スイープ、エミヤを召喚する   作:日高昆布

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お久しぶりです。1週間ぶりくらいかな?(すっとぼけ)
嘘です。次はもちっと早めに投稿できればと思います。


その28

 放課後のトレーニング前に用務員室で一服していた生徒達を見送り、仕事に戻る。

 これより行う業務は、先日の強風雨で折れた枝の回収である。コースや通学路や渡り廊下付近に落ちていた枝は日中に回収したので、それ以外の場所を見回っていく予定だ。

 

 

 風に乗って聞こえて来るアスリート達の声をBGMに、まずは校舎裏に向かう。散らばっている落ち葉を片付けながら、枝を拾っては折り回収していく。強い風ではあったが、暴風雨とまではいかなかったため、そこまで太い枝は落ちていない。とはいえ、放置して誰かが迂闊に踏み怪我をする可能性があるため、抜かりなく回収していく。

 するとその一角に、何故か太めの枝が数本あった。風で落ちたものが風で一纏めになった、と考えるのは無理があるので誰かが集めたのだろう。何か目的があって集めたのだろうが、ここに放置してあってはいずれ他の用務員に回収されるだろう。取り敢えず縛って台車に乗せておくことにする。

 纏められていた枝は真っ直ぐで枝分かれもなく、非常に縛りやすかった。それらを触っていると、ある病気の症状が顔を見せ始める。それは特に男が罹ることの多い病で、完治することが難しいものだった。

 

「良い形の枝だな」

 

 そう『良い形の枝を探してしまう病』である。士郎はいい歳した大人どころではないが、やはり完治していなかった。

 もしかしてそれが集めた理由かと思うが、女子がするのか、と思い直そうとして、嬉々として集めそうな生徒が瞬時に複数出てきたので更に思い直した。

 

「ぁ……」

 

「ん」

 

 声に振り向くとそこにいたのは、右耳に赤いメンコを付けた金髪の生徒だった。士郎と枝の間でオロオロと視線を彷徨わせ、シュンとした様子で「ご苦労様です……」と言った。

 あまりにあからさま過ぎて苦笑してしまう。

 

「すまない、ここにあると処分されると思って取り敢えず移動させようとしてな。いるのなら持っていっていいぞ」

 

「あ、いえ、えっと」

 

「……良い形の枝だな」

 

 耳がピクッと動く。

 

「そうでしょう! 昨日から歩き回って集めたのです!」

 

「良い目を持ってる。慧眼だな」

 

「!!」

 

 劇的な反応であった。これでもかと自己主張している尻尾が、彼女の性格を如実に表している。

 褒められたことで物理的な距離も一気に縮まり、それぞれの枝の良さを嬉々として語り始める。その微笑ましさを覚えてしまう振る舞いに、ある考えが浮上した。

 

「どうせなら名前も付けてみたらどうかね」

 

「名前、ですか……」

 

 しかし微妙な反応が返ってくる。読み違えたか、と思ったが、良い名前を思い付かないだけで、何としてもカッコいい名前は付けたいようだった。

 

「そういえば順番が前後してしまったが、名前を聞いてもいいかな。私は衛宮士郎だ」

 

「デュランダルと申します」

 

「かの聖剣と同じ名前とは。勇猛果敢で実に君に似合っているな」

 

「ーーーー」

 

 身を細かく震わせ、喜びをこれでもかと顕にする。感情表現が豊かな生徒はスイープを始めたくさんいるが、『喜び』に限定すると彼女が一番豊かに思えた。

 

「ならせっかくだ。デュランダルに因んだ名前を付けようじゃないか」

 

「ど、どんな名前ですか……!」

 

「なら『ドゥリンダナ』。デュランダルのイタリア語読みで、トロイア戦争の英雄ヘクトールが使っていたとされている槍にも剣にもなる武具だ」

 

「ふおおおぉぉ……!」

 

 デュランダルの中で士郎の評価がロケットの勢いで垂直上昇していく。

 体を浮かしそうな勢いで尻尾が揺れている。

 

「後は」

 

 これ以上カッコよくする方法があるのか……! 

 

「日本語での名前も考えてみないか?」

 

 カッコいい日本語を使って、ルビにカッコいいカタカナを振る。想像しただけで身震いが止まらない。

 

「まあ流石に仕事を放棄するわけにはいかんから」

「手伝います!」

 

 お預けなど我慢できるわけがなかった。食い気味に手伝いを申し出る姿に面食らうが、ありがたく受け入れる。

 

「ならぜひ手伝って貰おう。もしかしたらその道中でより良い枝が見付かるかもしれんしな」

 

「!!!」

 

 名付けとまだ見ぬ聖剣を探しに、台車を爆速で引こうとするデュランダルの手綱を握りながら仕事をこなす士郎。

 珍しい組み合わせに顔見知りの生徒に不思議がられるが、顛末を聞けば納得の組み合わせであった。騎士に憧れるデュランダルと稀代の英雄達と鎬を削ったことのある士郎。寧ろよく今まで士郎に絡まなかったなと思うほどである。

 

 

「あ、あれは!」

 

 見回りも終盤になった頃。デュランダルの慧眼がとてつもないモノを見付けた。

 握るに丁度良い太さの枝はまさしくグリップであり、その少し先から二股に分かれた枝はガードとして申し分なく、その間から直線に伸びる枝は紛う事なきブレイドであった。

 

「はわはわわわわ!」

 

 成長具合と、風に折られる箇所、タイミング。全てが奇跡的に噛み合ったあまりに西洋剣然とした枝に、デュランダルの「喜」はあっと言う間にキャパオーバー。枝を何度も指差ししながら士郎に視線を送る。

 

「……ああ、取って来ても良いのだぞ?」

 

 ワタワタバタバタしながら、両腕を突き出しながら走ると言う、とても陸上競技者とは思えない不恰好な走りを披露するデュランダル。心なしか頭身まで縮んでいるように見える。

 

「はわわわわわはわ」

 

「嬉し過ぎて興奮しているのは分かったから言語野を復活させなさい」

 

「スゥーハァースゥーハァー」

 

「しかしこれまた見事な枝を見付けたものだな」

 

「そうでしょうそうでしょう!」

 

 全力で振り回さない良識はまだ残っているようだが、どう見てもギリギリであった。

 

「見回りも丁度終わりだ。部屋で涼みながらカッコいい名前を考えようじゃないか」

 

「はい!!」

 

 

「ふーん。で、結局なんて名前にしたの?」

 

「『不毀の極剣』だ。いやはや思った以上に楽しんでしまって、久々に辞書と睨めっこをした」

 

「ふーーーん!!」

 

「そうむくれるな。君には投影品とは言え本物があるだろ?」

 

「……まあそれもそうね」

 

「師匠ーー!」

 

 ノックなしに開かれたドアからデュランダルが飛び込んで来た。

 不意打ちにスイープが咽せる。

 

「今度はこの武器の名前を考えましょーー!」

 

 

 

 

 

 

 ある休日。トレセン学園の最寄駅の改札で、ソワソワとした様子のオグリが立っていた。時計と改札の向こうを何度も見ている様子からして、誰かと待ち合わせしているのだろう。

 ややすると、待ち人を見付けたのか表情を綻ばせながら手を振り始めた。

 

「皆こっちだ!」

 

 彼女の声に促されて改札を出て来たのは、笠松時代の友人達であった。フジマサマーチ、ノルンエース、ミニーザレディ、ルディレモーノ。大きなマイナスから始まった彼女らの交流は紆余曲折を経て友好を結ぶに至ったが、オグリが中央に移籍してからは対面での会うことはなかった。そのため、オグリから遊びに来ないかと誘われた4人、特にライバルとしてのマーチと、強火のファンとしてのノルンは今日を非常に楽しみにしていた。

 

「久しぶりだな皆。元気だったか?」

 

「ああ。こっちでの活躍は聞いてるぞ」

 

「毎レースしっかり見てっから!」

 

「誇張でも何でもなく、ライブまで録画までしてるからね」

 

「毎回居酒屋のオッサンみてえにはしゃぐしよ」

 

 最初はあまりの強火っぷりに面食らったものだが、今となっては日常茶飯事で、大人しいと体調不良を疑われる始末である。

 

「そうなのか。少し恥ずかしいな」

 

 はにかみながら言うオグリを、ニッコリと見詰めるノルン。呆れとも郷愁とも判然としない感情のままに失笑する3人。

 

「それにしても、オグリキャップから呼び出すとは。何かあったのか?」

 

「ん? 何もないが」

 

 マーチの実直さが如実に出た質問に、首を傾げて返答するオグリ。双方ともに相手をライバル兼友人として見ているが、その比率はやや異なっており、こうしたコントじみた状況が発生していた。

 

「いや皆と久しぶりに会いたくなったから呼んだのだが」

 

「そ、そうか……。そうか」

 

 言われた言葉を噛み締め、上がりそうになる口角を抑えるマーチの背後で、立ったまま失神したノルンの姿があった。

 

 

 

 

 駅から出てすぐに感じられるウマ娘やレースへの盛り上がりに面喰らいつつ、オグリの案内の元府中を歩く一行。

 初めに向かったのは商店街。なんとも『らしい』チョイスだと苦笑するが、それも束の間。甘味処や定食屋を全て事細かに紹介し、その内の一軒で本当の軽食を摂るに留め、その後はメモを片手に普通に八百屋や肉屋で買い物するオグリ。

 

「どどどど、どしたんオグリ。話聞こうか?」

 

 てっきり商店街のお勧め食事処の食い倒れツアーになると思っていた皆は、ただ買い物する姿に戦慄に近い驚きを禁じ得なかった。ノルンに至っては逆に話を聞いてもらった方がいい程に物理的にも動揺していた。

 

「ん? ああ、衛宮にお願いを聞いてもらったから、そのお礼にお使いをしてるんだ」

 

 オグリが中央に来て以降のやり取りでは聞かなかった名前に、皆が聞き返す。

 

「エミヤ? サブトレの人?」

 

「いや、衛宮はトレーナー業には全く関わってない人だ。でも衛宮は凄いんだ。色々なことができるし、色々なことを知ってるんだ。私も色々な初めて(量より質など)を教えてもらった」

 

 多ければ多いほど良い。そう思い込んでいたオグリにとって、敢えて量を抑えることで得られる満足感という概念はノーベル賞もののセンセーショナルさを持っていた。かつての自分を省みると、その視野の狭さに思わず赤面してしまう。

 ()の中身が見えない2人からすると、その表情はまさしく恋する乙女。解釈違いも甚だしい。

 

『色々な初めて?!(男女的なあれこれ)』

 

 言うや否やマーチはオグリに食ってかかり、ノルンは意識を飛ばしかけていた。

 

「そ、そんなに驚くことか?」

 

「だって今までそんな事に興味なんてまるで持ってなかったじゃないか!」

 

「確かにそうだが、衛宮がすごい情熱的に教えてくれて」

 

「情熱的に?!」

 

「おかげで私達はイチコロだ」

 

「私達?!」

 

 大喰らい共の波状攻撃に悲鳴を上げた食堂からの要請により行われた食事会という名の矯正なのだが、やはり()の中身を知らない2人からすれば、複数の学生に手を出す畜生にオグリはくびったけ、という風にしか映らない。

 その事実を咀嚼し理解した頃には、2人の眼差しは殺し屋もかくやと言う据わりっぷりになっていた。

 

「ねえオグリ。そのエミヤさんて人に会わせてよ」

 

「ああもちろんだ。元々(美味しいご飯を作ってくれる人として)紹介したかったしな」

 

「(交際相手として)紹介?! げほぉ!!」

 

「ノルン?!」

 

「私は認めんぞ!」

 

「何を?!」

 

「あの3人は何やってんのかね」

 

「たぶんアンジ○ッシュ」

 

 

 

 一刻も早く会わせろと言う2人に押し切られ、用務員室に案内するオグリ。

 

「衛宮いるか」

 

「士郎さんなら中庭に行きましたよ」

 

 ソファーに寝転がっているスカイが答えた。

 尋ね人は不在だったが、いつも通り勝手知ったる何とやら。中に入り皆にドリンクを振る舞う。

 用務員室と言うには生活感がありすぎ、私室と言うには生徒の私物が多く、休憩室と言うには電動工具とその患者が目に入る。そんな何室なのか分からない部屋に面食らう一同。

 

「何この部屋」

 

「ここは衛宮が備品を修理したり、私達が休憩したりご飯食べたりオヤツ食べたり新作の手作りスイーツ食べたりする所だ」

 

「つまり……何だ?」

 

「ここはちょっとだけレースから離れられる場所ですよ。士郎さんはレースどころかウマ娘のことなーんにも知らないから、だからここでは皆そういうのから離れて思い思いに過ごせるんですよ。当然皆ここには望んで入学してますけど、こう言う場所は必要だなーってしみじみ思いますよ」

 

 さも常に気を張っているように言っているが、彼女の比率がギリギリ5対5なことをオグリは知っている。下手なリアクションをすると余計なことを言ってしまいそうだったので、とりあえず曖昧な笑みを浮かべておいた。

 一方のカサマツ組には、強烈なインパクトとそれに及ばずとも否定的な感情を抱かせる話だった。

 

「中央が、そんな体たらくで、いいのか」

 

 マーチの口から思わず出てしまった言葉は、大なり小なりあれど全員の意見を代弁したものだった。

 

「衛宮がよく言ってることなんだが、緩めることも覚えた方がいい、と」

 

 知った風なことを言う、ここにいない男にカッとなり罵倒が飛び出そうになるが、オグリが続けて言ったことに口を噤む。

 

「自分はそれができず大失敗したから、と」

 

「まあその手のことを語らせたら士郎さんの右に出る者はいないレベルですからねえ」

 

「……そんなに?」

 

「全部を知ってる訳じゃないが、自分だったらと考えるととてもじゃないが同じようには振る舞えないと思う」

 

 

 中庭と言ってもその範囲は非常に広い。どうやって探すのかと尋ねると、道行く生徒に聞けば分かると言う。

 

「使い魔さん? 使い魔さんならさっき副会長と一緒に花壇の手入れしてたよ」

 

「衛宮さんならハルウララに請われて木から降りられなくなった猫を助けに行ったぞ」

 

「士郎さんならこの子助けてくれた後に、ゴールドシップさんと一緒に秘境に山菜取りに行ったよ」

 

(秘境?)

 

(山菜取り?)

 

「なんと! 後で食べさせてもらえるかな」

 

 未だ本人とは邂逅できず、しかし何故かその人柄が手に取るように判明していく。しかしオグリ自身が、彼女の初めてを奪ったと言っている以上(全く言ってない)、人畜無害の皮を被ったド畜生であるはずなのだ。学園に深く入り込んでいることで騙せているのだろうが、この私の目は欺けないぞと自身に活を入れ直すマーチ。

 

「ねえもしかして衛宮さんて人、ただの良い人?」

 

「もしかしなくてもそうだろうぜ」

 

「やっと気付いたのかよ」

 

 

 最終的に辿り着いたのは、食堂。シレッと士郎の名前が入ったシフト表が貼られている。

 

「オグリキャップか。ちょうど良いところで会ったな」

 

 露骨にソワソワし始めるオグリだったが、不思議なことに食事そのものが目当てではないらしい。

 

「そろそろ良い時間帯だしな。後山菜は何が取れたんだ?」

 

 訂正。食事も目当てであったようだ。

 

「貴様がエミヤか!」

 

「その通り。何を隠そう私が衛宮士郎だ。そういう君はフジマサマーチかな? オグリキャップから君達の事は何度も聞いてるよ。今日会える事も大層楽しみにしていて、週末が待ち遠しかったようだ」

 

「んんっ!」

 

 複数不純異性交遊を糾弾しようとした矢先にオグリが自分達と会う事を楽しみにしていたと言われ、喜びに崩れそうな表情を必死に取り繕うが、にらめっこで追い詰められたようになっていた。

 

「オ、オグリとはどう言う関係なのだ!」

 

「どう言う関係? ……職員と生徒だが。何か変に勘繰られるような事もしていないが」

 

「言うに事欠いて……! オグリの、は、初めてを奪ったと聞いたぞ!」

 

 この世界に来てから最大のピンチが士郎を襲う。

 

「タイム! オグリキャップ! ちょっと来てくれ!」

 

「どうした衛宮」

 

「私のことをどう紹介したのだ。事と次第によっては私が放逐されるような勘違いをしているぞ」

 

「何! それは困る! 私に色々な初めてを初めて教えてくれた衛宮を追い出されるわけにはいかない!」

 

「その初めてと、あの、あれなんだろ! だ、男女交際的なアレなんだろ!」

 

「なんて? 私が教えてもらったのは食事は『量より質』でも満足できることと、作ることも楽しいと言うことだぞ?」

 

 

 フジマサマーチは食堂の隅で背景と同化するように丸まっていた。

 よく考えなくても分かることである。こんな場所で、生徒と職員の交際などできようはずがない。ましてや複数など。そもそもマトモな倫理観を持つ大人なら未成年と交際しようなどと思わない。

 そこら辺を全てすっ飛ばして、的外れな糾弾を大勢に誤解されかねない衆目の場でしてしまったのだ。

 

「穴があったら入りたい……」

 

「オグリキャップは無垢な性格だからな。君が心配するのも仕方ないことだ」

 

 しかも激怒してもおかしくない本人から慰められているのだ。

 

「幸い誰も誤解していないしな」

 

 その慰めと一緒に、一部始終を目撃していた生徒の声が聞こえてくる。

 

「そもそも誤解する余地がないというか」

 

「区別はしてるけど、会長とかシリウスさんとラモーヌさんとウララちゃんと同じ子供カテゴリーに入れてるからね」

 

 それはそれでどうなんだ?

 

「ちょうど準備も出来たようだ。謝罪もして、私もそれを受け取っているのだから君も来たまえよ」

 

 何度も促されようやく重い腰を上げて、皆が待っている席に移るマーチ。最初から勘違いしていることを知っていたミニーザとルディのニヤニヤした顔に出迎えられる。ノルンは少し気まずげに視線を逸らしている。

 何か言いたいことがあるなら言え、と言いたいが、どう考えても不利すぎるので瞠目して耐える。

 

「お、お待たせしました。お昼ご飯です」

 

 すると何故か妙にギクシャクしたオグリが、士郎を伴って配膳に来た。並べられた料理はポピュラーなものであり、盛り付けを忌憚なく言えば素人が頑張った、と言う程度のものだった。オグリからしつこいくらいに士郎の料理の腕前を聞かされたので、少々拍子抜けしていた。

 何故か直立不動のオグリに促され、箸を伸ばす。

 

「ん! 美味しい!」

 

「オグリが自慢するのも分かるな」

 

「中央じゃこれを好きな時に食べられるのずるくね?」

 

「くっ、舌が肥えてしまう」

 

「好評なようで何よりだなオグリキャップ」

 

 態とらしい軽薄な笑みを浮かべた士郎が口にした言葉に、皆の手が止まる。

 

「う、うむ。じ、実はそれは私が作ったものでな。あ、衛宮に手伝ってもらいながらだから不味くはならないと思ってたけど、皆の口に合ったみたいでよかった」

 

 安堵と喜色の綯い交ぜになった笑顔は、それはもうとびきりのものであり、強火のファンと強火のライバル2人は特にダメージを喰らっていた。

 

「わ……我が生涯に一片の悔いなし……」

 

「ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ」

 

「……なるほど。あれが推し活と言うやつか」

 

「ちが……いや合ってるのか?」

 

 

 夕方。帰路の電車を待つ5人は、もう間もなく訪れる別離に急かされているかのように取り止めのない話題に花を咲かせていた。

 オグリを除いた4人には士郎から持たされた手土産があった。自分だけがないことに憤慨したオグリは頬を膨らませて抗議したが覆らず、気の毒になるくらい項垂れていた。その表情と様はまさしく餌付けされた大型犬のそれであり、思えば朝から何度も見ていたな、とマーチは自らの思い込みの強さに呆れる。

 

「ん、電車が来たようだ」

 

「いやーあっという間だった。また呼んでよねオグリ」

 

「うむ。次に呼ぶ時はお菓子を振る舞えるといいな」

 

「それは楽しみだな」

 

「自分が試食したいのもありそう」

 

 ちょっとした軽口のつもりだったが、天啓を得たりという風に手を叩くオグリにツッコミが殺到した。

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