一気に進め、其れは己の為でも有りて
深海への高速潜航と海中戦闘も、数度目ともなれば慣れた物。
夜闇が満ちた光源無しの環境では大人しくしていた方が生き残る上では賢いのが知性を持つ生物として当然の事では有る、時に理性や合理性で生きられないのが心を持つという特異点に足を踏み入れる事でも有る。
(其れがどうした!そんな程度じゃ俺は止まらないッ!)
蹴る力は更に強く、滾り満ちる気迫は更に高まり、見据える視線はより鋭くなって、深海へ進めば進む程に心身は躍動し、下へと落ちる海流が勇者の其の背をひたすらに押し続ける。
海中で遭遇するモンスターも、ペッパーよりもレベルが低い個体は逃げ出し、同レベルの個体は手を出す事を躊躇い、彼よりも上のレベルの個体が立ち塞がれば、神が己に課した試練と思考を変えて
赫と蒼の
赫蒼海剣アスカロンの状態を端的に言えば、アスカロン・リバースが黄金のマグマを加えて
(今の段階でも十分強いのに、最終形態の二つ前の姿なんだよなアスカロン…………。最終形態、もとい神化した先の姿は一体どうなるんだろう…………)
立ち塞がった
万が一にもル・ジニシィが『私自身の鍛冶師としての経験がアスカロンを直すのにまだ足らない』と言った場合に、コーラルホエール含めたモンスターの素材で別の武器を作って武器や機装を新造し、経験値を増やさせる為の備えを此方で用意して置けば、其の『いざという時』にも安心出来る。
海の底を目指して進み、暗闇の中を潜航し、立ち塞がる敵を屠り倒して、そして………─────────
(到着、だね。よしやろう…………!)
深海深層或いは超深層に進む為の海溝の入口、淡く蒼白い光が零れて漏れる其の場所にペッパーは幾度目の来訪を成し、インベントリア起動で格納空間内にて緑の聖杯使用で色調反転から、現実空間に戻って海溝へと一気に降りていく。
冥府の王水が採れる領域で
故にやるべき事は『速攻一択』、何時事故るかも解らない超深層の領域で迅速に
超深層深海…………魚人族曰く『雷輝の冥王』と称されるアトランティクス・レプノルカ"三位一体"が生息し、彼の者の生命活動によるマナ粒子の循環で高純度な純水たる『冥府の王水』が満ち溢れる、冥王
(……………
死地同様の世界へ突入と同時、気配探知を幕末仕様に
領域内を泳ぐ複数の気配の中で、一際此方を『観ている』存在の視線が首筋と背骨にビシビシと当たり、次々と脳髄に電気信号を走らせている。
以前来訪した際に朽ち灯るアスカロンを取り出して王水に焼き入れをしたからか、其れとも三位一体が焼き入れられたアスカロンに警戒色を示したのか、今となってはペッパーにも答えを知る方法は無い。
(─────始めよう!)
生物ながら精霊の領域に足を踏み入れている二属性戦艦鯱は、己が
熱波と衝撃で一蹴された経験と、アトランティクス・レプノルカの生態や特性を良く知り識って、あの時何が起きたのかを理解するに至ったからこそ、取るべき手を取る事が出来る。
(三位一体に吹き飛ばされた理由、要するにアレは電子レンジみたいに海中のマナ粒子を超高速で振動させて、自分の周りを一気に吹っ飛ばしたって事だ)
"
深海三強達や海の数多の強者の力を己が血肉と変えて、生物の枠組みの内に在れど、生命体としての領域を越えてしまった存在───────アトランティクスレプノルカ"三位一体"の身姿を。
しかし其れも僅か一時の、自らの生死を頒つ一瞬の交錯の中の、些細なる一幕に過ぎぬ光景であり…………三位一体が攻撃命令を拡散するよりも尚速く、
「ッ!!!」
現実世界でやろうとすれば身体が文字通りミンチになる確信と、其れを加味しても三位一体が視線で此方を追い切れていないという状況、そしてアスカロンの剣身から噴き出す熱と冷気が三位一体を前にして最高潮になっているのを、握る其の手に確かに感じて。
(……………此処っ!)
水には水の、岩には岩の、人には人の、有機だろうと無機だろうとも、生きているが故に持つ『各々の呼吸』。
形や方法は異なれど、魂の波長と同じく其の身に宿した『間』という『隙』を、極細い針の穴に極細の糸を通す様に。
兎の国の若き古匠が作った赤い籠脚が勇者の身を前に押し出し、魚人族の古匠が直し続けた偉大なる英傑の唯一たる得物が、
アスカロンの放つ熱と冷気は刺さった箇所を焼いて凍らせ、畝る剣身が皮膚に食らい付き、皮膚の下を巡る血を吐き出させ、剣は冥王の血を其の身に喰らい、ダメージを負った『赤いポリゴン』を三位一体の身体から海中に引き摺り出す。
其の直後、三位一体の身体が跳ねて震え、巨体を迸る絶大なる雷と海中を蒸すが如き強烈な熱波、そして身を焼き焦がす灼光が襲来した。
尤も其れは三位一体の『反射』からなる『身震い』に過ぎず、単なる防衛反応からなる其れは、大抵の敵を文字通り『鎧袖一触』の元に屠る、三位一体の備えた技でも何でも無い物。
─────────だが、僅かながらも。
アスカロンが三位一体に刺さり、身体一部を止めた事によって。
同じ種なれど辿った道の違い在れ、雷に耐性を持つマクティスシリーズ装備が装着者の身を雷撃と帯電から守った事によって。
ペッパー本人が晴天流【雷】奥義・
其れ故に『僅か数秒』の………然して『十分過ぎる程』の生き長らえる猶予を、装備と武器とステータスは彼に運命を齎した。
身震いに剣は引き抜かれ、衝撃は海中を伝播し、勇者を飲み込まんと襲い掛かる中、血を喰らいて一際大きく強く震えたアスカロンと、衝撃と熱波を真正面から食らい耐久値が削られる装備達を、思考加速の恩恵を受けてインベントリアに放り込み。
蒸し上がる熱と焼き尽くす輝きに、己の身体が灼かれて砕ける中、雷輝の冥王の身姿を勇者は目に焼き付け、不敵な笑顔を浮かべながら此の海域より消え去ったのである…………。
身体は砕けど、心は砕けぬ