無口な無口な神機使い~別に喋れない訳ではないんだが~ 作:猫丸飯店
A.まだこの領域の話はわからない。
身体同様、彼女の感性はまだまだ発展途上。
アリサと違ってドン引きはせず、今はただただよくわからず困惑してくれます。
ランクが違うからとか言ってはいけません。ランクが違うからとか言ってはいけません。
大事な事なので二回言いました。
大丈夫、ちゃんとリカバリ済みになってます。
"保障OK"のアイコンも付いてるので安心ですね。
「--アッハッハッハ!いやはや、それは何とも災難だったねぇ三人とも。」
ここは極東支部の支部長室。
先のミッションにて揃って救護室送りとなったものの。
その後何とか回復した私達から事情を聴いた榊博士が、堪えきれずと言った感じに笑い声を響かせます。
「笑い事じゃないですよ榊博士。確かに私自身、喋れないあの人でも感応現象を使えばって安易に考えてたのは反省点ですけど…」
「話には聞いてましたけど、視界や音だけじゃなくまさか味覚まで共有されるなんて…ていうかユウマ先輩、何であんなの口にして平然としてられるんですか…?」
「認めたくないですけど俺、コーヒーの事泥水呼ばわりする人の気持ちが理解出来た気がします。これから人に勧める時は一層美味しく淹れないと…!」
あの時、一体私の身に何が起きたのか。
端的に言うとその先に潜んでいた思わぬ刺客の手によって"気絶"という形で強制的に感応現象を打ち切られてしまい。
挙句アネットとフェデリコも道連れとばかりに私と同じ光景を感応させられて気を失う羽目となりました。
そう、感応現象を起こすというところまでは成功したんです。
初めはあの人に頭を揺さぶられた事による視界の揺らぎと錯覚していた私ですが。
聞き覚えのある聞き慣れないあの人の声によって、目論見通りに感応現象が起こせた事を理解し。
そこからリンドウさんがアラガミ化していた時の事を思い出して。
何とか時系列を遡って感応出来ないか試みた次第なのですが。
結論から言ってしまうとこれがまさに悪手だったと言うより他ありませんでした。
あの時、私は現実世界で揺さぶられていたせいか頭の方はグラグラしっぱなしでしたが。
もやがかった光景から徐々に出撃前の私とアネットを見るあの人の視界がハッキリと感応されていったのを覚えています。
…あと何故か私達の格好について延々とよくわからない講釈が垂れ流されていた事も。
聞き間違い?いえ、以前一度だけですが確かに聞いた、あの人の声に間違いありません。
というかアレ、一体何だったんです?
口を動かすような感覚はありませんでしたし、フェデリコも普通にコーヒー飲んでるだけでしたので。
多分会話でも独り言でもなく、リンドウさんがアラガミになってた時のようにその時の思考が音声の形で私に感応されたんだとは思うんですけど。
ただそうだとするとその思考の内容があまりにも意味不明過ぎまして。
神秘の共鳴がどうこう言ってましたけど、それとお腹を隠す事が何の関係が…?
よくわかりませんが考え出すとキリがなさそうです。
話も逸れてきたので本題に戻しましょう。
とりあえず感応現象を起こす事に成功したと確信した私は、そこから明晰夢を見てる時のようにあの人のミッション前の光景を見る事が出来ないか模索してみたのですが…
「--次に映し出されたのは彼が朝食を取ろうとしているであろう場面。食事用プレートに乗っていたのは水色の食パン二切れに…」
「どす黒い色のジャムみたいなドロドロと前にアリサが作ってくれたボルシチそっくりの深紫色のスープ、それと…ウプッ」
「わわッ!?大丈夫ですか先輩…!」
榊博士の言葉に続けて記憶をなぞった瞬間に蘇る、食事シーンと言うにはあまりに場違いな狂った色彩。
同時に私の意志とは無関係に脳裏に流し込まれた苦行とも拷問とも言える味わいも再生されてしまった結果、思わず言葉以外の物が飛び出しそうになり口を紡ぐ。
寸での所で乙女の尊厳を守り通した私の背中をアネットが心配そうにさすってくれましたが。
チラリと見た彼女の顔もやや青ざめており、恐らく私と同じようにおぞましい記憶がフラッシュバックしているであろう事が見てとれます。
「うむ、この辺りは三人ともほぼ同じ内容の話をしてくれたね。この光景が本当に彼の記憶のものなのかどうかはさておき…ここまで細部まで状況が一致しているとなると、君達三人が見た感応現象の光景は同一のものであると断言しても良いだろう。無論、三人揃って口裏を合わせているというのであればこの限りではないがね。」
むぅ、一言余計ですよ榊博士。
そんな事微塵も思ってないくせに。
だってそうでしょう、そんな事をする理由なんて私にはありませんし。
それはアネットやフェデリコだって同じ事。
ましてや下手すると記憶に残りそうなおぞましい体験と共に。
気絶してまで榊博士を謀る必要なんて、言われるまでもなく存在しません。
「まぁ君達が見た場面に出てきた食べ物、その出所に関して私も少しばかり心当たりがあってね。--いやはや、正直いくつかは口にするまでもなく廃棄するだろうと思っていたんだが…」
「…博士、今何て言いました?」
私がそう聞き返すのと同時に、聞き捨てならない言葉が聞こえてしまった三人の視線がじっとりとした湿度と共に榊博士に集中する。
そういえば榊博士、以前にもあの人の事食べ物で釣って--
「いやいや何でもない!さぁ、せっかく病み上がりの身を押して状況報告に来てくれたんだ。無理する事も急ぐ必要もない。ジュースでも飲みながらゆっくり、君達の話を整理しようじゃないか。まずは君達、特にルミナ君が気になっているであろう私が彼に依頼した頼み事についてだが--」
自分が動かねば埒が明かないと開き直ったのか、ものの数分としない内にわざとらしく私達の視線を笑い飛ばした後。
備え付けの冷蔵庫から取り出した飲み物を私達に握らせながら、矢継ぎ早に言葉を紡いで話題の転換を図ります。
…博士、ジュースなんかじゃごまかされませんよ。
さっきボソッと漏らした言葉。
後でキッチリ詰めさせてもらいますからね。
……………………………………………………………………………………………
「--はぁ、"プレデタースタイル"ですか…?」
「そう、今までアラガミのコアを引き抜くことの出来る唯一の形態であったプレデターフォーム…ここにリンドウ君から得られたデータとユウマ君が立てた仮説を組み合わせ、君達ゴッドイーターの新たな力とするため。新しい制御機構を組み込んだ神機の運用検証を今回彼に依頼したんだ。」
博士曰く。
今はまだアラガミ化に伴う心身の安全性が十分に検証されていないため。
半ば軟禁状態にあるとも言えるリンドウさんではありますが。
これは以前私に話してくれたようにあくまで本部を納得させるための暫定的な措置であり。
再度のアラガミ化、即ちオラクル細胞の暴走の危険性が極めて低いと証明できる十分なデータが集まり次第、以前のように神機使いとして普段の生活へ戻れるように手配を進める方針との事。
その本部へ報告・提案するための情報ソースとして、これまでリンドウさんの食事風景…
もとい、アラガミ化した部位の制御に関する観察データも集めていたらしいのですが。
その途中で幸運にも、これまでの神機制御技術を大幅に飛躍させられるような興味深いデータを得る事が出来たとの事で。
「で、このデータを元にした新しい神機制御機構の検証を行う事を計画していたんだが…これまた都合の良い事にそのタイミングでユウマ君の方から使い手目線での制御技術、運用方法に関するレポートが上がってきた。」
-しかし神機の制御…即ちオラクル細胞の取り扱いは大なり小なり危険性を秘めたものだ。-
-事前に安全弁は設けるとはいえ、可能であれば旧型神機よりも新型神機を用いた方が、万が一の危険性も抑える事が出来る。-
「あ、だから今日は珍しく新型神機を持ってきてたんですねあの人。」
「そう。決して
榊博士の説明に何とはなしに疑問に感じていた事の一つが思いがけず解消し。
少しばかりスッキリした気持ちと共に先程手渡された飲み物を口にし、一息入れます。
「あの、榊博士。という事は今日ユウマ先輩がやってたあの戦い方って、新型神機使いの私達も真似する事が出来るんですか?」
「凄い動きでしたからねユウマ先輩。あのどれか一つだけ使えるようになるだけでも戦術の幅が大きく広がりそうな気がします。」
今日の所はあくまで検証の段階ではあるものの。
榊博士の説明はつまり、新型神機使いであれば同じような戦い方をする事が可能だという事でもある。
私もまた二人からの質問にもっともだと頷き。
そのまま榊博士に視線を向けて回答を促してみる。
「うん、アネット君の認識に間違いはない。それどころか今日得られたデータを見る限りでは、恐らく旧型神機使いであっても同じように扱う事が出来る見込みだ。」
「き、旧型神機でも扱えるんですかアレ!?タツミ先輩やブレンダン先輩が聞いたら喜びそう…!」
「いくらこの極東が激戦区と言っても、あのスタイルが確立された暁にはもはや恐るるに足らずですね!俺も少しでも早く習得出来るよう精進しないと…!」
榊博士からの回答が予想を上回った事で思わず歓喜の声を上げ。
やいのやいのと互いに様々な想いと感想を語り合うアネットとフェデリコ。
そんな二人の様子を満足そうに見つめる榊博士でしたが。
話が盛り上がっていくのを確認すると唐突に私の方に向き直り、ボソリと二人には聞こえないように小声で呟きました。
「--そう、つまりは本部に対する切り札がまた一つ増えたという事さルミナ君。リンドウ君が皆の元に復帰出来る日もきっとそう遠くない事だと思うよ。」
そう私に告げる博士の言葉は二人の耳には届いておらず。
糸のように目を細めて浮かべる笑みもまた、二人の視界には映っていません。
…いえ、榊博士が見た目や雰囲気に反して良い人である事はわかっていますし。
リンドウさんの件に関しては私も賛同--というより榊博士の方が私の意を組んで動いてくれているという方が近いですけど。
あの人といい榊博士といい。
どうして私に味方してくれる男の人は揃ってこう胡散臭いんでしょうか?
結論:ルーキーちゃんは胡散臭い男も惑わす魔性のレディ。
なお実際は惑わしてるというより可愛がられている模様。
念のための補足になりますがこの娘アリサと同い年です。
どちらもクール系美少女ですから疑いの余地はありませんね。
そしてプレデタースタイルが実装されたのでいよいよリザレクション編突入です。