ゲヘナ学園2年、陸八魔アルはしばしばゲームセンターに通っている。昔からの趣味というか、もはや習慣のようなものだ。中学生の頃、今のようなハードボイルドな“悪”を志す以前は読書とゲームが生きがいであった。
便利屋68の社員たちと連れ立って行くこともあれば、こうして一人ぶらりと出かけていくこともある。便利屋のメンバーは一緒にいることも多いが、それでも四六時中というわけではない。それぞれ単独行動を好む所もある。
ムツキは気まぐれに楽しいもの探しに出かけるし、ハルカは一人静かな趣味の時間を持っているようだし、あとは雑事を一人で終わらせることに使命感を持っている。
カヨコはあれでムツキと似たところがあり、猫のようというか。一人でいるのが好きですという顔をしているけど意外に寂しがり屋。適度に構うのが重要なのだ。
アル自身もにぎやかなのが好きではあるが、孤独とハードボイルドの相性の良さは抜群だと思っているので一人で過ごしたくなることもある。特に意味もなく夜中に一人で高いところに登ってみたりとか。夜景が綺麗なので普通に悪くない時間だ。
まあともかく今日は一人でゲーセンの日なのだ。軽く新作のゲームをチェックしたり自宅……事務所では出来ない大筐体のVRゲームなんかもたまにはやりたい。そう思ってD.U.*1にある行きつけのゲーセンにやってきた。ゲヘナ自治区の中のゲーセンは治安が世紀末なので対戦ゲーがそのままリアル銃撃戦に発展することが恒例。あんまりまともに遊べないのだ。そのほうが楽しいなんてムツキは言うが、アルとしては普通にゲームがしたい。
ゲヘナのゲーセンと違ってこっちは平和……まあゲヘナほどでないとはいえ所詮キヴォトスなのでたまには爆発炎上もするが、平和だ。綺麗だし、でっかいし、冷暖房もガンガン効いてて過ごしやすい。色々な学区から生徒がやってくる分ちょっと混むのだけが難点だが、ゲーム内なら野良対戦も楽しいし、音ゲーなんかならギャラリーがいるほうがやりがいがあるというもの。ガラガラに空いてるよりはよほどマシだろう。
入口付近に並ぶクレーンゲームコーナーを抜けて奥へ行こうと思ったところで、知り合いの顔を見つけて立ち止まる。何か揉めているようだ。
「譲ってください! お願いします!」
「べ、別に構いませんけど……。なんとなく取っただけだから……」
「ダメですユズ! ルート権*2は厳密にしなければ後々まで禍根を残します! ここはゲームで勝負をつけるべきです!」
「え、えぇ……?」
大きい声で小柄な少女? に詰め寄っているのは阿慈谷ヒフミ。アルは縁あってヒフミの正体を知り、今では敬意とほんのりした対抗心を持っている。そしてその間に入っているのは天童アリス。アル、ヒフミ、それにミレニアムのユウカと一緒にアイドルやったこともある仲だ。
そして詰め寄られているのはダンボールを被った怪人物である。……なんだろうあれは。ミレニアムのジャケットを着ているしアリスの知り合いのようだから、ホンモノの不審者というわけではないだろうが。それに険悪な様子というわけでもないし、アルは普通に声をかけてみることにした。
「ちょっと、どうしたのよあなたたち。爆発物を使うなら店の外でやりなさいよ?」
「あ、アルだ。こんにちは!」
「あ、どうもアルさん……って、そんな武力に訴えるなんてことは!」
手をぶんぶん振って身の潔白を示すヒフミと普通に挨拶するアリス。アリスはついでに初対面だった二人、ダンボールを被った花岡ユズとアルを互いに紹介する。
「はぁ~、社長さんなんだ。すごいですね……」
「そうよ。あなたも依頼があればいつでもどうぞ。面白い内容なら受けてあげる……ところでその、聞いていいのかわからないけど、頭のそれはなに?」
便利屋68社長の肩書が入った名刺を渡され、ダンボールの取手の穴から眺めて、起業なんてすごいなあと感心しきりな様子のユズにニヤリと笑うアル。ただやはりダンボール頭が気になり冷や汗タラリ。どこでもフルフェイスのヘルメット被ってる奴は珍しくないがダンボールはレアで、異様である。
「ええと、落ち着くので……」
「ユズはここでは有名人なんです。人が集まっちゃいますから顔出しNGです」
ダンボールの端を押さえてうつむくユズに腕でバッテンを作って補足するアリス。格ゲー音ゲーシューティング、ほとんどのジャンルで不動のランキング一位を獲得するユーザー名UZQueenはゲーセンのヒーローであった。そしてそんな様子を見てアルはすべてを察した。
「なるほどね。あなたも裏街道を歩く者、というわけ。夜闇の住人と言えど陽の光の暖かさを忘れられない。ええ、そういうこともあるでしょう。なにも聞かないでおくわ」
「……???」
察していなかったアルのなかでは既にユズの悲しき過去と壮大なストーリーが展開していたが、ヒフミがちょいちょいと腕を引っ張り現実に引き戻す。
「あ、あの、ペロロ様グッズ……それが最後の一つで、クレーンゲームのプライズ限定で、何件か回ったんですけどどこも品切れで、本当に欲しいんです……! 相応のお金は払うのでなんとか譲って頂きたいんですけど……」
ヒフミが指すのはユズが小脇に抱えた箱。キモい鳥の人形……ペロロ様ゲーセン限定アクションフィギュアである。浮かれた星型サングラスなど付けてなんとなくパリピな格好だ。イカれた、もといちょっと変な印象を与える目が隠れているので普段よりいくらかマシに見える。
「ワンコインで取れそうだからなんとなく取ってみただけで、あげちゃっても構わないんですけど……」
「ダメです! 勝負勝負です!」
アリスは合法的に賭け試合ができそうなのでノリにノッていた。ミドリやユウカが怒るので普段は中々できないのだ。しかしネル先輩とお菓子をかけた勝負は超エキサイティングである。楽しいのだ。
とはいえネル先輩はザコいのでたまには別の相手と熱い賭けバトルがしたい。そんなフラストレーションが溜まっていた所、ちょうどよく現れたのがヒフミである。逃がすわけにはいかない。アリスはシュッシュとシャドウボクシングなどして威嚇する。
「あ、アルさん、なんとか説得していただけないでしょうか……」
「ふぅーん……」
アルはユズの背景を除いてようやく大体の事情を理解した。ヒフミがちょっとおかし……熱狂的なペロロファンなのは知っていたし、アリスの見た目相応に子供っぽい所も知っている。なにか別の餌をぶら下げてヒフミをユズと二人にしてやればそれで解決するだろう。
……しかし、己の目指す“悪”がそんな無難で安易な道を歩むことを許してよいのだろうか?
───否である。
「ヒフミ、いえ……ファウスト。あなたは優れた悪党だけど、足りないものがあるわ」
「あ、あの! それやめてください! それに悪党でもないです普通です私は!」
慌てるヒフミにゆっくりと首を振る。彼女は一般人の偽装を徹底している。それも含めて、優秀な犯罪者だ。だからこそユズのように顔を隠すことすら無く普通に暮らしていけるのだろう。だが、それが悪党として正しいのだとしても認めることは出来ない。
「あなたに足りないもの、それは矜持! 己に悪を任ずる者としてのプライド! それ無くしてはそこらのチンピラとなんら変わらないわ!」
「え、ええっ!?」
腕をバッと振りかざし叫ぶアルにおぉーと感嘆とともにぱちぱち拍手をするアリス。ユズもなんとなくつられて拍手。ヒフミはなんだかマズイ方向に状況がダッシュしているのを察して青くなる。アルは鼻が高くなる。
「悪党としてのプライドがあるならば、欲しいものは戦って奪いなさい! 勝負よ!」
「ええぇえぇぇぇーっ!?」
「では、そういうことでよろしいですね!」
ことの成り行きが自身の思いどおりになってニッコニコのアリスが全員を押して行き、決戦のバトルフィールドへと移動することとなった。
「ユズに勝負をさせるわけにはいかないので、アリスが代理です。そして元はユズが取ったものですから、勝負の内容はアリスが決めます。よろしいですね?」
「決闘代理人、チャンピオンというわけね。理屈は通ってるし、まあいいんじゃない」
「クイズゲームならなんとか……それかじゃんけんとかじゃダメでしょうか……?」
補習授業部の面々でたまに一緒にやってハナコが無双するクイズゲームを指しつつ主張するヒフミは黙殺された。ユズはちょっとどうかと思ったが、アリスが楽しそうだしまあいいか、と景品のペロロフィギュアを抱えて待機することにした。
「勝負の内容はこの名作格ゲー! 普通の対人ルールで3本勝負の2本先取、3人なのでじゃんけんで一人シードにして勝ち上がり戦です」
アリスが決めたゲームは新作、というにはしばらくたっているが人気のタイトルだった。アリスがネル先輩といっつもやってるやつである。つまりそれなりにやり込んでいるゲームだ。自信満々な態度にそれを察したアルはこの子も中々悪の素質があるわね、と思った。
「ではじゃんけんぽん」
「や、やったー! やりました! 私の勝ちです!」
最初のじゃんけんではヒフミが勝利し、1回戦はアルvsアリスとなった。有利な戦場を選ぶのは戦の基本とはいえ、欲望に驚くほど素直に動く様はまさにこれからの育成次第で白黒どちらにも転がる進化前ポ○モン。ならばこの子に悪のなんたるかを示すのも良いだろう。
「ふっふっふっ、では勝負ですアル。負けても泣いちゃダメですよ?」
「ふふふ、どうかしらねえ。便利屋のやり方、見せてあげるわ」
ガシャガシャとレバーを動かしキャラ選択。横のアリスも迷わず選んだそのキャラはまさに主人公といったイケメンキャラだ。バランスの取れた強キャラでもある。アルが選んだのはそのゲームのボスのようなポジションのいかにも悪そうなおじさん。コートをなびかせ黒いオーラを放っている。一撃は重いがその分隙も大きく上級者向けと言える。
「さあ行きますよ、たぁ! てぃ! とぉー!」
「甘い甘い、そんなんじゃ私の首は取れないわよ!」
派手な掛け声とは裏腹に堅実に攻めてくるアリスに対し、アルの方も防御を中心とした落ち着いた動き。お互いに様子見の静かな立ち上がりだ。
「むっ! むぅ……ンアッー! ズルいですそれハメですよねうちのシマじゃノーカンなんですけど!」
「これくらい抜けられないほうが悪いわよ。ほらほら、どうしたの、このままやられちゃうのかしらぁ!?」
じわりじわりとアリスを追い詰めたアルは突如として怒涛の攻めを見せ、アリスのキャラクターを壁際に固めてしまう。ガードの上から少しずつ体力が削られるが、アリスは為す術がない。
「せやっこれで逆転です! あぁああぁぁぁーっ!!!」
「ふんっ! 甘いわよ! ……よし、1本目!」
固められた状態から脱出するため敵を吹き飛ばす技を使ったアリスだが、アルはそれを完全に読んでおりしっかりとスカした上でとどめを刺した。実力差の出た勝利と言えるだろう。金欠でゲーセンから離れている時期もあったが、体がしっかり覚えていたようだ。
「むぅー……でもまだまだこれからです。動きのクセは理解しました! アリスの華麗な逆転劇にご期待ください!」
「ふふっ、哀れね。炎に向かう蛾のようだわ……」
2戦目が始まる。今度は固められまいといきなり飛び込んでくるアリス。しかしその瞬間画面が暗転する。
「開幕超必ブッパ!? アルはバカなんですか!?」
「それに当たってる子に言われたくないわね! ほらっ覚悟しなさい……! ……あっはは、どう、格が違うってこういうこと」
暗転後の演出から大ダメージを受けダウンした所を的確な起き攻め、さらにそのまま繋がったコンボによってアリスのキャラクターはあっという間にHPをゼロにされてしまう。画面には悪そうなおじさんがもっと悪そうな顔でニヤリと笑い、決めポーズの上に大きな勝利の文字が浮かんでいた。
「うぅ~ズルですチートですユウカです。もう一回やりましょう!」
「はいはい、また今度ね。今は次の勝負。さあヒフミ、準備はいい?」
しっしと追い払われてダンボールユズに泣きつくアリスと入れ替わり、真剣な表情で見つめていたスマホを仕舞ったヒフミが席に着く。
「アルさん、私、負けません。負けたくありません……!」
ゾワリと背筋が震えるほどの覇気。ヒフミからは普段のぽわぽわした雰囲気が消え、絶対に勝つという決意がみなぎっていた。ちょっとした余興程度に考えていた、というかゲーセンに遊びに来たら知り合いを見つけたので普通に遊んでいた感じだったアルは気を引き締めなおす。このヒフミ、何かやらかしそうな気配がする……!
「……裏社会の王の力、とくと見せてもらおうじゃないの」
ツッコミを入れる余裕もないのか、画面をじっと見つめ試合の開始を待つヒフミの横顔をちらりと覗き見る。そうだ、このキヴォトスの闇に名を轟かすカリスマ犯罪者ファウスト、それを破った女という称号を得るのも悪くない……!
「あうぅぅぅ~……ま、負けました」
「……冗談抜きでガチ初心者じゃないのよ」
お互いに様子見の1本目序盤、隙あらば必殺技ゲージを溜めるヒフミに警戒しながら立ち回るアルだったが、いざゲージが溜まった瞬間ヒフミは特に意味もなく超必殺技をブッパした。直前にスマホで攻略サイト見て基本操作と必殺コマンドだけ覚えての対戦だったらしい。派手なエフェクトの必殺技はなにもないところで虚しく炸裂した。
説明を見ただけでまあまあ動けるというだけで大したものだったが、1本目は空振りの必殺技の隙をしっかり咎めたアルが勝利。2本目は馬脚を現したヒフミに基本の立ち回りやコンボを教えてコンボ練習で削りきらせてヒフミの勝利。3本目は加減しつつ普通にやってアルが取り、そのまま勝利となった。
「ではその、こ、これでなんとか……!」
「いや、いいわよ別に。なんか変な感じになるからお財布出すのやめてよね。初心者狩りは美しくないし、私は別にそのトリモドキいらないし……って乱入!?」
財布を取り出したヒフミが限定ペロロ様の値段交渉をしていると乱入する者が居た。乱入とはゲームをプレイ中の他プレイヤーに対戦を仕掛ける機能を使い、挑戦することだ。ネットを介して他店や世界中のプレイヤーと戦うこともできるが、今表示されているのは向かい側の筐体。そしてそのプレイヤーネームは……。
「UZQueen……!? まさかあの!?」
「うん。えへへ……楽しそうだったから、私もやりたくなっちゃって。よろしくお願いします、ね?」
アルが顔を上げれば、ダンボールの頭が筐体の上から覗く。アルがゲーセン通いをするようになってしばらくして名を上げた、ほとんど同期の伝説的プレイヤー。様々なタイトルで全国ランキング1位を総嘗めにして譲ることのないキヴォトス最強のゲーマー。
「まさか、こんなところで出会うことになるとはね……でも私だってかつてシャイニングデーモンと呼ばれた女! そう簡単に倒せるとは思わないことね!」
中学生時代メガネギラギラさせてゲーセンで対戦に明け暮れていた頃のあだ名である。そう、かつてネット対戦で頂点を目指し、何度も負けたことがあったのだ。当時の悔しさが再び燃え上がる。
自分はしっかりと腕を磨いたわけでもない、UZQueenは現役チャンピオン。不利な要素ばかりだ。しかし、それでも負けたくない。なぜなら、アルもまたゲーマーなのだから。
「……くっ!」
「……。……よし!」
1本目。久々の、そして初めての対面での対戦。やはり探り探りの立ち上がりとなったが、次第にユズがじわりと有利を広げ、そのままアルを押し切る形での勝利となった。
上級者同士の戦い、しかし基本的な動作や読みの深さ、すべての要素においてユズはアルの1歩2歩上を行く。それが現れた勝負だった。ユズの方に移動したアリスは大盛りあがりで応援している。ヒフミは勝者のトロフィーとして筐体の上に置かれたペロロ様にちょっと手を伸ばしては引っ込めてを繰り返している。
このままでは勝てない。しかし、下手な博打を打てばそれこそカモにされるだけだ。アリスとの勝負のように。あの時アルは戦い方と腕の差で追い詰めたアリスがどのような行動に出るかを予想しブッパを当てた。アリスの友人としてユズがその意趣返しをしてくるというのは大いに有り得る話。
そして続く2本目、じわりじわりと消極的な動きを見せるアルにユズは意外そうな顔をする。実際飛び込んできたらブッパなして沈めるつもりだったから。しかし隙を見せなかったからと言って勝てるわけではない。動かなければ1本目の再現となるだけだ。
期待外れだったのだろうか。アルのプレイに、燃え上がらせてくれるような何かを見た気がしていたが。機械のように的確に、正確な動作でアルを追い詰めていくユズ。
「……そこぉっ!」
「うそっ!」
ここしかない、その瞬間。攻め続けるユズに攻撃を差し込み、コンボを繋ぐ、途切れない。抜け出そうと暴れる動きもしっかりと読んでいる。必殺技ゲージは満タンだ。すべてを吐き出し、暗転。
ユズのキャラクターは倒れていた。
「ふふっ、あははははっ! どうよ! これが便利屋、陸八魔アルの力よっ! 見たかUZQueen!」
「そ、そんな……! ユズがやられるなんて、嘘です……もうおしまいです……」
アルはガッツポーズで勝利の咆哮を上げ、アリスは筐体にすがりついて絶望する。陸八魔アルの優れたる所、それが存分に出た勝負だった。
伝説のプレイヤーにすら打ち勝つ彼女の才能とはなにか。それはここぞというその時、その瞬間を見極める力。観察力であり、勘働きであり、そして良くも悪くも勢いよく彼女を運ぶ幸運だ。目にも止まらぬ速さで駆け抜ける幸運の女神の前髪を鷲掴みにする瞬発力とも言える。
敵に対すれば致命の弱所を撃ち抜く死神の弾丸となり、強者を相手にすれば常人には不可能な逆転の一手を掴み取る。そういうものを陸八魔アルは持っていた。
……そして、そんな
「これで1対1。楽しくなってきたね。さあ、最後のラウンドだよ……!」
「……! 上等ォ!」
ダンボールを横に置き、素顔を晒したユズが笑う。普段の気弱な表情とはまるで違う。獲物を食らう王者の笑み。対するアルもまた笑う。冷や汗をたらしながら、しかし、ピンチの時こそ真の悪党はふてぶてしく笑うものなのだから。
じわりじわりと攻め上がるユズ。そしてその動きは先程よりも遥かにキレのあるものだ。未来が見えているかのような読みは選択肢を外すことは決して無く、確実にアルを追い詰めていく。
しかし焦らず、被害を最小限に押さえつつその時を待つ。勘働きに任せるとは、適当にやったら上手くいったというものではない。幸運を掴むということは、捨て身で崖の向こうへ身を投げるようなものではない。
五感で得たすべての情報を統合し、表層意識に言葉として登るより前に、電撃的な速さで判断するということ。あからさまなブラフにも、巧妙を極めた罠にかかることもない。伝説の女王とて人の子であることは間違いない。いつか起こるミスを確実に咎め、致命の一刺しに変える……!
「……今っ! ぁああぁぁぁあっ!?」
「こうっこうっえいっ!」
完璧なタイミングで放たれたはずの致命の一撃はしかし、女王の喉元を貫くことなく虚しく空を切った。しっかりと技の後隙を咎めたユズのコンボで既にだいぶHPが削れていたアルのキャラは撃沈。2対1でユズの勝利となった。
「おぉぉぉ! さすがユズです! さすユズ! UZQueen最強! UZQueen最強!」
「あ、アリスちゃんちょっと……」
褒め称えるアリスと、いつの間にか集まっていたギャラリーの拍手に照れるユズ。アルはそちらへ向かうと軽く手を握り、ペロロ様を渡した。
「やっぱり、強いわね。これはあなたのものよ。元からそうだけど」
「ありがとう、アルさん。た、楽しかったです……それと、これはアルさんが持ってて」
ユズが渡されたペロロ様を返すと、アルは表情を歪めた。
「情けをかけられるほど落ちぶれちゃいないわ。勝者は勝ち取り、敗者はただ去るのみ、よ」
「ううん。預けるだけ、です。返しに来てください。また……一緒に遊びましょう?」
敗北の証というわけか。ふ、とアルは息を漏らした。そうだ、熱く、悔しく、そして楽しい戦いだった。敗北を刻み、勝者を称えるのもまた悪の道。素直に受け取ったペロロ様の箱を抱え、格ゲーコーナーを出た。背を向けたまま手を振る。
「覚えておきなさいユズ。次はこうはいかないんだから」
「はい、アルさん。次も、負けませんから」
楽しそうな声を背に受けて、陸八魔アルはクールに去った。
「あ、あの! ペロロ様、さっきくれる感じでしたよね! お金なら出しますから!!!」
はずだった。ダッシュで追いかけてきたヒフミがアルにしがみつきペロロ様フィギュアを要求する。
「ちょっとぉ! 流石に空気読みなさいよ! 余韻台無しじゃない! それにこれはまたユズと勝負する時に持ってくんだからダメよ! 別で探しなさい!」
「限定グッズは! 限定グッズは欲しいと思った時に手に入れないと一生手に入らないんです!!! ください! なんでもしますから!!!」
今なんでもっていいましたよね!? という声が遠くから聞こえるのを無視し、しがみつくヒフミを引きずってゲーセンを出るアル。いい加減鬱陶しくなったので引き剥がしてダッシュで逃げる。
「諦めなさい! あなたも悪党なら引き際をわきまえるべきでしょう!」
「引き際なんて知りません! こ、こうなれば力づくでも……!」
こんなキモい鳥モドキの何がいいのよ! と捨て台詞を吐いて立ち去るアルを追うべく、ヒフミは近くに停めてあった愛車に乗り込む。*3
そう、巡航戦車Mk.VIクルセイダー、通称クルセイダーちゃんである。ヒフミは迷わずアルを砲撃した。アスファルトごと吹っ飛ぶアル。逃げ惑う周囲の一般通過生徒。デカい音を聞きつけて集合する関係者。
「ちょっとぉ! 洒落にならないわよ!?」
「なになにアルちゃん、喧嘩ー? あ、ヒフミちゃんじゃん。へー……たのしそー!」
「アル様ーッ!! ご無事ですか!?」
どこからともなくアルの元へ現れたのは楽しいこと探しをしていたムツキと、爆発物の買い出しをしていたハルカ。そしてヒフミタンクの方にも補習授業部の面々が現れる。アズサの買い物で一緒に来ていたが、ヒフミはゲーセンに行くために一旦別行動していたのだ。
「ヒフミ、どうしたの? 敵襲?」
「ぺ、ペロロ様が! ペロロ様を、お救いしないと!」
「なるほど、強奪されたグッズの奪還任務了解した。行動を開始する」
「ちょっと、なんか様子おかしいし絶対違うでしょ。待ちなさ……あぁ! もう!」
アズサはふんすと鼻息荒く即座に参戦を決定しタンクデサント*4。同じく戦車にとりついたコハルは急制動に振り落とされそうになって必死でしがみつく。
「集まるんなら言っておいてよね」
「あ、カヨコさん、しばらくぶりで」
あらあらと笑うハナコは秒で状況を把握したものの楽しそうだしまあいいかとスルーして戦車に飛び乗り、ついでに知った顔を見つけて手を振る。CD買いにきていたカヨコはハナコに雑に手を振り返して便利屋組に合流。特に図ったわけでもなく集合するのもわりとよくあることであった。
「観念してペロロ様グッズを渡してくださーい!」
「あっははは! ちょうど新作の地雷試したかったんだー♪ 対戦車戦よーい!」
ギャリギャリとアスファルトを削りながらクルセイダーちゃんが駆ける。小回りを活かして路地裏に逃げるアルたちを、壁を削りながら追い回し砲撃が連続する。ムツキとハルカがバラ撒いた爆発物が連鎖的に大爆発を起こし、倒壊するビルの瓦礫の合間を縫ってクルセイダーちゃんが突き抜ける。白昼堂々たる大規模テロに早くもヴァルキューレのサイレンが木霊する。カヨコの先導でどうにかこうにか逃げながら、アルは白目をむいて叫んだ。
「どうしてこうなるのよぉぉぉーっ!!!」
☆3初期メンがヒフミコハルアルちゃんで思い入れがあるんですが、アルちゃん過去が謎なので中々書きづらいですね。今回すべて捏造です。実際には賢い文学少女陸八魔リリィになりそうな気もしますが、ゲーム三昧おバカ地味メガネ中学生アルちゃんもいいんじゃないかと。便利屋結成編を含むゲヘナメインストーリー熱望。