遠山キンジの独白   作:緋色

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苦戦して遅れたけど私は謝らない
ごめん


為せば成る

 さて、姐御――伊藤マキリは特異体質――俺と同じ神経系の特異体質。

 俺はβ-エンドルフィンの大量分泌による脳髄を虐使することで思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍に向上するヒステリアモードだが、姐御は本気の時は「六階に上がる」との発言をしていることからパソコンのコアを増やしてマルチタスク能力を向上させてる感じである。あくまで推測だが。

 どっちも脳の処理能力を上げて人体を強化(?)しているわけだが、俺の場合は高負荷をかけて1+1+1+1+1+1+……と力任せに動かしているに対して、姐御は1x6と動かしているような印象だ。

 倍率ブレブレの俺に対して姐御はコンスタントに実力を発揮できるような感じである。

 ……逆に言えばギアMAXでベルセ並みの実力をいつでも出せる姐御を現状ノーマルの俺が対応しないといけないという事であるが。

 今の距離を取って見えない所から一方的に矢指で削る戦略はそれが最も効果的な事を知っているから。

 今のままだと勝ち目は0だが勝機はノーマル俺とヒス俺の実力を知ってて対処できる姐御の想定を飛び越えることだけだろう。

 姐御の癖を知ってるからか攻撃の前兆というか殺気を関知して何とか避けれてはいるが、ジリ貧であることには変わりない。

 

「姐御ー。直接刺しに来ないなんてビビってるんで?」

「急に イカレタ動きされたくない もの。美人が 目の前にいると ハッスルするのは知っています し」

「それは……畜生反論できねえ」

 

 姐御に姿現して貰ってヒスるのが一番確実化と思ったんだがな。警戒されてたという事か。

 どうするかな……。爺ちゃん曰く『遠山は自由に返對(へんたい)してこそ一人前よ』との事だが、春水車じゃないが一応記憶を掘り起こして成れない事もない……。

 ――時間さえかけられれば。

 

「なんか攻撃激しくなってません!?」

「気の せい」

 

 集中して過去のヒステリアモードになった体験を思い浮かべようにも妹でなるタイプは本物がいないとまったくかからず、となると性的興奮した内容を思い出すべきなのだが記憶だからか徐々に気分が盛り上がる感じである。

 そこに命の危機で避けないとならないとなると一気に現実感に戻って冷める――最悪の悪循環である。

 さてどうしたものか。

 音を聞くに矢指を応用していくつかの場所に存在するかのように音を立てて正確な場所を特定させない方針だろう。ヒステリアモードなら逆算で位置を割り出すことも可能だろうが――今なら無理。

 

 ……。

 

 面倒くさい。

 お互い移動しながらの争いとはいえこっちは負傷を避けてジリ貧ならゴチャゴチャ考えてもどうにもならない。つまり出たとこ勝負で何とかする以外ないだろう。

 

「為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり」

 

 いるであろう範囲はなんとなく想定できる――運が良ければ何とかなるだろう。悪かったら日頃の行いが悪かったと書類投げて死ぬか。

 方針は決まったので――突っ込むか。

 

「散らせるものなら散らしてみやがれ!」

 

 いるであろう方向へ飛び出し変則縦斜め横転がり(転んだ後のリカバリー行動)で自分でもよくわからない動きで初弾を避けて近づく。

 変な動きに圧倒されたのか即座に距離を撮ろうとする姐御をはっきり視認し……。

 チャイナドレスを着ていた姐御に予想外の不意打ちを喰らう。

 

 ――ドクンッ

 

 見えないはずの空気の塊も姐御の手の向きから射線は想像できる。見られたことで削るのではなく殺すための布石とした矢指を撃たれる。

 人の重心は大体臍(へそ)の下、そこを基準に前後左右に回転して受け流す動きを同時に放った矢指で回転したらもう片方が深く突き刺さる撃ち方をする。

 それを避けるには左右に動いてどちらかの塊を受けるしかないがそこに追撃とばかりに投げられた九七式手榴弾を撃ちこまれれば体勢をさらに崩さざるをえず結果倒れて避けられない次弾でEND。

 ならばどうするか。

 そのまま突っ込めばいい!

 

「雨水簾」

 

 極めれば雨粒さえも回避可能(らしい)この技は蒙古の「てつはう」に対抗するために編み出したものらしい。つまり手榴弾にも対応できるはずだ

 つまり銃口(手)二つ撃ち込まれる連射にも対応できて当然!卍やZのような体勢を取る事で避けた先で爆発して飛んでくる破片をスローモーションで捉えながらも被害を最小限に突き抜ける。

 近づけないつもりで放った手榴弾を越えて、手榴弾の破片から身を隠すために木を盾にしてた姐御が動こうとしたところを紳士的に体勢を崩させて柔らかい地面の上に押し倒す。

 

「捕まえた」

 

 押し倒された姐御は目をぱちくりとさせて――ギアが戻ったのかモードが解けた様子である。 

 

「……なったのね」

「避けれたのは偶然だけどな」

 

 涙が見えたからなるとか単純過ぎるだろ俺。チャイナドレスより効いてるの予想外だったな。

 それは兎も角、完全によけきれなかった手榴弾の破片が痛いが消音気味に改造されてたとは言っても爆発は爆発。通報されててもおかしくはないので急がなければならない。

 一応両手を押さえてはいるが離せば即座に穿たれるであろう。このまま説得するしかない。

 

「……そう。こうなる気はしてた。……バカみたいね。都合の良い夢 だった」

 

 どう切り出すのか迷っているうちに覚悟が決まったのか姐御がギアを上げた雰囲気になる。

 まずい!腕を押さえたが何かして俺を殺す気だ!何する気かはわからないが姐御を止めるには――ええい、ままよ!

 そうして俺は姐御に――キスをした。

 驚いたことでギアが外れたのか抵抗力が下がった姐御に暴れられてはたまらないと口内を蹂躙する。

 だんだん固まってた躰の力が抜けて為すがままになってきた所で口を離す。

 涎のアーチを拭って敵意はないと座り込む。

 

「俺の勝ち。というわけで言う事聞いて貰うから」

 

 口を隠すように押さえた姐御はそれを聞いて――こくんと頷いた。

 ふぅ。ようやく本題に入れるな。なんか無駄な戦闘だった気がするが結果オーライである。

 

「おーう。たらし。一発しけこむのは後にしろや」

 

 どこかで見ていたのか軽く服装が乱れた獅堂がノッシノッシと土嚢でも担ぐかのように女を肩に担いで現れた。

 うわぁ……。

 

「獅堂。私を 始末しに 来た のですか」

「ん?いやマカオに来たのは別件だが遠山がやれるのは無理だと思ってたから手伝おうかと思ってたが――いらない心配だったようだな」

 

 へらへら笑う獅堂がやる気がないことに首を傾げる姐御にさっき出しかけてた書類を渡す。

 

「これ。伊藤マキリが生きてるのは都合が悪いんだとよ」

 

 渡された封筒を確認する姐御が動揺しているようなので動揺が収まるまで獅堂に気になることを聞く。

 

「持ってる女が別件か?」

「バーカこれはお前の不始末だ」

 

 そう言って転がしたのは――誰だっけこいつ?

 

「誰だって顔してるがさっき鎖振り回してた姉ちゃんだよ」

「あー。興味なかったし趣味でもなかったから覚えてなかった」

「後ろから急に殴ってくるから逸れちまったよ」

 

 痛かったぜーと頭をさすってるが、怪我一つないようである。頭蓋骨くらいなら破壊できそうな威力だったと思うが何をしたのだろうか。

 

「これは――本物?」

「偽物渡してどうすんだよ。胡散臭いおっさんだけど俺動かして迄偽物渡すようには動かんだろ」

「いやー必要ならやるんじゃねえか?」

「それだったらあのおっさん海に沈めるが」

「その時は呼んでくれ。手伝うぜ」

「なんで……?」

 

 掛け合いの最中に痛みもだいぶマシになってきたので立ち上がる。

 うん。一週間の休養が必要かな。

 

「意図はわかりました。どう動けと」

「おっさん曰く一年ぐらい日本に居なければ何とかなるって言ってたけど」

「しばらく休暇で旅行とでも思っとけばいいんじゃないか?」

「ゆっくりするなら国内がいいのだけど」

「それは諦めてくれ」

「仕方ないわね」

 

 そう言って立ち上がった姐御は「それが代わり?」と聞いてわずかに息をする女を掴む。

 

「各地で私情で殺しを繰り返してるバカだ。どこの組織からも嫌われてるのか追われてるみたいだぜ」

「そう」

「おい。まさか!」

「も(・)う(・)遅(・)い(・)」

 

 獅堂に肩を掴まれたと思えば軽い調子で数(・)十(・)m(・)ほど投げ飛ばされ、爆発音と同時に背中を木に叩きつけられて息を吐く。

 んだぁ今の馬鹿力!?

 

「手柄は貰ってくぜ~。余所者が仕留めたことになるとただでさえ悪い立場が更に困ったことになるんでよ~」

「私も去ります。しばらくしたら連絡しますので、その時は……邪魔されないようにしましょう」

 

 ……クソが。住む世界が違うとはいえ納得できねえ。

 我を通せる力も政治力もねえ。

 理不尽な世界だ。

 

 痛む身体を抑えながらその場を去り、もうマカオに留まる理由もないのでそのまま脱出する。

 日本に戻るまでにまたもうひと悶着あったのだが。関係ない話なので割愛させて貰おう。




Q何でマキリさんがチャイナドレス?
A作者の趣味潜入の為。そのままキンちゃんを攫う事も視野に入れていたけどいなかったのと着替える暇がなかったから

次回から実家かな
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