知りたいけど知りたくない。
言いたいけど言えない。
どうにもならない気持ちだけが、胸の狭間に火を点ける。
心はどうにも、儘ならない。

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新作エピソードがないので、とりあえずは狭間のお話を。


アオのハコ#97.5 悩める冬の宵

 なにも聞けない、なにも言えない。

 壁を作るような事はしないけど、積極的に近付こうともしない。臆病で卑怯な俺は、今夜もまた後悔の溜め息を吐く。

 身体の芯はまだ焼けるような熱を湛えたまま、あの時の余韻を残し続けている。

 千夏先輩が何を考えてあんな事をしたのか、俺には分からない。分かるはずがない。

 夢佳さんと仲直りして感極まったとか、試合が不安で誰かに寄り掛かりたかったとか。どんなに想像したって、千夏先輩の心中はきっと本人にしか分からない。俺である必然性があったどうかさえ、俺には分からない。

 でもまさか、……まさか。頭に芽生えた都合の良い話を思考の沼に押し沈め、再び溜め息を一つ。

 そんな事、あるわけがない。千夏先輩が俺を――好き、だなんて。そんなのは絶対に、……多分きっと……恐らくは無い。哀しい事に、それは確かなんだ。

 千夏先輩との距離は近いと思う、でも()()()()()()を抱いてくれる訳がない。

 そもそも、そんな事を考えている暇もないだろうし。と言うか俺だって頑張らないといけない、よそ見なんかしてたらそれこそ千夏先輩に愛想を尽かされてしまう。同士と言ってくれたあの人を裏切りたくない、裏切れない。

 そう思うからこそ考えちゃいけないのに、気になって仕方ない。

 あのハグの意味が知りたい、でも言えない。

 

 

 クリスマスも終わり、明日二十六日はウインターカップ三回戦。千夏先輩の様子はいつも通りに見えたけど、今は部屋で一人静かに心を燃やしている事だろう。その邪魔をしてはいけない、と言い訳をしているのが今の俺だ。

 ああ、情けない。さっき言われたじゃないか、何言い訳してんのと。

『好きは最強の感情なんだよ』

 夢佳さんの言葉が、確かにそうだからこそ痛い。千夏先輩はバスケが好きという気持ちだけで、家族と離れて日本に残った。俺は千夏先輩が好きだから、少しでも追い付きたくて遮二無二駆け抜けてきた。

 俺の心臓を動かす原動力は千夏先輩への「好き」で、それなのに俺は気持ちにブレーキをかけてしまう。夢佳さんの言う通り、言い訳ばかりして。……そう言えば俺も言ったんだよな、何を言い訳してるんですかって。思いっきり殴られたけど。千夏先輩にもぶたれた事無かったのに。

 好きだから、好きだけど。同じ感情が何故か正反対の形になって、俺を悩ませる。

 人を好きになるのは嬉しくて楽しくて、少しだけ苦しい。千夏先輩の気持ちが分からないのが辛い、でも一方で知りたくないとも思ってしまう。()()()()()()()、……と考えてしまうから。栄明のエースオブエースと栄明のジャガイモ、天秤にかけたら俺の乗ってる皿は跳ね上がるだろう。

 でも俺はいつまでこうしている気なんだ、本当に。あと一週間もしない内に今年が終わる、千夏先輩は長野のおじいさんの所へ行ってしまうから、明後日から何日かは会えなくなる。一緒にいられる時間は有限で、足踏みしている暇なんか無い筈なのに。

 あの人がいつまで猪股家にいてくれるか、そんなのは分からない。このまま卒業までいるのか、それともバスケを引退したらもう家族の所へ行ってしまうのか。確かなのは、どんなに長くても再来年の春までだという事。長く見積もったってたったの二年、二十四ヶ月しかない。その三分の一が終わってしまうのに、俺は何も出来ないままだ。

 伝えたい、でも怖い。千夏先輩の負担になることが、傷付けてしまうのが。そして自分自身が傷付くのが、怖くて仕方ない。

 そう思えば思うほど、雛の「強さ」を思い知らされる。傷付くことをいとわず、不器用でも真っ正面から思いの丈を突き付けてきたその眩しい眼差しは、きっとこの先も忘れられないだろう。

 だからこそ俺は、このままじゃいけないのに。

 千夏先輩が好きだから雛とは付き合えない、とその気持ちを受け入れなかった俺が、こうやってウジウジしていて良い筈がない。雛を傷付けてそれでも進む道を選んだんじゃないか、俺は。

 あの涙に報いるためにも、俺は立ち止まってはいけないんだ。

 

 て言うか――今の俺ってもしかしたら、凄い無愛想にしてる感じになってるんじゃなかろうか。

 ふと思い出してみると、昨日あの後は恥ずかしくて顔もマトモに見れていない。今朝は爆睡してて豪快に寝坊したから見送りひとつしてないし、試合を終えて帰ってきてからも話した記憶がない。そもそも母さん達がいる前で先輩と話すのは、ちょっとだけ照れ臭いし。

 これは、これは――不味くないか。ハグされてそこから何も言わないまま、って俺どんだけだよ。嫌がってたみたいに思われてたらどうしよう、そうなったら絶対千夏先輩に不愉快な思いさせちゃうじゃないか。

 うあー……しくじった、なんで俺はこうも考えた末に最悪の結果を引くんだ。バカだからか、バカだからだ。無い頭使って考えるから、こんな事になるんだ。

 いっそ今からでも謝ろうか、いや別に怒らせたって決まった訳じゃないし突然謝るってのもおかしいのかな。どうしよう、どうしよう。

 夜はどんどん更けていくのに、気はちっとも休まらない。

 ああもう、俺ってどうしてこうもバカなんだろう。

 とにかく明日だ、明日こそはちゃんと言おう。

 進むんだ、一歩でも良いから。

 

 


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