月に寄りそう笑顔の作法   作:Negative Photoshop

7 / 8
本編更新が2.5年ぶり? ありえないですね。
本当にすみませんでした。
リアルが忙しく、中々書けず。これもいそいで書いたので、誤字とか設定とかあったら教えてください、すぐ直します。
一応まだやめるつもりはないので、どうか長い目で見てくださるとありがたいです。


愛を拒み覇道をゆく天才の慟哭

 遊星を母から奪い、愚妹の世話役という名目で手元に置いてからは、奴の才能がどれ程のものなのかをより詳しく知るために、そしてその才能を伸ばすために一定の期間でデザインやファッションについての課題を課した。

 どこまでやれるかは知らないが、雌犬の子の片割れとの再会を報酬とし、愚妹も監視役につけている。少なくとも俺が嫌うような怠惰を晒すようなことにはならないだろう。

 

 

 

 そこからさらにまたしばらく時が過ぎた。

 俺の目に狂いはなく、奴はその才能をすさまじい勢いで伸ばしていった。

 デザインの描き方、構想の仕方、発想力。全てが並の才能では無かった。流行の捉え方も申し分ない。

 これなら幾らでも使い途もあるだろう。存外、いい拾い物をした。奴に感じるのはそれだけだ。

 それ以外に何も思うことは無い。

 例え俺と奴が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 全ては俺が大蔵家のすべてを手に入れるため、頂点に立つための踏み台でしかないのだから。

 

 

 

 さらに時が経った。

 あれから奴はただひたすらに課題をこなし、俺の指導にも根気よくついてきた。

 奴は文句どころか、反抗的な態度一つ見せずに従っていた。

 それどころか、ほとんどを楽しそうにこなすばかりか、笑顔さえ見られた。

 故に、一度だけ問うた。お前は俺が憎いのではないかと、妹と母と引き離したこの俺がと。

 

「いえ、憎んでなどいません」

 

「むしろ、あの屋敷でただ意味もなく日々を過ごしていた私を拾い上げてくれた衣遠兄様には感謝しかありません。それに、衣遠兄様は朝日を救う機会すら与えて頂けました」

 

「お母様のことも、残念に思いますし、今でも会いたいとは思います」

 

「でも、それで衣遠兄様に恨みを持つことはありません」

 

「それ以外の環境が、一部の人間が、私たちの運が」

 

「ただ、悪かったと思うのです」

 

 その言葉は、俺の心を踏み荒らしていった。

 何故俺を憎まないのか、お前も大蔵家を少しでも憎む気持ちはあるのか。

 ─────何故、そんな目で俺を見るのか。

 

 奴が俺に向けてくる全てが、無性に気に障った。

 

 

 

 双子が母の手によってあの雌犬から引き離されておよそ1年が経った。ボーノへと飛ばされた方は、ハウスクリーニングを中心として、反抗的な態度もなくよく働いていると報告が入っている。     

 アレは雌犬によく似ている。残しておけば、将来あの男へ何かしらの用途で使えるだろう。そのためにわざわざボーノへ俺の部下を派遣しているのだから。

 俺が手元に残した方は、やはり大蔵家に備わる才能を表し続けている。課題の一環として賞に応募させれば、最優秀賞を取ることもあった。

 これだけの力があれば、ますます芸術面で俺の力となるだろう。

 

 

 全てが上手くいっていた。仕事も、大蔵家での地位も、大蔵家に依存しない自らの力も。

 なのに、どうしても一つだけ思い通りにならない。

 

 

 仕事が一段落した時、俺はマンチェスターの別宅を訪れていた。

 あの男に会いに来たわけではない。俺が用があるのは、あの屋根裏部屋だった。

 ノックも声をかけることもせず、無遠慮にドアを勢いよく開け中に入る。

 

 そこにいたのは、この1年でさらに弱り、ついには重体となっていたあの雌犬だった。

 

「………」

 

 もはや俺が来てもほとんど反応を示すことも無く、ただ床に臥せている。

 別宅の部下に聞けば、医師に診せるのもほとんど許されず、最低限の治療しかなされていないらしい。

 聞くまでもなく、母の嫉妬による妨害だろう。

 

 俺は焦っていた。このままではあの男から奪う前に死んでしまうからだ。

 それなのにこの女は全く俺に靡くことは無かった。

 それは双子がいたときからも、そしてその双子から引き離されても。

 そしてついには自分の命が散るだろうという状況になっても。

 

 その焦りと同時に、俺の中には形容しがたい感情が生まれていた。

 それは羨望であり、嫉妬であり。

 嘲笑でもあり、憐憫にも感じられた。

 

 

 

 

 生まれたときから俺には他を圧倒する才能があった。

 両親からも期待され、将来は大蔵家の嫡男として当主になるために、幼い頃から厳しい教育を受けてきた。

 父は知らないが、母はおそらく、俺を大蔵家で自らの地位を確固たるものにするための道具としてしか見ていないのだろう。

 だがそれでも良かった。

 自らの誇りだった。

 自分の血統が。才能が。

 

 しかしそれは単なるまやかしでしかなかった。

 ある時から、血がつながっているはずの父との能力の差に徐々に疑問を抱き始めた。

 それだけではなく、母が結婚する前恋人がいたこと、そして自身が結婚とほぼ同時にできた子供だという事。

 多くの疑念が重なり、俺はついに両親と自身をDNA鑑定に出した。

 

 

 結果として、俺と父は血がつながっていなかった。

 

 

 これまでの自分すべてが否定されたようなものだった。

 俺には大蔵家の血は流れておらず、それはどう足掻いても当主にはなれないということを示していた。

 今までの努力は、苦悩は、俺の人生とは何だったのか。

 

 身が引き裂かれるような屈辱、血を吐くような思いだった。

 俺は俺の運命を呪い、そしてすべてを憎んだ。

 

 不義の子として俺を生んだ母を。

 俺に当主になるのだと期待をかけておきながら、結局何にも気づかずに俺の時間を奪った父を。

 こんな運命に俺を引きずり込んだ大蔵家を。

 

 だから復讐を誓った。

 大蔵家の血が流れていない、部外者の俺が当主になり、頂点となり、全てを見下ろしてやるのだと。

 それと同時に、大蔵家の当主になることが全てだった俺にとって、大蔵家の当主になることは自己の存在証明と同義だったのだから。

 そしてその憎悪は大蔵家だけではなく、あの男にも大きく向けられるものだった。

 だから俺はあの男からすべてを奪う側に回らなくてはならない。

 

 

 

 

 だというのに、あの女は自らの子供の事を案じ続け、俺の提案に靡くことは無かった。

 あの女を奪えなければ、その事実はあの男の支えとなり続けるのだろう。

 それが俺には耐えられない。

 

 早く、早く奪わなければならない。

 

 それでも女は俺を拒み、一人双子の事を想い続け、屋根裏部屋にとどまっていた。

 

 だが、現実は、俺が思っていたよりはるかに愚かで、滑稽だった。

 

 

 

 

 マンチェスターにも雪がちらつき始めた頃。

 とうとうあの女にも限界が近づいていた。

 医師からももう長くはないと告げられていた。

 

 それでもなお、あの女は俺に靡かず、双子の事だけを想い続ける。

 

 そしてそれを知った母は、女の最期を孤独のものとするべくあの男を日本へと呼び出し、男もそれに逆らえず、何も言わぬまま日本へと発ち、別宅にはあの女一人だけとなった。

 

 何もかもがおかしくてたまらなかった。

 愛していると言いながら、結局は本妻の言うことに逆らえず、愛しているはずの女を見捨てていったあの男が。

 俺の提案を吞んでいれば助かっただろうに、愛なんて言うふざけた、存在しないものにすがり続けるあの女が。

 

 そして俺は今、まさにあの女の前にいた。

 その愚かな最期を嗤ってやるために。

 もはやその命は風前の灯火なのだろう。息は絶え絶えであり、苦しそうにしていた。

 

「何と無様な死に方だろうな」

 

 女は答えない。ただ、こちらを見上げている。

 

「提案を呑み、俺の下に来ていれば、こんなことにはならなかっただろうに」

 

「自分の子供を想い続けた結果がこれだ。結局愛なんてくだらないものに縋り続けていたせいで、誰からも手を差し伸べられなかったのが、今のお前だ」

 

「お前の子らが、苦しむお前に何をしてやれたというのだ」

 

 女は何も答えない。

 

「だが、今からでも遅くない。まだ間に合うのだ」

 

「俺のものになれ、愚かなる雌犬よ。そうすればお前を救ってやろう。安心しろ、お前の子供たちも俺が飼ってやろう」

 

 俺はあの男からすべてを奪わなければならない。

 俺は俺をこんな運命に引きずり込んだ大蔵家に復讐しなければならない。

 俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()を否定するために、この女を──────。

 

「………ください」

 

「―――は?」

 

 

「どうかあの子たちを、きょうだいとして、家族として、愛してあげてください────」

 

 

「────────────────」

 

 

 それが、あの女の最期の言葉だった。

 

 契った男に見捨てられようと、俺に脅されようとも。

 結局は最期の最期まで、己より我が子たちを優先し。

 血のつながっていない、本当のきょうだいではない俺に、孤独になる奴らの家族でいてあげて欲しいと。

 憎いうちの一人であろうこの俺に。

 

 

「……ククク」

 

 たった今死んだ女を前にして、笑いがこみあげてくる。

 

「クハハ、クアァーッハハハハハハハハ!!!!!」

 

 これは何から来る笑いなのか、俺にもわからなかった。

 

 ただ、笑うしかなかった。

 

 女は俺のものにならないどころか、最期まで案じた我が子たちの事を、敵であるはずの俺に託したのだ。

 

 結局俺は奪おうとしていたあの女に何を思っていたのだろうか。

 

 あの女が持つ無償の愛情が羨ましかった?

 血のつながりに左右されない愛に嫉妬していた?

 俺と同じように大蔵家に振り回されていた運命に同情した?

 

「……下らん!!!!」

 

「そんなものは全て!!全て我が覇道には必要のないものだ!!!!!」

 

 声が震えているのが自分でもはっきりと分かった。

 

 今さらこの俺にそんな惰弱な感情はいらない。

 なのにどうしても、自分でもよくわからない感情が自分の中を駆け巡っていた。

 

 家族などと、愛などと。

 真に大蔵家の血を持たぬ俺には、関係のないものだと叫びたいような気分だった。

 

 

 気が付けば俺は、後の処理を部下に任せ、双子の片割れがいる東京に向かっていた。

 

 今自分が考えて居るものをすべて否定するために。

 

 奴は自らの母親の最期を聞いてどう思うのか。

 

 この俺を憎むに決まっている。

 罵声を浴びせるに決まっている。

 

 俺の前でどれだけ取り繕おうが、結局は血のつながっていない俺とは家族になることなどできない。

 

 全てはあの女の妄言だと、それを証明するために。




次回は遊星と衣遠のぶつかり合い、そして和解まで行きたいなと思っております。
そしたら朝日迎えに行って、ちょっとだけりそなも含めた4人の仲良しエピソード書いて、一気に本編行きたいなぁ………。

どうしようか悩んでるんですけど、遊星(オリ主)にヒロインは必要?(誰がとかはおいといて)

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