悲喜こもごもあっても平等に。
裏も表も関係なく、めでたい日だから。
楽しめ一瞬を、それでこその人生だ。
まったく、素直にありがとうって言えば良いのに。どうしてああも底意地が悪いんだか、あのメガネと来たら。
材料が余ってたし小さい弟妹がいるって言うから多めにしただけで、別に余計な意図がある訳じゃないんだからさ。恩を売って得する相手でもないじゃない、アンタなんか。ただのメガネなんだから。
にしても一々突っ掛かっちゃう菖蒲も菖蒲かな、どうも笠原くん相手だと勝手が違っていけない。合宿の時にやりあったし、雛っちの事とかでも何度かぶつかってるから過敏になってるのかな。
――まあ、あれが言ってる事は正しいんだろう。正しいんだろうけど、菖蒲は納得できない。
きっとそれが引っ掛かって、ついつい張り合ってしまうんだ。
「好いてる側は、どうやって幸せになるの?」
そう言われて上手く答えられなかったのは、菖蒲がいつだって「好かれる側」だから。勿論こっちが好きになる事も無くはないけど、それでも大体向こうから菖蒲を好きになってくれる。菖蒲は綺麗で美人で可愛いから、ちょっと気を向けたら男子は絶対落ちるんだ。それでなんか違ったら、ちゃんと
男子と付き合うのはフワフワして楽しい、だから色んな人を好きになってなられてそれが幸せ。
菖蒲はずっとそう思っていた、雛っちの涙を見るまでは。
好きになってもらっておいて、それでも断ってしまう男子がいると思わなかった。
好きで居続けるのが辛いと思うなんて、考えたこともなかった。
声を上げて慟哭するような苦しい失恋なんて、菖蒲の人生には一度だって訪れなかった。
だからそう、菖蒲にはなにもできなかったんだ。ただ雛っちが立ち直るのを見届けただけ、何の意味もない案山子みたいに。
他に好きな人がいたって、付き合わせれば良い。歯を食い縛るような恋なら、途中で見限れば良かった。実らなかった恋なんて、忘れてしまえば良い。
菖蒲ならそう割り切れるけど、雛っちにそれを求めるわけにはいかない。
雛っちの恋は菖蒲が今までしてきたどの恋より熱くて激しくて、そして哀しい。決して幸せになれない、そんな悲劇の恋。
あれから暫く経って、雛っちの傷は癒えつつある。いのたと普通に喋れるようになったし、笑顔も戻ってきた。でもそれはまだ、必死で取り繕っている状態。例え痛みが消え去り傷口が塞がっても、その記憶は消えない。少しでも早く気が晴れるように、にぎやかしを買って出ているけど道はまだ長い。
いのたが気持ちを変えてくれたら万事解決するんだけど、それは難しいな。誰だかわかんないけど雛っちと天秤に掛けて勝つような相手だ、そこをどうやって覆したもんかな。
それこそいっつも傍にいる笠原くんが協力してくれたらまだ良いんだけど、あのメガネと来たら傍観者気取りを崩さないから困ってしまう。
「ん、まぁ……良いかぁ……」
あれこれ考えかけた頭を揺さぶって、菖蒲は強引にテンションを引き戻す。これから雛っちたちを引き連れてカラオケだ、女友達だけのクリスマスイブなんてもしかしたら生まれて初めてかもしれない。彼氏がいないクリスマス、ってのも久し振りだけどさ。
楽しもう、せっかくのイベントだ。仏頂面してたら勿体無いよ、うん。お姉もデートで遅いだろうし、全力で遊び倒してやろう。さすがに朝までは無理だけどね。
そういやちーちゃん、もう試合終わったのかな。ウインターカップ初戦がクリスマスイブなんて、これ部活してたら恋愛すんなみたいな話だよね。西田部長が僻んで全体練習やらせてるのと近いのかも、まあどうでも良いけどさ。
見上げた空にはヒラヒラと粉雪が舞って、街の方からはお祭り騒ぎのネオンが漏れ見えている。
さて、行こう。今日はとことん楽しむんだ、私たちは普段頑張ってるんだから。
そして願わくば、雛っちの気持ちが報われますように。明日聖誕祭を迎える神の子に祈りながら、菖蒲は歩きだした。