いつかは必ず、消え失せる。
それは祝福か、はたまた。
未だ消え切ることなく、裏側に残る。
「――これ運ぶの、手伝ってくれない?」
匡くんの声で我に返り、そこでようやく自分が唇を噛んでいた事に気が付いた。
ああ、そうか。私は悔しかったんだな、千夏先輩が大喜と一緒にいるのが。
でもそれは、
そんな自分に、内心驚いてしまう。あんなにも泣いた夜から、まだそこまで経ってもいないはずだけど。
日にち薬、とはよく言ったものだ。傷口が盛り上がって塞がるように、私の心は癒えていく。望もうが望むまいが、摂理として。
分かっていた事だ、その筈だったんだ。大喜は千夏先輩が好きで、私をそういう目では見てくれない。告白してようやく意識を向けさせる事は出来たけど、そこからは進みようがない。ああ、それなのに。私はその停滞を、楽しんでしまった。どうせ千夏先輩は再来年にはいなくなる、なんて甘いことさえ考えていた。それがどれだけ不毛か、大喜が気付かない訳が無いじゃないか。
あの日大喜の言うことを受け入れられず、声を荒げて抵抗した。まだ返事なんかしないで、私を好きになってからで良い、なんて。来ることがない「その日」を待ち望むだけの私に、そんな事を言う資格なんか無いのに。
本当に悲劇に酔っていたんだな、あの頃の私は。
体育館にいるのさえ辛くて、着ぐるみの頭を被って泣いた日もあった。いっそ新体操自体、これで辞めてしまおうかとも思ったくらいだ。どうせ親の肩書きを守るためのものなんだ、辞めたって私は構わない。そんな捨て鉢なまま、日々だけが過ぎていた。
でも薄皮を重ねるように私は少しずつ、前を向けるようになっていく。大喜とも今は普通に話せるし、クリスマスイブには遊びに誘うことさえ出来た。まあ部活があるからって断られたけど。それを哀しんで泣いたりはしない、じゃあ良いやと背中を向けただけ。
大喜の事を考える時間はどんどん短くなって、日常が戻ってくる。
それが良い変化なのかどうなのかは、まだ分からないけど。
今でも私は、大喜が好きだ。あの激しい恋を、この目はまだ覚えている。瞼を閉じれば想いに浸れるくらい、泣きたくなるほど熱く。
だけどもう、この気持ちを伝えたりはしない。今は鮮やかに焼き付いている思い出も、そのうち色褪せてしまう。少しずつ少しずつこの気持ちは薄れて、他の誰かを好きになる日も来る。まだ想像もできないけど、いつかはそうなるんだろう。一生に一度しか恋が出来ないわけじゃない、人の心なんてそういう風に出来ているのだから。
でもきっと、それでも私は忘れない。あの日の拒絶が教えてくれた、大喜の優しさを。素敵な人に大切な恋をしたと、胸を張って言える。
――ああ、全く私と来たら。何処まで大喜の事を引き摺るつもりなのかな。
自分の未練がましさに呆れつつ、私は頼まれた通りに箱を運搬中。これくらい一人でやれよバド部、と毒づいたりなんかしてみたり。匡とも長い付き合いだけど、異性を意識しない普通の「友達」だ。向こうがどう考えているかは知らないけど、私はそうとしか思ってない。
大喜とはこんな風な関係に、もう戻れないのかな。戻れたら良いんだけど、そこまで都合よくはいかないよね。それが分かってて告白なんかしたんじゃないか、私は本当に卑怯未練の臆病者だよ。
暮れの冷たい風を感じながら、ふと見上げた空は鈍色の雲が立ち込めている。全くどうにも辛気臭い感じで嫌だな、なにかと考えすぎるし億劫になっていけないや。こんなんじゃ向かうところ敵無しで通してきた蝶野雛の名が廃る、不死身の身体と不屈の闘志がウリなんだからさ。
そうだ、また菖蒲とかにいなちゃんを誘って遊びにいこうかな。どうせ冬休みだ、ハメ外したってバチは当たるまい。あと菖蒲にはあれから迷惑かけっぱなしだし、色々謝らないと。
したい事もするべき事も山ほどある、さぁてどうしようかな。