月に寄りそう笑顔の作法 作:Negative Photoshop
従兄妹理論とその周辺とその他①
view change of 大蔵駿我
「あ、駿我さん。おはようございます」
4月も半ば過ぎ、過ごしやすい気温の朝、いつも通り仕事に向かうために交差点を歩いていると、向こう側から一人で歩いてくるメリルさんに声をかけられた。片手をあげ軽く振り、彼女の方へ近づいていきながらこちらも挨拶を返す。
「おはよう。今日もご主人様の出迎えか。いつもより早いね?」
「はい。でもエッテ……じゃなかった。ブリュエット様が風邪をひいてしまったみたいで、昨日から登校も出来るかわからない程体調が悪いんです。ですから、少し早めに行って側についていてあげたくて」
相変わらず大蔵家の血が流れているとは思えない程、友達のことを思いやれる子だ。自分の周りには久しくなかったものを感じ、眩しく見えるような気もする。
「ここには俺と君しかいないんだ。そんなに気張らなくてもいいんだよ」
「はい、ありがとうございます。でも、やはり普段はご主人様ですから。いざという時間違えないよう、慣らしておかないとって」
見れば手でガッツポーズのようなものを作り、フンスと気合を入れている。
「しかしご主人様ね。メリルさんが使用人を続ける理由はなくなったじゃないか。……強いるつもりは当然ないが、そろそろ新しい大蔵家の生活に慣れたらどうだ。たしか優しいおじいちゃんから生活費は渡されただろう?あれだけあれば使用人なんて続ける必要もないだろうに」
確か75万ユーロだったか?日本円にしてざっと1億。全くあの爺の子煩悩……いや、孫煩悩とでもいうべきか。それには毎回毎回驚かされる。いくら遊星君のおかげで遥かにマシになったとはいえ、まだまだ根は変わっていないとでも言うべきか。
「おじいちゃんからもらったお金は、私には大きすぎたので修道院のマザーとユーセーの半々に預けました」
「……家族にもとはいえ、合計1億円を全額他人に預けたのか?」
「本当は必要な分だけ頂いて、残りは寄付しようと思ったんです。ユーセーも『自分がそうしたいならそれでいいんじゃないの?いかにもメリルらしいよ』って言ってくれましたし。でも、りそな様に止められました」
「そうだろうね。もしりそなさん一人で止められなかったら、俺にも手を貸してほしいと連絡があったと思うよ」
「ちなみに、なら半分はユーセーに預けるねって言ったら、ユーセー、凄い嫌そうな顔してました。」
それを聞いて思わず「ハハッ」と軽く笑いが漏れる。
「彼もあまりお金には執着が無いからね。その顔が目に浮かぶようだよ」
そこからは少し世間話が続いた。なんでも、もらったお小遣いで、朝日さんが話していた滋賀の近江茶と遊星君が美味しそうに飲んでいたバンホーテンココアを飲んでみたそうだ。でも近江茶は合わなかったらしい。まぁお茶に慣れていない彼女には厳しいだろう。俺は好きなんだが。
「そういえば、その朝日さんは?いつもは駅まで一緒だよね」
彼女たちとこの辺りで会うことも、毎日とは言わないがそう珍しいことではない。その時はたいてい二人で仲良く談笑しながら歩いているのをよく見る。あの光景……もっと正確に言えば、その時の朝日さんの笑顔には、いつも元気をもらっているのだが…。
「今朝は私が早く出たから別行動なんです。朝日さんと話したかったんですか?」
「いや、そういうわけでは無いんだ。ただほら、今日は遊星君とルナさんが来るだろう?」
「あ、そうですね!今のブリュエット様には申し訳ないんですが、私、今日の事をとても楽しみにしてたんです!」
「ハハ、俺もだよ」
今日は、何と言うべきか。わかりやすく言ってしまえば、親睦会のようなものが行われる日だ。参加者は朝日さんとりそなさんに衣遠、俺とアンソニーにメリルさん。そして今日日本から来る、遊星君とルナさんになる。
開かれる理由としては、簡潔に話すと、ここ最近まで俺と衣遠は大蔵家の当主争いをしていたんだが、それも遊星君の働きだったり、朝日さんとりそなさんの輝かしい実績によったりで大団円に終わった。
そしてようやく落ち着いてきたこの頃に、もっとこの世代の仲を深めたい、ということで遊星君と朝日さんとメリルさんが企画した、らしい。三人らしいと言えばそれまでだが、彼らとは10つ程離れた俺からすればとても微笑ましいものだ。改めて、彼らと良好な関係になれた幸福を噛み締める。
「それで、準備とかはメリルさん達三人がしてくれるらしいが、大人である俺が何も手伝わないというのも少しね。だからその旨を伝えたいと思ったんだが……」
「なるほど。でも気にしないでください」
そういうと、にっこりと微笑みながらメリルさんは握りしめた拳を自身の胸にトンと打ち付けた。……先ほどから気になっていたが、メリルさんのそのアニメやドラマらしい動きは誰から教えられたものなのだろうか。まぁ十中八九遊星君かアンソニーだろうが、もしアンソニーだったら少し問い詰めておいた方がいいかもな。アイツだったら他にも余計なことを教えていそうだ。
「ユーセーはなかなかこっちに来られなかったので、直接は無理でしたが……。それでも私と朝日さんが美味しい料理などをしっかり用意してますので、楽しみにしておいてください」
「そうか。なら期待して待ってるよ」
「はい!」
「それにしても、よく衣遠が参加する気になったな。あいつはこういうの、物凄く嫌ってそうだが」
「それはユーセーが説得してくれました。すごく大変だったって言ってました。それはもう」
「だろうな」
それからまた少し世間話をした後、メリルさんとは別れた。改めて意識を切り替えて仕事に向かっていると、りそなさんから電話がかかってきた。……珍しいな、あちらから連絡してくるなんて。当主争いの時以来じゃないか?一体何の用件だ。
「もしもし、上の従兄弟だ。ご機嫌はいかがですか、総裁殿」
「その呼び方やめてください……。ああツッコむ気力すら無い。どうも。お忙しいところすみません。ええと、何から話せばいいものか……ひっじょーに厄介な事態になっていまして、助けてくださいぃぃ……」
もう声の調子からしてろくでもない用件だっていうのが分かる。しかも俺に助けを求めてくるということは大蔵家絡みの事だろう。……もしそうならあまり関わりたくないな。
「大方、大蔵家関係の話か。……衣遠の身に何か不幸でもあったのか?それなら大歓迎だ。それとも衣遠の頭に不幸でもあったのかな。はは、それは生まれつきだ」
「あなたの弟が生まれつき不幸な頭をしていたせいで、ひっじょーな面倒に巻き込まれています」
……メリルさんに対しての心配をした矢先にこれか。電話越しであるのに思わず眉間を抑えてしまう。
「それは……すまない。心から謝罪する」
「主な被害者は私の姉です。あなたも無関係ではなくなりました。とにもかくにも、私と姉が住んでいる部屋まで来ていただけませんか」
「ただ事じゃあなさそうだ。しかも朝日さんの事ならなおさら。わかった、仕事は部下に預けてすぐに向かう」
りそなさんとの電話が終わると、逸る気持ちを抑え部下に仕事の指示の連絡をする。朝日さんが被害を被ったと言っていたが……。アンソニーは馬鹿だが人を傷つけるような奴ではない。深刻な事態になってなければいいのだがな。
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view change of 大蔵遊星
「――――というわけで、ようやくやってきたわけだ」
時はフィリア女学院が休みの日、俺は大蔵家(+α)の親睦会に参加するべく、今は朝日やりそなが暮らしているパリへ来ていた。
いやー、この時を迎えるまで、どれだけの苦労があったことか。無事本編を終わらせたと思えば、そのまま乙女理論とその周辺に突入。やれ大蔵家の問題やら、フィリア女学院パリ校でのいざこざやら、そして最後のパリのショーを無事乗り越え、見事大団円をつかみ取ったのである……!本当に長かった、本当に……!
「……おい、同行人を放っておいて何を勝手に感傷に浸っているんだ、君は」
俺がつかみ取ったハッピーエンドを涙を流しながら噛み締めていると、後ろから不機嫌そうな声がかかる。その声を発したのは、肌をほとんど服で隠した上に日傘までさして紫外線から身を守っている、美しい銀髪と紅い瞳をした儚げな美少女(性格は終わっている)―――――桜小路ルナだった。
「悪かったな、ルナ。ただ、何も心配することが無い状態で訪れるパリが、こんなにも美しく見えるのかと嚙み締めていたんだ……」
「君たちが今までおかれていた境遇を考えると口出ししにくいな……」
少し遅れて、いつものメイド服とは違う、教師風のスーツを着た桜小路ルナの付き人、山吹八千代も合流してきた。
「お嬢様、いくら遊星様もいるからと言えど、勝手に先に行かれては困ります……!」
ちなみに今日パリに来たのは俺だけでなく、朝日のお嫁さん候補(俺はどちらかと言えば旦那さん候補と言った方が正しいのではないかと思っている)の桜小路ルナ、そしてそのお付きの山吹八千代さんも、この親睦会に参加するために来ている。ルナは基本、日中は外には出れないのだが、奇跡的にこの親睦会の間は曇り空であり、参加と相成った。(八千代さんは兄貴が参加すると知ったときは凄い嫌そうだったが、ルナが行くというので渋々来た)
「八千代。君が私の事を心配してくれているのはわかるが、あまり過保護にされても困る。私だってもういい加減、伴侶もいる身なんだぞ」
「何言ってんだ。まだ付き合ってもないくせに」
「フン、あのぽっと出の駿我さんに比べれば、私ははるかに長い間朝日と絆を結んできたんだぞ。最早勝者は決まったも同然だ」
ルナは本気でそう思っているらしく、渾身のどや顔をこちらに向けてきた。まぁ、俺も原作通りおそらくなんやかんやで朝日はルナと結ばれるんだろうなと思っていたんだが……。
「即答されてない時点でお察しだよな」
「今何か言ったか?」
そのままギロリと睨まれる。おぉ怖い怖い。
なんとこの世界、乙女理論とその周辺が終了しているのにも関わらず、朝日とルナがくっついていない。思っていたより朝日は恋愛に関してはノーマルを貫いているのである。とはいえ、別にルナに対して恋愛感情が無いわけでは無いらしい。たたやはり同性であること、そして最近になって出てきた大蔵駿我に猛アタックされており、今までまともな男性経験がなかった朝日はこれが結構効いているらしく、中々答えを出せていないというわけだ。
「別に何も?」
「……大変に気分が悪い」
どんどん眉間にしわが寄っている。さっきよりも余計に不機嫌になった。藪蛇だったなこれは。
「お嬢様…。もう、私はお嬢様の子供は見れないのですね……。」
遠い目をしている八千代さんには声のかけようがない。原作と違ってこちらはもうどうしようもないのである。南無。
「それで?私たちはこれからどうするんだ?」
ルナは八千代さんの事をガン無視して尋ねてくる。確かこの後はそのまま会場の方に向かって大丈夫なはず。準備もほとんど終わっているらしいし、寄る店もない。
「一回会場のアパートに向かおう。この日のためにりそな達が使っているアパートの大家さんが部屋を貸してくれたらしい。どうせりそなやメリルたちは授業終わるまで来れないからな。駿我さんも仕事を終わらせてから来ると言っていたし。先に行って俺たちの準備を済ませておこう」
「うわ、大蔵君もいるんだよね……。余計な事喋らなければいいけど……」
珍しく八千代さんが愚痴っている。まぁ無理もないか。兄貴は八千代さんの学生時代の事を知る数少ない人だからな。前もいくつか漏らしていたが、この分だと八千代さんの恥ずかしい過去はまだまだありそうだ。
「あ、そうだ遊星。それなら私と八千代は服飾店をいくつか見てきてもいいか?」
「うん?構わないけど、何か見たい店でもあるのか?」
「あぁ。ほとんど外出できない身なのにわざわざパリまで来たんだ。せっかくだしな、ファッションの聖地とも呼ばれ、流行の中心地であるパリの服をこの目で見てみたい」
なるほどな。確かにルナは体が弱いから、パリで制作された服なんてほとんど雑誌だのなんだのでしか見たことが無いんだろう。別に時間はたくさんあるし、準備をとは言ったが、別にルナにやって欲しいこともない。八千代さんが付くなら大した問題は起こらないだろう。
「わかった。存分に見てくると良いさ。八千代さん、後でアパートの住所と時間送るんで、それまでに来てください。」
「わかりました」
八千代さんが言うが早いか、そのままルナは「ではまた後でな」とスタスタと通りを歩いていく。それを八千代さんは、こちらにお辞儀した後、また小言を言いながら追いかけていく。やっぱりもう一人くらいメイド付けても良かったんじゃないか?
「さて、俺はやることもないし、さっさとアパートに向かうとするかね」
とは言え懇親会は夕方からだ。早く言っても朝日くらいしかいない。まぁ最近忙しかったしあまり会話らしい会話もしていなかった。近況を聞くがてら、お茶にでも誘ってみるか……。なんか美味しい店とか知らないかな、朝日。
そんなことを考えながら歩きだした瞬間、ポケットのスマホが震えだす。画面を見てみれば、相手はりそなだった。何か追加で必要にでもなったのだろうか。
そう思いながら、俺は画面の応答パネルにタッチし、りそなの慌てた声から始まる話に耳を傾けるのだった。
この世界ではルナ様と駿我さんが朝日ちゃんを懸けて戦っております。朝日ちゃんはあわあわしています。可愛いですね。なお衣遠兄様はどちらに転んでも凄い嫌そうです。お労しや兄上。
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どうしようか悩んでるんですけど、遊星(オリ主)にヒロインは必要?(誰がとかはおいといて)
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ほしい
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いらない