僅かの差でも、当人には大きいもの。
だからって裏も表もわかる訳じゃない。
あれこれ思えど、結局はそんなもの。
まったく、良くやるもんだ。
体育館裏で大の字になっている松岡の顔にスポドリをかけながら、俺はそんな事を思ってしまう。
「おら、水分補給だバカ野郎。後輩相手にマジで張り合うなよバカ」
やめろ溺れると大騒ぎする松岡に、ペットボトル一本分を丸々注ぎ終え。ようやく起き上がった松岡は不服顔だ、せっかく買ってきてやったのに恩知らずめ。
まあ、別に良いさ。どうせ金の出所はコイツだ、勝手知ったる人の財布ってね。
にしても、なんでああも大喜に突っかかるんだか。ちーにまとわりついてて気に入らない、って後方彼氏面してんじゃねえよ。スタミナを競うだけなら大喜はやたら強いんだぞ、マゾでバカだから。たいした理由もなく喧嘩売ったって、結局自分が損をするだけだ。
大喜も大喜で、何考えてるんだか。西田のアホがクリスマス時期を練習で埋めたから、バスケ部のウインターカップ観戦は無理だろ。まさか練習サボって行こうってんじゃ無いだろうし、じゃあ何でヘトヘトになってまで走り続けたんだ。
チケット握り締めて外に出ていった辺り、誰かに渡そうってのかな。ちーしか見えてない直球バカの筈だけど、どうなんだろう。バカの考えバカのみぞ知る、俺には分からん。
才能の有無は結果では測れない、結果までたどり付くための道程が才能に左右されるだけだ。才能が無くても死力を尽くせば結果を出せる、ただしその道は荊道。その過程で心が折れてしまえば、そこで終わる。俺にしたって才能なんか無い、ただ愚直に進むしか出来ない。それでも諦めないのは、花恋がいるからかもしれないな。
少なくとも中学までの大喜は、別に光る所があるわけじゃなかった。それが変わったのはきっと、ちーの存在があるから。本人は隠しているつもりだろうけど、周りから見ればバレバレだ。ちーに逢いたくて朝練に励み、ちーに良いところ見せたいから練習試合でも手を抜かない。よくもあそこまで一途にいられるもんだな、そこは感心する。バカだけど。
しかし、だ。ちー自身のモチベーションは、そういや何なんだろう。…………考えてみれば最近のちー、やたら大喜と一緒にいるな。文化祭の時も、わざわざ劇を観に来てたし。
いや、いやいや。いやいやいやいや、まさかまさか。それはさすがに、有り得ないか。もしそうなってれば、花恋経由で知ることになってるだろうし。いやでも、思えば花火大会の時どういうわけか花恋は大喜の事知ってたな。
あれ、もしかしたら。……もしかしたら、俺だけ知らないのか。いやまさか、……なあ。
松岡が妬くほど、大喜はちーに接近中。もし今ここに――夢佳がいたら、どんな顔するんだろ。アイツもアイツで、ちー大好きだったからな。やっぱり喧嘩になるのか、それとも逆に気が合うかも。同じ相手が好きでお互いが嫌いで、ってのは意外と仲良くなれるもんだ、腐れ縁って感じで。
とは言えそんなのは有り得ないけどさ、夢佳はもう栄明にはいないんだから。いやまあでも死んだわけでなし、縁があれば逢う事も有ったりするかな。
俺としてはそんな
「……あーあ、ちょっと鈍ったかな。修羅場で遅れを取った事なんか無いのに」
むくれたままボヤく松岡に、あんなもん修羅場でもなんでもないだろと蹴りを入れつつ俺はバッグを持ち上げる。
さてバカもからかい飽きたし、そろそろ帰ろうかね。チケットの事とかは、明日纏めて大喜に聞くとしよう。
もうじき季節は本格的な冬になる、でもまあ今年の冬は――熱くなりそうだ。楽しみだよ、実際。