ゴジラに倒されたスペースゴジラのG細胞の粒子は、再びブラックホールに吸い込まれれて別の宇宙へ飛ばされた。

消える寸前のG細胞はとある星へとたどり着き、そこの少年の体と融合する事で生き永らえる。

その影響で究極生物の戦闘力を手に入れたベル・クラネルの、ちょっとしたお話。

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勢いだけで書き上げた読み切り短編。

続きは無い。

無いったらない。


静寂を破る宇宙の声

 此処はとある辺境の名も無き村。日が昇れば大人たちは起きて仕事をし、子供は元気いっぱいに野原を走り回り遊ぶ。日が落ちればどちらも家へ戻り、英気を養って眠りにつく。

 そんな何気ない日常が流れる毎日にある日、決して少なくはないスパイスが加わる事になる。

 

「ベルゥゥゥゥゥッ!!!爺ちゃんを匿っておくれェェェェェッ!!!!」

「またか。ジジ上も懲りない人だな」

 

 

 庭に結晶体が生えた一軒家に、命からがらの形相で逃げ込む老人が一人いた。日課として英雄記を黙々と読んでいた一人の少年は、呆れかえりながらも身内特有の甘さを見せて守ってあげようと立ち上がる。

 家に被害を出さない為にバリアで覆い尽くした後、バリア越しに怒鳴る女性を落ち着かせて語りかけた。

 

 

「身内が粗相をしでかしたようで申し訳ない。ジジ上は私が折檻しておくから、どうか怒りを鎮めて頂けないだろうか」

 

 

 僅かではあるが体に取り込まれたG細胞の影響で、実年齢は一桁だが知性も肉体も異様に育った少年ベル・スペース・クラネル。流石に年下に向けて怒りをぶつける事は出来なかった女性は、抱えた感情を一筋の涙に変えてその場を去っていった。

 

 バリアが解除され、ホッと一息ついた祖父に物言いたげな視線を送るベル。

 

 

「ジジ上のそれは最早、永遠に治療不可能な精神疾病であるのは分かっているが、毎度のように不始末を私に押し付けるのは勘弁願いたいな」

「そんな事言ってても最後にはワシの味方でいてくれるベルを、ワシは愛しているとも!!」

「ああ、私は嘘は言わないさ。ジジ上の折檻の件も同様にな

 

 

 そう言って笑うベル・クラネルの背後には、広大な宇宙を背景にして吠える宇宙怪獣の姿が映っていた。つかの間の安息は失われ、冷や汗をかいて後退る女にだらしないクソジジイを追い詰める孫の図が出来上がっていた。

 

 

「ベッ、ベルよ!?いたいけな爺ちゃんを痛めつける気か!?老人虐待か!?そんな事ではお前の憧れる英雄にはなれんぞぉーー!!」

「数少ない身内を手にかけるつもりなどないさ。かつての(スペースゴジラ)ならジジ上を食らい尽くして己の血肉にしたかもしれないが、今の私は貴方の孫のベル・クラネルだとも」

「だ、だよねー!宇宙の果てからやって来た怪獣の細胞を受け入れたとしても、ワシの可愛い可愛い孫に変わりはないからのぅ!!」

だが手を出した女を泣かせた罪は罪だ。ジジ上には手を出さない代わりに、ジジ上の隠した秘蔵本50冊で手を打とう」

「ノオォォォォォォォォォォッッッッ!?!?!?」

 

 

 口から吐いたコロナ・ビームが曲がりくねった独特の軌道を描き、クソジジイの犯した罪と共にエロ本を焼いた。

 真っ黒な灰の山を抱いてシクシク泣き出す祖父を後目に、孫は椅子に座って物語の続きを読みだした。

 

 

「ううぅ……酷いぞベルよ……男の浪漫が詰まった宝物をこんな姿にしてしまうとは……ワシの教育が間違っておったのかのぅ……」

「少なくとも、信賞必罰は貴方から学んだのだが。それにそんな物をどこに隠そうとも無駄だ。私のテリトリーの中で隠し事が出来ると思わないでいただきたい」

「あんまりじゃぁぁぁ……」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「ジジ上、そろそろもう一人の身内に会わせてはもらえないだろうか?」

「え、ヘラの事?い、いやぁ……今はちょっとタイミングが……」

「そうではない。母上に近しい者が一人いる筈だ」

 

 

 いつもいつも本能に忠実な祖父の顔が、珍しく真面目な雰囲気を纏う。いつもこうだったら面倒は無いが、それはそれとして物足りなくも感じるベル・クラネルは多感な年頃であった。

 

 

「……分かるのか?」

「同胞の気配には敏感でな。それが私の血縁に関わるのなら、特に強くなる」

「嘘は言っておらんのぉ……ううむ」

「……まさかとは思うが、父上もジジ上のように女を孕ませて逃げ出すような、知的生命体にあるまじき最低の畜生だったのだろうか」

「そういう言い方ヤメテェ!?マジで心に刺さるからッ!!」

 

 

 もしそうなのであれば、血を分けた肉親として責任を取らせなければならない。たとえこの星の地表全てを焦土にしようとも絶対に見つけ出すという覚悟を見せ始めた孫に、祖父は慌てて話し出す。

 

 

「いや、ホントそういうのではないから……きちんとした純愛じゃよ、純愛。お主が感じ取っているのは母親のメーテリアの姉のアルフィアじゃろうな……」

「何故話してくれなかったのだ」

「ベルがもっと大きくなってから話そうと思ってたんじゃよ……実はのぅ、アルフィアの体は治療できぬ病に蝕まれておるんじゃ。これはメーテリアも同じじゃった。たとえ会えたとしても、共にいられる時間はそう多くはない。アルフィアはベルを悲しませたくはなかったのじゃ……」

 

 

 嘘である。

 

 アルフィアがベルに会いたくない理由は他にあるのだが、それを問いただそうとした自分の眷属が命の危険を感じたと言っていたので、でまかせを作り出した。

 病気を抱えているのは本当なので、真実の中に嘘を混ぜ込んだ詐欺師のようなジジイである。自分は神なので人間の嘘は見抜けるくせに、ウソ泣きまで交えて孫に嘘を吐くとは、何て奴だ。

 

 

 当然、そんな悪党には天罰が下る。

 

 

「冗談ではないぞジジ上」

「へっ?」

 

 

 語気を強めたベル・クラネル。彼にしては珍しく怒っている。

 

 

「病で弱っている身内がいるのに放っておいたというのか!死者の海で眠っている母上が泣いているぞ!!両親の顔も見た記憶の無い私ができる、数少ない親孝行の機会を黙っているつもりだったのか!!」

「ヴ ッ 」

「今すぐにここに連れて来るのだジジ上!病気なぞに私の家族を殺されてなるものか!伯母上を苦しめる病魔など消し去ってやる!!」

「ヒェッ……で、でもアルフィアが何て言うか……」

「来ないのなら私が自分で探しに行くと伝えればいいだろう!!いいか、この世界の全てを結晶で覆い尽くしてでも見つけてやるからな!!」

 

 

 マジである。

 

 この孫、マジで世界と身内を天秤にかけて身内を選ぶつもりである。

 

 ベル・クラネルの祖父ゼウスは、妻のヘラに10回、ヘラの眷属であるアルフィアに7回ぶちのめされ、それでもめげずにどうにかこうにかアルフィアを家に連れて来る偉業を達成したのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「会えて嬉しいぞ伯母上。ジジ上からも話は聞いているだろうが、貴女の妹の息子であるベル・クラネルだ。さあ、掛けてくれ」

 

 

 開口一番に伯母上と呼ばれ、精神に手痛いブローを食らう羽目になったアルフィア。ゼウスのジジイが『お願いだから孫に会って!!でないと世界が!!世界が孫に滅ぼされるから!!いやマジで!マジだってば!!』などと縋りついてくるものだから、根負けして家に来たらこれだ。

 別の世界からブラックホールとかいう超常現象のトンネルを潜り飛来した、宇宙怪獣の細胞の残りカスを受け入れた孫がいるという話だけでもお腹一杯だというのに、辺境の村の一画でダンジョンの中みたいな摩訶不思議な空間が存在するのだから、あまりの情報量にアルフィアは吐きそうになった。

 

 

「顔色が優れないな。思っていたよりも病気の進行が早いのだろうか……とりあえずはこれを飲んでくれ。体の抵抗力を高めるために、あらゆる薬草を煎じて茶を入れてみた」

「……ああ、すまないな」

 

 

 言われるがままに差し出されたティーカップに口を付ける。口の中に広がる渋みに一瞬顔を顰めたが、飲めない程に酷くはない。

 

 

「作り初めは味がもっと酷くてな。効能と両立させるのは苦労したものだ」

「…………これを、私の為に態々?」

「ああ。今までは英雄記ばかり読んでいたが、この機会に薬やら料理もかじってみた。存外面白いものだな」

「そうか……」

 

 

 アルフィアは目を開いて、改めて甥の姿を見つめた。

 

 額から生えた黄色の三又の角に、細くて長い結晶の生えた尻尾。服で隠れているが、両肩も結晶と同化しているようであり、元の宇宙怪獣の形を受け継いでいるという。

 ベル・クラネルは消えかけていたG細胞を受け入れ、スペースゴジラの成れの果てと精神が融合したらしい。子供離れした言葉遣いになってしまったが、ベル・クラネルの意思はしっかりと残っている。英雄譚に胸を躍らせ、金髪のエルフに憧れを抱く。こうして向けられた優しさにメーテリアの面影を重ねてしまう。

 

 

 

「これからは一緒に暮らそう伯母上。この一帯は私の結晶体で守られていて安全だ。病魔だろうがモンスターだろうが、このエリアの中ではどちらも等しく塵芥に過ぎない。伯母上を苦しめる物はすべて消滅させるから、安心して養生していってくれ」

「……あ、ああ……」

 

 

 怪獣時代の破壊衝動や殺戮衝動は抑えられているが、ふとした拍子で漏れ出すのが困りものだ。そういえばここに来てから体がなんとなく軽くなり、息苦しさも感じなくなっていた。言葉通り、アルフィアの為に造られた結晶体フィールドなのだろう。

 

 

「ベルー?ベルやーい?話が纏まったならここから出してくれんかのー?」

 

 

 部屋の隅っこでフォトン・リアクティブ・シールドに閉じ込められたゼウスがぼやく。アルフィアはそれを冷たい目線で見下していた。

 

 

「我慢しろジジ上。伯母上は病弱なのだ、ジジ上のセクハラが原因で病気が悪化でもしたら困る」

「え?嘘じゃろ?ひょっとして、アルフィアが住んだらワシずっとこのままなの?」

「神の寿命は長いのだろう。伯母上が健全に暮らす数十年間、そのままでいても罰は当たるまいよ」

「待って!?それは流石に困るんじゃけど!?ここにアルフィアを連れてきたのはワシじゃよ!?」

「そんなのは身内なら当たり前だろう。伯母上の意思を尊重していたとはいえ、今まで黙っていたのは許せんぞジジ上よ。

 本来なら、この家のありとあらゆる場所にあるジジ上秘蔵のコレクションを焼却したとて、私の怒りは収まらないんだぞ」

「アッ、ハイ。ワシが悪かったのでどうかお目こぼしを……」

「あっ、急に眩暈が……きっとそこのセクハラジジイが集めたゴミのせいだ。助けておくれベル~」

「目こぼしは無理なようだ。一切合切消え去れ汚物め」

「ノオォォォォォォォォォォッッッッ!?!?!?」

 

 

 家の中を飛び交うビーム。思わずバリアに突進し、衝撃を反転されて跳ね返るゼウス。そんな痴態を眺めて満足気にからから笑うアルフィア。

 

 今日も平和な一日であった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「のぅアルフィア。本気か?本気でエレボスの誘いに乗る気か?もうしばらくすれば病気の心配なんて消えるじゃろうし、そこまでせんでもいいじゃろ」

「黙れジジイ。私達のファミリアが消えてから何年経っていると思っている。未だ足踏みを続けている雑音共の尻を蹴りに行くだけだ」

「いや止めといた方がいいじゃろ……ベルが怒るぞ。ベルが怒ったら怖いぞ……いやホントもう怖いぞ」

「ベルに顔向けできなくなるような真似はしない。ただ、あの教会に行く良い口実が出来たついでに、雑音共に喝をいれてくる」

「ヘラの所の扱きなんて惨劇に等しいじゃろうに……ワシも怖いから、お前さんが戻って来るまで隠れるとするかのぅ……」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「ううむ……ジジ上はともかく、伯母上まで帰ってこないとは……まさかとは思うが、何かトラブルに巻き込まれたのか……?」

 

 

 置手紙で『雑用を片付けてくる。しばらく帰らないが心配はいらない』と伝えられて一週間が経った。アルフィアの体の調子は良くなっているが、何かの拍子で悪化しないとも限らない。

 アルフィアのレベルは7であり、この世界においても頂点の強さを誇っている。暴力沙汰なら自分で解決して帰って来るとは思っているが、そもそもどこに行ったのかも書かれていない。時間が経つにつれて、心配する気持ちが高まっていた。

 

 

「仕方がない、迎えに行くとしようか」

 

 

 背中から巨大な結晶体を生やしてベル・スペース・クラネルは飛ぶ。長い時間を一緒に過ごし、アルフィアの存在をより強く感じられるようになったベルは、超感覚を頼りに音速飛行を実行した。

 

 辿り着いたのは巨大な城壁に囲まれた都市。迷宮都市オラリオ。ゼウスが事あるごとに話していた夢の街。

 

 ベルは速度を緩め、光子を操って迷彩を施して都市内へと降りる。普通に不法侵入だが気にしていない。彼にとっての最優先事項はアルフィアの身の安全なのだ。

 

 ところで彼のあずかり知らぬ情報ではあるが、現在のオラリオは暗黒期と呼ばれており、あちらこちらに悪党が潜んでいるとても危ない時代であった。いくら迷彩していたとて、人の目が多い場所に降りれば騒ぎになるのは分かりきっていたベルは、必然的に路地裏などの薄暗い場所に足を踏み入れることになる。

 

 

「へへ……見ろよ。可愛い坊ちゃんがこんな所に迷い込んじまったみたいだぜ」

「あらあら、一人でこんな場所に来るなんて……運の無い坊やだねぇ」

「数が足りねぇってボスがぼやいてたからな……丁度いい」

 

 

 進路を塞ぐ複数の人間の集団が、自分に対して好意的ではない視線を向けてきた事に気が付いたベルは目を細めた。

 闇派閥と呼ばれる犯罪者達は、通路の前後から挟み撃ちにする形で距離を詰めてきた。

 

 

「へぇ、珍しい種族みてぇだな……こりゃ高く売れボハァッ!?!?

 

 

 警戒心の欠片も無く近づいてきた男の腹に、自身の尻尾を叩きつけて刺し貫いた。

 

 

「何ィッ!?」

「このなりで冒険者か!?このガキッ!!」

 

 

 躊躇いなく武器を手にして襲い掛かる闇派閥の者達だが、相手が悪い。

 

 数百倍に薄まったとはいえ、宇宙怪獣の遺伝子を持つベル・クラネルにただの剣が通用するはずも無い。成熟しきっていない未発達な体だとしても、人間よりは強靭なのだ。

 

 

「ギエェッ!?」

「グハッ!?」

「ギャアァッ!!」

 

 

 目の前の人攫いが恩恵を授かっていたのには気づいていたベル・スペース・クラネル。アルフィアに比べたら格下も格下だが、常人なら粉々になる力加減で腕や足や尻尾を叩きつけても、五体満足で転がっている姿に密かに安堵する。自分の手加減は間違っていなかったようだ。

 

 ピクピクと蠢くそれらを放置して、ベルは歩を進めた。あれで生きているんだから放置しても死なないだろうし、仮に死んだとしてもベルには何の罪悪感も残らない。

 勝てない相手に喧嘩を売ったのなら、その結果は火を見るよりも明らかだ。目の前の相手の力量も計れないのなら、訪れる末路は大して変わらないだろう。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「ちょーっと良いかな、そこのボウヤ?お姉さん、キミにお話があるんだけどな」

 

 

 次にベルが出くわしたのは、女性だけの人間の集団だった。さっきとは違い、明け透けな悪意は感じなかったベルは対話へと移行する。

 

 

「何か用だろうか」

「私達はアストレア・ファミリアっていう、街の平和を守るお仕事をするファミリアに所属してるの。私は団長のアリーゼ・ローウェル」

「私はベル・クラネル。ファミリアには所属していない」

「うん、だと思った。君は今、一人?お母さんとはぐれちゃった?」

「母は死んだ。父の居場所は知らない」

「えっ……そ、そっか。じゃ、じゃあ誰か大人の人と一緒に来たのかな?」

「共に暮らしていた叔母と祖父が音信不通になってしまってな。探しに来たのだ」

「…………そ、そうなんだ。偉いねー……」

 

 

 何だこの歩く会話の地雷原。この危険な時期に子供一人で出歩くのは危険だと判断し、善意から話しかけたアリーゼはちょっぴり後悔した。

 

 しかも、話には応じているものの、彼の視線が話しているアリーゼではなく後ろの一人に集中している。何故こんなに見られているのか分からず、困惑する金髪エルフのリュー・リオン。彼女も自分が金髪のエルフだからこんなにガン見されているとは思ってもみないだろう。彼の好みのど真ん中ストレートであった。

 

 

「えっとねー……今のオラリオの状況は分かるかな?危ない人達が悪い事をしようとしてるから、街がちょっとピリピリしててね」

「お前さんみたいな坊主が一人で出歩いてるとなると、アタシ達も気が気じゃねーんだ」

「そうだったのか……伯母上め、こんな危険地帯で何をしているのか……」

「その叔母様は私達が探すから、君は早くお家へ帰りなさい。その人の名前は?」

「名はアルフィア。レベル7のヒューマン。ヘラ・ファミリアに所属していると聞いた」

 

 

 その情報を口にした途端、彼女らの目つきが変化した。都市を守るファミリア同士の情報交換の場で、闇派閥側に推定レベル6以上の存在が確認されている。

 

 

「……小僧、それは冗談では済まんぞ」

「事実を口にしたまでだ」

「本当ならそれはそれで見逃せねぇんだよなぁ……」

「……貴方をこのまま返す訳にはいかなくなった。同行してもらいます」

「断る。伯母上は病に蝕まれている。悠長にしていられないのだ」

「……お願い、手荒な真似はしたくないの。良い子だから言う通りにして」

 

 

 剣呑な空気を漂わせるアストレア・ファミリアの様子にベルも戸惑った。

 

 もしや、伯母上はとんでもない厄介ごとに巻き込まれているのかもしれない。

 

 そう素早く判断したベルは、まずはアストレア・ファミリアの無力化に取り掛かる。

 

 額の角から重力波を放ち、目の前の女の子達を宙に浮かせた。

 

 

「「「「えっ――!?」」」」

 

 

 その名もグラビ・トルネード。完全に空中に固定された彼女達は驚きを隠せずにベルを見る。

 

 

「女性相手に乱暴はできる限り避けたいのでな。私に疑いがあるのなら、このまま連れて行くからその目で判断してもらおうか」

「テメッ……!」

 

 

 背を向けたベルの頭部に短刀を投げつけるライラ。それはフォトン・バリアーであっけなく弾かれる。不思議な壁に攻撃を阻まれ、ライラは目を見開いて絶句した。

 

 

「無駄だ、伯母上の魔法でも破れない盾だぞ。君達に抗う術はない」

「……そんだけの力があって、私達を捕まえるだけにしとくってか。ハッ、ありがたくて涙が出ちまうぜ」

「貴様っ、目的はなんだ!?」

「言っただろう。行方をくらませた伯母上を連れ戻しに来ただけだ」

 

 

 そう告げて、アストレア・ファミリアの四人を浮かせたまま歩き出すベル・スペース・クラネル。初めは喚いていた四人も何を言っても無駄だと気付き始め、次第に静かになっていった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「闇派閥の協力者だと?まさか。伯母上は妹想いの穏やかな女性だ。それに今はマシになったとはいえ、体も弱い。そのような企みに乗るような人ではない」

 

 

 道すがら、事情を説明されたベルが彼女らに返した言葉がそれだった。オラリオを追放されたヘラ・ファミリアの雲隠れした残党という、信じたくはないが現時点で最も警戒すべき相手であるアルフィア。

 甥っ子であるベル・クラネルは彼女をこれっぽっちも疑っていない。当然だろう。彼女もまたオラリオを闇派閥から守っていた一員であるのだから。

 

 

「信じたくない気持ちは分かるが、現実を見ろベル・クラネル。ガネーシャ・ファミリアの団員30名がたった一人に翻弄され、姿を確認していないにしろ、推定レベル6以上の相手が闇派閥側にいるんだぞ?この状況でアルフィアを疑うなという方が無理な話だ」

「伯母上はここ数年、碌に戦闘などしていない。それにずっと病気のせいで弱っているのだ。そんな病人相手に後れを取るほど、冒険者というのは脆弱なのか?」

 

 

 ――グサッ☆

 

 

 思わぬカウンターを食らって呻く輝夜。本当にただ隠居していただけの相手に現役の冒険者がガチ警戒しているとなれば、それは冒険者の質の低さを言いふらしているのと変わらない。

 

 

「仮に伯母上が闇派閥に協力していたとしても、それは伯母上の本意では無いだろう。今は亡き私の母が眠るオラリオの地を汚すような真似をあの人がする筈がない」

「……でも」

「もしも君達の言う通りに伯母上が闇派閥に加担しているのなら、私が責任を持って止めるとも。そして伯母上を操った下郎を始末する」

「…………」

 

 

 お前には無理だ、とは誰も言えない。現に恩恵を持っていない少年が自分達を拘束できているのだ。ありえない事が目の前で起きているなら、それを現実として受け止めなくてはならない。

 

 

「まあ、それは直接聞けばいい……ようやく見つけたぞ、伯母上」

「!!」

 

 

 足を止めたベルの視線の先に佇む、一人の人影。灰色のローブに身を包み、フードを取った顔が露になる。

 

 

「ベル……」

「置手紙は読んだが、いささか長すぎるぞ。自分の体が丈夫ではないのは分かっているだろう」

「ここまで来てしまったか……すまないな」

「流石に雑用とやらも済んだだろう。家に帰ろう、伯母上」

「駄目だ、ベル……それはできない」

 

 

 ベル・クラネルの表情が消え、アストレア・ファミリアは警戒心を高めた。アルフィアは目を閉じたまま、視線を下に向ける。

 

 

「お前の事だ、そこに浮いている小娘共から事情は聞いているだろう。お前とメーテリアに誓って殺しはしていないが、闇派閥に手を貸したのは事実だ」

「私は貴女が悪逆に堕ちる人間だと信じていない。貴女が何と答えようとも、私には言えない理由があるのだろうと、私は勝手に考えさせてもらう」

「…………」

 

 

 アストレア・ファミリアを重力波から解放して地面に下ろす。

 

 

「だが、それはそれとして貴女を止める約束を私は口にした。だから、どのような思惑があろうと完膚なきまでに叩き壊させてもらう。覚悟はいいな、伯母上」

「…………ふふ、あのメーテリアからこんなにも強い子が生まれ、育つとはな」

 

 

 穏やかに笑うアルフィアが剣を構え、ベル・クラネルが身構える。

 

 

 

 

 ――やれやれ、気を急いたら駄目じゃないか。

 

 

 

 

 強者がぶつかり合おうとしたその瞬間、余りにも場違いな声音が威勢を削ぐ。アルフィアは表情を微かに歪め、ベルは臨戦態勢のまま顔を向けた。

 

 現れたのは、男二人。軽装の優男と、鎧を着こんだ大男。

 

 

「……エレボス」

「参ったね……君達の出番はもっとあとの予定だったのに、もう顔を知られてしまった」

「貴方はっ……どうして、ここに!?」

 

 

 知り合いだったのだろう、リュー・リオンが驚愕の声を上げている。

 

 

「戦えないのなら、もうお前は抜けろ、アルフィア」

「待て、私は――」

「お前にしては珍しいな、剣に迷いがあるぞ。それにその程度の雛鳥相手に、魔法の一つで事足りるだろうに使っていないだろう」

「……ベル相手に撃ったところで弾かれるだけだ」

「ハハハッ、なんだそれは?あの子供にお前の魔法が効かないだと?お前がそんな冗談を言うなんてな……オイ、どうしたエレボス?」

 

 

 ベル・クラネルは自分の心の奥底から、煮えたぎった感情がせり上がってくるのを自覚した。

 

 優男は神。ゼウスと同じ超常の存在。

 

 鎧の男はアルフィアと同等の戦闘力を秘めている。その体からは微かに、だが確かにゼウスの力の一端が宿っていた。

 

 状況証拠は揃ってしまった。

 

 

「――――貴様らか。優しい伯母上を誑かした悪鬼共は」

 

 

 アルフィアは既に眼中に無い。アルフィア相手の時とは豹変し、敵意剥きだしで睨みつけるベルの変わりように、後ろの正義の眷属達の体が強張った。

 

 

「(う、動けねぇ……なんだよコレ!?なんだよコイツいったい!?)」

「(息が……苦しい……!?……恩恵の無い人間が、こんな……!?)

「(み、みんな……気をしっかり保って……!!)」

「(立っている、だけで、精一杯だぞ、団長殿……)」

 

 

 大男――ザルドがエレボスを庇い、大剣を構えながら前に出る。

 

 何を仕掛けてくるか――観察していたザルドの耳に、地鳴りの音が届いた。

 

 

 ――それは、地を割る結晶の産声。

 

 

 ――それは、言葉無き怒りの咆哮。

 

 

 地面から、壁から、あらゆる場所から結晶体が生えてくる非現実的な光景に、アルフィア以外の全員が言葉を失う。

 

 

「――エレボス、逃げろっ!!」

 

 

 歴戦の戦士が呆けていた神に怒鳴りつけ、手にした大剣で目の前の子供に斬りかかる。

 

 

「そんなものが通るか」

 

 

 絶技の一撃を回避する素振りも見せず、フォトン・リアクティブ・シールドを展開させて悠々と受け止めた。

 

 

「ぐおっ……!?」

 

 

 レベル7の斬撃がそのまま跳ね返され、よろけるザルドの体に周囲の結晶体が重力操作で飛んできて突き刺さる。

 

 

「痛っ!?な、なんだこれ……駄目だザルド、逃げられない!」

「なんだと……!?」

 

 

 振り返ると、エレボスの退路がバリアーで塞がれていた。予想外の展開にザルドは焦り、それが隙を生む。

 

 

「余所見とは、余裕の表れか」

 

 

 テールスマッシャーがザルドの体に迫る。咄嗟に大剣を盾にして受け止めて尚、殺しきれないダメージがザルドの体に叩き込まれる。

 

 壁に叩きつけられても最高峰の冒険者は意識を失わず、追い打ちの結晶体攻撃――ホーミング・ゴーストを紙一重で避けた。

 

 退路を断たれ、エレボスの近くに陣取ったザルド。

 

 それを見下ろす、無数の結晶体と共に宙に浮かぶベル・スペース・クラネル。

 

 

「……アルフィア、この小僧がお前の言っていたメーテリアの子供か」

「ああ、そうだ。巻き込む気は無かったのだが、大人しく待っているだけの気概ではなかったらしい。私も平穏に慣れ過ぎていたかな……見誤ったよ」

「そうか……ククッ、男なら、そうでなくてはな。乳離れの出来ない糞ガキよりも、よほど好ましい」

「いや、仲良く喋ってる場合かよ。平たく言っても俺達、絶体絶命だぜ?」

「真正面から打ち破られるならば、それはそれで本望だろう、エレボス。オラリオでなくとも、英雄は育つ。俺達も存外、狭い世界しか見ていなかったようだ」

「…………」

 

 

 お喋りが終わるのを待っているように見えるベル・クラネルだが、実際には攻撃に使うエネルギーを溜めこんでいるだけに過ぎない。

 

 敵に対してはとことん無慈悲なのだ。

 

 

「神エレボス……貴様が闇派閥の要か」

「お察しの通りだよ、ベル・クラネル君。俺を捕えて、ギルドにでも差し出すかい?」

「伯母上を誑かした貴様はこの手で消すとも。その男はジジ上の眷属のようだから、一度ジジ上の前に突き出す必要がありそうだがな」

「…………マジで言ってるなぁ。下界の住人である君が、神を裁くというのかな?」

「弱者は死に、敗者は消える。それはどこであっても変わらない、裁きではなく摂理だ。それが気に入らないというのなら、貴様ら神は何のために下界に降りてきたというのだ」

「ハッキリと言うなぁ……アルフィアの甥なだけはあるか」

 

 

 エレボスは最後に正義に対して問いかけようとして――止めた。少年の口に収束されたフォトンエネルギーの光が、問答の時間は既に残されていないと告げていた。

 入念に準備して始めた企みが、まさかこんな形で頓挫するとは。つくづく下界とは度し難い場所だと痛感する。

 

 

「ザルド、できるなら俺はまだ下界にいたいんだ。何が来るかは分からないけれど、どうにかしてくれないか?」

「体が動く限りは守ってやるさ」

 

 

 ザルドとエレボスに向けて、強烈な破壊光線が何束も放たれる。

 

 直接狙い撃つもの、結晶体を通して軌道が変わったもの、途中で拡散するもの、その全てが二人を襲う。

 

 ザルドはそれを迎え撃った。今まで食らってきたもの全てを力に変えて、襲い来る光線を大剣一本で薙ぎ払う。

 

 斬り裂き、斬り落とし。斬り結び、斬り捨てる。斬り逸らし、斬り防ぎ。斬り上げ、斬り払う。

 

 

「――がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 しかし、足りなかった。

 

 毒に犯された体に限界が訪れ、僅かな綻びから防御は崩された。

 

 ザルドという壁がいなくなり、破壊光線はエレボスへと集中する。

 

 当然、耐えられる道理など無く、エレボスは光の柱となって天界へと送還された。

 

 最期、アルフィアへ申し訳なさそうな苦笑を浮かべて。

 

 闇派閥の黒幕はあっけなく散っていった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「次世代の英雄を育てる踏み台になろうとはな。それは百歩譲って理解できるとしても、エレボスに絆されて闇派閥なんぞに手を貸すとは」

「……心配をかけたな、ベル」

「まったくだ。世話の焼ける伯母上め」

「それとエレボスを擁護する訳でないが、別に強制されてはいない。動くと決めたのは私自身だよ」

「どちらにせよ私が止める羽目になるさ。伯母上の意思の有無は関係ない。伯母上のそんな蛮行を許せば、私は母上に顔向けできないからな」

「…………私は愚かだったな」

 

 

 気落ちして、温かい薬草茶に口を付けるアルフィア。一度怒ればファミリアで一番恐ろしいメーテリアの怒った顔を思い出し、背筋を震わせた。

 

 

「寒いのか。まだお代わりはあるぞ。遠慮なく言ってくれ」

「い、いやそうではないんだ……大丈夫だ」

 

 

 アルフィアの対面へ座ったベルは、据わった目つきで語りだす。

 

 

「伯母上、私は常日頃から英雄というものに焦がれている」

「ああ……」

「だが、目指すものに対して私の持つヴィジョンは曖昧なままだった。どんな英雄になりたいのか……その答えがやっと出たよ」

「…………」

「英雄へと至る道が、先達を踏み台にして成り上がるものだというのなら、その常識を私は破壊する」

「ベル……」

「今のオラリオが、伯母上の後輩たる冒険者達が情けないと言うのならば、この私が堕落に満ちたオラリオを変えてやろう。

 伯母上達が何の憂いも無く、見ていられるような世界を私は作ってみせよう」

「…………ふふっ、大きく出たな。

 だが、そうだな。男の子だものな。それくらい大きな夢が、お前には似合っているよ」

 

 

 ――本当に、逞しくなったな。

 

 

 思わず目頭を押さえたアルフィアは、小さな声でしみじみと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、ベルやーい。そろそろ許してくれんかのー……」

「……この狭い空間にジジイとすし詰めなのは、中々堪えるぞ……」

「そりゃあこっちの台詞じゃわい!!どうせならアルフィアと一緒に閉じ込めてくれ!!」

「ベル、あと半年はこのまま閉じ込めておいてくれ。身の危険を感じる」

「相も変わらず反省の色が見えないジジ上だな。あとついでに新しく持ち込んでいたコレクションも焼いておくか」

「ノオォォォォォォォォォォッッッッ!?!?!?」

「…………これが俺の罪か……」




・ベル・スペース・クラネル

 彼のヒロインレースの可能性

 本命:アイズ・ヴァレンシュタイン(同胞、金髪、長髪)
    リュー・リオン(金髪、エルフ、長髪)

 やや脈あり:アリーゼ・ローウェル(同胞)
       ゴジョウノ・輝夜(同胞)
       アミッド・テアサナーレ(同胞)
       リヴェリア・リヨス・アールヴ(エルフ)

 脈無し:ヘスティア
     リリルカ・アーデ
     サンジョウノ・春姫
     シル・フローヴァ
     ライラ
     ティオナ・ヒリュテ
     ウィーネ
     レイ


・アルフィア

 伯母上と連呼されて地味に傷付いている。


・ザルド

 仮にG細胞を食らっていたら、暴走してとんでもない化け物に変化してた可能性大。


・アストレア・ファミリア

 もっと絡ませたかったのに、チョイ役に甘んじてしまった……反省。

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