傍からでは分からない、分からなくていい。
迂闊に手を触れれば骨まで焼け落ちる、それが人の心と言うもの。
影から裏から、そっと見守ればそれでいい。
それでも挑む、行く先は茨道。

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さっき読み終えた所です。
先輩闇落ちモードですが、こっちでは別視点。


アオのハコ#89 SideB

 正直ウインターカップのチケットに、そこまでの執着はない。どうしても観戦したいならナツなり渚なりに頼めば、チケットの一枚や二枚融通してくれるだろう。別にプラチナチケットってわけじゃあるまいし、買ってきても良い。本音を言えば俺は単に気に入らないんだ、この鬱陶しい後輩が。

 バド部は当日確か特別メニューで一日練習の予定だろう、それでもどうにかチケットを手にしたいか。仮病でも使ってサボる気かな、別にそれは構わないけどさ。彼氏面してナツを見守ろうってのは、とにかく腹立つ。

 こないだだってそうだ、手を出さずに優しく「帰れ」と言ってやったのに逆らいやがって生意気な。ナツのファンならファンらしく、部を弁えろ。

 お前のお陰でこっちは、思い出したくもない事を思い出してしまったんだから。まさかナツの口から、夢佳の名前を出させてしまうなんてな。まあ俺の勘違いがあっての話だから、一概にファンくんのせいとも言えないか。

 ただ、なあ。ナツにとって夢佳は、――生きた地雷なんだ。

 

 小学校からの付き合いだと聞いているし、中学三年間殆どの時間あの二人は仲が良かった。デキてんじゃないか、ってくらいに。それがおかしくなったのは中三の終わり際、高等部への進学を控えたあの日だった。

 夢佳は突然、内部進学を辞めたと言い出したのだ。高校は外部へ行くと決めた、その上バスケも辞めると。あれこそ寝耳に水ってやつだ、俺たち同期生はみんな狼狽するばかり。その中でも凄まじい取り乱し方をしたのがナツで、教室ではなんとか平生を装っていたが校外では荒れ放題。どうしてなんで、と俺たちに聞かれたって困る。そして数日後、ナツの感情は一気に爆発してしまった。

『どうでも良いよ、ナツなんて。ずっと嫌いだった』

 ――真正面から言ったわけではない、でもきっとナツが近くにいるとわかった上であれはそう言ったのだ。

 そこからはもう、俺たちに何が出来ようか。ナツは怒りがオーバーフローしたのか逆に静かになり、夢佳と顔を合わせる事もなく中学生活を終えた。だけど俺は、俺たちは知っている。ナツは夢佳を許さない、今もなお憤怒に燃えている。

 夢佳が側にいなくなると知って、ナツの心は180度変わった。そして夢佳に自分を否定され、そこから更に180度回ったのだ。傍から見れば元通りだろう、でもそうじゃない。手の付けようがないくらいに、どうしようもなく決定的に、ナツは変わってしまった。自覚がないまま、何もかも。

 部活の虫から部活の鬼へ、徹底的に自分を苛め抜く修羅の様相。ここ数ヵ月は少しばかり穏やかになりつつあるけど、昨日も裕奈相手に無茶言ってたっけ。人生捨ててでも一瞬のために死力を尽くす、ってのが普通のことだと思ってる。女バス連中、「息苦しい」ってよく言ってるからな。

 あのままじゃ孤立するだけだろうが、ナツ自身がどうとも思ってないのが……な。あれは鈍過ぎて、部活バカ過ぎる。

 

 どうにか救いだしたいとは思うけど、流石にこれは手に余る。そもそも女子同士の確執ほど怖いものはない、理屈が通じないルール無用の残虐ファイトだ。あんなのを迂闊に仲裁しようとしたりすれば、火傷じゃ済まないだろう。ほとぼりが冷めるまで待ってからどうにか、ったって常時温め続けてるようなもんだから冷めやしない。表面上はともかく、中身はグラグラと煮えたぎったままだ。

 喫茶店で名前を出したとき、一瞬だけ眉根にシワがよったのをファンくんは見ただろうか。ナツの本心を、アイツは考えた事があるんだろうか。  

 ファンくんが抱いているのは只の憧れで、恋愛感情じゃない。そこを混同して近付いた所で、ナツの中に触れた途端にアイツの心は焼け爛れてしまう。今のナツを受け止められるヤツなんて、この世にいるとは思えない。

 憧れは憧れのまま、綺麗なまま思い出にすれば良い。顔を会わせれば腹が立つ間柄とは言え、知らない仲でもない。なにより後輩が嘆く姿を思い浮かべると、どうにも夢見が悪いんだ。

 日々の鍛練に足の長さもある、シャトルランなら負けやしない。ここで一度負かして、諦めさせてやろう。俺は優しいからな、傷つきすぎる前に終わらせてやるよ。

 さぁ、――走りだそう。

 


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