叶わない、見出だせない。
その想いは何処へと消えて行くのか。
歯を食い縛り、ただ見送るだけ。
まあ月曜日なので一本書く気ではいたんですけどね。
走る、走る、走る。ただひたすら、私は走る。
まだ陽も昇りきらない晩秋の山道を駆け抜け、肌を切り裂く寒風を纏いながらも止まらない。
眠ることさえ出来ずに夜を過ごし、いてもたってもいられなくなって宿泊先のホテルを飛び出したのが一時間程前。今日は合宿最終日、朝練の予定は何処の部も組んでいない筈だ。それにこの時期は観光客も殆どいない、だからこそ高校生の合宿なんかを受けてくれているんだろう。多分まだしばらくは、誰にも会う事はない。
だから、私は走り続ける。涙を拭わず、口からは呻き声を垂れ流して。
終わってしまった想いを、振り切るために。
ジンクスなんて、信じる気もなかった。合宿のイベント中、こんなにも人目がある所で告白されたら受けざるを得ない、そういう事なんだと思っていた。
それでもそれは、好機ではある。理由がなければ動けない人間にとって、それは魅力的な
――正直、何処かで私は甘く考えていたんだろう。誰もが通る事、きっと人並みにこなせると。
キャンプファイアーも終わり、三々五々自由時間を楽しむくだりになった頃。
私は何故か体育館の方から出てきた大喜くんを捕まえて、そして。
「好き、……です」
身勝手に独り善がりに空気も読まず、恋心を口にしてしまっていた。
たった四文字を吐き出すだけで、心が壊れそうなくらいに疲弊していくのが分かる。蝶野さんも大喜くんにしたそうだけど、同じように苦しんだんだろうか。いや、それはどうでも良いことだ。大事なのは、大喜くんの気持ちなのだから。
そう思いながら胸の中で覚悟を決める私を、大喜くんは真っ直ぐに見据えた。
私は忘れない、その瞬間を。
「ごめん、……なさい。俺はまだ、それに応えられません。今の俺には、応える資格がないんです」
灼熱色の眼差しに射抜かれながら、私はその声がどういう意味か理解できないまま固まってしまう。永遠に近い、あるいは一瞬より短い時間の後でようやく思考が追い付いた。
大喜くんは、私の告白を断った。ただそれだけ、それ以上でも以下でもない。
「……先輩は俺なんかを見ていちゃいけない人、何処までも上へ行ける人です。それに――俺もまだ、バドを諦めていません。お互いまだ、そんな事を望んじゃいけないんですよ」
それはどういう意味なんだろう、人を好きになるのは――現実逃避でしかないと言うんだろうか。他の全てを諦めなければ、なにかを得てはいけないのか。
大喜くんを意識するようになって、私は強くなれたと思う。朝練をする励みになってくれた、勝ち続ける理由をくれた。忘れかけていた涙を思い出させ、夢を追う勇気をくれた。なのにその全てが、逃げ道でしかなかったと言うのか。
じゃあ私は一体、なんなんだ。この気持ちも何もかも、ただのノイズでしかないのか。
詰め寄りたい気持ちはでも、理性によって押し留められてしまう。
そんなのおかしい、話を聞いて、と言いたいのに。
泣いてすがって、気持ちを訴えたいのに。
「そう、……だね。ごめん、変なこと言っちゃって……さ」
私は静かに謝罪して、背中を向けていた。
もしあそこでしつこく食い下がっていたら、ワガママを押し付けていたらどうなっていただろう。愛想を尽かされて終わりだったか、それとも勝ちの目を見出だせたか。
今さら考えても、仕方ないけどさ。
悶々として一晩脱け殻のようになって過ごし、更にこうやって走り続けているせいか少しずつ心は静まりつつある。それがある意味、辛いのだけれど。それじゃまるで、単なる勢いだったみたいじゃないか。何日もずっと悩んだのに、そんな衝動的なモノだとは思いたくない。
まあ大喜くんが言いたかったであろう事も、今は段々とわかり始めている。確かに私は、
大喜くんだってバドでまだまだ先へと進む、
忘れよう。良くない事は、今は忘れよう。
しっかりと線を引いて、分を守ろう。胸の奥で燻る焔を抑え込み、心臓を動かす原動力にする。痛みも無念も、ヴァリヴァリと咬み砕いてやろう。
それに大喜くんは、言ったじゃないか。まだ、と。今、と。
いつかきっと、
思いが通じる時は、私を受け入れてくれる瞬間は、きっとやって来るから。
そう考えれば、何も問題はない。
そう思え、疑うな。
溢れる涙が止まらないのは、冷たい風のせいだ。
私は大丈夫、きっと大丈夫。
そんな事を自分に言い聞かせながら、私は山道を走り抜けていく。
まだ続く、長い日々の為に。