もしも下界の人間が、神ですら予想し得なかった可能性を秘めていたとしたら?

そんな話を書いてみました。

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もしも、この世の恐怖の根源がアストレア・ファミリアにいたら

 迷宮都市オラリオ。人類の敵であるモンスターが生まれるダンジョンを塞ぐように築かれた、多くの人間と神が住まう世界最強の砦。神の恩恵を授かった冒険者が、富と名声を求めてしのぎを削り、冒険をする。

 

 荒事の多い場所ではあるが、それとは無縁に平和に生きている市民もいる。しかし、ここ最近では闇派閥と呼ばれる勢力が人々の安寧を脅かしていた。

 

 

「ヒャッハァー!!俺達ゃ闇派閥だァーー!!」

「こんな平和なんかぶっ壊してやるぜェーー!!」

「汚物は消毒だァーー!!」

 

 

 圧倒的な強者が目を光らせていたからこそ大人しくしていた闇派閥が、オラリオのトップを務めていたファミリア交代を機に活動を再開させていた。

 

 破壊を振りまく自分達に恐怖する無力な市民たちを見て、悦に浸る闇派閥の悪行は更にヒートアップしていく。

 

 

「おい、そろそろガネーシャ・ファミリアの連中が来るぞ」

「ああ、そうだな。まだ暴れたりねえが、一旦ずらかるとするか……あ?」

 

 

 そんな彼等の目の前で、不思議な事が起こった。

 

 

 ――ズモモモモモモモ……

 

 

 何も無い空間が歪んだかと思えば、そこから真っ黒なエネルギーが吹き出される。周囲の闇派閥や市民たちがぎょっとする中、その空間から二人の人影が出現した。

 

 

「――グファファファファ……!!」

 

 

 悍ましい笑い声をあげたのは、現れた人影の片方の巨躯の男。おどろおどろしい装飾を付けた兜やローブを身に纏い、闇派閥を見下して大笑いする。

 

 

「今日も今日とて慎ましい抵抗を続けておるようだな、邪神の傀儡共よ!大人しく我らが正義の前に屈服すれば、楽になれるものを……その度胸だけは、誉めてやろうぞ」

 

 

 あれだけ暴れまわっていた闇派閥が、途端に大人しくなった。それどころか、足をガクガク震わせて怯えていた。

 

 

「ヒ……ヒィィ……奴等だ……アストレア・ファミリアだ……」

「よりにもよって、アストレア・ファミリアが来やがった……」

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

 

 

 周囲の市民は困惑した。さっきまで暴れていた闇派閥と、一言二言喋っただけでその闇派閥を恐怖のどん底に突き落としている大男、どちらから逃げるべきかと。

 

 

「はいはーい、お前らぼさっとしてないでサッサと離れろよー。巻き込まれたらお陀仏だぞー」

 

 

 もう片方の小人族の少女が迅速に避難誘導を始めた。どうやら暗黒空間からやって来た方が自分達の味方らしい。そう理解した市民達は、アストレア・ファミリアの少女――ライラの指示の下で避難を始める。

 

 

「グファファファ……澄んだ青空が我等を見下ろし、木々のさざめきと鳥達の囀りが何とも心地よい日ではないか……。

 

 

 貴様らにはもったいない、なんとも贅沢な死に日和よなぁ?

 

 

 闇派閥はこの後の自分の運命を悟った。静かにはらはらと涙を流すその姿は、悪逆非道の人間とはとても思えぬほどに惨めであった。

 

 大男は人差し指を闇派閥に向け、選別の言葉(死の宣告)を向けた。

 

 

「恐いか?安心するがよい、貴様らの血と臓物は全て我が主神、アストレア様への供物となる。慈悲深き我が主神ならば、たとえ貴様らのような屑であろうとも導いてくださるであろう。

 

 ――闇の炎に抱かれ、死ぬがよい

 

 

 メラ、と呟くように唱えられた呪文が火の玉となり、闇派閥をこの世から焼き尽くした。

 

 今、闇って言った?正義の眷属が闇って言った?

 市民の疑問の視線を受けて、ライラは気づかないふりをして視線を逸らした。

 

 

「…………む?」

 

 

 焼け焦げたクレーターを見た大男は、何も残っていない惨状を前にして、不満げに声を荒げた。

 

 

「……何たる脆弱!何たる虚弱!!臓物どころか骨すら残らんとは!!今のはメラゾーマ(上級呪文)ではなく、メラ(下級呪文)なのだぞ!!おのれ闇派閥め……魔石を残すゴブリンにすら劣る連中だ!!」

 

 

 アストレアに持って帰るお土産が何も残っていない事に憤る大男は、暗黒エネルギーを垂れ流しながら地団駄を踏んだ。さっきの闇派閥とは比べ物にならない混乱が市民を襲う。

 

 

「……ちっとは落ち着けよ、"ゾモス"」

 

 

 見ちゃいられないと、ライラが彼の名前を呼んでストップをかけた。

 

 

「アタシ達はこの街を守る冒険者なんだぜ?それなのに市民の皆サマに怖がられてちゃ、本末転倒だろーが」

 

 

 ライラにそう宥められ、怒りを鎮めたゾモスはぐるりと市民達を見渡した。皆が闇派閥の恐怖に飲まれた表情をしている。本当に闇派閥に対してなのかは本人しか知らない。

 

 

「おぉ……その通りであるな。無力な民衆を守る事こそが、我等アストレア・ファミリアの本懐であった。これでは誤解されてしまう……」

「いや、だいぶ手遅れではあるんだが……ま、まあ分かったならそれで――」

「聞け!!愚かな人間ども!!」

 

 

 ローブをブワサァ、と翻し市民に語りかけ始めたゾモス。突然の演説とその言い方に絶句するライラを置いてけぼりにして、ゾモスは言葉を続ける。

 

 

「今、この街は矮小なる闇派閥どもの脅威が迫っている!無力な貴様らはそれを恐れているのだろう!」

 

 

 市民は黙って耳を傾けている。言い方に思うところはあっても口を挟む勇気は今の彼等には無かった。

 

 

「だが、案ずる事は無い!!このオラリオの平和は我等アストレア・ファミリアの手に握られておるのだからな!」

 

 

 だから、言い方を考えてくれ。そんなライラのささやかな願いが叶えられる事はない。

 

 

「この街には多くのファミリアがいるが、真の最強は我等がアストレア・ファミリア!!矮小な体躯に勇気を秘めし勇者、愚鈍な頭と強靭な体を併せ持つ猛者……多少、腕の立つ冒険者もいるが……ハッ、片腹痛い!!所詮、奴等が勝ち取ったのは仮初の王冠よ!いずれ奴等も理解するであろう!己には過ぎた玉座だったとなぁ!!」

 

 

 やめろよ、勇者様にアタックし辛くなるだろ。アタシ玉の輿狙ってんだぞ。そんなライラの心境を代弁する者はいない。

 

 

「いずれ、オラリオが……否!!世界が認めるであろう!この混沌を平和に染め上げる神アストレアの偉大さを!!愚民どもよ!!アストレア様を讃えよ!!いずれこの世の全てを正義で塗りつぶす我らが神を!!後世に至るまで奉るがよい!!」

 

 

「……ア、アストレア様、ばんざーい……?」

「こ、これ、いいのか?俺達、闇派閥じゃない何かに侵されてないか?」

「さっきから、このちびっ子のお姉さん、何にも言わないんだが……」

 

 

「歓声はどうした!!声を上げ、行動せねば何も変わらぬぞ!!貴様らの頭はムシケラにも劣るのか!!」

 

 

「「「バ、バンザーイ!!バンザーイ!!アストレア様サイコー!!」」」

 

 

「グファファファファ!!!!聞こえておりますか我が神!!愚かなる民が貴女を讃えておりますぞ!!」

 

 

 ライラの目は死んでいた。もはや自分程度ではどうにもならない流れに、抵抗を諦めてしまったのだ。

 

 

「愚民共も己の立場を弁えたようだな。では巡回に戻るぞ、ライラよ。未だにオラリオに蔓延る邪悪な者を、一匹残らず始末せねばな」

「………………そーだな」

 

 

 そうだ、自分達は正義の眷属である。その事を思い出したライラは瞳に光を戻し、ゾモスが生み出した暗黒の扉を潜って見回りへと戻った。

 

 なお、その後に出くわした闇派閥から臓物を抉り取り、高笑いをキメたゾモスを目の前にして、再び光が失われた事をここに記しておく。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 アストレア・ファミリアの本拠『星屑の庭』の一室で物思いに耽る一人の神がいた。

 正義の名を冠する女神、アストレア。何かを憂う表情は彼女の美貌も合わさって、まるで一枚の絵画のような美しさだ。

 

 彼女が悩んでいるのはある一人の眷属の事。女しかいなかったアストレア・ファミリアに入団させた一人の男の姿を思い描いて、人知れず溜息をこぼす。

 

 

「私はどうしたらいいのかしら……?あの子が必死に頑張ってるのはみんな分かってるけど、だからってあんな事を続けられても困っちゃうわ……」

 

 

 始まりは一つの闇派閥の拠点を潰した時からだ。

 

 捕えられていた市民の一人の男が、慰問に来たアストレアの姿を目にすると同時に大泣きしながら跪いたのだ。詰め寄ってアストレアの手を取り泣き続ける男を主神から離れさせようとした眷属達を止め、彼の話に耳を傾けたアストレア。

 

 曰く、捕らえられている間、頭の中にずっと彼女の声が聞こえていて、その声を支えに今まで耐えてきた。どうか自分を貴女の眷属に加えて欲しい、と。

 

 下界では神としての力の殆どを封じられてる為に、そんな芸当は不可能だ。だが、苦痛に耐え続けてきた男を前にして、アストレアはその事実を男に伝えるのを躊躇した。出かかった言葉に蓋をして、優しい慰めの言葉を伝えると、男はより一層激しく泣き出した。

 

 自身のファミリアに加えるという話も、アストレアは了承した。ここで突き放してしまえば、この情緒不安定の男がどうなるか不安で仕方なかったのだ。

 当然ながら、女の園に男が入るというのは彼女の眷属達からすれば、歓迎できる話ではない。嫌悪とまではいかないが、大なり小なり忌避感があるのは仕方ない反応だ。

 極東出身の副団長からは、『優しい嘘でもいつかはバレますよ』と釘を刺された。それでも彼女達に頭を下げ、不承不承に認めてもらい、彼はアストレア・ファミリアの一員となった。

 

 それでも、男一人が女性の集団に入り込んで上手くいくはずも無く、ファミリアはどこかギクシャクしていた。明るい団長やアストレア自身が間に入り込んでどうにか上手く回していたが、ぎこちなさはどうしても拭えない。

 アストレアに心酔している彼が、アストレアの眷属に不埒な行為を働くような事は無いが、それが分かっていても距離感が縮まりはしなかった。

 

 疎外感こそあれ、不当な扱いを受けている訳でも無い彼は、なんとなく本拠地から離れる時間が増えていた。外で時間を潰す目的を探していた男は、オラリオの大図書館に目を付けた。

 多くの書物が集められ、中でも英雄記に関する本を男は日々読み漁った。長く監禁され娯楽というものに飢えていた男は、ちょっと危ないレベルでのめり込んでいったのだった。

 

 日に日に本拠地から姿を消している時間が増えているのに主神も団員も気が付いていたが、誰も止めようとはしなかった。

 団員達はこう言ってはなんだが、自分達を気張らせている存在がいないので正直助かっていたし、主神も団員達の気苦労を察していたので強く言えなかった。

 アリーゼやライラはこれが良くない兆候のような気がしていたが、仕事は一生懸命にこなしていたので問題とは言えず悶々としていた。

 

 

 ――そしてある日のステイタス更新を境にして、彼と彼女達の関係は一気に変化する。

 

 

 自身の憧れが形になった成長促進のレアスキルの顕現と共に、あの変な笑い声の正義の眷属が産声を上げたのだ。

 

 

「……ゾモスを責めてはいけないわ。彼に問題があるとするなら、それは私達の罪。一度、家族に迎え入れておきながら、心を開ききれずに無意識に追い出していた私達の弱さの結果よ……。

 …………で、でも……どうして英雄記を読んでいて、敵側に憧れを抱いたのかしら……どうしても分からないわ……」

 

 

 憧れが力となるスキルの対象は、どうしてだか英雄記の悪役……魔王だった。口調もそれっぽく変化し、当初はファミリアのみんなが大混乱したものだ。人一倍生真面目なエルフの少女などは、『わ、私達のせいで精神を闇派閥に乗っ取られて……せめて私の手で引導を……!!』などと早まった真似を仕出かそうとしたくらいだ。

 

 悩み続ける彼女の体が、悪寒でぶるりと震える。暗黒エネルギーの波動が体に当たった証拠だ。愛する子供達の帰還に気付いたアストレアは、小走りで玄関へと向かうのだった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「おかえりなさい、ゾモス、ライラ!アストレア・ファミリア一番のスーパー美少女団長が出迎えてあげたわ!泣く程喜んでもいいのよ、フフーン!」

「グファファファ……!アストレア様を差し置いて、この世で最も美しいなどとほざくとは、笑わせる……!その高慢さ、いずれ泣き叫ぶ程に後悔するであろうぞ……!」

「毎度毎度、この噛み合ってねぇ会話にも慣れちまったぜ」

「「「うんうん」」」

 

 

 どうやらアストレアが駆けつける一足先に、ホームにいたアリーゼ達が出迎えていたようだ。以前よりもグッと距離の縮んだ眷属達の様子に、アストレアは微笑みを作る。

 

 

「二人とも、おかえりなさい。今日の街の様子はどうだったかしら?」

「おお……我が神アストレアよ、今日もその美しさに陰り無し!いずれ年老いて土に還るこの女と違い、貴女は永遠の美貌をこの世の全てに見せつけるのですな!」

「そりゃあ私だっていつかは死んじゃうけど止めてよその言い方!?」

「おーい、まずは報告しようぜ」

 

 

 酷い物言いに絶叫するアリーゼを他所に、巡回中の出来事をアストレアに報告するゾモスとライラ。

 

 

「まずは中央広場にて、この地に迷い込んだ哀れな迷い子を我が手に迎え入れた。その後は母親との感動の再会を演出してやった!手の内で転がされたとも知らずに、無邪気に喜んでおったわ!あの間抜け面を皆にも見せてやりたかったくらいだ!」

「えーっと、中央広場で迷子を保護して、そのまま母親に送り届けましたよっと」

「その後に街で暴れるウジ虫を潰してやった。塵一つ残らなかったがな……!」

「あ、これはマジだ。何も残って無かったぜ」

「最後にそのウジ虫の巣穴を5つほど潰した。お喜び下され我が主神よ!巣穴のウジ虫は多少マシではありましたぞ……グファファファ……」

「そ、そう。ご苦労様。じゃあ後はゆっくり休んで――」

「そして今日の供物を捧げますぞ!どうかお受け取り下され!!」

 

 

 ゾモスは暗黒空間から器を取り出し、アストレアへと差し出した。

 

 

 ――器の中ではえぐり取られた人間の心臓が、弱々しく脈を打っていた。

 

 

 新鮮な血の匂いにむせ返った団員達は大きく距離を取り、鼻を突く生々しい香りにアストレアの微笑みは引き攣った。

 

 この男、戦利品や供物と評して、闇派閥の臓物を抉り取ってくるようになってしまったのだ。

 

 

「………………今日も、なのね。ゾモス……前からも言っているけれど、無理はしなくていいのよ?私は、貴方達が無事で帰ってきてくれたら、それでいいのだから」

「おお……なんという慈悲深いお心の言葉……!このゾモス、感服致しましたぞ!ささ、遠慮する事はありません。どうぞ!!どうぞ!!

「……………………」

 

 

 こんな物をどうしろというのか。私の子供はこれを私にどうしてほしいのか。アストレアは引きつったままの笑顔でそれを受け取ると、ゾモスはとても満足した様子だった。

 ……良かった。そのまま食べて欲しいとか言われなくて本当に良かった。今にも気絶しそうなアストレアは、いつものように後でこの心臓を供養しようと心に決める。

 

 

 アストレア・ファミリア所属、冒険者ゾモス。現在のオラリオで唯一のレベル7を誇り、二つ名は【地獄の正義(ヘル・ジャスティス)】。

 

 レアスキルと主神への信仰心により、ひたすら駆け抜けた一人の男はとんでもない高みへと到達していた。

 

 

「……ゾモス、いい加減にしてほしい!いまさら貴方の献身は疑いませんが、闇派閥の臓器などをホームに……ましてや、アストレア様に献上するなど、常軌を逸している!!」

「何を言うか!神に対する捧げ物は、太古の昔から新鮮な人間の臓物と相場が決まっておるわ!まあ、外界から隔絶されておる村で育つミドリムシの貴様は知らんのも無理はないがな!!」

「誰がミドリムシだ!?」

 

 

 我慢ならないとエルフの少女、リュー・リオンが声を荒げるが効果が無い。この男、本気の本気で尊敬の証として心臓を差し出している。

 

 ……まあ、確かに神への捧げものとして生贄を捧げられた事があるのはアストレアも認めている。

 だが、それは神が下界に降臨する前の遥か昔の出来事だ。下界の子供達と直に触れ合える距離で過ごせるようになってから、こんな物捧げられても困るのだ。

 

 

「うんうん、良い兆候よリオン!私達は家族なんだから、屈託なく意見をぶつけ合って分かり合っていかなきゃ!」

「アリーゼ……」

「そうよ、私は諦めないわ!ホームの中に骸骨のトロフィーが増えたとしても!町の皆が私達を見た途端にちょっとビクってなったとしても!私のこの赤い髪が、毎朝毎晩、人間やモンスターの生き血、のシャワーを……グスッ、あ、浴びてるから染まってるって噂されていても!!わ、私……私は諦めないわ!!」

「「「団長……」」」

 

 

 多感な年頃の娘の柔らかい部分を抉る出来事に晒されながらも、半泣きで皆を鼓舞するアリーゼ・ローウェルの姿は、たとえレベルで劣っていたとしても団長に相応しいものだった。

 

 というか、ゾモスなんかを団長にしたらアストレア・ファミリアが誤解されるというのが全員の共通見解であった。

 

 それでも、ゾモスのレベルからして止められる者が誰もいないというのが現状であり、ゾモスがこうなった原因が自分達にあるという罪の意識が、積極的に止められないという結果に繋がっているのが悲しい所だ。

 

 

「ねえ、ゾモス……アストレア・ファミリアがどういう場所か、貴方はちゃんと分かってる……?」

「当然でありましょう。困っている人間に魔の手を差し向けるのが我らが本懐!」

「せめて救いの手を伸ばすって言って欲しいわ……」

 

 

 こんなのでも悪行には決して手を出してはいない。基本的に性根が善良なくせに、言葉選びが最悪の一言に尽きるのだ。たとえ神が人間の嘘を見抜けるとしても、意思疎通は困難を極める。

 

 頭を抱える正義の眷属達だが、闇派閥は彼女達の苦悩など知ったこっちゃないとばかりに襲ってくる。同じく都市を守るガネーシャ・ファミリアからの救援要請が星屑の庭へと届いた。

 

 

「まったく、身内の問題だけでも頭痛がするというのに、飽きもせずにやって来るものだ……」

「愚痴を言っている場合か、輝夜!」

「戻ってきたばかりだが、もうひと働きすっか。いけるな、ゾモス?」

「グファファファ……答えねばならんか?」

「はっ、お前がいいえなんて答えるワケねえか」

 

 

 アストレア・ファミリアの少女達が円陣を作り、片手を中心に集めた。

 

 

「使命を果たせ!天秤を正せ!いつか星となるその日まで!」

 

 

 気合いを入れてアリーゼが叫ぶ。士気を上げ、誰も欠けずに戻ると誓う。

 

 

「天空を駆けるがごとく、この大地に星の足跡を綴る!」

 

 

 重ねられた手の上から、ひと際大きな手の平が乗せられる。自分達とは違う、立派な男の手に少女達は心の奥底で安心感を抱いていた。

 どんなに手を焼かされているとしても、荒事となれば彼以上に頼りになる存在などいないのだから。

 

 

「我が正義の眷属の同胞よ!正義の剣と翼に誓え!!生きとし生ける者全てを!この世のありとあらゆる物を我らが主神へと捧げようぞ!!」

 

「ア、アストレア・ファミリア、出撃よ!!」

「「「「お、おー!!」」」」

 

 

 それは世界征服と言うんじゃなかろうか。ゾモスに疑問をぶつける者はいなかった。

 

 ゾモスが生み出した暗黒空間の扉を潜り、ガネーシャ・ファミリアの援護に駆け付けたアストレア・ファミリア。

 守るべき市民。共に戦う冒険者。悪逆非道の闇派閥。その全てが自分達を見た途端に凍り付く。一部の者が、ひっ、と怯えた声をだして後退り、いたいけな少女達の心にダメージを与えた。

 

 

「グファファファ……燃やせども捻り潰せども次から次へと湧いて出る邪教徒どもめ、一人残さず我が主神への贄にしてくれるわ……!」

 

 

 女子供を矢面に立たせまいと前へ出るゾモス。残念ながら、その男気を理解できる者はこの場にはいなかった。

 

 

「横暴なる闇派閥共よ、覚悟せい!我等アストレア・ファミリアが――

 

 

 貴様らが二度とこの世に現れぬよう、そのはらわたを食らってやるわ!!」

「「「「止めろ!?!?」」」」

 

 

 かくして、闇派閥は無事討伐され、その臓腑はアストレアに献上された。平和は戻り、誤解は深まり、少女達は人知れず泣いた。

 

 オラリオの平和は守られるであろう。女神アストレアの名の元に。

 

 

 

 




・冒険者ゾモス

 元ネタは『ドラゴンクエスト』からバラモスとゾーマ。監禁のストレスで幻聴が聞こえるようになり、それを神様からの声だと錯覚する事で生きる気力を生み出していた。
 助け出されてから眷属になり僅か3年でレベル7へと至った、暗黒期において名実ともに最強の冒険者。初めは伸び悩んでいたが、一度タガが外れてからは数ヶ月に一度の割合でレベルを上げている。二つ名は【地獄の正義(ヘル・ジャスティス)】。神会で神々に面白がって付けられたが、だんだん笑えなくなってきている。

 魔法のスロットは二つ発現しており、攻撃と回復の二種を四段階に分けて使う無詠唱魔法。攻撃はメラ(下級呪文)メラミ(中級呪文)メラゾーマ(上級呪文)メラガイアー(最上級呪文)。回復はホイミ(単体回復呪文)ベホマ(単体全回復呪文)ベホマズン(全体全回復呪文)ザオリク(蘇生呪文)。ザオリクは主神から使用禁止の命令が出されている。
 魔法職のくせに普通に近接戦もこなすヤベー奴。しかも臓物を抉り取ったり、脊椎をひっこ抜いたりと野蛮極まりない戦い方なので、敵味方双方から恐れられている。

 傲慢で傍若無人、しかし善良というおかしな性格。守るべき市民に手を上げた事は一度も無く、異教徒(他のファミリアの冒険者)であっても躊躇なく助ける。ただひたすら口が悪い。英雄記の敵側に憧れたせいで言葉選びがおかしくなっており、誤解を招く言動が多い。

 ―例―

 リュー:ミドリムシ
 アストレア・ファミリアの団員:吹けば消える塵芥
 市民:弱者。愚民。
 ギルド長ロイマン:民衆の家畜
 アーディ:愛想が取り柄の甘ちゃん


 等々、挙げればキリがない。それでもレベル7なので頼りにはされている。一応。


・女神アストレア

 オラリオの平和を守る正義の女神。ゾモスが正義に目覚めて強くなっていっているのは素直に嬉しいが、言動に問題があるので悩みが絶えない。
 ゾモスはアストレアが世界に平和をもたらすと語っているが、決して神頼みにはせずに常に自分から動いているのに気付いているので、自分の正義を貫いているゾモスは自由にさせている。あまり自由にさせたくはないが。
 レベル7を保有しているので、ロキやフレイヤといった最大派閥に探りを入れられたりしているが、正直構っていられない。いつも微笑で受け流すので、逆に不気味に思われてたり。
 一部の者から新鮮な心臓が大好物だと思われている。泣きそうになった。


・アリーゼ・ローウェル

 アストレア・ファミリアの団長。ゾモスが団長になったら取り返しがつかなくなりそうなので日々精進しているが、やはり早々にレベルは上がらない。
 一部の者から毎朝毎晩、生き血のシャワーを浴びていると思われている。泣いた。


・ゴジョウノ・輝夜

 アストレア・ファミリアの副団長。ゾモスに手を焼かされてはいるものの、かけられた迷惑以上に手柄を上げているので強くは言えない模様。
 一部の者から悪さをすると夜中に攫われてバラバラに解体されるという民間伝承の怪物みたいに思われている。泣いた。


・リュー・リオン

 アストレア・ファミリアの中でも潔癖であり、エルフという種族柄ゆえにゾモスに対しての態度が一番厳しかった。なのでゾモスに対して罪悪感を溜めこんでいたものの、豹変してからのミドリムシ呼ばわりで一気に爆発した。過去のやらかしでミドリムシと呼ばれるのも仕方ないかもしれない。でもできれば止めて欲しい。そんな複雑な心境。
 一部の者から若い人間の血肉を食って、その美貌を維持している大妖怪だと思われている。泣いた。


・ライラ

 アストレア・ファミリアの苦労人。ゾモスの変化に感づいていながら放置した事を後悔しており、罪滅ぼしからかゾモスについて行く事が多い。
 一部の者からパルゥムの体を乗っ取った寄生生物だと思われている。慣れた。


・ノイン・ユニック、ネーゼ・ランケット、アスタ・ノックス、リャーナ・リーツ、セルティ・スロア、イスカ・ブラ、マリュー・レアージュ

 アストレア・ファミリアの団員達。心理的に仕方ない状況とは言え、ゾモスと碌に交流を取ろうともせずに腫物みたいに扱っていた過去をそれぞれ悔やんでいる。でも、お願いだからもう少し大人しく活動して欲しい。
 一部の者から大仕事を終わらせた後は、獲物を肴に女だけで夜通し血肉に塗れた狂った宴を開くと思われている。泣いた。

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