「そうだ。間違いなく奴は王の血統。加えて言えば、神の血をその身に宿す
「化身…?」
「そうだな、精霊に程近いと言った方が最も伝わりやすいだろう。」
「お兄ちゃんは王様じゃなくて精霊だったの?」
「はははっ!正確には、王様で精霊であり……何より人である、だろうな。」
「……お兄ちゃん、寂しそうに言ってた。自分は全部を壊す事を願われて生まれたんだって。」
「……それも、間違いではないだろうな。今になってはわからんが、奴の父は死に際に、ラーマという少年に呪いを残した。だが、真意は謎のままだ。今までの話で、ラーヴァナがラーマを愛していないように思ったか?」
「それは……ううん、思わない。僕のお義母さんも、叔父さんも…そのラーヴァナみたいに笑うときがあったから…」
「お義母さん、なるほど、よほど心配らしい……ふははっ、そうか少年、お前は随分と愛されているな。」
「どういうこと…?」
「おっと……藪蛇か…ではまぁ、続きと行こうか。ラーマはシータを連れ市井の民に会いに行く。気軽に飛ぶその様を見て、民は笑顔で彼らを迎えた。」
「に、兄さま…つ、次に同じことをしたらこれじゃ済みませんからねっ…!!」
「す、すびません……」
街に繰り出すという約束の通り、シータを抱えて飛び出し着地。華麗にポーズをとって見せれば、歓声と共に、民が笑顔に包まれる。しかし、腕の中にいたシータはそうでなかったようで、荒い息を整えると同時に震える足に鞭を打ち、高ぶった感情に呼応する燃える張り手でラーマの顔面を乱れ打ち。
それは見事な角度で打ち込まれ、目にも止まらぬ早さであったと後に民は語った。
正座の形ですっかり腫れ上がった顔面で謝り倒すラーマに、民はまた笑いながら、二人の傍に集った。
「だっはははは!!ラーマ様!ヤンチャが過ぎますぞ!シータ様顔真っ青じゃないですか!!」
「あはははは!な~んであの穏やかな王とカウサリヤ様からラーマ様みたいなヤンチャな王子が生まれたんだろ?」
「この間会ったときはやっぱりあの人の子ねうふふ~って感じに笑ってたけど?」
「知らんのか?ラーヴァナ様もラーマ様の年のころはこれ以上にヤンチャだったものよ。逆に気性はラーヴァナ様の方が荒かったんじゃないかの?」
「ラーマ様はお祭り騒ぎこそするものの、血まみれの喧嘩も起こしませんしねぇ。正直カウサリヤ様はあの頃の陛下のどこに惚れたのやら…」
『え、
驚きながら老人の話に目をむいた若い衆は、そんなまさかという様に口々に驚いていた。
暫くして喧噪も収まり、市井の視察を開始。その2人の後ろに付き従うように、ワイワイと移動を開始する。
「おや、シータ様に…ラーマ、様…?なんでそんなにボコボコなんです!?」
「おう!俺がシータを担いで飛んだから怒られちまってよ!」
「……と、まぁ。反省の色なしで苦労しています。」
「あっはっはっは!!そりゃあそうでしょうとも!なんたってラーマ様の辞書には!」
『【不可能】と【反省】はない!!』
「おうお前らちょっとそこに並べぇ!!」
「兄さま。少し……いえ、だいぶ馬鹿にされてることを理解してください。」
他の国でこんなことをしようものなら不敬罪で処罰ものだが、この国では違う。
民も王も等しくただの人であり、それについてくるも来ないも自由。
しかし、国民のだれもがそんな王族を慕い、その辿る道をついて行く。この国は王族のカリスマでこの状態が成り立っている。
これ程歪で情けない王はいないと馬鹿にされることもあるにはあるが、尊大でなければ国を運営できぬような王は如何に武勇に秀で、政が上手くとも愚王とラーヴァナは言い切っている。
これはラーヴァナが王に就任した際の演説。伝説の玉音として語り継がれるそれに、民は魅せられた。この王について行きたいと、魂に刻まれたのだ。
そう民に慕われる王の背中を見て育ったラーマは父の期待通りに民を惹きつけ、次世代の王となる器を有して生まれた。その妹シータはラーマに足りぬ頭脳で持って国を支えていた。
「ラーマ様!次の出陣はいつになるのですか?」
「次は4日後!布陣に関してはシータが1から10まで組んでる!心配すんな!」
「はい、微力を尽くしましょう」
「それは何と!現状王と並ぶ実力者たるラーマ様と、この国随一の頭脳を持つシータ様がいれば、次の戦もきっと勝利を収めてくださる!」
「はっはっはっ!任せとけ!よぉし!お前ら、景気づけに踊るぞ!」
「ラーマ様今俺たち仕事中なんですけど!?」
「ま、お二人が来た時点で商売なんて誰もやってないけどね!」
「おら!みんな楽器はココだからな、終わったら返しに来いよ!!」
そうして、ラーマの一言で皆が踊り宴の準備を始める。
「全く、兄さま、彼らにもお仕事があってですね…」
「いいさ、シータ様!俺たちにも仕事は確かにあるけど、絶対にどこかでラーマ様の我慢が限界になるタイミングがあったさ!」
「そうですよ!締め付けるのではなく、ラーマ様は解放してあげないと!」
「それに、我らの士気も上がりますゆえ!」
気が付けばラーマの部隊を含めた次の戦争に出陣する戦士たちがその場でアップを始めていた。
呆れたような深いため息の後、仕方がないと首を振ったシータはジトッとした目でラーマを睨んだ。
「そ、そう怒んなよシータ!戦争前には必ずこうやって宴を開いてたろ?」
「全くいつの間に…はぁ、もうわかりました…それより、私の楽器はあるんでしょうね?」
「さっすがシータ様!そう来なくっちゃ!」
「現金な方たちですこと。兄さまの悪いところばかり似てしまって─────私のシタールをもちなさい!今日はそのわがままにノッてあげましょう!」
「さっすがぁ!」
そうして興がのったシータも楽器を手に祭りの前奏を奏でる。
「おっしゃあ!!お前ら!戦前の景気付け!わかってるなぁ!?」
『応ッ!!!』
「ほんじゃあぶち上げてけ!今宵は宴!踊れや踊れ騒げや踊れえぇぇぇ!!」
『アッハッハッハッハッ!!踊れぇぇぇッ!!』
ラーマの号令で国中の民がお祭り騒ぎ。それは王宮まで届き、その様子は王も眺めていた。
4日後
広大な戦場で両軍が睨み合い、今か今かと戦いの合図を待っていた。
「ラーマ様、みな配置につき申した。シータ様も配置に着いたと伝令が。」
「そうか…敵軍は?」
「約1000、我々と同じ規模かと…しかし、報告ではこちらは我々の倍…2000程の戦力との情報だったはずですが……」
「デーヴァラ、どう見る。」
「ふむ、配置としてはそれ程脅威とは見えませんな……しかし、この配置……気掛かりもありますが、そこはそれ。シータ様に任せましょうぞ。」
デーヴァラの言葉に僅かな違和感を覚えるも、ラーマはぶんぶんと頭を振った。
「うーん……ふむ…ええい!俺の頭じゃ考えてもわからん!」
なんだか大仰に頭良さそうな感じで顎に手を添えたラーマだが、2秒後には思考を放棄。らしい姿にラーヴァナ含めた兵士は一斉に声を上げる。
「でしょうな。」
『でしょうね!!』
「お前ら……帰ったら覚えとけ!!」
戦前というのに随分と和気あいあいとした空気が漂う。
今日この中から誰かが死ぬかもしれない。しかし、それでも彼らは笑って散る。
だが、誰もが死ぬ気など無い。
「あーあー…ったく、まぁ俺たちは笑ってるくらいがちょうどいい!バカルナ!ラジット!」
『はっ!!』
「作戦通り2部隊に分ける!その指揮は2人に!デーヴァラ!お前は後衛補佐!お前の裁量でいい、折を見て前線に出ろ!」
「承知いたしました。」
恭しく頭を下げたラーヴァナを満足気に見て、ラーマは腰に下げたウルミを馬上で振り回す。
「俺が目指すは大将首!それまで任せるぞ!」
『応ッ!!』
その全軍の返答に応えるように、ラーマは叫ぶ。
「よっしゃァァァァッ!!!上げるは勝鬨ただ一つ!!俺らに敗北の文字は!なぁぁぁいッ!!!サンハイッ!!」
『なぁァァァァいッッッ!!!』
その絶叫を突撃の合図として、ラーマは自身の愛馬に声を乗せる。
「頼むぞハヌマーン!!大将のとこまで俺を連れてってくれ!!」
ブルヒヒンッ!と応えるように嘶くハヌマーンは、全速力で駆ける。
『全軍突撃ッ!』
遂に始まった戦争。両軍がほぼ同時に飛び出し、弓や投石が飛び交う中、ラーマはただひたすらに直線の道を行く。
「進めハヌマーン!矢も敵も俺が全部吹っ飛ばす!安心して前だけ見てろ!!」
誰よりも早く飛び出したラーマに殺到する遠距離攻撃の嵐を、ウルミ一本で全てはじき返す。
「ラーマ様につづけ!」
「インダスの兵士は王子に任せた腰抜けなどと、二度と言わせてやるな!!」
それが、兵の士気をより上げていく。
激突した両軍。しかし、一気に士気の上がったインダス軍は、実力も上手だった。
「ぬぅん!!」
「がァっ!?」
「温い!連合国の力はその程度かァっ!!」
「やめ、待てっ─────あぁぁっ!!?」
「敵が怯んだぞ!!陣を展開!一気に囲み密集した場所を突く!」
完全に両軍の勢力で別れていた陣形から、一気に展開。連合国軍を囲む様に後衛が展開し、一気に敵の退路を断つ。
「か、囲まれた!!」
「全員一塊のまま陣形を組め!」
「いや!どこかに穴を開けて退避を!?」
「待て!陣形を崩すな!!」
ガタガタと崩れ始めた敵の士気は、囲まれた事で兵士にパニックを引き起こす。
「オラァッ!!雑魚は、どいてろぉぉ!!」
そこに追い討ちのように突撃するラーマが、敵国の兵士たちをウルミで薙ぎ払う。
そして、敵陣中央に陣取り自身を囲む敵と睨み合いながら、僅かな違和感を持つ。
(なんだ…コイツらの構えは…覇気も、自信も何もあったもんじゃねぇ…)
僅かに覚える違和感。その正体は敵兵の士気が、全くもって無いこと。
今も蹂躙されるがままの敵兵たちはなんなら素人に毛が生えた程度。
嫌な予感がラーマを支配する。
ある程度片付けた隙にハヌマーンを反転させ、真逆に突き進んで愛しい妹の元に駆ける。
「ラーマ様!?どちらに!!」
「ここはもうお前達だけで制圧できる!俺はシータの元に向かう!元々そういう話だったろう!?」
「しかし、だいぶ早いですよね!?」
「あぁ!嫌な予感がする!バカルナ!ラジット!悪いが後衛の半分は連れてくぞ!ここは任せる!!それと、そいつら殺すな!お前らも気づいてるかもしれねぇが───────」
「市民が混じっている…ですね!流石にここまで弱ければ分かります!」
「ならよし!任せた!」
「はっ!お任せ下さい!」
「ラーマ様の勘は馬鹿にできません故!お早くおひい様の元へ!」
「デーヴァラ!聞いてたな!半分とお前が着いてこい!!」
「ハハッ…!直ちに!」
ハヌマーンが速度を一気に上げて後衛の元まで辿り着き、即座に命令。後衛の半分を引き連れてシータの元に向かうラーマは、ただ彼女の身を案じていた。
『今回の作戦、兄様に負担が一極集中します。』
『へぇ?いいね、ばっちこいだ!』
『その意気です。まず、兵はふたつに分けます。1つは私と精鋭部隊率いる本隊が、兄様達の戦いの終わりを持って、敵拠点を襲撃。兄様は迎撃部隊、精鋭部隊の混合部隊を引き連れ、速やかに片付け、兄様と精鋭部隊を引き連れ、本隊に合流。このルートから兄様達が合流すれば、挟撃の形を作れます。』
『なるほどな…任せろ!!』
『この作戦の要は兄様の合流速度に掛かっています。どうか、気張ってくださいまし。』
直前に語られた作戦は、偵察部隊からの報告を元にして行っていた。
しかし、その情報にズレがあった時点で疑うべきだったのだ。
予定を定刻よりも半刻程早めて作戦通りのルートを辿ったラーマが目にしたのは、敗走寸前。中心に陣形を構えシータを守る、残り少ない自軍の部隊だった。
まさか…気がついたら半年経ってるとか思わなくない?ちょっとサボっててごめんなさい…