実は僕……すごく耳がいいんです〜乙女ゲームで感情のない人形と嫌われていた悪役令嬢、実は重度のあがり症だった〜【改訂版】   作:花河相

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最終話

移動後、休憩所として用意された一室に僕はアレイシアは二人きりでいた。

 

 どうしても二人きりで話したい内容があるため、リタさんには席を外してもらった。

 

 数日前の約束を果たしたいと思ったから。

 休憩室にはソファが目に入る。

 

「……とりあえず座ろうか」

「……はい」

 

 とりあえず座るように促す。

 全てが終わり、緊張が解けたのか。

 思いもよらない先ほどのことがあったから気まずくなってしまったか。

 

 理由は後者だろう。

 

「いやぁ、あっけない終わり方だったね」

「……ええ」

 

 何か話さなければと一心で話を振ったもののお互い気恥ずかしい。

 会話が終わってしまう。

 

『ドクドクドクドク』

 

 アレイシアも相当緊張している。

 まぁ、リタさんと別れた後に二人で話したいことがあると言ったらそりゃ察するか。

 

「……この前の約束、覚えてる?」

 

 アレイシアの肩が僅かに上がった。やはり察していたようだ。

 

 ……緊張する。

 全てを話すと言ったが、どのような反応をされるかが怖い。

 軽蔑されるかもしれない。引かれるかもしれない。

 

 彼女を傷つけてしまうかもしれない。

 

 だが、全てを話すとした約束した。彼女に対しては誠実でありたいと思っていた。どうしよう。やっぱり話すのはよそうかーー。

 

「アレイシア?」

 

 僕の右手をアレイシアが両手を包むように握る。

 その手は僅かに震えており、耳で鼓動がなくとも緊張していることがひしひしと伝わってくる。

 ふと、視線を向けるとアレイシアの表情はこわばっている。

 

「わたくしはその……全てを受け入れる準備はできております。だからその……貴方のお心のままに」

 

 彼女なりの励ましなのだろう。どこか変な意味に捉えられなくもない文言、必死に紡いでくれたその言葉で僕は胸が少し軽くなる。

 

「僕には……前世というものがあるんだよ」

 

 

 

 

 一度言葉を口に出してしまったら止まることはなかった。

 そのまま前世や乙女ゲームのこと。

 アレイシアの立ち位置やアリスも同じ前世持ちであること。

 

 それらを全て話していた。

 アレイシアは特に反応することなく黙って聞いていた。

 僕から視線を離すことはなく真剣に。

 

「ーーてのが僕が隠していたことなんだ……よ?」

 

 前世のことを話し終えた。

 今だに僕を射抜くような視線を向けるアレイシア顔を覗き込んで確認をする。

 

 さて……彼女はどんな反応をするのだろうか。

 引かれてしまったか、失望されたか。

 

「……はぁぁ」

 

 彼女は僕から視線を外し大きなため息をした。

 

「……合点がいきました」

「え?」

「アリスさんの件、フローラさんの件、シンファ様の件。……全てが出来過ぎていると思っておりましたから」

 

 ……アレイシアは納得ができたらしい。

 全てを受け入れてもらえたようだ。

 よかったよかった。アレイシアの表情は強張りがなくなり鼓動も落ち着いた。

 

「……アレン様、お話ししていただきありがとうございます。本当に驚きました。特にわたくしが、ゲームの悪役だなんて……本当に信じられる内容ではありませんね。アレン様じゃなければ信じていなかったかもしれません」  

「……」

「アレン様?」

 

 僕は目を見開いてしまっていた。そう心配そうに首を傾げるアレイシアは今までで一番美しいと思う。

 目元の力が緩み、顎から口角が上がる。

 リラックスしているようで、自然な笑みだった。

 

「……アレイシアって笑うとそんなに綺麗なんだね」

「……え?」

 

 思わず呟いてしまった僕の言葉にアレイシアは自身の両手で頬を触る。

 自分自身も混乱しているようで戸惑っている

 

「……アレイシアの笑顔初めて見たよ。また、惚れ直しそう」

「……いや…それは……その」

 

 本当に可愛い。だが、僕の余計な一言ですぐに表情筋を引き締めいつも通りの顔に。

 あ、余計なこと言ってしまったよ。 

 

 アレイシアの視線は僕に視線を向けたまま、何かを思い出したかのように眉が少し上がる。

 

「……そういえば、アレン様の秘密ってレイル様にはお話ししていたんですよね」

「え?……まぁ、そうだけど」

 

 どうしたのだろう。

 怒ってはないみたいだけど、様子がいつもと少し違う。

 

「レイル様にはお話ししてわたくしには話してくださらなかったのですね」

「……え」

 

 ……アレイシアは視線を僅かに逸らす。

 これはヤキモチというやつだろうか。

 に、にやけてしまう。

 

「それには色々と事情がね。話さないといけない状態を作られたというか。話さざるをえなかったんだよ」

「また、減らず口を……では、わたくしに隠し事をしようとしていたのですね」

 

 め……面倒くさい。

 なんかアレイシアが面倒なヒロインみたいな言動してるよ。

 でも、前までのアレイシアならこんなことありえなかった。……嬉しいけど、対応が面倒くさい。なんか複雑な気持ちなんだけど。

 

 ……ここは誤魔化すことはせず本音で話そう。

 

「関係が変わってしまいそうで……それが怖かったんだと思う」

「……え?」

 

 アレイシアは僕の反応が予想外だったのか静かに声を漏らした。

 僕は言葉を続ける。

 なかなか決心がつかなかった。

 話さなかった根本的な要因はこれだ。

 

「前世のことは伝えるべきじゃないって」

 

 だから、僕は伝えることを拒んだ。だがそれと同時に。

 

「時が経つにつれて君に後ろめたさを感じるようになった。罪悪感を覚えるようになった」

「……だから、お話くださったと……」

 

 アレイシアは静かに聞いてくる。

 それもあるけど、一番の理由は。

 

「……君を愛しているから」

「……ふぇ?」

 

 アレイシアは少々間抜けで可愛らしい声をだす。

 少し彼女はフリーズするもすぐに我に戻り言葉を発しようとする。

 

「……ふざけーー」

「真面目だよ」

 

『ドッ…ドッ…ドッ」

 

 だが、僕は彼女の唇を人差し指で塞ぎ、言葉を遮る。  

 彼女の唇が僅かに震え、視線は僕の目を凝視する。

 顔が見ていて真っ赤に染まる。

 良い機会だ。このまま僕は本当の気持ちを伝えてしまおう。

 

「……婚約したのは成り行きだったのかもしれない。でも、過ごす中で君の本質や本音に触れて惹かれていったんだ。努力家で真面目で常に上を目指して努力し続けられる。不器用すぎる君を僕はどうしようもないくらい愛おしくなっていった」

「……アレン様」

「あはは、急にごめんね。いつか本当の気持ちを伝えたいと思っていたんだ。こんな機会になってしまったけどね。これが秘密を話さなかった理由かな」

 

 ゆっくりと人差し指を唇から話す。

 もう聞いてくれるだろうと安心し、ゆっくりと腰掛ける。

 

 それからアレイシアは黙ったままになる。

 ただ、俯くことなく真剣な視線を僕に向けていた。彼女が口を開いたのは感覚にして数十秒後だった。

 

『ドク…ドク…ドク』

 

 鼓動はやや早いものの先ほどの比べ落ち着いている。

 覚悟を決めたアレイシアは言葉をゆっくりと発した。

 

「……愛想笑いのできぬわたくしに同年代の人たちは怯えられました。誤解を生みやすいわたくしは学院に入るまで友人と言える存在がおりませんでした」

 

「ですが……そんな面倒なわたくしにアレン様が根気強く向き合ってくれた。……近くで支えてくださいました」 

 

 僕は相槌を打つ。

 

「今ではお父様とごゆっくりお茶をする機会が増えました。本音を話せるご友人ができました。……少しずつですが、自分に自信を持つことができるようになりました」

  

 

「わたくしはアレン様に出会え、人として長じることができたと実感しております」

 

 ゆっくり語られる内容に僕は胸が熱くなる。

 そんなことを思ってくれていたのか。

 

 ……やっと、本音で語り合うことができたと思う。

 

「そんなアレン様をわたくしも……わたくしも」

 

 最後の一言がなかなか言えない。

 顔がこれ以上ないくらい真っ赤になる。

 湯気がでそうだ。

 

「……愛しております」

 

アレイシアがゆっくりと絞り出した言葉に僕は硬直してしまった。

 ……婚約して初めて伝えてくれたその言葉に僕はこれ以上ない幸福感に満たされた。

 

 顔を真っ赤にしている彼女を抱きしめてしまいたい。

 欲に駆られてしまい……僕は。

 

 ゆっくりと抱擁をした。

 アレイシアは抵抗の仕草がなく僕の胸に顔を埋める。

 

 ……よかった。彼女も同じ気持ちだったのかもしれない。呼吸も落ち着き安心しているようだ。

 僕たちはそのまま抱き合った。

 

 

 

 

 

 

 

     

 

 

 

 だが、いつしかお互い恥ずかしくなり、すぐに距離を置く。

 ソファの端と端に僕たちはいた。

 

「も、申し訳ありません」

「ぼ、僕こそその……調子に乗ったというか……いやでも、嬉しかったんだよ」

「わ、わたくしもです。安心しますし、アレン様はとても良い匂いが……い、いや!今のは忘れてくださいまし!」

 

 お互いキョドリすぎだよ。

 ぎこちなさすぎる会話。

 でも、今のアレイシアは素で話している様子だった。

 ……リタさんと話している時はタメ口なんだよなぁ。

 

 

 ……この時の僕は少しだけ雰囲気に飲まれていたのかもしれない。

 アレイシアが愛していると言ってくれた。僕も素直な気持ちを伝えた。

 あついハグをした。

 

 だから、気分が高揚し浮かれてしまっていた。

 

「……ねぇ、アレイシア。無理にとは言わないんだけど……よかったら敬語なしで気軽に話してほしいな……なんて」

「……はい?」

 

 アレイシアは疑問符をあげる。

 雰囲気が少し変わりつつある中、僕はやっとおかしなタイミングでお願いしていることに気がついた。

 

「……あ、いや。だってリタさんと話している時タメ口だったし、あんな可愛い反応示してたじゃん。……聞いていて楽しかったし、いつか僕ともそんな感じに話してほしいなと思ってたんだ」

 

 早口になってしまった。

 その咄嗟に出た発言にどんどん墓穴を掘っている時に気がついたのは言い切ったあとだった。

 

「あ……あの、アレン様。何故リタと話しているときについて知っているのですか?……それに……聞いていた……とは?」

「……あ」

 

 アレイシアの冷静な指摘。でも、戸惑いもあるのか視線が厳しい。

 ……やらかした。リタさんから聞いたって言っても多分否定されるだろうし、何より聞いていたと話してしまった。

 

「いやぁ……その」

「……説明願います」

 

 あ、うん。もう隠せないやつだねこれ。覚悟を決めよう。

 

「……昔からお茶会とかで僕と別れたあと、リタさんとよく話しているよね」

「……何故それを」

 

 アレイシアは首を傾げる。疑問符がどんどん増えている気がする。

 

「僕、馬車に乗ってるとき、アレイシアとリタさんの会話いつも聞こえていてね……」

「……場所からは距離があるはずです。聞こえるはずが」

 

 ……うん。混乱してるねアレイシア。

 僕も混乱してるよ。何やってんだろう。せっかく良い雰囲気だったのに。

 これ言わなきゃいけない雰囲気だよな。

 

「……僕って昔から壁越しとか遠くの人の会話が聞こえてたんだよね。鼓動とかも。だから、初めて会った時にアレイシアの鼓動が早すぎて驚いちゃったりしたんだよ」

「……そ…それは本当ですの?」

「うん」

 

 ……緊張しすぎで説明が長くなってしまった。でも、その説明でアレイシアはなんとなく察したらしい。

 

「……本当にリタとわたくしの会話を聞いて……」

 

 確認するように聞いてくる。アレイシアは頬がだんだんと赤みを帯びていく。

 そんな彼女に僕は。

 

「実は僕……すごく耳がいいんです」

 

 言葉が吃る。

 緊張ゆえか敬語になってしまった。胸が熱く、全身に熱が移るのを感じる。

 

 でも、この感覚が心地よかったりもする。胸につっかえていたものがスッとなくなるような、そんな感覚。

 

「……」

『ドクン…ドクン…ドクン』

 

 アレイシアは俯いていた。綺麗な前髪が目を覆っていて顔色がわからない。

 だが、聞こえた鼓動は初めて聞くほど落ち着いていた。

 

 アレイシア……まさかついに緊張しなくなったのか?……でもあれ?なんか頭が左右に揺れているし、反応がない。

 

 どうしたんだろうか。

 

「アレイシア?」

 

 様子がおかしい彼女の肩を恐る恐る揺すった。反応はなく、鼓動は落ち着いているまま。

 

「……ま、まじか」

 

 その原因はすぐにわかった。僕は呆れて全身の力が抜けてしまった。

 彼女は落ち着いていたのではなくーー。

 

「ふ……フリーズしてる」

 

 この感覚、久々な気がする。

 

 ……今日は色々と進展したのだが、タメ口で話すのはまだまだ先になりそうである。

 

 でも、近いうちに目標は達成できそうだ。

 

 

 

 

 

〜完結〜

 




最後まで読んでくださりありがとうございました。

この物語はこれで完結となります。
実は、最終章少しテンポ良く読めるように執筆させていたただきました。

物語の中で伏線回収ができてないことが少しだけ残っております。
これに関しては不定期ですが、後日談にて投稿したいと考えています。
気になる方は気長にお待ちいただけると幸いです。
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