専属メイド・ターニャ大佐   作:ヤン・デ・レェ

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ガリア式洗礼 S

今思えば海岸線で経験した戦いは所詮、ノルマンデル地方を巡る激戦の序章に過ぎなかったのだ。

 

ターニャとヘッケンは休暇明け、同じ作戦に従事することになった。

 

作戦目標は二つ。その1が『ブレスト港を包囲する敵第一軍の補給線を破壊、孤立させること』、その2が『ブレスト港のド・ルーゴ将軍の救出』である。

 

ターニャ所属のアパッチ大隊及び、ヘッケン所属の第一歩兵師団他3万余…上陸戦で中央軍として戦った一軍…に加えて追加兵力合わせた総計12万の軍勢は、敵を孤立させるために先ずは補給線の要であるカーン司令部およびその周辺の補給基地を奪取又は攻略の上破壊しなければならない。

 

カルヴァドス県カーンは海岸線から約20キロ後方の都市である。最前線を統率下に置く第十二軍司令部はここに置かれている。

 

ラインハルト中将の死亡が内通者により確認され、司令官が交替したことも判明した。

 

新司令官に任じられたのはノルマンデル撤退戦で功績を挙げたエルダー・ロンメル大佐である。彼は中佐から大佐に昇進したばかりだったが、第十二軍総勢6万の指揮を執る大任を皇帝から託されたのだ。

 

ターニャとヘッケンはこの強敵に1923年の9月まで…およそ三か月以内…で勝利し、その上でブレスト港を包囲する敵第一軍総勢6万強を逆包囲の上、ブレストに籠城する共和国軍との呼応をもって、挟み撃ちで撃破しなければならなかった。

 

困難な任務に、しかし二人は意欲的だった。互いへの想いが通じた今、戦争の早期終結の為に戦い抜くことこそが最大の愛情表現になったからだ。

 

 

◇

 

 

第十二軍司令部では軍議が開かれていた。取り仕切るのはロンメル大佐の副官であるシュパイデル参謀長だった。

 

軍議の駒を動かしつつ戦術を練るロンメルと参謀たちの元に急電が入ったのはその日の夕方だった。

 

「急電!!パリースィイ中央軍集団総司令部より通達!北部戦線が…」

 

「どうした!!」

 

ロンメルが一喝すると、伝令兵は居住まいを正し、敬礼と共に叫んだ。

 

「北部戦線で初の敗北!航空魔導師部隊が欠乏状態にあり、応援を送られたしとの報告あり!これに対し、我が参謀本部は応じる模様!現在はルーデルドルフ元帥閣下が本部のゼートゥーア閣下と折衝を重ねておりますッ…!」

 

「なんだと?…こんなときにヘマを踏んだのは何処のどいつだ!」

 

「参謀本部によれば、敵協商連合のエース・オブ・エースであるアンソン・スー大佐によるゲリラ戦が我が方の補給線に継続的に疲労を強いた結果、必然的に起こった敗北であると分析しております!」

 

「ゲリラ戦だとぉ?…北のアンソン・スーと言い、西のターニャ・フォン・デグレチャフと言い…おい!我が軍からの供出は無いと考えて良いんだな?」

 

ロンメルの追及に伝令兵は冷や汗を垂らしつつ言った。

 

「ハッ!その点に関しては、ルーデルドルフ閣下より確約がございます!」

 

「フッ…補充は難しい、という隠語だな。」

 

「そ、そういうわけでは…。」

 

「君を責めた訳ではない。それよりも…シュパイデル!敵軍の現在位置は?」

 

「ハッ!北方15キロ、カルヴァドス県北部で押し留めることに成功しております!大佐殿!」

 

「いつまでもつ?」

 

「遅くとも一週間で突破されるかと!機甲師団の補充もままならず、第一軍マッケンゼン司令官からも悲鳴が届いております!」

 

「マッケンゼン中将から?…詳しく聞かせてくれ。」

 

ロンメルが言うとシュパイデルは青と赤の軍議の駒を、それぞれ共和国軍と帝国軍として、地図上のブレストとその手前に置いた。

 

「ハッ!マッケンゼン司令官麾下第一軍は現在敵共和国の残存兵力を、敵司令官ド・ルーゴ諸共にブレスト要塞へ閉じ込めております。」

 

「しかし、逆を言えば我が方もブレスト要塞に一個軍を張り付けておかなければならず、我が方に増援を送ることは出来ず、また我が方も二倍する敵を前に戦線の維持で手一杯となり、決定力となる兵力を第一軍に割けない状況であります。」

 

「第三軍はどうだ?」

 

ロンメルが言った。

 

しかしシュパイデルは首を振った。

 

「難しいかと…パリースィイを完全に空にすることは出来ず、またかの都市はレジスタンスの活動も激しく、手薄とわかれば一斉蜂起の恐れもあります。」

 

「自由と不屈の国、か…。では、航空魔導師部隊だけならどうだ?確か、第一軍には203空が補欠状態で参加していただろう?」

 

「は、はぁ…しかし、向こうも何かと入用だとは思いますが…。」

 

シュパイデルが真意を測りかねているとロンメルが笑った。

 

「なぁに、敵の目標は俺たちがいるカーンに違いない。ここを取られたら一番苦しいのは第一軍だ。なんと言っても、ここから補給を受けてるからな。どのみち、敵の数が増える一方なら…いっちょガリア式の洗礼を食らわせてやろうじゃないか。」

 

「ガリア式の洗礼…森林でのゲリラ戦術のことですか?」

 

シュパイデルにロンメルは頷いた。

 

「あぁ、その通りだ。機甲師団と航空魔導師部隊を投入して敵歩兵部隊を一挙に削るぞ。合州国は無尽蔵の体力をもつが、その理性故に悲惨な損害への忍耐の不足…民意が弱点であると私は見た。今は何よりも、一人でも多くの敵兵を殺さなくてはならない。」

 

「…本部に伝達しておきます。具体的な作戦を詰めましょう。」

 

シュパイデルはそう言って軍議の駒を、今度はカルヴァドス県のある森に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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