何があろうと引き下がらない、鋼の覚悟で突き進む。
裏から覗く、その思い。
静かに激しく、心は揺れる。
諦めろと言われてそこで諦められる程、俺の想いは軽くない。傷付かず歩める道は無いし、捨てられるような夢は夢と呼ばない。苦しみながらでも俺は進む、格好悪かろうが惨めだろうが止まらない。
松岡先輩の挑発をはね除け、走り続ける。何があろうと負けられない、千夏先輩のために。
お節介かもしれないし、無意味かもしれない。それどころか、余計な気を回した事を責められるかもしれない。それでも、なんでも。
好きな人の幸せを願うのは、当然だから。
千夏先輩と夢佳さんの間に何があったのか、俺には分からないしきっと知ることも無い。だけど二人の関係が、あのままで良いわけないんだ。
最初は嫌味だと思った夢佳さんは、千夏先輩をずっと気遣っている。だからこそ、俺を敵視する。バスケへの集中を乱す、異物として。
それは尤もな話だし、正しい考えでさえ有るだろう。全国制覇という夢を掲げる千夏先輩にとって、俺は邪魔者かもしれない。よそ見をしていても果たせる程、甘いものじゃないのは分かっている。俺が隣にいても、力にはなれないだろう。
だけど、でも。それでも俺は千夏先輩が、好きなんだ。
もし千夏先輩を好きにならなかったら、千夏先輩がいなかったら。俺はきっと、ここまでバドに入れ込んでいない。楽しく部活をしていければ良い、と気楽に捉えていただろう。毎日朝練する事もなく、負けて悔しがる事もなく。そしてそんな自分を、少し嫌いだったかもしれない。何にも成し遂げられない自分を、好きになんかなれるわけがないから。
千夏先輩がいるから俺は今、こうしていられる。バドに打ち込む理由も何もかも、あの人がくれたんだ。挫けそうな時も、自分を信じられなくなった時も、力をくれる。顔を上げて立ち上がれと、俺を支えてくれる。
だから俺にとって千夏先輩は、世界の全てでさえ有る。
憧れから始まった感情なのは否定しないし、栄明のエースである千夏先輩が高嶺の花なのも分かってる。分かってるけど、だからって気持ちが曲がることは無い。それもこれも全て、同じことなんだ。どんなに遠くても辛くても、突き進むだけ。
遠い目標を掲げても、千夏先輩がいてくれるから挫けない。挫けられない、無様な姿なんか見せたくない。
ダッシュの連続で肺が悲鳴を上げ、脚が軋む音がする。身体は限界を迎えつつある、それを押して尚走る。
倒れない限りは走り続ける、走り続ける限りは負けない。負けない限り、俺は倒れない。
まだだ、まだ走れる。命の限り、脚を止めるな。ここで引き下がったら、俺はもう千夏先輩を好きでいられなくなる。こんな所で負ける俺を、俺自身が許さない。
歯を食い縛って眼前を睨み、加速する。もっともっと、命を燃やせ。
千夏先輩にも支えになる、目標とする――好意を向ける人がいるのだろうか。いるんだとしたら、それはきっと俺が知らない、俺じゃない誰かなんだろう。
もし想いを伝えたとしても千夏先輩は、俺じゃなくてその人を選ぶ。俺が雛へと言ったような、決別の言葉と共に。そして俺たちの関係は、もう元には戻らない。俺と雛が、友達に戻れなくなったように。
下手をしたらもう二度と、会えなくなるかもしれない。
でも俺は、それで良い。千夏先輩が幸せでいてくれるなら、それで構わない。
俺を好きになってくれなくて良いから、笑顔でいてほしい。
そう思うからこそ、脚を止めない。あの二人はきっとまだ、やり直せる。あの日コートで見た姿には戻れなくても、関係を修復することはできる筈だ。その切っ掛けになり得るチケットを、何としてでも手に入れたい。
だから走れ、走れ俺。今動かないなら、こんな身体は必要ない。
最後の一滴まで命を振り絞れ、限界を更に越えていけ。