とある迷宮の幻想物語(イマジナリーミィス) 作:クロスオーバー大好き
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 残酷な描写 クロスオーバー とある魔術の禁書目録 上条当麻 クロスオーバー
「───ええい! くそっ! くそっ! あーもうちくしょー不幸すぎますーっ!!」
我ながら間抜け全開の叫び声だと自覚しつつもカミジョウ・
……ちなみに、最初に述べておくとカミジョウ・当麻は『冒険者』だ。
何をいきなりトンチキな事を、と思うかもしれないが事実である。この世界にはダンジョンと呼ばれる地下迷宮が存在し、それを探索する事を目的にする冒険者という職業が実在した。カミジョウ・当麻はその一人であった。
さて、ここで問題。
ダンジョンも冒険者も存在するのならば、同時に実在する生き物ってなーんだ?
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
答え。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
もう何度目になるかも分からない、メチャクチャ情けない悲鳴を上げる。
そう。今のカミジョウ・当麻は絶賛モンスターから逃亡中なのであった。
より具体的には牛頭人体のモンスター、すなわち『ミノタウロス』と呼ばれる怪物。
一体。
もうかれこれ五キロ近く走り回っているのに、全く振り切れていない。無論、戦争経験者の元傭兵でもなければ現代まで生き残ったどこぞの英雄様の力を受け継いだ子孫でもないカミジョウ・当麻には、仮にそうだったとしてもLv.0の時点で勝ち目はない。実力云々以前に無理なのだ。
「だーもう、これも全部ベルの野郎のせいだ!!」
一緒にダンジョンに来ていたはずなのに、いつの間にか
実は追いかけてくるミノタウロスは二体いたのだが、もう一体の方はどうやらその相棒の方に狙いを定めたようだ。
そうだ、こうなった原因は全部あの兎野郎にあるのだ。いつもの狩り場で小遣い稼ぎならぬ【
ダンジョンは何層にも分かれており、下に行けば行くほどモンスターが強くなる仕組みになっている。
当麻達は冒険者と言えども、まだ成って半月しか経過していない
なのに、あのバカはあろう事か一気に5階層まで下りて行きやがった。いつも潜っている2階層から三つも下を呆れながら当麻も下りてみれば、なんとミノタウロスに追いかけられている相棒の姿があった訳で……、
「つーか15階層以下にしか出現しないLv.2のミノタウロスがなんだってこんな上層にいやがるんだよ!? 他の強力なモンスターに縄張りを奪われたって言うんじゃないだろうな!!」
何度も何度も通路を曲がりながら全力で逃走しているというのに、全く逃げ切れる様子がない。これがLv.の差とでも言うのか。
そんな風に当麻が嘆いていた時だった。
『ヴゥムゥンッ!!』
ドスン、と。ミノタウロスが自身の
「うわあっ!?」
反射的に躱せず踏んづけてしまい、ゴロゴロと無様に転げる当麻。面白いように転がり続け、背中から壁にぶつかる事でようやく止まる。
いてて、と打った背中をさすりながら当麻だったが、
「しまった…っ」
今さら気づいても遅い。
カミジョウ・当麻がさんざん走り回って辿り着いたのは、行き止まりだ。広いフロア、正方形の牢獄に自ら追い込まれてしまった。
『フゥー、フゥー……ッ!』
「おいおいおいおいマジかよ……ッ!?」
もはや逃げられない当麻には、背中を壁に預ける事しかできなかった。
一方のミノタウロスは宿敵の冒険者を殺せる事に興奮しているのか、この距離でも分かる獣臭い鼻息を鳴らしている。ヤツの筋骨隆々の体は当麻の一回りも二回りも大きい。その手に持っている棍棒を降るまでもなく、ただの体当たり一つで当麻の貧弱な体など簡単に粉々にできるだろう。そんな勝利を向こうも確信しているようで、不気味で不細工な笑みを浮かべた。
「……、」
訪れた静寂は、果たして一秒もあったのか否か。
そして。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
人間らしい動作も何もない、モンスターらしい本能に忠実な体当たりを仕掛けてくるミノタウロス。
対する当麻は、ただ右手を前に突き出した。突進してくるミノタウロスの体から、少しでも己を守ろうとした故の結果か。
しかし現実は残酷だ。
所詮は
そんなもの
ミノタウロスは特に躊躇する事も、その必要さえ感じず、ただただ獲物目掛けて一直線に突貫した。
これが冒険心に突き動かされた冒険者の末路。
これが非情で無情なダンジョンの冷たい現実。
最初の接触は、やはり少年の細い右手と怪物の分厚い胸板。
少年と怪物の影が重なる。
直後。
ガラスが砕けるような音がダンジョンに響き渡った。
長い長い静寂。または、とても短い沈黙。
まるで世界の全ての時間が止まったのかと錯覚するような、凍えるほどの静けさ。
それを破ったのは少年の体が崩れ落ちる生々しいグロテスクな不快音───ではなかった。
『ヴぉ?』
ミノタウロスが間抜けな声を洩らす。
何か違和感を覚えたのか、ゆっくりと視線を自身の肉体に下ろしていく。
太い首。
分厚い胸板。
『ヴッ、』
違和感が異物感に。
予感が悪寒に。
勝利の結論が不可解な結果に。
あらゆるものがミノタウロスの背骨から頭に駆け巡り、危険から逃げる生存本能を刺激した。
『ヴオオオオオ──────』
「
ツンツン頭の少年はミノタウロスの内にある右腕を、引っ掛かっている臓物ごと思い切り引き抜いた。
ピシピキ、バキバキバキビキパキバキバキビシバキバキバキバキバキバキバギバギィンッ!! と。
異音と共に傷口が広がり、例えようもない激痛がミノタウロスの全身を支配する。
それは、とても奇妙な傷跡だった。
当然だが斬擊や刺突によるものではない、『魔法』でもない。だが肉体を抉るほどの打撃を放ったにしては、
そう、ガラスだ。
まるでガラスの窓に何か硬い物をぶつけた時にできる亀裂。それが少年が空けた胸の穴から徐々に広がっていく。
しかしミノタウロスは己に起きている不可解な現象に目もくれていない。
答えは単純。
他に注目するべきものがあったからだ。
『ヴ、ヴモォオオ……ッ』
少年が引き抜いた右手には、小さく輝く紫紺色の石が握られていた。
それはもう亀裂まみれで、ちょっとでも力を込めれば今でも砕けてしまうと感じさせるには十分なほどの、モンスターの命そのものだった。
『ッ!! ヴヴヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッ!!!!!!』
ミノタウロスは我が身を省みなかった。
己の命を取り戻すため、少年の───
対する冒険者は、右手に持っていた紫紺の石をミノタウロスの顔に向けて軽く投げた。
自身の命が眼前に迫って、その動きを止めるモンスター。もう片方の空いてる手でそれを掴もうと反射的に腕を伸ばす。
「悪いな」
そこへ冒険者、カミジョウ・当麻の静かな声が掛けられる。
先程まで命を掴んでいた右手の五指は全て閉じられ、目の前の障害をぶち壊す拳の形に変わっていた。
Lv.0の少年が持つ、唯一無二の武器へ。
「仲間が待ってるんだ。倒させてもらうぜ」
力いっぱい振るわれた右の拳は、ミノタウロスの顔にまっすぐ吸い込まれていく。
片方は棍棒を振り上げており、もう片方は石に伸ばしている。両手が塞がれて無防備になったヤツには、防御も回避もできない。
だから訪れたのは当たり前の結果のみ。
カミジョウ・当麻の右拳が牛頭に直撃して、今度こそミノタウロスはその命ごと砕け散った。
途中、同業の冒険者に肩をぶつけられた。
「あっ、済みません。急いでいますので!!」
「あァ?」
早口で謝罪を言うと、やたら髪がツンツンしている冒険者はこちらを
「……チッ」
わざとではないとは言え、肩をぶつけられた冒険者の青年ベート・ローガは舌打ちする。
やたら長い脚と尻尾を生やした、頭に獣の耳を持つ獣人。鋭い毛並みの銀色の
(同業者……しかも、あの
ベートはあれとは違い、第一級と呼ばれる冒険者だ。到達したダンジョンの階層も50を越える。
そんな彼が何故こんな上層にいるのか。
ざっくり言ってしまえば、想定外の事態が起こって上層へ逃げ出したミノタウロスを討伐しに来たのだ。
ベートは『遠征』の帰りで、彼が所属する【ファミリア】の団員達と共に、中層の17階層まで戻ってきていた。
が、そこで大量発生したミノタウロスと遭遇する。しかしベートはもちろん同じ【ファミリア】の冒険者達も第一級と呼ばれ、多くの実戦経験を積んできた精鋭達だ。今さらミノタウロス如きに遅れは取らない。
しかし、ここで不測の事態が起きた。
群れの半数を倒したところで、残りのミノタウロス達が一斉に逃走したのだ。
ベートら【ファミリア】の冒険者達は当然追跡して倒していくも、逃げるミノタウロス達は上層に繋がる連絡路をことごとく突き止めては、上へ上へと向かっていった。面倒な事になる予感はしていたが、まさか的中してしまうとはベート自身も思いたくなかった。
そして5階層に辿り着いた時、ミノタウロスの数は残り二匹まで減っていた。ヤツらは途中で分かれたため、ベートも共に追ってきた少女と離れてここまで来たのである。
獣人に属するベートの嗅覚は、まさに獣のそれだ。ミノタウロスが残した臭いからヤツの行き先を突き止めるくらい訳ない。
だが。
「……あ?」
ベートは行き止まりのフロアで足を止めた。
ミノタウロスの臭いがここで途切れていたからだ。
他の通路へ行った感じもしない、完全にこの空間で止まっている。という事はベートが追っていたミノタウロスは他の誰かに倒された事になるが……、
(アイズじゃねぇ、他の冒険者が倒したのか……いや待て、この匂いは)
もう一つ、嗅いだ覚えのある匂いを感じ取る。
それも最近……どころか、ついさっき嗅いだばかりの匂い。
「……あいつが?」
先程肩をぶつけられたツンツン頭の冒険者の姿を思い浮かべる。
明らかに駆け出しという風体だったが、実はミノタウロスを倒せるくらいの力はあったのか?
しかし、だ。
それにしては……、
「牛野郎の血の臭いが全然しねぇ」
どんな冒険者でも、ベートのような第一級冒険者でさえも、自分ではなくモンスターに血を流させずに倒す事は難しい。どんなに速く仕留めたとしても、大なり小なり血は飛び散るものだ。
ならば『魔法』を使って血痕さえ残さず倒した事になるのだが、
(そういった匂いもしねぇのは一体どういう事だ……?)
『魔法』であれば、確かにモンスターに血を流させる暇もなく滅する事は可能だろう。
だが、その場合は周辺に何かしらの痕跡が残るはず。床や壁を巻き込んで出来た破壊の傷、僅かに感じられる温度の変化、何かが焼け焦げた跡……とにかく【ステイタス】や体の状態に関わる『魔法』でもない限り、周囲の環境を一切変えずに『魔法』で倒す事は不可能。
そして【ステイタス】と状態に関係する『魔法』なら尚更できない。その手の『魔法』を扱い、かつ己の武器や肉体を駆使して戦う冒険者ならば、必然的にモンスターとの接触が多くなる。
故に結論としては。
「モンスターだけを跡形もなく消滅させる『魔法』か。……あるいは本当に、微塵も痕跡さえ残さないほどの腕を持った冒険者」
ベートは再び、あの冒険者が走り去った方に目を向けた。当然ながらもう姿は見えない。
一見駆け出しにしか見えなかった、ツンツン頭の少年。
彼の背中と匂いが、いつまでもベートの目と鼻に焼きついているようだった。