ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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最終話になります。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。




エピローグ

 

 ザク、ザク、と雪を踏み締める音が聞こえる。首にはマフラー。厚手のダッフルコートに、手には手袋。もちろん靴は防水で、靴底には滑り止めも完備。はぁ、はぁ、と息を吐けば、息は白い湯気となって僕の頬を湿らす。

 

 雪が降っていた。あの戦いを経て僕が体験した、もう何度目かの冬。四季の戻った日本の、本格的な冬だ。

 

 雪景色の中を僕は一人で歩いていく。周りは真っ白で、冷たい空気が耳に痛い。

 

 それでも僕は歩みを止めない。急がないと、電車に乗り遅れちゃうからね。

 

 空を見上げれば、白い玉雪がひらひらと舞い降りてくる。この景色も、もう見慣れたものだった。

 

 突然、ヴー、ヴー、と携帯の振動音が耳に届く。コートのポケットをかき分けて取り出した携帯。発信者は、僕の母さんだ。

 

「はい。もしもし」

 

 気が付けば僕の目の前には、白く雪に彩られた駅の姿があった。

 

「うん。今、駅に着いた・・・・・・大丈夫だよ、一人で。心配いらないって。うん・・・うん、わかってる。着いたらまた電話するから」

 

 駅の改札を抜けてホームへ。屋根があるためか、流石にホームには雪は積もっていないみたいだ。僕は電話を切ると、ふぅーとため息を吐いた。

 

 母さん、心配しすぎだよ。そんなに僕って頼りなく見えるのかな?

 

 駅のホームで黄昏ていると、僕の視線に映る二人の人影。駅のフェンスの向こうに見知った二人がひょこっと顔を出していた。

 

「おーい!シンジぃ!」

 

「シンジ!」

 

「ケンスケ!トウジも!」

 

「見送りに来てやったで!」

 

 なんだよ、もう。

 

「見送りなんて、恥ずかしいから要らないって言ったじゃないか」

 

「お袋さんから頼まれてっからなー!」

 

「受験番号、ちゃんとメモったんか?緊張しすぎて腹壊すんやないで!」

 

 ・・・・・・これだから、母さんは。僕の友達まで抱き込んで、そんなに心配なのかな。

 

「しっかし、シンジも思いきったな。東京の高校受験するなんて」

 

「お袋さん、よう許してくれたな」

 

「うん。母さんは嫌がってたんだけど、今後の人生を考えたらって、アスカとキョウコさんが説得してくれて」

 

「お隣さんの惣流家の二人かいな。そりゃ、流石にお袋さんも折れんわけにはイカンっちゅーわけやな」

 

「それにあそこの学校、寮があるしね。毎日毎日、父さんと母さんのイチャイチャを見なくて済むし」

 

「あー、そりゃあ、死活問題やな」

 

「いや〜んな感じ」

 

 こんな軽い冗談を交わしつつ、僕たちは誰ともなく笑い合う。サードインパクトが終わった後でも、二人は大事な友達だ。

 

「まあ、頑張れっちゅーても、合格発表やさかい。頑張りようがないっちゅー感じやが」

 

「シンジなら大丈夫だろ。それより、合格発表ならネットでも見れるだろ?なんでわざわざ東京まで?」

 

「いや、合格してたらそのまま入学手続きができるし」

 

「んが!?コイツ、もう受かった気でおるやん!」

 

「全寮制かぁ〜・・・ああ!羨ましい!青春の香りがプンプンするぜ〜!」

 

「そんな大袈裟な事はないよ」

 

「せやけど惣流も綾波も受けてんのやろ?お邪魔虫のカヲルもおるんやし、なかなか波瀾万丈な学園生活になりそうやな」

 

『2番線、列車参りまーす』

 

 おっと、駅のアナウンスだ。もうすぐ電車が来るみたいだ。

 

「まぁ、俺たちも大学は東京を受験するつもりだからさ、一足先に行って待ってろ」

 

「うん。ありがとう。来てくれて嬉しかった」

 

「おう!頑張りやぁーーーッ!」

 

 電車が長いため息のようなブレーキ音と共にホームに着く。僕が急いで乗り込むと、プシューという退屈そうな気の抜ける音と共に扉が閉まった。

 

 そのまま、電車はゆっくりと走り始める。

 

 

 

 

 

 ジョルノ君が居なくなってから、僕たちの世界は一変した。

 

 サードインパクトを乗り越えた僕たちを待っていたのは、セカンドインパクトが起こる前の地球環境だった。日本は常夏の国から、四季を取り戻した国へと戻っていた。

 

 戦自の猛攻も、ネルフでの決戦も、まるで無かった事のように、全ては静かに終わりを迎えた。セカンドインパクトで上がった海面は元通りになり、海に沈んだ街も元通りに戻っていた。もっとも、海面の下にあった町の姿は、長年放置された町の残骸といった様子だったけれど。

 

 ネルフ本部はサードインパクトの影響でもうめちゃくちゃで、僕たちが目覚めてすぐにネルフ本部は破棄された。もう使徒の襲撃の心配もない。それはつまり、ネルフ本部ももう必要が無い、という事。不思議な事に、僕たちの乗っていたエヴァンゲリオンも、いつの間にか何処かへと消えていた。

 

 その代わりに戻ってきた人たちもいる。アスカのお母さんや、僕の母さん。父さんや、そのほかのネルフの人たちや戦自の人たちも無事だった。ネルフ決戦において、魂の存在を確認された人たちは、すべて肉体を取り戻して戻ってきていた。

 

 ネルフは即刻解体され、今や国連の一管理機関としての機能を残すのみ。僕の父さんと母さんは、今はそこで働いている。アスカのお母さんもそこに勤めているらしい。

 

 僕たちチルドレンは、無事に箱根の第三新東京市第壱中学校に通い続け、今年の春には卒業だ。トウジやケンスケ、委員長なんかは地元の高校に進むみたいだけど、僕はアスカの勧めもあって、東京の高校に受験することに決めた。

 

 綾波や、カヲル君も元気にしている。彼らも僕らと同じ高校を受験したようで、今日がその合格発表の日だ。

 

 僕らは今日、受験した明城学院の合格発表を四人全員で待ち合わせして見に行く事にしていた。全員が受かっている事を心から祈るばかりだけど、きっと大丈夫。僕らは新しい人生を歩んでいける。

 

 そう信じている。

 

 

 

 

 

『明城学院前──、明城学院前──閉まるドアにぃご注意ください』

 

「待って待って待って!!降ります!すいません!降りまーす!」

 

 受験に来た時も思ったけど、本場の東京の通勤ラッシュは凄い。人が一つの車両にギュウギュウに押し込められて、まるでお饅頭になってしまったんじゃないかと本気で錯覚しちゃう。

 

 そんな中で、僕の耳に届いたのは聞き慣れた女の子の声。

 

「痛い!痛い!痛い!降りるって言ってるでしょ!?通してよ!」

 

「アスカ!?」

 

 今や僕のお隣りさんになったアスカの声。合格発表の時は、先に東京に行ってるって聞いていたのにどうして?

 

 僕は群衆の間から伸ばされるアスカの手を引いて、電車の外に引っ張り出した。

 

「──ありがとう!助かったわ、バカシンジ」

 

「アスカ、なんで?」

 

「あ?・・・あぁ、あんたとおんなじタイミングで出向きたかったのよ。二人して合格発表見に行くの、ロマンティックじゃない?」

 

「そんな理由で!?」

 

「何よ!文句あるわけェ!?」

 

 文句はない。無いんだけど。

 

「その、アスカ。僕の手・・・・・・」

 

「うん?何よ。握ってたら悪いっつーの?」

 

「いや、悪くは無いけど」

 

「ならヨシ!あんたの全てはアタシのもんなんだから、文句なんて言う必要はなし!いいわね!?」

 

 とほほ。なんでこうなるんだろう。まぁ、僕もアスカのこういった行動は嫌いじゃないし、きっと僕はアスカに尻に敷かれ続けるんだろーなって思っちゃいるけど。

 

 もちろん、その感情に、嫌な気持ちは全くない。僕は、アスカの事が好きだ。もうそれは、どうしようもないくらいに好きだから。

 

「あん?何よバカシンジ。ニヤニヤしちゃって。アタシと手を繋いでいて、そんなに嬉しいの?」

 

「もちろん。すごく嬉しいよ、アスカ」

 

「〜〜〜んなッ!?」

 

 僕の素直な反応に、アスカの顔が赤く染まる。それを面白いと思いつつ、僕は手を繋いだまま、アスカを抱き寄せる。

 

「ありがとう。アスカ、愛してる」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 アスカの体から力が抜ける。それを倒れないように腰に手を回して、僕はアスカを支えた。

 

 ・・・・・・ああ、悪いんだなぁ、僕。こういう事をするから、ジョルノ君から「刺されないようにな」なんて言われるんだ。わかってはいるんだけど、これは本能なんだ。僕は僕に好意を寄せてくれる子に、悪い反応をできないんだ。それは例えば、アスカ以外だとサクラちゃんとか。

 

 ・・・・・・うん、確かに刺されるかもしれないな。僕も気を付けなくちゃ。

 

 そうやってアスカを支えながら(周囲からどーいった目で見られたかはわからないけど)明城学院前に着く。そこには、僕たちを待っていた綾波とカヲル君の姿があった。

 

「やぁ、シンジ君。元気そうだね。よかったよ」

 

「碇くん、フニャフニャのアスカを抱き抱えて、なんのつもり?」

 

「えッ!?いや、どういうつもりも無いけど」

 

「バカシンジ」

 

「アスカ!?」

 

「婚姻届がここにあるわ・・・・・・あとはあんたが印鑑押すだけ・・・」

 

「まだ18歳になってないよ!!?」

 

 僕たちは、笑いながら、明城学院の門をくぐる。僕の目はアスカから綾波へと映る。綾波のカバンには、ジョルノ君が渡してくれた、僕とお揃いのてんとう虫のブローチが。

 

「綾波も、忘れてないんだね」

 

「もちろん。ジョルノを呪い殺すまで、わたしはこれを付け続けるわ」

 

「あはは。それを付けていれば、またいつか、ジョルノ君がこの世界に来てくれる気がするよ」

 

「そうね。いつかわたし達は、またこの世界で出会う。そのための、これはお護り」

 

「綾波さんは、ぼくのイタリアンじゃ満足してくれなくてね。やっぱり、ジョジョにはいつか、この世界にまた来てくれないと困る」

 

「そう。ジョルノの料理は世界一。他の追随を許さないわ」

 

「・・・・・・でもさ、綾波」

 

 僕はアスカを抱えたまま、綾波に微笑みかける。

 

「今度は、ジョルノ君に、僕らの料理をプレゼントしに行こうよ」

 

「────。」

 

 その言葉に、綾波は一瞬言葉を失った後。

 

「そうね。それもいいかもしれない」

 

 そう、笑顔で返してくれた。

 

 そんな僕たちに、パッパーとクラクションの音が届けられた。全員して振り返ってみれば、それはミサトさんが用意してくれたバンのクラクションだった。

 

 今日の僕らの予定を聞いて、ミサトさんがわざわざ用意してくれたみたいだ。

 

「あんた達ぃ?全員そろった?さあ、乗った乗った!」

 

「ありがとう。ミサトさん。いつもお疲れ様です」

 

「何よぉ。私とみんなの仲じゃない。さぁ、全員揃っての合格発表。一気に行くわよ?」

 

 そう言って、ミサトさんはエンジンをブルンと響かせる。僕たちは慌てたように、ミサトさんの用意してくれたバンに飛び乗った。

 

 ──ねぇ。ジョルノ君。

 

 僕らは、幸せな毎日を過ごしている。こんな当たり前の毎日が愛おしくて堪らない。そんな毎日を過ごせている。

 

 ジョルノ君。君の世界がどんな世界なのか、僕にはわからない。もしかしたら、僕の想像もつかないくらい、過酷な世界なのかも。

 

 でも、それでも。

 

 僕たちと過ごした日々は、『無駄』ではなかったよね?

 

 僕はずっと、君を思い続けるよ。

 

 これまでも。これからも、ずっと。

 

 そして、いつか。

 

 君と『運命の先で』、再び出会える事を信じている。

 

 それくらいは、いいよね?

 

 ジョルノ君──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を、見ていた。

 

 

 

 どんな夢かは、うまく思い出せない。けれど、とても楽しく、辛く、しかし救いのある夢だったと心から思う。

 

 僕はゆっくりと目を開ける。その目に映るのは、小綺麗な個室。僕はその部屋に唯一設置された1人用のソファに座り、ゆったりと寛いでいた。そばにあるレコードからは、僕のお気に入りのピアノ曲「il vento d'oro」が静かに流れている。

 

「ジョルノ」

 

 僕の目の前、窓際の小テーブルに乗っかっていた亀が僕に声をかける。

 

「珍しいな。お前が居眠りをするなんて」

 

「・・・・・・ポルナレフさん」

 

 僕は亀の、いや、亀に取り憑いている人物の名前を呟いた。

 

「なんだ?」

 

 ポルナレフさんが、僕を怪訝そうに見遣る。その瞳を前に、僕は改めて『夢を見ていた』事を自覚する。

 

 そう。僕が見ていた長い夢。その夢の終わりを、どうやら僕は迎えられたようだ。それはとても、心地の良い夢で。

 

「夢を、見ていました」

 

「夢?」

 

 亀、いや、ポルナレフさんが僕に問いかける。

 

「こんな時に寝ぼけるとは・・・お前も年相応の子供らしさがあるんだな、ジョルノ」

 

 ポルナレフさんが、僕を揶揄う。僕はそんな揶揄いを、どこ吹く風で受け流した。

 

 僕はゆっくりと胸元に手を伸ばしてみる。僕の服には相変わらず、てんとう虫のブローチが二つ、左右の胸に取り付けられている。

 

 だが、僕の右手が『ソレ』に触れる。

 

 それは、僕の胸ポケットに収められた赤いポケットチーフ。僕の記憶には無いものだ。赤いそのポケットチーフは、僕の黒いスーツとはあまりに似合っていない。

 

 だけども、僕はそのチーフを胸に挿したままにしておいた。なんとなくだが、それはとても大事な物の気がしたからだ。僕の大切な仲間。この七日間の旅をやり遂げたブチャラティ達のような、かけがえのない仲間との絆。

 

 ──大丈夫。忘れていない。

 

 ──いつか、また会おう。碇シンジ君。

 

 僕はそのチーフを軽く撫でて、胸ポケットに収める。

 

 コンコン、と部屋の扉がノックされた。ポルナレフさんが「入れ」と言うと、ドアを潜り抜けて、僕の仲間であるミスタが部屋に入ってきた。

 

「いよぉージョルノ。お疲れのところ悪いんだけどよぉ、もう次で最後だ。『おねむ』だったら後日に来てもらうけどよぉー。どーする?」

 

「大丈夫です、ミスタ。通してください」

 

 僕の答えに、ミスタは一つ頷くと、部屋の外へと声をかけた。そのミスタはそのまま部屋の小窓に近付くと、両手でその窓をギギィと開ける。

 

 爽やかな風が、部屋に舞い込んでくる。その風は、まるで黄金のように輝いていて。

 

 その部屋に、黒服を着た男達が入ってくる。男たちは僕の目の前までゆっくりと近付くと、ザッと僕の前で跪いた。僕は右手をそっと彼らの代表に差し出す。

 

 男達の代表が、僕の手に口付けをする。そうして立ち上がった男達に、僕は静かな声でこう告げた。

 

 

 

 

 

「このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある」と。

 

 

 

 

 

終劇〜FINE〜

 

 





 ここまで読んで頂き、ありがとうございました。これにて、ミサト「あなたが碇シンジ君ね」ジョルノ「いえ、違います」は終劇となります。

 連載から一年と三ヶ月。長いようで短いような、夢のような時間を過ごさせていただきました。頂いた感想に励まされながら書き続け、みなさんの読んでいただいた時間は作者の糧とさせて頂きました。作者にとっては夢のような時間でした。感謝しても、しきれません。言葉にできないくらい、皆さんのお声は作者の励ましとなりました。

 この物語の始まりとなるきっかけを、作者は覚えていません。なんとなくジョルノってシンジ君と同い年くらいだなぁ、くらいにしか思っていませんでした。それが、皆様のご声援があり、また作者自身もジョルノにリアルを救われた経験が何度もあって、ここまでこぎつけることができたと思います。

 皆様にとって、この作品が一時でも人生の彩になれた事を誇りに思います。それだけの力が、ジョルノにはあり、またシンジ君も、それに応えて成長してくれたと思います。

 ほんとうに、本当に、ありがとうございました。これからはジョルノやシンジ君に恥じないような人生を送りつつ、またいくつかの作品を世に出せていければと思っています。作者自身、ジョルノやシンジ君との別れがこんなに寂しいとは思いませんでしたが、いつかまた、彼らの物語を思い返して、笑える日が来るんだろうなぁと感じている次第です。

 またいつか、皆様とお会いできる日を、心から楽しみにしております。

 それではみなさん、また会う日まで。

 アリーヴェ・デルチ!!
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