太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第百五話 「仇をただ殴りたいやなんて、可愛いもんやね」

 謎の吟遊詩人・カノーネさんを馬車に迎えてからというもの、旅路は一層騒がしくなった。

 

 カノーネさんが双子を撫でようとしたりするのはしょっちゅうで、日頃の会話でエメルがボロを出さないか心配になったり、野盗をひと睨みで追い返したり、とにかくあたしの気苦労が絶えない。

 

 そうこうしているうちに、王都出発から二日目の夜。

 順調なら明日には商都グランツァイトに着くだろう。

 

 夕食を食べた後、ニューとミュウくんはとっくに寝静まり、焚火の番はあたしとジークとヤーナでローテーション。

 エメルやリーネもさっきまで起きていたが、ウトウトしていたので寝かせた。

 

 そういうわけであたしは今、周囲を警戒しながら焚火の番をしている。

 いくらこの辺りの魔獣が弱いとはいえ、夜中に活発化すれば危険なのは変わりない。

 用心深くなるに越したことはないのだが、いつぞやの時と変わらずに不安を覚えるのがあたしだ。

 

 あまり染みついて欲しくないわね、こういうネガティブ感情って。

 今は戦力が増えてきてるから多少はマシになってきたかと思ったけど、心の鍛え方はまだまだ。

 精進しなくては。

 

「あんまり深刻な顔しとると老けるで、レヴィンはん」

 

 不意に、背後から声を掛けられる。

 特徴的な訛りだから、すぐにカノーネだと気付いた。

 振り返ってみると、いつも被っている特徴的なテンガロンハットを外して、ラフな恰好で佇んでいる吟遊詩人の姿が。

 

「まだ若いし、大きなお世話なんですけど」

「でも普通、心配にはなるやろ。リテラたんに聞いたんやけど、なんか悪い奴らを追っかけとるんやって?」

 

 アイツめ、いつの間にこの女にチクッたんだ。

 隠すほどでもない事情だからいいものの、チクッた内容がエメル関連だったら羽を引き千切るところだったわよ。

 

「まったくアイツときたら。どれだけあたしを祀り上げれば気が済むってのよ」

「そないなこと言わんと。悪気は無いんやから。……で、ホンマのトコどうなん?」

「どうなん、って。あんまり人の秘密に土足で踏み入らないでくれる?」

「そないなつもりで聞いたんやないけど、話したくなかったら、これ以上は聞かんよ。ウチかて個人情報にはなるべく配慮して詩作っとるわけやし」

 

 うーん、イマイチ信用出来ないのは何故だろう。

 カノーネさんの訛りをノイズに感じてないか、あたし?

 

「……本当に配慮してる?」

「しとるしとる。その上でお客さんを楽しませるのが、ウチの生きる理由やからな」

 

 薄っぺらい理由とは何故か思えない。

 このカノーネさんという女には、裏がある。

 あたしの勘がそう告げているかは知らないが、とにかく彼女の過去に何かあったのは間違いないのだろう。

 

「アンタにもあるんやろ? こうでもしなきゃ終われへんって、生きる理由」

「まあね。リテラから聞いたんなら、魔獣教団のことは知ってるでしょ?」

「ああ、そんな名前やったんやな、悪い奴の組織って」

「その中に、殴りたいヤツがいる」

 

 不思議と、喋ってしまった。

 知り合って間もない赤の他人なのに。

 他人の功績を詩にして売り込んでいるような人間に。

 

 隠すほどのものじゃないから、だろうか。

 この世界には魔獣やダリアのような魔人に家族を奪われた、なんて話はごまんとあるだろうし、珍しいことではない。

 あたしもその一部、というだけ。

 

「ムカつくのがおるってことなんか?」

「ムカつくっていうか、親の仇ね」

「親の……仇……」

 

 ふと、カノーネさんの様子が少しおかしくなったのを感じた。

 眉がピクリと動く程度だったが、何なのかは今はまだわからない。

 

「仇をただ殴りたいやなんて、可愛いもんやね」

「かわっ——!?」

 

 急に何よ、可愛いって!

 この世界に生まれて初めて家族以外に可愛いって言われたんだけど。

 なんというか、お姉さんパワーみたいなものを感じる。

 

「——いや、殺すよりは良いでしょ? 殺したら多分、あたしがスッキリしないし」

「せやけど……殺した方がええこともあると、ウチは思うで。仇がドブカスやったら、尚更な」

 

 悔しいが、カノーネさんの言っていることは一理ある。

 でも何故、そんなことを言うのだろう。

 

「復讐そのものを否定はせえへん。親殺されたら当然の衝動やしな。その上で親殺した奴と同類にはなりたくないってのは、立派やと思う」

「立派かどうかは怪しいわね……。あたしは普通の人生を謳歌したかったのに、どうしてこうなっちゃったんだろ」

 

 焚火の薪が少し弾ける音がする。

 少し間を置いて、膝を抱えるように座っているカノーネさんが口を開いた。

 

「普通の人生……とっくの昔に置いてきたはずの理想をまだ夢見とる人間ほど、立派なモンはおらんと思うけどな」

「カノーネさんも、普通に過ごしたかったクチなの?」

「まあ、せやな。オトンがおって、オカンがおって、弟とか妹が沢山おって。きっと昔は、家族と過ごす幸せな日々がずっと続けばええって思っとった」

 

 その口ぶりだと、多分その先は——。

 

「せやけどな、悪い奴っちゅうんは、そんなささやかな夢をブッ壊していく()()なんや」

 

 カノーネさんの声色が徐々に低くなる。

 

「災害に言葉は通じへんし、人の心もわからへん。それでもあんさんは……その仇を殴るだけで済ませられるんか?」

 

 なんて……なんてことを言うんだ、この人は。

 殺意を膨らませて、なんてことを。

 あたしの心が揺らいでしまう。

 

 確かに奴らは魔人。

 人の形をしたナニカではあるのかもしれない。

 

 でも()()()()()()という、元地球人としての良心が、足を引っ張っている。

 魔人は災害。

 そうでも思わなきゃ、あたしは父の仇を討てないのか?

 

「……わかんないわね。いざ仇を討つって時にならないと、殴るだけのラインを超えられるかどうかは、流石に……」

「まあ、せやろな」

 

 カノーネさんの声のトーンが元に戻った。

 温度差が激しすぎてビックリするじゃないの。

 

「変な質問してもうて、スマンな。あんさんがウチが思うてる人間かどうか、試してたんや」

「で、あたしをどんな人間だと思ってるの?」

「ラグナ族にしてはぎょうさん悩みを抱えとる人間ってトコやな」

 

 あんまり的を射て欲しくなかったなあ、その印象。

 

「ウチの知ってるラグナ族の代表格が傭兵のレオンはんやから、そないな印象を受けるんかもしれへん。風の噂で聞く限りやと、考えなしに突撃することが多かったみたいやからな」

 

 あ、そうか。

 あちこち旅してるのが吟遊詩人だから、旅先で父の噂話を聞いてても不思議じゃないんだ。

 ふと、王都を発つ前にニコラウス騎士団長が父から言われたことを思い出す。

 

「考えなしじゃ、なかったと思う」

「何でわかるんや?」

「そのレオンって人が言ってたらしいのよ。『答えは、一歩踏み出した先にしかない』って。思い悩んで立ち止まるよりは、一歩前へ踏み出してから考えればいい。きっと昔から、そう考えて生きてきたのよ」

 

 そうでしょ、パパ。

 

「ふふっ」

「なに笑ってんの」

「いや、おもろい解釈やと思うてな。まるで本人を誰よりも理解しとるみたいやったわ」

 

 そりゃあこの世界の父親ですからね。

 

「ちょい待って。確かレヴィンはんの苗字はゾンネやろ? 傭兵レオンの苗字も……」

 

 流石にここまで来ると勘付いちゃうか。

 そんな時だった。

 

「あら、ふたりして何やら楽しそうですわね」

 

 背後からヤーナの声。

 あー、いつの間にか交代の時間までカノーネさんと話し込んでたのか。

 焚火の灯りに照らされたヤーナは、いつものシスター服の着こなしを少し緩めていた。

 

「別に。雰囲気で喋りすぎただけよ」

「あまり話が弾んでしまうと、興奮で寝付けませんわよ。それとも、カノーネさんが子守歌でも歌ってくれる予定でしたかしら?」

「焚火の見張り寝かせたら意味ないやろ!」

 

 カノーネさんからツッコミが出てきた。

 なんだかイントネーションに本場を感じてしまう。

 関西人じゃないのに。

 

「それもそうですわね。レヴィンさん、そろそろ」

「はいはい、交代ね」

「ほな、ウチもそろそろ寝よかな」

「いえ、カノーネさんはまだ起きててくださいませ」

「なんでや?」

「アタクシとしては、貴方にとっても興味がありますので」

「……言っとくけど、ウチはそないな趣味とちゃうで」

 

 いや、どういう趣味よ。

 

 それにしても、ヤーナがカノーネさんに興味を持つとは。

 ヤーナが自ら進んで接触を図る場合、十中八九金銭が絡んでくるのはお約束だが、ヤーナはカノーネさんに何を求めているのだろう。

 

 少なくとも打算的な理由はあるのだろうが、気にしてはいられない。

 なぜなら今、あたしのまぶたは重くなっているからだ。

 余計なことを喋ってしまって、疲れたのかもしれない。

 

「じゃ、後はよろしく。用が済んだら、カノーネさんも寝かせてあげなさいよ」

「心得ましたわ、レヴィンさん。おやすみなさい」

 

 まったく、ジークみたいなこと言っちゃって。

 

「レヴィンはん、おやすみやで。子供やないんやから、世話されんでも眠れるけどな!」

 

 一言多いわね、この吟遊詩人は。

 

 ふたりの声に見送られて、あたしは荷台の寝床につく。

 その奥では双子が身を寄せ合うように毛布にくるまって、気持ちよさそうに寝息を立てていたり、エメルとリーネが反対側で静かに眠っていた。

 ジークは寝ている馬を枕にしていびきをかいてるし、リテラに至ってはあたしの寝床の端っこで丸まっている。

 

 ヤーナが何でカノーネさんに興味があるのか気になるが、そこは本人たちの領分だし、あたしには関係なさそうだ、なんて考えつつ毛布を被った。

 

「あちこち旅を——なら——という方を——」

「——正直——わからへんけど——」

 

 ヤーナとカノーネさんの話し声が、まるで催眠音声のように聞こえて。

 いつの間にかあたしの意識は、夢の中へ沈んでいくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 さて、そんなこんなありつつ、馬車旅も三日目。

 街道を進むにつれて、風に流れてきた潮の匂いが昨日より濃くなってきた。

 荷台から身を乗り出して風を浴びていたニューが、その変化を感じ取る。

 

「うーん、なんか風がしょっぱくないか?」

「潮風っちゅうヤツやね。ウチらが海に近づいとる証拠や」

 

 魔弾銃の弾を補充しに幾度も港を利用しているであろう、カノーネさんの経験則。

 そんな話を聞いて、あたしはふと呟きたくなった。

 

「なるほど、これがそうなのね」

「ラグナ族の集落も王都も内陸じゃから、潮風を感じる機会もまるで無かった分、新鮮じゃのう」

 

 リテラの言う通り、確かに潮風の匂いは新鮮だった。

 あたし自身が前世を含めても海に行ったことがないのも影響しているかもしれない。

 

「そうですね。いつか読んだ本に書いてあった、海水はしょっぱいって話が現実味を帯びてきましたよ」

 

 ミュウくん、だからって海水を飲もうとしないでね。

 

「新鮮な反応、ありがとうございますっ」

「商都出身のリーネさんから見て、オススメスポットはございまして?」

「はいっ、ありますよヤーナさんっ。漁業組合の皆様が乗る船が並ぶ港は勿論、綺麗な砂浜なんかもございますっ」

 

 リーネ、集団生活に馴染んできたのか、それとも故郷のことになると早口になるタイプなのか、かなりアクティブ寄りになってない?

 

「新鮮な魚介類をふんだんに使ったパエリアなんかは、特に傭兵の皆さんに人気でしてっ」

「ほほう、それは是非とも食べてみたい!」

 

 やはりジークはそこに食いついたか。

 確かに海の街で食べるパエリアは、フレッシュな意味でも一味違うのだろう。

 いや、でもちょっと待てよ。

 

「あたし達、商都観光ツアーに行くわけじゃないんだけど?」

「いいじゃないですか、レヴィンさん。私もグランツァイトをゆっくり回ったことがなかったので、丁度いいです」

 

 エメルも何故か乗り気。

 嬉しそうな表情からしても、完全に観光気分である。

 本来の目的忘れてなきゃいいけど。

 

「この潮風具合やったら、そろそろ見えてくるやろな」

「見えてくるって、何がだ?」

「おっ、やっぱな。アレやで」

 

 ニューの疑問に、カノーネは遠くの建造物を指差して答える。

 あれは何だろう……高い崖の上に、高い塔?

 

 いや、違う。

 海辺の街にある高いものといえば——。

 

「あれって、灯台ですか?」

「ミュウきゅんお見事、正解や。アレが商都のランドマーク、『旅人の灯台』。船乗りの道標やな」

 

 そう、灯台だ。

 主に夜中の船の運航を手助けするアレ。

 

「——ってことは、そのすぐ近くに広がる街が……」

「はいっ。私の故郷、商都グランツァイトですっ!」

 

 なるほど、あれが。

 

 王都グナーデンを出てから三日。

 あたし達はいよいよ海の玄関口、商都グランツァイトへ到着するのであった。

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