どんなに付き合いが長くても、腹の内まではわからない。
裏表は必ずあって、だからこそ難しい。
人の心は、変わるものだから。
久し振りに聞いたな、あのイヤミ大臣の名前。
まさか大喜の口から、夢佳の話が出るとは思わなかった。笠原が言ってた通りなら、ちーと出掛けてた筈だけど。まあ、アイツなら有り得なくはないか。
夢佳とちー、あの二人は妙な縁で結ばれてたし。〽️悪縁か因果同士か仇の末か、なんてな。そんなよく分からない絆……とは呼ばないかもだけど、いやまあそういう何かが確かにあった。
――だからこそ、ちーにさえ何も言わずに姿を消すわけがなかったのに。何で今になって、アイツが。
栄明中等部のエースになる前、どころかミニバスより前のジュニアチームからの付き合いだとは聞いている。夢佳は才能の塊みたいな奴で、口を開けば毒を吐くいけすかない女ではあるけど結果を十二分に出していた。ちーは努力を積み重ねて道に到る口で、ひたすら真っ直ぐ突き抜けてエースになった。道は正反対で性格も正反対、なのに不思議と仲がよく見えたな。
こんなことも出来ないのか、と周りを煽る夢佳。そしてそれをバネにして追い付け追い越せなちー。あの二人が両輪になって尚勝てなかったと言うのは、もうルールの方がおかしいんだ。あいつらは二人揃ってれば敵無し、どんな強豪にも食い付いていけていた。
なのにいや、だから……か。元々プライドが高くて誰も頼らない孤高の天才だった夢佳には、
『針生くん、ユメカ見なかった? 入学式に来ないなんて、……どうしたんだろう』
毎度文句や愚痴は言えども行事をサボるようなのじゃないのは知ってたし、体調不良じゃないかと皆で心配して職員室へと押し掛けてようやく、俺たちは知ったのだ。もう夢佳は栄明に学籍を置いていない、と。中等部を卒業した後もずっと練習にも来ていたし、前日まで何一つ変わった様子も無かった。
俺たちはずっと同じ学校で学んで、同じ日にここを去ると思っていたのに。まさか急にいなくなるなんて、な。部活は違えどあれだけ一緒にいて、それなのに俺たちは所詮その程度か。松岡も明らかに動揺してたけど、一番ショックだったのは勿論ちーだろう。あんなに仲が良かったんだ、せめてちーだけには打ち明けてやっても良かった筈だろう。そりゃまあ、本人の事情だから他所からやいのやいの言うわけにいかないけどさ。
それに近隣にある目ぼしい高校の女バスには、夢佳の姿は無かった。どこか遠くの地区へ行ったとしても、あの天才が目立たない筈はない。高校スポーツの世界は広いようで狭い、エースの名前は全国に知られるものだ。そうなるとよっぽどの弱小にいるのか、そうじゃなければ――バスケ自体を辞めてしまったか。
余計な事を考えさせやがった大喜に一発チョップを入れ練習に戻っても、気持ちは晴れないままだ。そりゃそうか、時間が経って固まっていた傷口をひっぺがしたようなもんだもんな。明日にでもシメてやろう、覚悟しやがれ。
夢佳に何があったのか、はもう分からない。ただ、ちーの前に出てきたってのはどうにも引っ掛かるな。これからバスケ部はウインターカップがあるし、なんかちょっかいを出しに来たんだろうか。……単に寂しくなって顔を見に来た、なんてのはないか。
もしかしたら試合を見に来るかも知れないけど、西田のアホが特別練習組みくさったせいで俺はそっちいけないんだよな。クリスマスに浮かれるような連中を許したくないからみっちり練習するぞ、って私情バリバリにいれやがって。おかげで花恋に文句言われたんだぞ、こっちは。まあ部活を疎かにするような真似したら、それこそクリスマスに別れ話する羽目になっちまうけどさ。
――皆それぞれ、やることが多いんだよな。その優先順位はそれぞれで、他人が決めることじゃない。夢佳は俺たちやバスケよりも大事なもんを見付けたんだろう、そして偶々ちーに会った。アイツの事だから、再会を喜ぶどころか憎まれ口でも叩いたんだろうな。だから大喜が気にして俺に尋ねた、と。
それだけの事だ、きっと。俺が心配することじゃない、……筈なんだけど。
どうにもなにか、予感がしてしまう。あの女が面倒くさい事をやらかして、それを真に受けたちーがこれまた面倒くさい事になる予感が。当たらないで欲しいけど、そうもいかなさそうだ。
ああ、どうするかな。かつての友達としては、ほっとくわけにもいかないか。
全く、世話が焼けるよあいつらは。