そのあとも、話は続くから。
折れない止めない、倒れない。
次の戦いは、始まっている。
今年もまた、あの日が来る。二月になってからはそればかり、まったく私らしくもない。こういう事で騒ぐキャラでもないのに、な。
年中行事みたいなもんだし、周りに合わせて適当に盛り上げて終わらせてた気がする。特に好きでも嫌いでもない、普通の日。
とは言え今年は確かに、特別ではあるんだけどさ。大喜に告白して初めての、そして大喜にフラれて初めての、バレンタインデーだから。
「どうしよう、かな」
去年一昨年は一応義理チョコくらいは渡したけど、今年はそうもいかない。フラれておいてここでしゃあしゃあとチョコあげるのもおかしいんだけど、でも例年通りに渡してあげたい気持ちもある。
そんなことを考えながら私は買い物中、きらびやかに飾り付けられたバレンタイン特設コーナーを眺めながら溜め息を吐いた。
告白した事自体はもう悔やまない、泣いて泣いてスッキリ出来たし。悔やんでいる事があるとすれば、大喜との関係が修復できないという事かな。さすがにそこまで私の面の皮は厚くないし、大喜だってそこまでバカじゃない。いやまあ、あれは果てしなくバカだけど。
綺麗にフラれたんだし、それで「友達」に戻れたら良かったのに。バカやって笑いあえる親友を失ったのは、やっぱり痛い。三年間の付き合いが消えてなくなったようなものだ、なかなかに重い。人生の二割くらいが失われた気分だもの。
もし元通りになれたなら、遊びの延長で普通にチョコを渡せたのに。気持ちが届かないのは仕方ないし、先輩より私を選んでほしいとは言えない。でもせめて、夏前の距離感に戻りたい。
未練だな、私。そんな事言ったって、どうしようもないのにな。
しかし、だ。こうやって色とりどりのお菓子たちを見ていると、買いたくて堪らなくなってしまう。だってこの時期って期間限定品多いし、色々気にはなるけどやっぱり甘いもの好きだし。女の子ですもの、ええハイ。自分用に買っても良いかな、後にいなちゃん達と交換するとか。――大喜を意識する必要も、別に無いんだから。
そう思って見れば、華やかで良いもんだ。
――と。
売り場をゆっくりと見回していた視点が、一瞬釘付けになって私は息を呑む。
そこにいたのは誰あろう、千夏先輩その人だったのだ。
「……っ」
塞がりかけていた傷口が疼く感覚と共に、足が勝手に引き下がろうとするのを力尽くで制して私は先輩へと歩み寄る。
逃げるな、私。ここで怯えて逃げたら、地獄の底まで後ずさる事になる。
「あ、お疲れさまです千夏先輩。……チョコ、ですか?」
我ながらなんと間抜けな事を言ってるんだろう、全く私と来たら。
そんな後輩に、千夏先輩は微笑んで――
「うん、まあね。蝶野さんは、大喜くんに?」
……特大の爆弾を叩き付けてくれた。
千夏先輩にはまだ、フラれたとは話していない。告白しました、と言ったきりだ。不誠実な話ではあるけど、出来ればまだ私たちの事は誤解していてほしいから。正直もう終わった話とは言え、私の目が届く範囲でイチャイチャされたら堪ったもんじゃない。暫くはおとなしくしていてもらわないと。
でもなあ、うん。こうやって来られると、それはそれで困る。
この人、いい意味でアホだからなあ。裏も表もなくて、計算も悪意もないド天然だから始末に悪い。きっと今だって、なんの気なしに言ったんだろう。
「えー……っと、千夏先輩も大喜に……渡します、か?」
「まあ一応ね、普段からお世話かけてるし。付け届けに近いかも」
色気のない話だけどねーとチョコをあれこれ選ぶ横顔は、悔しいくらいに綺麗だ。そりゃ敵わないわけだ、これじゃ。
ああ、いっそ言ってしまうか。大喜は貴女が好きですよ、と。それでトドメを刺し、私は本当の意味でこの恋を終えてしまおうか。
親友には戻れなくても、キューピットにはなれるかもしれないな。
それはきっと、悪くない展開だろう。
そういう役回りに生まれついているとして、サポートに回るのも手なんだろう。
だけど、でも。
その気持ちはそのまま口から出る事はなく、適当な世間話へと変換されていく。
無駄話をしたいわけではないけど、こんな私にだって矜持というものがある。脇役に甘んじていられる程、私は弱くない。
ここで決着をつけては面白くないし、ね。もうちょっと引っ掻き回してやろうか、その方が――
「大喜に伝えといてくれます? 当日楽しみにしてろって、お願いしましたよ」
そう言って私は手作りチョコキットと他あれこれを買い物かごへと放り込み、千夏先輩の返事を待たずに背を向けて歩き出す。
さあ、油は撒いたし火種も着けた。後は二人がどう動くかだ、さて結果を御覧じろってね。
この私がただ負けてなんかやるもんか、見てなさい。
蝶野雛は、そこまで柔に出来てないんだからね。