々とした声で答えた。
「貴殿らを巻き込んでしまったのは当方の不手際だ。よって謝罪と補填は行う。しかし今後についてはこちらの内情であるため、踏み込むことは控えて貰いたい。真選組には真選組の定めた規則があり、いかなる理由があろうとも杉原がその規則を破ったことは事実である。したがって、規則に則り処罰を実施する必要がある」
神楽は怒りのこもった目で永倉を睨みつけた。その苛立ちが抑えきれない声で溢れる。
「頭の硬い奴アルな! お前らに迷惑かけないように攘夷浪士と戦ったって言うのに腹を切らせるアルか!?」
しかし永倉は微動だにせず、機械的な声で応じた。
「それを決定するのは私ではない。近藤局長だ」
その返答には一切の情が感じられず、神楽の言葉を無力化するような冷たさがあった。永倉はそれ以上何も言わず、「失礼する」とだけ呟き、杉原を連れて歩き出した。
橋の上を歩み去る途中、杉原はふと立ち止まった。そして振り返り、万事屋の3人をじっと見つめた。
月光に照らされた彼の顔は穏やかだ。風が静かに吹き抜ける中、杉原は小さく頷くような仕草を見せ、再び永倉に従って歩き出した。
杉原はパトカーへと歩みを進めながら、振り返って静かに言葉を紡いだ。その声には、覚悟とどこかのんびりとした彼らしい穏やかさが混じり合っていた。
「ありがとうございました、万事屋さん。これで俺は、俺の罪に一旦ケリをつけられた。後はこの騒ぎを起こした責任を取るだけや」
その言葉を聞いた銀時の顔が強ばり、彼の真意を察したように声を荒げる。
「お前、まさか……ッ」
銀時の問いに、杉原は短く笑みを浮かべ、静かに続けた。
「浪士の妻子を匿ったのも事実。不要な死傷者を出したのも、黙って出奔したのも事実。自分の行動には責任を取らなアカンからね。ほんまにありがとう、お世話になりました」
その言葉が終わるや否や、杉原はすっとパトカーに乗り込んだ。閉じられたドアが音を立てると同時に、彼の姿はもう視界から隔てられたように思えた。銀時たちはただその背を見送ることしかできなかった。エンジン音が低く響き、パトカーがゆっくりと動き出す。その赤いテールランプが次第に遠ざかっていくのを見ながら、銀時は拳を握りしめ、言葉にならない感情を飲み込むしかなかった。
パトカーが完全に視界から消えた後、銀時は静かに残された二木に向かって問いかけた。
「アイツはどうなる?」
銀時の問いに、二木は肩を軽くすくめてから、相変わらずの軽い調子で答える。
「さぁね。近藤さんの采配次第っス。まぁあの人が切腹を命じるとも思えないし、多分大丈夫じゃないッスか?」
その気楽な物言いとは裏腹に、二木の目は一瞬だけ真剣さを帯びた。その視線は、どこか遠くを見つめるような色を含んでいた。だが彼はすぐにその表情を崩し、現場の対応へと動き出す。
薄暗い橋の上に、隊士たちが次々と懐中電灯の光を走らせた。暗がりの中に照らし出されたのは、散乱する攘夷浪士たちの死体。無造作に横たわる体からは、冷たくなった血が地面に広がり、戦いの凄惨さを物語っていた。隊士たちは慣れた様子でそれらを一つ一つ確認し、迅速かつ的確に現場の捜索を進めていく。その一連の動作には躊躇がなく、冷徹なまでの職務意識が漂っていた。
「俺っちが今生きてるんだし、俺が良くてあの人がダメってことはないでしょ。俺よりよっぽど人徳あるし」
二木は冗談めかしてそう言ったが、その言葉にはどこか杉原への信頼が込められていた。
一方で、生き残った攘夷浪士たちは真選組の隊士に囲まれ、悔しげな顔を浮かべていた。連行される者たちの表情は様々だった。声高に文句を言う者もいれば、無言で視線を逸らす者、あるいは力の限り抵抗しようとする者もいた。しかし、抵抗する者たちは速やかに無力化され、腕を押さえつけられながら一人、また一人と連行されていった。
すべての攘夷浪士が連行された後、二木は改めて万事屋の3人の方に視線を向けた。そして、軽く息をついて言った。
「事情聴取とかもあるんで皆さんには一度屯所まで来てもらうッス。巻き込まれちまった手前気になるだろうし、後日どうなったか連絡がいくように手配しときますよ」
彼の言葉には、どこか申し訳なさがにじんでいるように感じられた。それでも万事屋の3人は、彼の指示に従い、パトカーへと向かうこととなった。
* * *
あれから1週間が経った。銀時たちの事情聴取は予想以上に早く終わり、日常が戻りつつあったが、杉原に関する情報は一向に届かない。テレビのニュースでは、肆条大橋の事件を報じる映像が連日流れていた。報道によると、京保グループの頭目は新進気鋭の大企業の社長であり、肆条大橋を爆破しようとしていたことが明らかにされたという。それを未然に防いだ真選組の活躍が称賛されていたが、一方で、マスコミたちは杉原の過去にも興味を示し、次々と掘り起こされた情報を面白おかしく報じていた。
「アイツのせいだ」「いや、コイツが悪い」と、無責任なコメントが飛び交う様子に、銀時は不快感を隠せなかった。チャンネルを変えるため、リモコンを手に取りながら、軽く舌打ちをする。
「チッ……」
画面が切り替わると、バラエティ番組の賑やかな音声がリビングに響いた。しかし、その内容に銀時はまるで興味がなく、ぼんやりと画面を眺めるだけだった。
澄み切った青空が窓の外に広がり、柔らかな日差しがリビングを照らしている。風が木々を揺らす音が、どこか遠くから聞こえてくる。銀時はソファに深く体を預け、大きな欠伸をした。腕を頭の後ろに回して足を伸ばすと、日差しと静かな空気に包まれるような心地よさが広がった。
テレビの音は遠くなり、現実から少しだけ切り離されたような感覚が漂う。穏やかな風景の中で、銀時はただ、静かに流れる時間に身を任せていた。
その静けさを破ったのは、唐突に鳴り響いた家の呼び鈴の音だった。少し騒々しい「ピンポーン」という音が、穏やかな空気に突如割り込み、部屋全体に反響する。その音に銀時は眉をひそめ、鬱陶しげに声を上げた。
「新八ィ〜、客〜」
彼の声は明らかに気だるげで、対応する気のなさが滲み出ていた。それを聞いた新八はうんざりしたように返す。
「たまには自分で出てくださいよ!」
そう文句を言いつつも、結局のところ彼は大人しく玄関へと向かう。ドアを開けると、そこに立っていたのは見慣れた顔だった。新八は一瞬目を丸くして、その人物を凝視した。
「あれ? 沖田さんじゃないですか」
来客が意外だったのか、戸惑いながら声を上げると、沖田は肩を軽くすくめ、気怠げな表情を浮かべて答えた。
「色々あったから、てめーらも顛末知りてぇだろうと思ってな」
その言葉に、新八が驚いている間もなく、奥から銀時の声が飛んでくる。
「……ようやく来たかよ」
まるでそれを待っていたかのように銀時が前に出てくる。そして沖田に案内され、無言でパトカーへと乗り込むこととなった。車に揺られながら、銀時は心の中で苦笑を浮かべる。この短期間で2度もパトカーに乗ることになるとはな、と。後部座席では、神楽が沖田に絡む様子を見て、新八は内心で恐縮しつつも、それ以上何も言わなかった。
だが、しばらくして新八が意を決したように口を開く。
「それで、杉原さんはどうしてるんですか?」
問いかけに、沖田は助手席から振り返り、まるで新八が妙なことを聞いたかのような表情を浮かべる。そして、不意に口元を歪めて言った。
「どうしてるって、まさか無事だと思ってんのかぃ?」
「どう言う意味アルか!?」
その言葉に、神楽はすぐさま声を荒げる。新八も嫌な予感を覚えたのか、次第に顔色が青ざめていく。
「まさか杉原さん、本当に……」
沖田はそんな2人の反応を楽しむかのように少し間を置いてから、淡々と説明を続けた。
「今回の事件、京保グループの罪はどれも明らかにされた。それに関しちゃ杉原さんに一切非はねぇ。ただ京保グループのテロリストと繋がってたのは事実だ。嫁子供を庇って匿ってたんだからな」
「身の危険がある奴を守って何が悪いアルか!?」
神楽が声を張り上げるが、沖田は軽く息をつきながら腕を組み、冷たく言い放った。
「うるせぇ奴だな。それが“悪”と真選組で定められている以上は“悪”なんだよ。世間的に見て善行でもな。あの人だってンな事ぁ分かっててやったんだ」
その言葉に神楽はさらに怒りを露わにし、席を乗り越えるように沖田に迫る。
「なんだヨお前ら! あの眼鏡野郎と言いどいつもコイツも頭硬いアルな!」
沖田は怪訝な顔をして神楽の言葉に返した。
「眼鏡野郎……? ああ、新七兄さんのことか」
「そうアル! 新八よりグレードが高そうなあの男アル! アイツもそんな風な事言ってたネ!」
神楽に話を振られた新八は呆れたような表情で口を挟む。
「神楽ちゃん、なんで今さりげなく僕のこと下げたの?」
しかし怒り心頭の神楽は新八の言葉を完全に無視する。一方、沖田は淡々と話を続けた。
「杉原さんの罪は2つ。京保グループの身内を匿ったこと。黙って出奔し、混乱を招いた事。これらは局中法度で禁じられてる。“敵と内通せし者これを罰する”、“局を脱するべからず”。違反をした者は切腹でさァ」
沖田はそれだけ言うと、自分の腹を掻っ捌く仕草をして見せた。そのあまりにも軽い態度に、新八と神楽は一層表情を曇らせる。
「本人も全面的に自分の非を認めてる。責任はしっかり果たすべきだってな。何があろうと罪は罪、罰はしっかり受けるってね」
銀時は目を細めながらも反論する。
「そうは言ってもあのゴリラが腹を切らせるとは思えねぇな。テメーが嘘ついた時も、二木が蝙蝠してた事も、どっちも切腹にゃなってねぇ。だったら杉原だって切腹にはならなそうなもんだ。それなのにテメーは結論を言わねぇ。……おい沖田、アイツはどうしてる?」
銀時の問いかけに、沖田は少し目を細め、不敵な笑みを浮かべる。そして静かに言葉を発した。
「相変わらず勘の良い。“陰腹”って知ってやすかぃ?」
その言葉を聞いた銀時の表情が凍りつく。背もたれに寄りかかっていた体を勢いよく起こし、前かがみになる。隣で聞いていた神楽と新八はその言葉の意味がわからず、銀時に問いかけた。
「なんでぃ、ガキどもは知らねぇのか。陰腹ってのはなぁ」
銀時が答えるより先に、沖田がいつもの気怠げな口調で説明を始めた。
陰腹とは、歌舞伎や人形浄瑠璃で使われる技法だ。既に切腹している人物が舞台に登場し、それを知らせずに振る舞い、後でその事実が明らかになるというものだ。今回の場合はつまり、
「杉原さん、予め腹切ってから来たんだよ。近藤さんが責めないって事を分かってたんだろうなぁ」
沖田の言葉を聞いて、銀時たちは言葉を失った。杉原が責任を取ると言った意味がようやく理解できたのだ。若い2人はただ絶句するばかりだった。銀時もまた、あの時止めておくべきだったかと悔やむ。
だが、その重苦しい空気の中で沖田は何の感情もこもっていないように茶化すような調子で言った。
「あり? 3人揃ってどうしたんでぃ? まるで葬式みたいな雰囲気じゃねぇか」
「テメー! どこまでクソ野郎アルか! 仲間が死んだって言うのになんだヨその態度は!」
その言葉を聞いた神楽は怒りを爆発させ、後ろから沖田の首を鷲掴みにして激しく揺さぶった。
「オイオイ、誰が死んだって言ったよ。気の早い連中でぃ」
沖田はさっさと神楽を振り払うとわざとらしく首を摩ってそう言う。
「態々テメーらに墓教えに来てやった訳じゃねぇよ。近藤さんは当然、罪には問わないと言った。だがそれで納得する杉原さんじゃねぇ。乱心して腹を切ろうとするかもしれないと考え、その場には土方さんも同席してた。その土方さんが、杉原さんの顔色が真っ白な事に気が付いてな。そこでもう腹を切ってたって事に気が付いて屯所は大慌て。山﨑が慌てて応急手当てをして、病院にぶち込んで、そんで一命は取り留めた。まあこんな感じで忙しかったから連絡が遅くなったって訳だ」
パトカーは病院の前で止まった。「今日が退院の日なんだよ、杉原さん迎えに来たついでさ」沖田はそう言うとパトカーから降りる。
病院の入り口から吹き込む風がコートの裾を揺らす。沖田が立ち止まって無造作に手を上げたのは、杉原が受付での支払いを終えて振り返った瞬間だった。薄明かりのロビーに差し込む光が杉原の黒髪を柔らかく照らしている。院内で手袋をつけられないからか、傷の痕がよく見える。ひと目で痛々しいとわかる状態だったが、その表情には妙な穏やかさが漂っていた。
杉原は彼らの姿を認めると、少し驚いたように目を見開き、それからすぐに柔らかな笑みを浮かべた。その微笑みにはどこか吹っ切れた強さがあり、これまでの彼の鬱屈とした雰囲気をまるで幻だったかのように消し去っていた。
「あれ、皆さんお揃いで。ひょっとしてお見舞いに来てくれたん?」
杉原の穏やかな声に、新八が一瞬言葉を失った。あまりに何事もなかったかのような様子に、言葉を探しあぐねるような間があったのだ。
「見舞いも何も、テメーが腹切ったって初めて知ったわ」
銀時がようやく口を開き、呆れたように頭を掻きながらため息をついた。その言葉に杉原は申し訳なさそうに頭を下げた。
「情報が遅くなってすんませんでした。万事屋さん達にはほんまにお世話になりました。ご覧の通り、死に損なって生き恥を晒しとりますけど、もう少し前を向いて生きますわ」
そう言いながら、杉原は自分の火傷の痕に指を這わせた。その仕草には一瞬だけ痛みの記憶がよぎったように見えたが、彼はすぐに微笑みを浮かべ直した。
「貴方の言う通り、後ろばかり見て剣を振るっても何も守られへん。これからは、死んだあの子に恥じん人生を送らんとね」
杉原の声には揺るぎない決意が滲んでいた。彼が過去を断ち切ったこと、その上で未来を見据えていることが誰の目にも明らかだった。彼の瞳に映る光が、それを物語っていた。
「お陰様で迷いは断ち切れましたわ。いつか死ぬその時まで、俺はまっすぐ前を向いて生きます。己の罪に苛まれて後ろを向いて、いつまでもうじうじとしてる。そんな情けない男は腹を切って死にました。文字通り生まれ変わった気分で、贖罪の為やのうて、未来の為に武器を振います。真選組四番隊隊長、杉原忠司としてね」
杉原はそう言って敬礼をした。その動作は無駄がなく、研ぎ澄まされたような力強さを持っていた。神楽と新八は彼の変化を感じ取ったのか、思わず微笑み返していた。
そんな杉原に沖田はさっさと帰ろうと声をかける。
「迎えに来てくれたん? ありがとうな、沖田くん」
「ついででさァ」
沖田は軽く手を振りながらそう返すと、杉原と共に病院を後にした。銀時たちはその背中を見送りながら、新八がぽつりと呟いた。
「いや〜、何はともあれ丸く収まって良かったですね。杉原さんも無事みたいですし」
安堵した様子の新八だったが、その言葉を口にした直後、彼の顔が急に曇った。何かに気づいたのだ。
「あれ、ちょっとまって……ここどこだ?」
新八は慌てて病院の外に飛び出し、入口に掲げられた病院名を確認した。そこには歌舞伎町から徒歩2時間ほどの距離にある病院名が書かれていた。
「あれ、ひょっとして置いて行かれた?」
不安そうに呟く新八の声を聞いた神楽が急いで外を確認すると、道路に出たばかりのパトカーが視界に入った。彼らを乗せずに走り去るその車には、沖田と杉原が乗っているはずだった。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「おいこらサド! 私達も連れて帰れヨ!!」
2人は必死で叫んだが、パトカーは止まるどころかさらに加速していった。ちらりと運転席の沖田がこちらを振り返り、杉原の視界を塞ぎながら陰湿な笑みを浮かべたのが見えた。その笑みを見た新八は愕然としながら叫んだ。
「ついでって、僕らへの嫌がらせのついでかよォォォ!!」
新八は叫びながら天を仰ぎ、ムンクの叫びのようなポーズを取った。それを見ていた銀時は静かにため息をつく。
恐らく順序が逆だろうとアタリをつけていた。
万事屋への嫌がらせのついでに杉原を迎えに行ったのではなく、杉原への迎えのついでに万事屋に嫌がらせを行ったのだ。ただ迎えに行くのは気恥ずかしかったのだろう。だから適当な理由付けを行ったのだ。
(ガキだな……)
呆れたようにため息をつく。
「しゃあねぇ、歩いて帰るぞテメーら」
「えぇー、タクシーがいいアル」
「そんな金はウチにはねぇ」
そうして銀時たちは、呆れたように言い合いながら長い帰路についたのだった。